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黄金の檻 〜全てを捧げる最強魔導師の極上愛に溺れて幸せです〜  作者: 雪白めると
【第五部 二幕 消えたシャルロット】
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19_王妃の違和感 セリアside


 シルバード王宮に滞在するための賓客用客室。

 その大きく豪奢な窓から見下ろす中庭の隅で、小さな影がいくつも動いているのが見えた。


 よく見ると、それはヴァルテンベルク公爵家の子どもたちだった。

 長男のリオン殿を中心に、黒髪や銀色に輝く髪を揺らしながら、レインハルト殿が破壊したという地下通路跡の瓦礫を魔法を使って懸命に捜索しているようだ。


「……可哀想に」


 わたしは窓ガラスにそっと手を触れ、痛む胸を押さえた。

 わたしと夫のエルネストの間にも、四人の子どもがいる。

 あのようにまだ年端もゆかない子どもたちが母親を理不尽に奪われ、その痕跡を自らの手で地べたを這うようにして探さなければならない。


 その絶望と心細さを想像するだけで、同じ母親として胸が張り裂けそうだった。


「セリア。そんな暗い顔をしないでくれ。君が悲しむと私まで辛くなる」


 背後から夫であるシーランド国王エルネストが、わたしの肩を優しく抱き寄せる。

 彼の顔にも親友であるレインハルト殿の身に起きた悲劇に対する深い憂いと、一国の王としての険しい緊張が刻まれていた。


「ええ……ごめんなさい、エルネスト。でも、あの子たちの姿を見ていると、どうしても夜会の時のシャルロット夫人を思い出してしまうのです」


 わたしは窓から離れ、ソファーに腰を下ろした。

 四日前の夜会。

 そこに現れたシャルロット・イル・ヴァルテンベルク夫人は天上人かのように美しかった。


 内側からきらめくような真珠の肌に星屑を集めたような髪。

 長年多くの貴婦人を見てきたけれど、あのような肌を持つ人間は見たことがない。


 そして。


 これは夫であるエルネスト様にも言えていなかった事実ではあるのだけれど。

 どうにも彼女からは、微かに『異質なにおい』がずっとしていたのだ。


 光属性を得意とするわたしは魔の気配に敏感だ。

 彼女の周囲には何故かレインハルト殿の強大な黄金の魔力が幾重にも巻き付くように覆われていたが、その奥底の、本来の彼女の性質を隠すためのもののような気がしてならなかった。


(シャルロット夫人は人間ではない可能性が? それともハーフ……?)


 いえ、早計はよくないわ。

 彼女と直接言葉を交わした際、その瞳には純粋な母性と優しさしかなく、とても善良そうだった。

 だからこそ国を脅かすような問題はなさそうだと判断し、わたしは胸の内に秘めていた。


 しかし彼女が攫われた今となっては、些細な違和感すらも重要な手がかりになり得る。

 これなら言っても大丈夫かしらと、わたしは夫に話しかける決心をした。


「ねえ、エルネスト様。夜会の時のことなのですが……シャルロット夫人の肩に、魔獣らしき鳥が乗っていましたよね?」

「はっ?」


 夫は目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。


「あなた、お気付きになってませんでしたよね?」

「ええ? いたかい、そんなの……。魔獣なんていたら私だってすぐに気付きそうだけど」


 わたしは小さくため息をひとつつく。


「やはり、認識阻害の魔法がかかっていたのですね。……わたしも、光魔法を目に込めて集中しないと見えませんでしたから」

「そ、そうなのか。……レインハルトのやつ、魔獣なんて連れ込んで何を考えているんだ。ただでさえ目立つというのに。ハア……」


 エルネストは頭を抱えて呆れたように言ったが、わたしは真剣な眼差しで彼を見つめ返した。


「エルネスト様。魔獣は本来、我々にとっても討伐対象ですし、人間と慣れ合わない生き物ですわ」

「……なにが言いたいのかな?」

「通常は『高位デーモンの使い魔となる』か、あるいは『野良で生きているか』のふたつにひとつです」

「おいおい……まさか。シャルロット夫人が、魔物(デーモン)だとでも言うのか?」


 夫の顔色が変わる。

 正直なところ、わたしの中では半分以上答えは出ていたけれど、真実が分からない以上騒ぎ立てても意味が無い。


 それどころか、そう思い込んで行動して、違っていた場合の双方のダメージが大きすぎる。

 今はただ、あの可哀想なお子達の力になってあげたい。

 それだけ。


「例外があるかもしれないので断定はできませんわ。けれど、夜会であのお二方が異様に目立っていたのはレインハルト殿の威光だけではありません。やはり、あの奥様の人間離れした美しさと、彼女の内に秘められた尋常ではない『魔力の大きさ』に他ならないのです」

「そういえば……」


 エルネスト様は顎に手を当て、記憶を探るように眉をひそめた。


「夫人は魔法は使えないと聞いていた。だが挨拶に近付いた時、彼女の身体がとんでもない密度の魔力で満たされているのを感じてはいたな」

「……ええ。恐らくはレインハルト殿の魔力をそのまま巻き付けたかのような」

「魔法が使えないのに、……なんのために……?」


 沈黙が降りる。

 私たちは無言のまま、ある一つの恐ろしい『推論』に辿り着いていた。


 魔法が使えないにも関わらず膨大な魔力を内包し、魔獣を従え、人外の美しさを持つ存在。

 もしその異質さに目をつけ、彼女を攫った者がいるとしたら。


「……ベルツか……?」


 エルネストが、地を這うような低い声で呟いた。


 近年、ベルツ王国が異常な量の魔導薬液、生体保存用の特殊な魔導容器、そして魔力安定錠剤を我が国から大量輸入しているという事実。

 それらはすべて、人体実験や、魔物を生かしたまま長期保存・解剖するために使えそうな物ばかりだ。


「シルバード王国と交戦していたのは四年も前の話だが……。しかしこんな大それた真似を……?」

「表立って口に出すのは今はまずいですわ、まずは証拠がないと……」

「ああ。まだ疑惑段階だ。もちろん違う可能性だってある」

「エルネスト様。確たる証拠はありませんが……ベルツが彼女を『研究材料』として攫ったのだとすれば、一刻の猶予もありません」


 わたしは夫の前に進み出ると、王妃としての威厳を持って深く頭を下げた。


「どうか、シーランドからベルツに向けた特殊薬品の輸出を、今すぐ全面停止してください。もし彼らがシャルロット夫人を実験台にしようとしているのなら、その薬品が使われてしまう。私たちの国が、間接的に彼女を傷つける手助けをしてはなりません」


「……言われるまでもない。元々、制限をかけようと思案していたところだったのだから」


 エルネスト様は国王としての冷徹な顔つきになり、力強く頷いた。


「直ちにシーランド本国からベルツへの魔導薬液および関連物資の輸出を無期限で停止するよう手配しよう」






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冷淡ヒーローの“我慢”が限界に近づいていく、 すれ違いから始まる異世界執着愛。
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