28_繋がれた命の灯火 シャルロットside
(生きたまま魔導回路に繋ぐ……!? ……抽出!?)
その恐ろしい単語にわたしの全身の血が凍りつきました。
彼らはわたしの特異な身体をなんらかの材料として使うつもりなのです。
人間扱いされていないとは感じていましたが、まさかこんな――。
しかし、問い詰められた部下は、ひどく青ざめた顔で首を振りました。
「そ、それが……申し訳ありません、サミュエル様。シーランド王国からの特殊薬品の輸入が突然全面的に停止されてしまいまして……。現在、王宮の備蓄倉庫にある保存液や魔力安定剤は底をつきかけております」
「なんだと?」
「この女以外にも数十体の検体の保存にも常時使用しておりますゆえ……」
サミュエルの声が、微かに苛立ちを帯びて低くなりました。
「シーランドのエルネスト王は親善試合に来ていたな。なぜこのタイミングで我が国への輸出を止めたのだ」
「詳細な理由は不明ですが、完全な禁輸措置のようです。……現在、国内で代替品の薬品を調達すべく奔走しておりますが、あれほど特殊で高度な生体保存に耐えうる薬液はシーランド産のものが一番品質が優れていたので……。準備に一週間以上はかかると思われます」
「チッ……。使えない連中だ。せっかくの最高級の素材を、ただの腐った肉塊にしては意味がない」
彼は忌々しげにわたしを一瞥すると、踵を返しました。
「仕方がない、生命石を抽出するスケジュールは代替品が揃うまで延期だ。それまで、この女が死なないようにだけ気をつけろ。」
「はっ……!」
そう言い残し、サミュエルは部下を引き連れて足早に牢を出て行きました。
重い鉄の扉が閉まり、再び寒さと静寂がわたしを包み込みます。
わたしは冷たい床の上でゆっくりと息を吐き出しました。
……シーランドの輸出停止。
それは間違いなく、エルネスト国王陛下とセリア王妃殿下の決断です。
きっとレインハルト様やナタリア殿下たちも、わたしのために水面下で動いてくださっているに違いありません。
彼らの行動がわたしの命をほんの数日だけ先へと繋いでくれました。
(わたしは人間ではありません。そして、こんな絶望的な状況でレインハルト様の愛までも疑ってしまっている……けれど)
「まだ死ねません。……生きて、レインハルト様と子どもたちに会うまでは……」
わたしは震える両手をゆっくりとお腹へと当てました。
極限の飢えと寒さの中にあっても、この子だけは絶対に守り抜かなければ。
「痛い……」
わたしは注射針の痕だらけになった両腕を見つめました。
……血は、沢山抜かれたような気がします。
何の薬を注入されたのかも分かりません。
死なない程度にいたぶられているのでしょう。
「はぁ……」
サミュエルの言葉が、頭の中にこびり付いて離れない。
『ハハッ。……まだ人間のフリを続けるつもりか? 我々には大義名分がある。『ヴァルテンベルク公爵家を乗っ取ろうとした人外の女の捕縛』という、正義がな』
(公爵家の地位なんて求めたことすらありません)
ただ、愛した人がレインハルト様だったという悲劇。
けれど皮肉にも、わたしは彼無しでは生きられなかったことでしょう。
学生の頃、初めて誘惑の香りに気付いた彼は、わたしを異端審問に差し出すか、保護するかで葛藤していたというのですから。
「殺さないで」と懇願してしまったあの時のわたし。
溺れるように愛し合った若いころ。
そして、リオンを授かった時の奇跡。
幸せだった記憶は嘘ではないのです。
この愛がたとえ、彼自身を地獄に突き落とすことになったとしても……。
差し出された暖かな温もりを手放すことなどできなかったのです。
震える瞼を閉じると、わたしは冷たい石床の上で身体を丸めました。
そして、自分自身を抱きしめるようにして、ただじっと痛みに耐えていました。
***
――コツン。コツン。
ほんの少しの間、疲労で気を失っていると、牢の向こう側から再び足音が聞こえてきました。
しかし、それは先ほどのサミュエルのような、軍人特有の規則正しい靴音ではありません。
もっと重く、傲慢で、足音だけで周囲の空気を圧迫するような、ひどく威圧的な響き。
(誰……?)
ガチャリ、と鉄の扉がゆっくりと内側へ開かれます。
魔法灯の光を背にして、豪奢な毛皮のマントを羽織った老年の男が、静かに牢の中へと足を踏み入れました。
その男の全身から発せられる血の匂いと濃密な権力の気配に、わたしの本能がけたたましい警鐘を鳴らしました。
サミュエルとは違う。
この男こそがわたしをこの極寒の地獄へと突き落とした、本当の『黒幕』――。




