7_最強公爵の愛欲 シャルロットside
賑やかだった王宮庭園でのひとときを終え、わたしたちは夜会に向けた身支度を整えることになりました。
夜の宴は大人たちの社交場ですから、八人の子どもたちは一足先に公爵邸へと帰らせなければなりません。
「キール、お留守番お願いね。子どもたちと一緒に馬車に乗ってちょうだい」
わたしは王宮の控室で、あらかじめ用意してもらっていた鳥籠にキールを入れようとしました。
しかし、キールは「クエェッ!」と短く鋭く鳴いて首を勢いよく振ると、わたしのドレスの肩口にちょこんと張り付いたまま、小さな爪を立てて絶対に離れようとしません。
「困りましたわ。夜会に動物を連れて行くわけにはいきませんのに……。ほら、キール、いい子ですから」
わたしが困惑して指先で撫でてなだめようとすると、隣でレインハルト様が「はぁ」と深いため息をつきました。
見上げると、彼の金色の瞳がわたしの肩に張り付くキールをじとっとした冷たい目つきで睨みつけています。
「……仕方ない。無理に引き剥がしてシャルが怪我でもしたら大変だ。そのまま連れて行こう。僕の魔法で認識阻害をかければ、ただの飾りにしか見えないはずだからね」
レインハルト様は少しだけ不機嫌そうに眉を下げていました。
小さな生き物(それも魔獣の幼体とはいえ)にまで本気で嫉妬してしまう夫の不器用な愛に、わたしは胸の奥がくすぐったくなるのを感じます。
「ありがとうございます、レインハルト様。……みんな、気をつけて帰るのよ。お家に着いたら、すぐにお風呂に入って休むのよ」
「はーい! お母様も夜会楽しんでね!」
「父上、母上をしっかりエスコートしてくださいよ」
アルテミスやサリエス、そして少し心配そうなリオンたちを見送ります。
公爵家の馬車が遠ざかっていくのを確かめてから、わたしたちは夜会の準備のために用意された王宮の賓客用の一室へと向かいました。
***
案内されたのは重厚なマホガニーの扉の奥にある、王宮でも限られた国賓しか使えないという素晴らしい部屋でした。
足音が沈み込むほど分厚い絨毯、豪奢な天蓋付きの広いベッド、そして美しいアンティークの調度品。
部屋に入った瞬間、レインハルト様が指先を軽く振るうと、外部の音を完全に遮断する結界が部屋全体を包み込み、完全な静寂が訪れました。
キールは部屋の片隅にある背の高い飾り棚の上にふわりと飛び乗り、羽に顔を埋めて大人しく眠り始めます。
部屋に二人きりになった途端、レインハルト様の雰囲気がしっとりとしたものに変わりました。
昼間の爽やかで頼もしい公爵としての顔から、甘く、そして濃厚な熱を帯びた『ひとりの男』のものへと変貌したのです。
「シャル……」
背後から、彼のがっしりとした腕がわたしの腰を抱きすくめました。
うなじに、熱い吐息と共に柔らかな唇が落とされます。
ちゅっ、という水音が静かな部屋に響き、わたしの身体はビクリと震えました。
「あ……んっ、レインハルト様……」
「ずっとこうしたかった」
彼の長い指先が、わたしのドレスの背中の編み上げを器用に、そして焦れったいほどゆっくりと解いていきます。
するりと滑り落ちた絹の布越しに、彼の手のひらの熱が直接肌に伝わってきました。
レインハルト様も乱暴にジャケットを脱ぎ捨てると、シャツのボタンを外していきます。
熱を持った肌と肌を直接寄せ合わせると、彼の逞しい胸板の鼓動が、わたしの背中を通してドクドクと伝わってきました。
現在、わたしのお腹には新しい命が宿っています。
まだ妊娠二、三か月の初期で、見た目にはほとんど分からない状態です。
彼の大きな手はそのわずかな膨らみを確かめるように、とても優しく、慈しむように撫でてくれました。
「僕たちの新しい家族……。シャルの身体に負担はかかっていないかい? 気分は悪くない?」
「ええ……。レインハルト様が、毎日こうして魔力を分けてくださるおかげで、とても満たされていますわ」
「そうか。なら、もっと……」
彼の唇が、背中から肩、そして首筋へと這い上がってきます。
淫魔の末裔であるわたしの身体は、愛する人から与えられる魔力と精気によって命を維持しているのです。
彼が触れるたび、そこから流れ込む極上で圧倒的な魔力が細胞の隅々にまで浸透し、頭の芯がとろけるような心地よさに支配されていきました。
彼の金色の瞳が情欲に濡れて熱く輝いています。
わたしをベッドにそっと押し倒すと、彼は全身でわたしを覆うように体重をかけました。
優しくも独占欲に満ちた愛撫に、わたしの吐息は次第に熱く、荒くなっていきます。
「あっ……はぁ、はぁ、……ん、れい、ハルトさま、お着替えしないと……っ」
わたしが甘く掠れた声でどうにか理性を繋ぎ止めようと抗議する。
彼はわたしの耳たぶを甘噛みしながら、低く艶やかな声で囁きました。
「着替えなんて。……僕の魔法ですぐ整えてあげる。夜会までまだ時間はある。……ほら、たっぷり僕の魔力を食べるんだ、シャル……」
「あっ……あぁ……」
彼の言葉に、わたしはもう抗うことなどできませんでした。
最強の魔導師が惜しみなく注ぎ込む、底なしの深い愛情と濃密な魔力。
それはどんな美酒よりも甘く、わたしの魂を根底からとろけさせていきます。
わたしは彼の広い背中に腕を回し、世界で一番甘い熱に溶かされながら、何度も何度も彼の名前を呼び続けました。
部屋の片隅で眠るキールだけが、愛し合うわたしたちの姿を静かに見守っています。
この後、あんな恐ろしい悲劇が待ち受けていることなど、この時のわたしは知る由もなかったのです。




