第11話 太陽が止まり、士師の時代が始まる
ヨシュアの勝利の後、イスラエルは士師の時代へ入ります。
助けられては忘れ、苦しくなると思い出す。
人間の再放送が始まります。
第九章 ~ 太陽が止まった日 ~
征服が続くある日、五人の王の連合軍がイスラエルに攻めかかってきた。
数で言えば不利だ。
戦いの中でヨシュアは神に向かって、民の前で叫んだ。
「太陽よ、ギブオンの上に止まれ! 月よ、アヤロンの谷の上に止まれ!」
太陽は止まった。
日が暮れなかった。戦いを続けることができた。
聖書はこう記している。
「太陽は約一日、急いで沈まなかった。神がイスラエルのために戦っていたから」
これを読んで「ありえない」と思う人もいるだろう。地球の自転が止まったのか、と。
様々な解釈がある。大気の屈折現象だという説もある。詩的な表現だという解釈もある。
どう受け取るかは読む人次第だが、少なくとも戦いの結果は確かだ。
五人の王は完全に敗れた。
このエピソードの後、ヨシュアは老いてもなお戦い続け、カナンの大部分を制圧した。
そして百十歳で死んだ。
最後に民に言い残した言葉がある。
「あなたたちは誰に仕えるかを、今日選びなさい。神々なのか、それともあなたたちの神なのか。わたしの家は神に仕える」
「わたしたちも神に仕えます!」と民は答えた。
「あなたたちは証人だ」
「証人です!」
「では家の中の異国の神々を取り除きなさい」
「神に仕えます! 命令に聞き従います!」
ヨシュアは最後に静かに言った。
「あなたたちは神に仕えることができない。神は聖なる神で、ねたむ神だ。あなたたちの背きを赦さない。もし背けば、良くしてくださったことのすべての後で、あなたたちを滅ぼす」
「いいえ、仕えます!」
「……証人だ。あなたたち自身が」
「証人です!」
この押し問答の後まもなく、ヨシュアは死んだ。
そしてその言葉通りのことが起きていく。
第十章 ~ 士師記 ~ 同じことを繰り返す民 ~
ヨシュアが死んだ後、イスラエルは各部族がそれぞれの土地に散らばって暮らし始めた。
しばらくは良かった。
問題は、ヨシュアを知らない世代が育ってきた時に起きた。
カナンに昔から住んでいた人々は、バアルやアシェラという神々を拝んでいた。
「神? バアルのことか? ああ、バアルなら拝んどるよ」
ヘブライ人の若者たちは、気がつけば隣のカナン人たちと同じものを拝むようになっていた。
神の怒りが燃え上がった。
周辺の民族がイスラエルに攻め込んできた。負けた。支配された。苦しんだ。
苦しくなって神に叫んだ。
神が士師を立てた。
士師というのは、軍事指導者であり民の裁判官でもある、特別な指導者のことだ。
士師が来ると状況が変わった。敵を追い払った。平和になった。
しばらくして士師が死んだ。
またバアルを拝み始めた。
また敵が攻めてきた。
また苦しんだ。
また神に叫んだ。
また士師が現れた。
この「堕落→苦難→叫び→救出→平和→堕落」の繰り返しが、士師記を貫くリズムだ。
士師記はこの繰り返しを、読者に飽き飽きするほど見せる。
意図的に。
「人間というのはこういうものだ」と言いたいのだ。
楽になると忘れる。苦しくなると思い出す。
神に叫ぶ。助けてもらう。また忘れる。
二千年以上前に書かれたこのサイクルが、今の時代を生きる私たちにも笑えないほどリアルに見えるのは、なぜだろうか。
第十一章 ~ デボラ ~ 女が戦争に勝つ話 ~
士師記に登場する人物の中で、まず紹介したいのがデボラだ。
彼女は預言者であり、士師でもある女性だ。ヤシの木の下に座って、毎日民の訴えを聞いて裁いていた。
その頃、カナンの王のもとで鉄の戦車九百台を指揮する将軍シセラが、イスラエルを二十年間苦しめていた。
鉄の戦車九百台というのは、当時の最新鋭兵器で固めた軍団だ。対抗するのは並大抵のことではない。
デボラは軍の指揮官バラクを呼んで言った。
「神があなたに命じている。一万人の兵を率いてタボル山へ行きなさい。シセラを引き寄せ、打ち破りなさい」
バラクは少し困った顔をした。
「あなたが一緒に行ってくれるなら行きます。行かないなら行きません」
デボラはため息をついた(かどうかは聖書に書いていないが、たぶんついた)。
「わかりました、一緒に行きます。ただし、この戦いの手柄はあなたのものにならない。神はシセラを女の手に渡します」
バラクはそれでも「一緒に来てくれ」と言った。
デボラは一緒に行った。
戦いは大勝利だった。シセラの軍は壊滅した。
シセラ本人は戦車を捨てて逃げた。
ケニ人ヘベルの天幕に逃げ込んだ。ヘベルはシセラと友好関係にある一族だ。ヘベルの妻ヤエルが出てきて言った。
「どうぞ、ご主人様。ここに来て、怖くありません」
シセラは天幕に入った。
「のどが渇いた。水を少し飲ませてくれ」
ヤエルはミルクを出して飲ませた。毛布をかけてやった。
「入り口に立っていてくれ。誰か来たら、ここに男はいないと言ってくれ」
「わかりました」
シセラは安心して眠った。
ヤエルは天幕の杭を取り、槌を手に取り、眠るシセラのこめかみに打ち込んだ。
地面に刺さるまで。
バラクが追いかけて来ると、ヤエルが出てきて言った。
「探している人ならここにいます」
デボラの予言通りになった。
戦いの手柄は女が取った。
デボラとバラクはこの後に歌を歌う。これが「デボラの歌」で、旧約聖書の中でも最も古い詩の一つだと言われている。




