番外編_風邪ひき淫魔の甘い暴走 レインハルトside
僕の愛する妻、シャルロットが風邪を引いた。
普段から僕の過剰なまでの魔力供給(という名目の過保護なスキンシップ)によって健康そのものだった彼女が、珍しく流行り風邪に罹ってしまったのだ。
「……はぁっ、んっ……」
薄暗くした主寝室。
天蓋付きの大きなベッドの中で、シャルは熱に浮かされ、苦しげな吐息を漏らしていた。
その白く滑らかな頬は林檎のように赤く染まり、額にはじっとりと汗が滲んでいる。
代わってやりたい。
いっそこの国中に蔓延る病原菌という病原菌を、僕の魔法で塵ひとつ残さず焼き尽くしてしまいたい。
そんな危険な思考を巡らせながら、僕はシャルの額のタオルを替えようと、ベッドの縁に腰を下ろした。
その時だった。
「――っ」
「シャル……?」
不意に、シャルの目がうっすらと開いた。
熱で潤んだ紅水晶のような瞳。
しかし、その瞳孔は普段の温厚で優しい彼女のものとは違い、まるで夜の森で獲物を見つけた『捕食者』のように、妖しく、そしてひどく飢えた光を宿していた。
次の瞬間。
「ん……!?」
ガシッ、と。
病人とは思えないほどの信じられない力でネクタイを掴まれたかと思うと、僕はそのままベッドの上へと引きずり倒されていた。
抵抗することなど造作もなかったが、万が一にも彼女の華奢な腕に怪我をさせてはいけないと力を抜いたのが運の尽きだった。
「シャ、シャル!? どうしたんだ、急に起き上がったりしてはダメだ、君は今ひどい熱で……」
「……足りないの」
とろけるような、ひどく甘く、掠れた声だった。
気づけば、熱に浮かされたシャルが仰向けに倒れた僕の腰の上に跨っていた。
乱れた薄絹のネグリジェから豊かな胸の谷間と、雪のように白い太腿があらわになっている。
彼女から放たれる熱気とむせ返るような『誘惑の香り(フェロモン)』が、致死量の暴力となって僕の理性を殴りつけてきた。
「魔力が……あなたの魔力が、ぜんぜん足りないの……っ」
「待って、シャル。落ち着いて」
僕は必死に思考を巡らせた。
そうだ。
シャルの正体は、男の精気と魔力を糧とする淫魔だ。
身体が弱り、生命の危機(今回はただの風邪だが)を感じた生存本能が、理性を吹き飛ばして強制的に『捕食モード』を起動させてしまったのだ。
「もっと、ちょうだい……? レインハルト様……っ」
シャルは僕の胸板にすり寄るとシャツのボタンを乱暴に引きちぎるように外し、あらわになった僕の鎖骨へと、熱い唇と舌を這わせた。
「っ……あ、ダメだ、シャル。今日は君は病人なんだ。あまり激しいことをしたら、君の身体がもたない」
僕は王国最強の魔導師だ。
どんな凶悪な精神操作魔法にも耐えうる強靭な意志を持っている。
しかし、愛する妻の『積極的な誘惑』という物理かつ精神攻撃に耐えられるようには、僕の精神は設計されていないのだ。
「……わたしのこと、愛してないの……?」
ぴたりと動きを止めたシャルが、上目遣いで僕を見た。
熱で潤んだ瞳から、ぽろりと大粒の涙が零れ落ちる。
「そんなわけないだろう!? 愛している、狂おしいほどに!」
「じゃあ……わたしに、食べさせて……?」
彼女は僕の首筋に両腕を回すと、そのままちゅっ、と、甘く吸い付くような深いキスをしてきた。
舌先が絡み合い、彼女の体内の奥底から生じた『飢え』が、僕の魔力を直接引っ張り出そうと暴れ回る。
普段の受け身な彼女からは想像もつかないほど、強引で、淫らで、圧倒的なまでの『雌』の顔だった。
「んっ……ふぁ……もっと……あなたの全部、わたしに注ぎ込んで……っ」
「あ……っ、くそ……!」
僕は、自分の中で繋ぎ止めていた理性の糸が、音を立ててプツリプツリと切れるのを自覚した。
これ以上我慢するのは、魔導師としても、夫としても、一人の男としても不可能だ。
「……後で文句を言わないでくれよ、僕の可愛いリリス」
「んっ……ああっ!」
僕は攻守を逆転させ、僕の上に跨っていたシャルをシーツへと押し倒した。
彼女の生存本能が求めるままに。
そして、僕自身の抑えきれない欲望が命ずるままに、その夜、僕は熱に浮かされる妻に極上の特効薬(魔力)を、搾り取られるまで注ぎ込み続けたのだった。
――そして、翌朝。
「……んん……あれ……?」
差し込む朝日で目を覚ましたシャルロットはすっかり熱も下がり、肌もつやつやと発光するような完全な健康体を取り戻していた。
しかし、彼女は自分の置かれた状況を見て、顔を真っ赤にしてパニックに陥ることになる。
「な、なんでわたし、裸で……っ!? それに、い、痛い…腰が砕けそうで動けない……っ」
彼女の隣には、かつてないほど精気を搾り取られ少しげっそりとしながらも、これ以上ないほど幸福そうな、菩薩のような笑みを浮かべて眠る僕がいた。
「風邪を引いていたはずなのに……わたし、無意識のうちにレインハルト様に何をしたの……っ!?」
記憶のないシャルロットの悲鳴が、清々しい朝の公爵邸に響き渡る。
彼女が再び風邪を引く日を、僕が内心でひっそりと(そして熱烈に)心待ちにするようになったのは、言うまでもない。




