14_繋がれた指先、背徳の甘さ
王立ラピスラズリ学園の喧騒から離れた休日。
城下町を彩る石畳は、春の柔らかな陽光を浴びて、まるで砕いたガラスを敷き詰めたように輝いている。
「シャルロット、歩く速度は早すぎないかな?」
隣を歩くレインハルト様の声は、かつての氷のような冷たさを微塵も感じさせないほど、深く、甘い。
彼はわたしの細い指先を、壊れ物を扱うような慎重さで、けれど決して離さないという強い意志を込めて包み込んでいた。
「いいえ、ちょうどいいですわ。……こうして貴方と並んで歩けることが、まだ夢のようで」
わたしは繋がれた手に少しだけ力を込める。
数日前、公爵邸の私室で彼の一部となったあの日から。
わたしたちの関係は、もはや後戻りのできない深淵へと堕ちた。
かつてのわたしは彼を一途に想いながらも、常に拒絶の影に怯えていた。
彼を不快にさせる自分の「香り」を呪い、彼の周囲に群がる華やかな令嬢たちを見ては、自身の心に深く冷たいヒビが入る音を聞いていた。
―けれど、今は違う。
すれ違う女性たちが、誰もが振り返るほど美しい黒髪と黄金の瞳を持つレインハルト様を見て、頬を染めて吐息を漏らす。
かつてのわたしなら、その視線一つひとつに胸を締め付けられていたでしょう。
しかし、今のわたしは、彼がわたしの腰を抱き寄せる強引な力強さを知っている。
彼のあの端正な顔が、わたしを欲してどれほど狂おしく歪むかを知っている。
(この方は、わたしのもの。…そしてわたしも、彼のもの…)
それは淑女にあるまじき、傲慢で背徳的な優越感。
誇らしさが胸を満たし、わたしは自然と背筋を伸ばして、彼に寄り添うように歩を進めました。
「シャルロット、あそこの店はどうだい? 焼きたての香りがここまで漂っている」
レインハルト様が指差したのは、店先に色とりどりのリボンを飾った小さな菓子店だった。
香ばしいバターと、焼けた小麦の幸せな匂い。
わたしたちが店へ足を踏み入れると、ベルがチリンと可愛らしい音を立てる。
「いらっしゃいませ! おお、これはまた見事な美男美女の……!」
店主の感嘆の声に、レインハルト様はわずかに眉を寄せたが、不機嫌になる様子はない。
彼はただ、わたしの好みを最優先するように棚を見つめている。
「クッキーをいただけますか? あの、アイシングで花が描かれたものを」
「かしこまりました。お熱いねぇ、お二人さん!」
店主が冷やかすようにクッキーを紙袋に詰め、わたしに手渡してくれる。
店を出てすぐ、レインハルト様が袋から一枚、小さな星型のクッキーを取り出し、わたしの口元へと運んだ。
「……あ」
甘い砂糖の味。
けれど、それ以上に、わたしの唇に触れた彼の指先の熱が、舌先を焼く。
彼はわたしがそれを咀嚼する様子を、獲物を観察する猛禽類のような眼差しで見つめていました。
「甘い?」
「はい……とても。レインハルト様も、召し上がりますか?」
わたしが彼の真似をして、クッキーを差し出す。
すると彼は、わたしの指ごと食むようにして、それを口に含む。
「……ああ。君の香りが混ざって、酔うほどに甘いよ」
公共の場とは思えない、官能的な言葉。
彼の吐息が耳元を掠め、わたしは不意に身体の奥が疼くのを感じました。
思い出したように熱を帯びる。
わたしの肌から、自覚もなく、甘く濃密な気配が微かに滲み出し始めていた。




