人材
ガルガンを、モモが使っていた部屋に案内した。
「お主、こんな贅沢な空間を、わしのような老いぼれに……?」
大袈裟です。
「いや、ただの空き部屋なんで。……あ、明かりはこのスイッチで点くので」
「な、なんということだ。――お主は、魔灯を扱えるのか……いや、これは魔灯の輝きではない。太陽の欠片を、この板の中に閉じ込めておるのか?」
違うから。シーリングライトです。
「……とりあえず、寝るときは、この布団を使ってください」
親が泊まりに来た時に、使っていたものだ。
「この……『白き雲の固まり』の中に、わしのような泥臭いドワーフが入ってよいものなのか……。わしはいったい何をしてしまったのだ。おお神よ。罪深きわしをお許しください」
異世界の、次々と押し寄せる文明の波に耐えきれなくなったのか、ガルガンは床に両膝をつき、お祈りを始めた。
ガルガン……落ち着いてほしい。それは量販店で買った四点セット、6千999円のポリエステル混のただの布団なんだ。
だが、これに屈服するとは、いつもはなにで寝ているんだ。
まさか、干し草の上に毛皮を敷いてとか。
中世の労働階級は、屋根裏で洗濯紐のようなものにぶら下がって寝るとかも、聞いたことがある。本当だろうか。
「あの、俺、作業の続きをしてくるんで」
俺は、伸縮式の警棒型スタンガンを、ポケットに忍ばせた。
魔族がいる。最大限の警戒だけは怠らないようにしなくては。
だが、まずは米だ。
世界の勢力図を塗り替えるための、白いダイヤモンド。
俺はこの異世界に、田んぼを作る。
「おお、そうじゃった。まだ日が高いうちに、仕事に取り掛からねばな」
そう言って、ガルガンは外に出た。
「僕、また肉を捕まえてくるー」
ハクは森に走っていった。
フェンリル――この世界の頂点に立つ捕食者だというが、俺にはデカい犬にしか見えん。
「これはドワーフの知識じゃが、街づくりを想定して、考えねばならん」
ガルガンは、土の上に棒で、図面を書き始めた。
「この建物は動かせんのだろう?」
俺は頷いた。
動かして、インフラが使えなくなったとしたら、快適さが消える。
風呂のない生活に戻るくらいなら、俺はこの森を焼き払ってでもここを動かない。
いや、この空間に奇跡的に嵌まっているだけで、少しでも動かせば、部屋ごと消える可能性もあるんじゃ……。
俺は身震いをした。
だが今は、そんなことを考えても仕方がない。
「後々、家畜も飼うことを想定して。畑、作業場、倉庫、道……導線を考えないとだな」
バターやミルク、卵も欲しい。
ガルガンは、俺を試すような目で見た。
「ふむ。井戸はどうする?」
「……田んぼを作るとなれば、井戸は絶対に必要だ」
「ふむ。よく理解しておるようじゃな。お主の城の水の源がどこに繋がっておるかは知らんが、これから畑を広げ、家畜を飼い、旅人を泊めるとなれば、水はいくらあっても足りん」
水路も必要だ。
少しずつ、街の完成図が朧げに見えてくる。
俺はごくりと喉を鳴らした。
「旅人が最初に求めるのは、美味い飯と、清潔な水、そして……」
SNS――
「『噂』だ」
ガルガンは不敵に笑い、図面の一角をとんとんと叩いた。
「お主のこの奇妙な城の周りに、ドワーフ謹製の『石造りの水場』があれば、それだけで商売の格が決まるぞ」
鍛冶や石工が得意なドワーフが作る井戸。
なんか、凄そうだ。
「だが、まずは。ハク殿の住居じゃな」
ガルガンはそう言うと、斧を地面に突き立てた。
「伝説のフェンリルが、そのへんの野良犬のような寝床では、お主の『城』の威厳に関わる。わしが伐り出した『銀精木』を使い、万年は腐らぬ極上の離れを作ってやるわい」
長い髭を撫でる、節くれ立った無骨な手。
「……ユウマ。お主は知らんようだが、銀精木は魔力を貯蔵する。そこに住めば、ハク殿の力は、さらに増すはずじゃ!!」
俺は、大変な人材を釣り上げてしまったのかもしれない。
黄金の香気で。




