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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第二章 同業者仲間ができました。できた途端にヘルプが飛んでまいりました
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9 遅すぎたお土産(フラグ回避成功)



「では、間引きの完了とハルちゃんのダンジョンの問題解決を祝してかんぱ~い!」

「か、かんぱ~い」



 その日の夜。小屋の前に敷いたシートの上で、ずらりと並んだ料理の皿を前に乾杯する私とハルちゃんの姿がありました。

 ちょっと恥ずかしそうに唱和するハルちゃんですが、うっすら紅潮した顔には嘘偽りのない本物の笑みが浮かんでいます。


 ハルちゃんの隣には薄緑色のフロックコート(ハルちゃんがDPで作成した『防御力向上のコート(ランク6):260p』)を着たセバスが座ってる。

 ますます○ーター○ビットに見た目が近づいたけど、かわりに貸し出していた防御力向上の腕輪は返却されました。別にそんな気にしなくてもいいのに……むしろDPを温存しておいてくれるほうが私としては安心できるんだけどね。



 それはともかく、午後の作業で明らかに数を増やしている魔物の間引きは完了し、ついでにハルちゃんのダンジョンにセバスの〈帰還〉で飛んで、封鎖区画に閉じ込めたままのウサギも解放してきました。

 ウサギの大半が第二層にいたため、第三層に誘導して連れてくるのが大変だったけど、そのへんはセバスの〈統率〉のおかげでなんとかクリア。


 命令不能な上、狭いところに閉じ込められていたせいかストレスが溜まってかなり攻撃的になってましたが……リーダー格のウサギをセバスが肉体言語(具体的には飛び膝蹴り)で黙らせたあとはスムーズになった。

 あの、セバスさん……どこでそんな技覚えてきたんですか? あなた、支援特化系のモンスターだったハズですよね?


 まぁ、そのおかげでウサギの群れが素直に第三層を住処にしてくれたのだから結果オーライということにしておこう。第一層は外のモンスターが自由に入ってこれるし、第二層には罠があるので、ウサギを定住させられるのは第三層しかなかったのだ。


 ただしまた野放図に増殖されては困るので餌場は消去し、ハルちゃんが出歩いても大丈夫なようにメインルート以外の枝道や小部屋がウサギの定住先となった。群れ同士で対立したりもしていたので、別々の場所に定住させる必要もあったし。

 勝手に定住エリアから出ないようにセバスが肉体言語(踵落とし)も交えて言い聞かせていたので、これでウサギ同士で抗争するようなことはなくなったはず。

 にしても、セバスさん……(以下ry



 と、ともあれハルちゃんのダンジョンに関しては、これで防衛力以外の問題は解決したことになる。

 防衛力の問題に関しては、DPと相談しながらまたおいおいと……ダンジョンに外の魔物を追い込んで狩るという方法が確立できたので、無理のない範囲でDPを貯めながら考えていくつもりだ。


 そのあたりは私のダンジョンも同じだけど、とりあえず今回の間引きによって入ったDPが2000ほどあるので、こっちはあんまり焦る必要はない。

 一部の魔物はあえて狩らずに残してあるので、滞在ポイントも以前より多く入ってくると思うし。


 ただ、今回の騒ぎによって地上部に送り出したダームフライたちは、数匹を残してほぼ全滅してしまったようだ。

 あれだけの数の魔物が押し寄せてきたら無理もないけど……せめて避難場所くらい作っておいてあげればよかったと後悔しました。ハルちゃんのダンジョンから出て行ったウサギも同様の状態だったので、あんまり顔には出さないようにしたけどね。



 暗い話題はさておいて、当面の問題が片づいたことをお祝いするためにも、ちょっと気合い入れて夕食を作りましたよ!

