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第9話 反乱と喋るロバと、荒野の通常運転

水がない。反乱が起きる。岩を叩く。毒蛇が出る。

そのあとロバが喋ります。

荒野の旅、だいぶ治安が悪いです。


第三章 ~ 荒野のトラブルいろいろ ~


四十年の旅の中で、様々な事件が起きた。


代表的なものをいくつか紹介しよう。


◆ 反乱が起きた件


コラという男がいた。


彼はレビ族の中でそれなりの地位にある人物で、二百五十人の有力者を引き連れ、モーセとアロン兄弟の前に立ちはだかった。


「あなたたちは行き過ぎだ! 会衆は全員、神に選ばれた聖なる者だ! なぜあなたたち兄弟だけが上に立つのか!」


要するに「俺たちも同じはずなのに、なんであいつらだけが指導者なんだ」という話だ。


現代の職場でもよくある光景である。


モーセはひれ伏して頭を垂れ、翌朝神の裁きを待つように告げた。


翌朝、答えが出た。


コラとその仲間が立っている地面が、突然口を開けた。


彼らは生きたまま飲み込まれた。地面が閉じた。


別の二百五十人には天から火が降り注いだ。


一瞬の出来事だった。


民は震え上がった。


……と思いきや、翌日にはまた言いに来た。


「モーセとアロンが神の民を殺した!」


神の怒りが燃え上がり、疫病が始まった。


「大変だ! 香炉を持ってこい! 宥めの儀式をしないと全滅する!」


アロンが急いで民の中に走り込み、儀式を行った。


すでに一万四七〇〇人が死んでいた。


……コラが死んだ翌日に同じことをしている。


学習能力というものが、この集団には少し足りない。


◆ 岩を叩いた件


カデシュという場所に着くと、水がなかった。


毎度おなじみのパターンだ。


「なぜ荒野に連れてきた! 穀物もない、いちじくもない、ぶどうもない、ざくろもない、水もない!」


神はモーセに言った。「岩に向かって話しかけなさい。水が出る」


モーセは民を集めた。


長年の疲れと苛立ちが、その顔に滲んでいた。


「聞け、反逆者ども! この岩から水を出してやろうか!」


そして杖で岩を二回、力任せに叩いた。


水はどっと出た。民も家畜も飲んだ。


しかし後で、神がモーセに静かに言った。


「あなたは、わたしを信じなかった。岩に話しかけなさいと言ったのに、叩いた。だからあなたはカナンの地に民を連れ込むことはできない」


四十年間、民のために尽くしてきたモーセ。


怒りにまかせて岩を叩いたのは、ほんの一瞬のことだった。


それでも、神は厳しかった。


旧約の神は「愛の神」であると同時に、「妥協しない神」だ。


モーセはこの判決を黙って受け入れた。


◆ 毒蛇が来た件


しばらく行くと、またいつもの台詞が出た。


「なぜ荒野に連れ出した! パンも水もない! このみじめな食べ物マナのことに飽き飽きした!」


神が毒蛇を遣わした。


蛇は民を噛み、多くが死んだ。


「……助けてください。神とあなたに背いて罪を犯しました。蛇を取り除いてください」


モーセが神に祈ると、神は言った。


「銅で蛇を作り、旗竿の先に掲げなさい。噛まれた者がそれを見上げれば、死なない」


モーセが銅の蛇を作って掲げると、蛇に噛まれた者がそれを見上げ、生き延びた。


見上げるだけでいい。それだけで助かる。


単純な行動を信じてやる者は生き、「そんなことで治るわけがない」と背を向けた者は死んだ。


信仰とは何か、という問いが静かに込められた場面だ。


第四章 ~ バラムのロバが喋った件 ~


少し変わった話が挟まる。


モアブという国の王、バラクは困っていた。


百万人規模のヘブライ人の大集団がじりじりと近づいてきているのだ。


「あの集団に正面から勝てる気がしない。誰か呪ってくれる人はいないか」


そこで白羽の矢が立ったのが、バラムという占い師だ。


彼は「呪うと本当に効く」と評判の男で、報酬さえ払えば仕事を引き受ける。


バラクの使者がやってきた。


「ヘブライ人を呪ってくれ。たっぷり払う」


バラムは神にお伺いを立てた。


神は言った。「行ってはならない。彼らを呪うな。彼らは祝福されている」


バラムは断った。


バラクはもっと豪華な使節団を送ってきた。「いくらでも払う。もっといい条件にする」


バラムはまた神に聞いた。


今度は神は「行ってもいい。ただし、わたしが言う言葉だけを言え」と言った。


バラムは翌朝、ロバに乗って出発した。


しかし神の使いが、剣を抜いて道をふさいで立った。


バラムには見えない。ロバには見えた。


ロバが道をそれた。バラムは叩いた。


今度は狭い畑道で使いが立った。ロバが壁に寄って、バラムの足が壁に挟まった。バラムは叩いた。


今度は全く通れない場所に使いが立った。ロバはその場でうずくまった。バラムはまた叩いた。


その瞬間、ロバが口を開いた。


「わたしがあなたに何をしたというのですか。もう三回も叩いて」


バラムは全く動じずに答えた。


「馬鹿にしたからだ。剣があれば今すぐ切り捨てる」


ロバが言った。「わたしはずっとあなたの乗り物です。今まで一度でもこんなことをしましたか」


「……確かにそれはない」


この時点でバラムは少しもおかしいと思っていない。ロバと普通に口論している。


そこで神がバラムの目を開かせた。使いが剣を持って立っているのが見えた。


使いが言った。「ロバが三回避けなければ、お前はすでに死んでいた。ロバが正しかった」


バラムはひれ伏した。


「罪を犯しました」


「行け。ただし言われた言葉だけを言え」


バラクのもとに着いたバラム。


祭壇を築き、儀式を整え、ヘブライ人の宿営を見渡して、口を開いた。


「なんと美しい天幕よ、ヤコブの民! 神はイスラエルを祝福される……」


「ちょっと待て!! 呪えと言ったのに祝福してるじゃないか!」


バラクが飛び上がった。


「申し訳ありません。神がそう言わせたんです」


「場所を変えてもう一度!」


別の場所に連れていかれた。また口を開いた。


「神はイスラエルを祝福し……」


「なんでまた祝福するんだ!!」


「だから神がそう言わせるんです」


「もう一か所だけ! 今度こそ呪ってくれ!」


三回目。またしても祝福の言葉が出てきた。


バラクは怒り狂った。


「呪ってくれと言ったのに、三回も祝福した! さっさと帰れ! 報酬なし!」


バラムは言った。


「あなたがたとえ銀と金でいっぱいの家をくれても、神の言葉に逆らうことはできません」


そしてトボトボと帰っていった。


占い師を雇って大失敗したバラク。


喋るロバに説教されたバラム。


旧約聖書は時々こういうシュールな話を普通のトーンで挟んでくる。


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