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【完結】黄金の檻 〜冷淡だった最強魔導師が理性を失った理由〜  作者: 雪白めると
【第四幕:真実の光、あるいは愛の証明】
25/30

25_国益という名の略奪

 学長室での「鑑定の鏡」事件を経て、学園内におけるわたしたちの噂は、もはや「不仲な政略結婚」から「王国の歴史を塗り替えるレベルの溺愛」へと完全に上書きされていました。


「一晩で人を成長させるほどの魔力供給だなんて、もはや神話の領域よね……」

「エリュシオン様のあの神々しいまでの美しさは、すべてレインハルト様の魔力で磨かれたものなんですって」


 廊下を通るたびに向けられる、畏怖と羨望が混ざり合った視線。


 けれど、その噂は学園の壁を越え、ついに王都の中心ーー「シルバード王宮」へと届いてしまったのです。



 ある日の放課後。

 レインハルト様の研究室で、いつものように「密度の高い」時間を過ごしていたわたしたちの元へ、金色の装飾を施したマントを羽織った男たちが現れました。


「レインハルト・イル・ヴァルテンベルク公爵令息。および、シャルロット・エリュシオン侯爵令嬢。……国王陛下よりの特使として、参りました」


 現れたのは、王立魔導騎士団の団長を兼ねるセドリック第二王子。

 彼は、わたしの腰を抱き寄せて離さないレインハルト様の不遜な態度を一瞥し、眉を潜めて一枚の書状を突きつけました。


「先日の学園長室での鑑定結果、聞き及んでいる。……一晩で一個人を作り変えるほどの魔力供給。それはもはや個人の色恋で済まされる規模ではない」


 王子の言葉に、室内の温度が急激に下がりました。

 レインハルト様の黄金の瞳が、獲物を定める蛇のように細められます。


「……それが何か? 陛下は、僕のプライベートな寝室の事情にまで口を出すおつもりか」

「言葉を慎め、レインハルト。……その『過剰なまでの魔力転移効率』は、国益に直結する。現在、辺境の結界維持に苦慮している魔導師たちに、その手法を転用できれば……。あるいは、エリュシオン嬢……君のその、無限に魔力を受け入れ、肉体を活性化させる『魔力適応体質』を研究させてもらいたい」


 王子は、わたしの身体に残るレインハルト様の「魔力の痕跡」を冷酷な目で見つめました。


「わたしを、研究なさりたい、のですか……」

「君を王立魔導研究所の『特別被検体』として召し上げる。……当然、国家のためだ。レインハルト、君も公爵家の次期当主なら、この重みが分かるだろう?」

「……。シャルを、研究室の冷たい寝台に乗せろと?」


 レインハルト様の声は、あまりにも低く、静かでした。

 それは嵐の前の静寂。

 わたしは彼の腕の中で、恐怖ではなく、彼から溢れ出す圧倒的な「独占欲」の波に、息が止まりそうになっていました。


「そうだ。彼女という『器』があれば、王国の魔力貯蔵量は飛躍的に向上する。君一人で独占するには、彼女はあまりにもーー」

「――断る」


 一言。


 ――パシィィンッ!


 レインハルト様は王子の言葉を、物理的な衝撃波を伴う魔力で遮りました。


「な……っ、反逆のつもりか!?」

「レインハルト様っ、いけませんっ……!」

「勘違いしないでいただきたい。僕は単に、僕の婚約者に他人が触れることを禁じているだけだ。……国益? 辺境の結界? ……そんなものは、僕が指先一つで整えてきてやる。だが、シャルロットは指一本、髪の一房たりとも貴様らには渡さない」


 レインハルト様はわたしをより強く抱き寄せると、短く詠唱を始めた。

 金色の粒子が空間に巻き上がり、魔圧で下から空気がふわりと脈動する。

 彼の背後に、禍々しいまでの黄金の翼が幻影として浮かび上がりました。


「陛下に伝えろ。……シャルロット・エリュシオンは、王国の財産ではない。……僕の、僕だけの…妻になる人だ。……これ以上、彼女を被検体などと呼ぶ不届き者が現れるなら、王都の結界ごと、僕が更地にして差し上げよう」





廊下の影でこの様子を伺っていたリオネルは、震える手で姉のクラリス様の肩を掴んでいました。


「ほ、ほら見ろ姉貴……。王族相手にこれだぜ。あの小公爵様、シャルロットのためならマジで国を滅ぼすぞ……」

「……わたくし、……何ていう、バケモノを相手にしていたのかしら……」


 クラリス様は、もはや嫉妬する気力さえ失い、ただただ圧倒的な「愛の暴虐」の前に、力なく項垂れるしかありませんでした。


 セドリック王子たちはレインハルト様から放たれる凄まじい「殺気」と、わたしから溢れる「抗えない色香」の毒に当てられ、逃げるように研究室を後にしました。




 ***


 


「……はぁ、……。シャル、……嫌な奴らに、見られてしまったね」


 二人きりになった研究室。

 レインハルト様は、わたしの髪に顔を埋め、まるで自分の匂いを上書きするように、執拗に首筋を食みました。


「王家が君を狙うというのなら、……本当に、屋敷の奥底に閉じ込めてしまおうか。……一歩も外へ出さず、僕の精気だけを食べて、僕だけを見て、……蕩けきってしまうまで」

「レインハルト様……。……わたしは、貴方のものですわ……」

「……分かっているよ。……さあ、続きをしよう。国益よりも何よりも、君を満たすことの方が、僕にとっては重要なんだから」


 夕闇が室内の光を奪い去り、そこには黄金の瞳を光らせる最強の魔導師と、彼の色に染まりきったわたしの、甘い時間が、再び動き出したのでした。






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冷淡ヒーローの“我慢”が限界に近づいていく、 すれ違いから始まる異世界執着愛。
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