 小麦粉と塩と油があれば、発酵させなくてもパン(というかチャパティ?)が作れることを思い出したのでおぼろげな記憶に頼って生地を練ってフライパンで焼いたり、それに挟む肉を焼いてついでに刻んだ香味野菜と唐辛子もどき(サルサーギ村で手に入れた)とトマトソースでサルサソースっぽいものを作ってみたり。


 ジャガイモはたっぷりの油で揚げてフライドポテトに、残り少ないスピアクロウの肉は塩とハーブで下味つけて唐揚げに。地上部で見つけたレモンとゆずの中間みたいな果実があるので、食べる時にお好みで絞ってかけてもらうことにする。

 ここでレモン戦争勃発は避けたいところですから……ちなみに私はどっちもいける派だ。


 肉と揚げ物ばかりじゃバランスが悪いので、野菜をたっぷり使ったサラダも忘れない。

 レンコンもどきを薄く切って揚げたレンコンチップを載せ、ドレッシングは塩と油と先程の果実の絞り汁に刻んだハーブを少々。

 セバスのご飯も兼ねたスティックサラダには、布に包んでジンガに潰してもらったニンニクっぽい実を油ごと加熱して、塩で味を調えたなんちゃってバーニャカウダソースをつける。



 他にも時間と調理器具の許す限り料理を作り、絞ったレモゆず(仮名)と蜂蜜を水で割って飲み物も完成。私はリンゴ酒をいただくけどね!

 料理は私とハルちゃんの二人では食べきれないくらいの量だが、どうせギンたちもねだってくるだろうからいいのだ。ソースをつけなければギンたちが食べても問題ないメニューが大半だし。



「ん~、やっぱり唐揚げは揚げたてが一番ね! 久しぶりだけど美味うま~!」


 噛むとじゅわっと肉汁の出てくる唐揚げと、後口をすっきりさせるリンゴ酒を代わる代わる口に運ぶ。ビールもいいけどリンゴ酒の酸味が揚げ物との相性ばっちりだ。レモゆず(仮)はいらなかったかも。


 ハルちゃんも頬を緩ませながら黙々とポテトや唐揚げを食べている。思い出したようにサラダに手を伸ばすのは、一応栄養のバランスを考えてのことか。

 注意しなくても自分で気がつくあたりはさすがだけど、はたしてダンジョンマスターに栄養管理は必要なのか……自分のダンジョンの中ならともかく、食事が必要になる外だと考えておいたほうがいいのかな?


 ギンはあっという間に自分の分の肉を食べ終わって、さっそくおねだりにきたのでソースをつけずに肉やポテトを取り分けてやる。

 お皿を自分でくわえてくるあたり、妙に知恵をつけていやがる……と思ったら、そっと差し出されるもう一皿。目が合ったヤシチがばつが悪そうに視線をそらしながらちょっと可愛く首を傾けてみせる。

 ギンに知恵をつけた犯人はここにいたようです。おねだりポーズまで編み出したヤシチに笑えばいいのか、呆れればいいのか複雑な心境だ。


 まぁ、可愛いからフライドポテトとか唐揚げとか持っちゃうんだけどね! 毎日食べさせているわけでもないし、たまの贅沢にご相伴させるくらいだったら問題ないだろう。ここ数日の間引きで、一番活躍したのはヤシチやギンたちなんだし。



 と、そこで一人というか一体、今日の立役者にもかかわらず同席していても食事を摂れないジンガのことを思い出す。

 シートの隅っこに正座で座っている姿はまるで罰ゲーム……というか、シートが飛ばないように置かれている重石のようにも見える。種族的に食べられないのは仕方ないにしても、仲間はずれみたいでなんだか不憫だ。


「ジンガも今日はお疲れさま……あ、そうだ」

 もう一つ忘れていたことを思い出して立ち上がり、シートの外側に置いておいた靴を履いて小屋に向かう。


 ベッドの側に置きっぱなしにしてあるのはマジックバッグ。肉などの生ものは食料庫に移したけど、雑貨や衣類などはバッグの中に入れたままだ。バッグに手を突っ込んでごそごそ探り、見つけ出したものを持って再び小屋の外へ。


