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備蓄していた俺、アパートの部屋ごと転移。異世界で宿屋始めます。  作者: 島田まかろん三世


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7/8

人材

 ガルガンを、モモが使っていた部屋に案内した。


「お主、こんな贅沢な空間を、わしのような老いぼれに……?」


 大袈裟です。


「いや、ただの空き部屋なんで。……あ、明かりはこのスイッチで点くので」


「な、なんということだ。――お主は、魔灯を扱えるのか……いや、これは魔灯の輝きではない。太陽の欠片を、この板の中に閉じ込めておるのか?」


 違うから。シーリングライトです。


「……とりあえず、寝るときは、この布団を使ってください」


 親が泊まりに来た時に、使っていたものだ。


「この……『白き雲の固まり』の中に、わしのような泥臭いドワーフが入ってよいものなのか……。わしはいったい何をしてしまったのだ。おお神よ。罪深きわしをお許しください」


 異世界の、次々と押し寄せる文明の波に耐えきれなくなったのか、ガルガンは床に両膝をつき、お祈りを始めた。


 ガルガン……落ち着いてほしい。それは量販店で買った四点セット、6千999円のポリエステル混のただの布団なんだ。


 だが、これに屈服するとは、いつもはなにで寝ているんだ。


 まさか、干し草の上に毛皮を敷いてとか。

 中世の労働階級は、屋根裏で洗濯紐のようなものにぶら下がって寝るとかも、聞いたことがある。本当だろうか。


「あの、俺、作業の続きをしてくるんで」


 俺は、伸縮式の警棒型スタンガンを、ポケットに忍ばせた。

 魔族がいる。最大限の警戒だけは怠らないようにしなくては。


 だが、まずは米だ。

 世界の勢力図を塗り替えるための、白いダイヤモンド。

 俺はこの異世界に、田んぼを作る。


「おお、そうじゃった。まだ日が高いうちに、仕事に取り掛からねばな」


 そう言って、ガルガンは外に出た。


「僕、また肉を捕まえてくるー」


 ハクは森に走っていった。

 フェンリル――この世界の頂点に立つ捕食者だというが、俺にはデカい犬にしか見えん。


「これはドワーフの知識じゃが、街づくりを想定して、考えねばならん」


 ガルガンは、土の上に棒で、図面を書き始めた。


「この建物は動かせんのだろう?」


 俺は頷いた。


 動かして、インフラが使えなくなったとしたら、快適さが消える。

 風呂のない生活に戻るくらいなら、俺はこの森を焼き払ってでもここを動かない。


 いや、この空間に奇跡的に嵌まっているだけで、少しでも動かせば、部屋ごと消える可能性もあるんじゃ……。


 俺は身震いをした。


 だが今は、そんなことを考えても仕方がない。


「後々、家畜も飼うことを想定して。畑、作業場、倉庫、道……導線を考えないとだな」


 バターやミルク、卵も欲しい。

 ガルガンは、俺を試すような目で見た。


「ふむ。井戸はどうする?」


「……田んぼを作るとなれば、井戸は絶対に必要だ」


「ふむ。よく理解しておるようじゃな。お主の城の水の源がどこに繋がっておるかは知らんが、これから畑を広げ、家畜を飼い、旅人を泊めるとなれば、水はいくらあっても足りん」


 水路も必要だ。

 少しずつ、街の完成図が朧げに見えてくる。

 俺はごくりと喉を鳴らした。


「旅人が最初に求めるのは、美味い飯と、清潔な水、そして……」


 SNS――


「『噂』だ」


 ガルガンは不敵に笑い、図面の一角をとんとんと叩いた。


「お主のこの奇妙な城の周りに、ドワーフ謹製の『石造りの水場』があれば、それだけで商売の格が決まるぞ」


 鍛冶や石工が得意なドワーフが作る井戸。

 なんか、凄そうだ。


「だが、まずは。ハク殿の住居じゃな」


 ガルガンはそう言うと、斧を地面に突き立てた。


「伝説のフェンリルが、そのへんの野良犬のような寝床では、お主の『城』の威厳に関わる。わしが伐り出した『銀精木ぎんせいぼく』を使い、万年は腐らぬ極上の離れを作ってやるわい」


 長い髭を撫でる、節くれ立った無骨な手。


「……ユウマ。お主は知らんようだが、銀精木ぎんせいぼくは魔力を貯蔵する。そこに住めば、ハク殿の力は、さらに増すはずじゃ!!」


 俺は、大変な人材を釣り上げてしまったのかもしれない。

 黄金の香気(カレー)で。


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