第12話 ギデオンとエフタ、疑いと誓いの代償
今回はギデオンとエフタです。
疑い深い男は勝利し、軽々しく誓った男は悲劇を招きます。
口から出た言葉の重さ、なかなか洒落になりません。
第十二章 ~ ギデオン ~ 神に確認を求め続けた男 ~
ミデアン人が七年間イスラエルを苦しめていた時代のことだ。
ミデアン人は毎年、イスラエルの麦が育つと大勢でやってきて根こそぎ奪っていく。イスラエルは山の岩穴に隠れて暮らすほかなかった。
そんなある日、神の使いが現れた。
場所は少し変わっている。ぶどう搾り場の中だ。
そこで男が麦を打っていた。
ぶどう搾り場で麦を打つのはおかしい。本来麦は、風で籾殻が飛ぶように丘の上で打つものだ。
でも丘の上でやっていたらミデアン人に見つかって全部取られる。だからぶどう搾り場の中に隠れてやっていた。
使いはその男に声をかけた。
「神はあなたとともにおられる。力ある勇士よ」
男、ギデオンは複雑な顔をした。
「……もし神が我々とともにおられるなら、なぜこんな目に遭っているんですか。神はどこですか」
使いは言った。「あなたはその力でイスラエルをミデアンから救う。わたしがあなたを遣わす」
ギデオンは答えた。
「わたしはマナセ族の中で最も力が弱い一族の出です。父の家の中でも一番若い。そんな者が何をできますか」
士師記の英雄たちは、たいてい最初は「自分には無理だ」と言う。
神は言った。「わたしがともにいる。ミデアンを一人の男を打つように打つ」
ギデオンはまだ信用しきれなかった。
「もし本当に神の使いなら、しるしを見せてください。捧げ物を持ってくるまでここにいてください」
「待つ」
ギデオンは山羊を料理し、パンを焼いて持ってきた。
使いが杖の先で捧げ物に触れると、岩から火が出て焼き尽くした。使いは消えた。
ギデオンは震えた。
「神の使いと顔を合わせてしまった。死ぬ」
神が言った。「安心しなさい。死なない」
ギデオンはその夜、神の命令でバアルの祭壇を壊した。
翌朝、町の人たちが祭壇が壊されているのを見て怒り狂った。
「誰がやった!」「ギデオンだ!」「連れてこい! 殺す!」
ギデオンの父が言った。
「バアルが神なら、自分で言えばいい。自分の祭壇を壊した者を、自分で裁けばいい」
これが効いた。誰も何も言えなくなった。
ミデアンの大軍が攻めてくるという知らせが届いた。
霊がギデオンに降り、角笛を吹いて民を集めた。三万二千人が集まった。
神が言った。
「多すぎる。これでは『自分たちの力で勝った』と思う。怖い者は帰ってよい」
二万二千人が帰った。一万人になった。
「まだ多い。川に連れて行け。ひざまずいて口を川につけて飲む者と、手で水をすくって飲む者を分けよ」
手で水をすくって飲んだ者は三百人。
「この三百人で戦え」
三万二千人から三百人へ。
ギデオンはさすがに不安だったのだろう。神は優しく言った。
「心配なら、夜こっそり敵の宿営に近づいてみなさい。元気が出るから」
ギデオンはこっそり敵の宿営に近づいた。
見張りの兵士が別の兵士に話しているのが聞こえた。
「夢を見た。大麦のパン一枚がころころ転がってきて、天幕に当たったら倒れた」
別の兵士が答えた。
「それはギデオンの剣の夢だ。神がミデアンを我々ごと渡したということだ」
敵が自分で自分たちの敗北を語っていた。
ギデオンは礼拝し、宿営に戻って叫んだ。
「起きろ! 神がミデアンを渡してくださった!」
真夜中に動いた。三百人それぞれに角笛と松明と水がめを持たせた。
「わたしがするのを見ていなさい。同じようにしなさい。角笛を吹いたら、吹きなさい。神のため! ギデオンのため! と叫びなさい」
宿営を三方から囲んだ。
一斉に角笛を吹き、水がめを割り、松明を掲げた。
「神の剣! ギデオンの剣!」
真夜中に突然、三方から大音響と炎。
ミデアンの宿営は大パニックになった。暗闇の中で仲間同士が斬り合い始めた。逃げ出した。
三百人が追いかけた。完勝だった。
民はギデオンに言った。
「我々を治めてください。あなたとあなたの子も、孫も」
ギデオンは言った。
「わたしが治めない。あなたたちの神が治める」
良い答えだ。
しかしその後、ギデオンは戦利品の金でエポデという宗教的な像を作り、それが民が拝む偶像になってしまった。
「ギデオンの家の罠となった」と聖書は静かに記す。
ギデオンが死ぬと、民はまたバアルを拝み始めた。
サイクルが回る。
第十三章 ~ エフタ ~ 誓いが悲劇を生む話 ~
次はエフタの話だ。
彼は生まれた時から不遇だった。父はギレアドという人物だが、母は遊女だった。
腹違いの兄弟たちに言われた。
「お前は別の女の子だ。うちの財産は分けてやらない。出て行け」
エフタは追い出され、トブという土地に逃げて、ならず者たちと一緒に暮らした。
それから年月が経ち、アンモン人がイスラエルに攻め込んできた。
ギレアドの長老たちは困って、エフタを探しに来た。
「エフタよ、戻ってきて我々を率いてくれ」
エフタは冷たく答えた。
「あなたたちが追い出したのに、今さら何ですか」
「頼む。アンモンを打ったなら、お前がギレアドの頭になれる」
「本当に約束しますか」
「神が証人だ」
エフタは戻った。
まずアンモンの王と外交交渉を試みた。話し合いで解決しようとした。
うまくいかなかった。
開戦する前に、エフタは神に誓った。
「もし勝たせてくださるなら、家に帰ってきた時に最初に出迎えるものを、神に捧げます」
勝った。
凱旋して自分の家が見えてきた時、最初に出てきたのは娘だった。
一人娘だった。手鼓を打ちながら踊って迎えに来ていた。
エフタは服を裂いた。
「ああ、娘よ。お前はわたしを打ちのめした。誓ってしまった。取り消せない」
娘は言った。
「お父さんが神に誓ったなら、誓った通りにしてください。ただ二か月だけ、友達と山に行って泣かせてください。わたしは結婚もできないまま死ぬのですから」
「行きなさい」
二か月後に娘は戻ってきた。
エフタは誓いを果たした。
この話の結末について、聖書の記述は「誓いを果たした」とだけ書いていて、詳しくは書いていない。本当に娘を殺したのか、それとも結婚できない身として神殿に仕えることで「人生を捧げた」という意味なのか、今も議論が続いている。
どちらにしても、この話から伝わってくることがある。
神はエフタに「そんな誓いをしろ」とは一言も言っていない。エフタが自分で誓った。
思いつきで軽々しく誓わなければ、この悲劇は起きなかった。
旧約聖書は随所で「誓いを立てるな、立てるなら必ず守れ、しかし軽々しく立てるな」と繰り返し語る。
エフタの話はその最も重い例だ。




