第7話 荒野の不満大会と、金の子牛事件
海を割って助かったはずなのに、民はすぐ不満を言い始めます。
そしてシナイ山で十戒を受け取る間に、金の子牛を作ります。
救われた直後にこれです。人間という生き物、安定の面倒くささです。
歌の感動は三日で終わった。
水がなかった。
マラという場所の水は苦くて飲めなかった。
「何を飲むのか!」と民はモーセに向かって文句を言った。
神は木を教え、それを水に投げると甘くなった。
次の問題。食べ物がない。
「エジプトでは肉も食べ、パンも腹一杯食べた。あなたたちは俺たちをこの荒野に連れ出して、この全会衆を飢え死にさせようとしているんだろう!」
神は言った。「夕には肉、朝にはパンを与える」
夕になるとうずらが飛んできて宿営を覆った。
朝になると、露が引いた後に白い薄い層が地面を覆っていた。
これがマナ(マンナ)だ。
民は「マン・フー(これは何だ)」と言い合った。マナの名の由来だ。
「コリアンダーの種のようで、白く、蜂蜜混じりのウェハースのような味だった」
神の作った食べ物。
「一人一オメル(約二リットル)ずつ取れ。余分に取っても余らない。少なく取っても足りない」
次の日のために残す者もいた。次の日には虫が湧いた。
「なぜ言いつけを守らないのか」
六日目だけ二日分取れ。七日目(安息日)には降らないから。
六日目に二日分取っても翌日腐らなかった。七日目に探しに出た者がいたが何もなかった。
「なぜ七日目に出かけるのか!」
……こういうことが続く。
モーセはかなり大変だ。
水がない→モーセのせい。食べ物がない→モーセのせい。
何かあれば「エジプトに戻ればよかった」。
これが四十年間続く。
民はシナイ山のふもとに着いた。
神はモーセに言った。「民を聖別させよ。衣を洗わせよ。三日目にわたしはシナイ山の上に降りる。山に近づいてはならない。触れた者は必ず死ぬ。角笛の音が長く響いたら山に登れ」
三日目、朝になると雷と稲妻と厚い雲が山の上に。角笛の音が鳴り響いた。
民は宿営で震えた。
モーセが民を宿営から連れ出すと——シナイ山は全体が煙に包まれた。神が火の中に降りてきたからだ。
山全体が激しく揺れた。
神はモーセを頂上に呼んだ。
そしてモーセに告げた——
十戒(十の戒め)。
一:他に神があってはならない
「わたしは、あなたをエジプトの奴隷の家から連れ出したあなたの神だ」
まず自己紹介から始まる十戒。「俺が誰かわかるか。わかるなら聞け」というスタイル。
二:偶像を作ってはならない
他の神の像を作り、拝んではならない。
三:神の名をみだりに唱えてはならない
神の名を軽々しく使ってはならない。
四:安息日を守れ
七日目は何も仕事をしてはならない。神も六日働いて七日目に休んだ。
五:父母を敬え
これが「人との関係」に関する戒めの最初。
六:殺してはならない
七:姦淫してはならない
八:盗んではならない
九:偽りの証言をしてはならない
十:隣人のものを欲しがってはならない
——以上十戒。
シンプルだが、後の人類の道徳・法律・宗教の基礎となる。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の全てに影響を与えた十の原則。
世界で最も有名な「ルールブック」の一つだ。
山のふもとで待っていた民は神の声と雷を見聞きして震え、遠ざかった。
「あなたが話してくれ。神が直接話すと死んでしまう」
モーセは暗雲の中に入った。
神はさらに細かいルール(律法)を与え続けた。
四十日四十夜、モーセは山にいた。
四十日が過ぎた。
山のふもとでは——
民がアロンのところに集まって言った。
「モーセはどうなったかわからない。我々の先を行く神を作ってくれ」
神を「作れ」という発想。
アロンは言った。「妻、息子、娘の金のイヤリングを持ってこい」
みんな持ってきた。アロンは鋳型で——金の子牛の像を作った。
民は言った。「これがエジプトから連れ出した我々の神だ!」
アロンはその前に祭壇を築いた。「明日は神への祭りだ」
翌日、民は捧げ物をして、食べ、飲み、立って遊び始めた。
——モーセがいない四十日間で早速やらかした。
神はモーセに言った。
「降りて行け。あなたがエジプトから連れ出した民が堕落した。金の子牛を作り、拝み、いけにえを捧げ、『これがエジプトから連れ出した神だ』と言っている。かたくなな民だ。怒りを燃やして彼らを滅ぼし、あなたから大いなる国民を起こそう」
モーセは神に言った。
「神よ、なぜ御怒りを民に向けるのですか。強い手でエジプトから連れ出した民ではありませんか。エジプト人に『悪意で山で殺すために連れ出した』と言わせるつもりですか。アブラハム、イサク、ヤコブに誓った約束を思い起こしてください」
——神を言いくるめようとするモーセ。
神は言われた通り思い直した。
モーセは山を降りた。二枚の石板(十戒が書かれた)を持って。
宿営に近づくと歌声が聞こえた。
見ると金の子牛と踊る民。
モーセの怒りが燃え上がった。
石板を投げつけ、山のふもとで叩き割った。
金の子牛を焼き、砕いて粉にし、水に流し、イスラエルの民に飲ませた。
アロンに言った。「なぜこんなことを!」
アロンは言った。「民が悪いのです。『我々の神を作れ』と言って……金を集めたら火に投げ込んだら子牛が出てきました」
責任転嫁の言い訳が進化している。
モーセは宿営の入り口に立って叫んだ。「神の側に立つ者は来い!」
レビの子らが来た。
「各自、剣を帯びよ。宿営を回れ。兄弟でも友でも、隣人でも殺せ」
その日、三千人が死んだ。
翌日モーセは民に言った。「あなたたちは大きな罪を犯した。わたしは山に上り、神に取りなしをしよう」
神の前でモーセは言った。
「この民は大きな罪を犯しました——どうか彼らの罪を赦してください。もし赦せないなら、わたしをあなたが書いた書から消し去ってください」
——自分の命を賭けて民の赦しを乞うモーセ。
神は言った。「罪を犯した者をわたしの書から消す。さあ、約束の地に向かえ。わたしの使いを前に遣わす」
こうして十戒の石板はもう一度作り直された。
モーセはまた四十日四十夜、山で神と過ごした。
山を降りてきたとき、モーセの顔の皮膚は輝いていた。
民は近づくのが怖かった。
モーセは顔を布で覆うようになった。
神と話す時は外し、話し終えると被る。
光り輝く顔のモーセ。これは神と直接語り合った者の証だ。
上巻はここで一息つく。
人類は楽園を失い、弟を殺し、兄を騙し、偶像を作り、神を信じられずにいた。
だがその一方で——
神は洪水の後に虹を架けた。逃げるモーセに炎の柴で語りかけた。海を割り、荒野に食べ物を降らせ、自らの指で石板に言葉を刻んだ。
神は怒るが、諦めない。
民は何度も何度も失敗する。それでも神は「もう一度」を繰り返す。
これが旧約聖書の基本パターンだ。
アブラハムから始まった「約束」はまだ成就していない。
カナンの地はまだ遠い。
荒野の旅はまだ続く。
中巻へ。
――上巻・完――