「ジンガ、遅くなったけどこれ……サルサーギ村で買ってきたお土産。ジンガに似合うんじゃないかと思って」

 私が差し出した特大サイズの麦わら帽子を、ジンガが手を出して受け取る。


 ずっと渡すのを忘れていたんだよね。何事もなく渡せたことにほっとする。こういうアイテムって、渡しても渡してなくても変なフラグになりそうだし。

 一番ほっとしたのは、けっこう長いことバッグに入れっぱなしにしていても潰れたり形が崩れたりしてなかったことだけど! 本当にマジックバック様々だ。


「………ゴ」

 手に持った帽子をしげしげと見つめていたジンガが、短く一声だけ洩らす。


 感情の読めない無機物めいた音声だけど、ものすごく感動しているのが〈伝心〉で伝わってきた。

 大切な宝物でも扱うような手つきで帽子を持ち替え、恐る恐るといった様子で頭に帽子を被る。サイズが合うかちょっと心配だったが、見たところ大丈夫みたいだ。



「よく似合ってるよ! 喜んでくれたみたいでよかった……DPで作ったものと違って耐久が弱いから、農作業の時とかに被るといいよ。普段はジンガの部屋にしまっておいて」

 私の言葉に、帽子のつばを揺らしてジンガがうなずく。あ、ジンガの部屋というのは倉庫を作った際、蜘蛛教官の部屋を移築させる形で一緒に作ったものです。


 二つの部屋をくっつけてあるので、全体としては10×20×10メートルの部屋にドアが二つ付いている形だ。

 外観は外装オブジェクトで木造の納屋風にしてあるけど、おかげで小屋の側に三階建てサイズのサイズのでっかい納屋が二つあるという、ちょっと不思議な光景になっている。……いや、田舎のちょっと規模の大きな農家だったら珍しくもないのか?


 ちなみに、ダンジョンにはその階層に侵入者が存在する場合、部屋や廊下と言った構造物を作成できなくなるという制約があるんだけど、侵入者というのはあくまで自分の意思でダンジョン内に入り込んできたものに限られるようだ。


 というのも、外から持ち込んだフラップラントを植えたあとも普通にリビメイ教授の部屋は作れたし、部屋の移動や改造も支障なくできたからね。

 一緒に連れ込んでしまった虫の影響もないみたいだし、そうなると侵入者の定義は自力で動けることとかランクとかとは関係なく、自主的にダンジョンに入ってきたかどうかなのだと思う。


 よく考えてみれば、外から採ってきた植物や虫も侵入者になるのなら、アラームが設置した瞬間から(ごく弱くではあったにせよ)ピッカピカ光りっ放しだったろうし。



 そんな私の回想はさておき、ジンガは嬉しそうに(見た目は変わらないけど)帽子の角度を何度も直している。

 普通に被れる頭の形で本当によかった……まぁ、被れそうだと思ったから帽子をお土産に選んだんだけど。大仰な頭部パーツが付いていたら、さすがに諦めざるを得なかっただろうからね。


「よかったですね~、ジンガさん。本当によく似合ってますよ!」

 ちょっと膝を崩してシートに座ったハルちゃんが、にこにこ笑ってジンガに言う。

 崩したといっても正座がちょっと斜めになった程度で、あぐらに近い私とは全然違うけど! いやまぁハルちゃんみたいにスカートをはいてたら、私も一応多少は考慮するよ……?


「ハルちゃん、おかわりいる? まだ食べるんだったら取ってくるけど?」

 ありったけの皿を出しても全部は盛りきれなかったので、料理の一部は鍋やボウルに入れて食料庫に突っ込んである。サルサーギ村で食器を買ってきたとはいえ、自分用の予備のつもりだったのでそこまで数は多くなかったのだ。


「いえ、十分です! むしろちょっと食べ過ぎちゃったくらいで……」

 濁した言葉の続きは、お腹に目をやったハルちゃんの仕草で想像がつく。しかしハルちゃんにはその心配は必要ないと思うけど?

 ウェストまわりはもちろんのこと、全体的に細すぎて栄養が足りてないんじゃとむしろ逆方向で心配になるくらいだ。


 かくいう私も世間一般ではスレンダーと評される部類なんだけど、悔しいことに腹とか太股とか見えない部分にはしっかり余分な脂肪がついているんですよ……適度な運動と節制を欠かせば、あっという間に服のサイズが変更となってしまうという。


 ただ、ダンジョンマスターになってからは食べていても食べないでいても、ほとんど身体のサイズは変わっていない気もする。

 体重計もないので正確なことは言えないけど……まさか、身体に合わせて服が自動でサイズ変更していたりはしないよね? 一瞬でチェンジ可能な服なだけに、ないとは言い切れないのが恐ろしい。



「ああ……まぁ、今はダンジョンから出てるし、普通にお腹が空く状態なんだから大丈夫じゃない? むしろ成長期なんだから、もっと食べてもいいくらい……」

「……成長して欲しくない方向にばっかり成長するのは嬉しくないんです」

 恨めしげなハルちゃんの声に、地雷を踏み抜いてしまったことを悟って口を閉じる。うん、高校生の女の子にとっては重大な問題だよね。ハルちゃん、身長は私より10センチほど低いし……でも高校一年生だったら平均的な身長じゃなかろうか?


 というか、ダンジョンマスターとなっている現在、私やハルちゃんが普通に成長したり老化するのかも謎だ。体重の問題といい……うん、このあたりの問題についてはあまり触れないでおこう。深く考えたらちょっとドツボにはまりそうだ。


「じゃ、じゃあお茶でも淹れてくるわね! 私もそろそろお酒じゃなくてお茶が欲しくなってきたし……」

 そう言い置いて、空になっていたハルちゃんのカップを持って足早に小屋に向かう。

 自分のカップももちろん忘れずに。お茶が飲みたいというのも嘘じゃないし。お酒ならまだまだ入るけど、ハルちゃんの前で酒豪っぷりを披露してドン引きされるのはさすがに避けたい。


 竈に残した火種を大きくして、手早く沸かしたお湯でお茶を淹れて再び外へ。

 真っ暗な空の下、ランプのわずかな明かりに照らされてぽつんと座るハルちゃん。側にはセバスもジンガも座っているのに、その姿は妙に寂しげに見えた。

 ……あ、もちろんギンとヤシチもいますよ? 布シートの面積的に座りきれないので、草の上に座っているというだけで。



「はい、お茶」

「ありがとうございます」


 丁寧なお礼の言葉とともに、ハルちゃんは差し出したカップを受け取る。

 持ち手はないけど厚みのある木のカップなので、淹れたてのお茶が入っていても熱くてまともに持てないなんてことはない。


「……美味しい」

 何度か吹き冷ましてから、お茶を口に含んだハルちゃんがほっと息を吐くように言う。


 口元にほんのり浮かんだ笑みはお世辞ではなく本物の言葉である証拠だ。

 私も自然と笑みを浮かべながら、自分の分のカップに口を付けた。って熱っ、火傷した! 格好つけようとした途端にこれだから……しまらないよなぁ、自分。


「……それにしても、あっという間に終わっちゃいましたね。もっと時間がかかるかと思ってましたけど……」

「それはハルちゃんがいたからよ。〈探知〉がなかったら、こんなに簡単には終わらなかったわよ? というか、10レベルの〈探知〉の威力の凄まじさを見せつけられたわ……」


 間引きが必要な魔物の群れがどこにいるのか、迂回したほうがいい高ランクの魔物がどこにいるのか、ダンジョンの中からでも手に取るようにわかるのだ。それがなかったら何日かかることになっていたことやら……


 私の言葉に、ハルちゃんの口元に浮かぶ笑みが微妙なものになる。

「ちょっとでも役に立てたのなら嬉しいですけど……でも、ここまで早く外の魔物の件が解決したのは、ミコトさんが指示を出してくれたからだと思いますよ? わたしだけだったらギンさんたちみたいなモンスターがいてくれても無理だったと思います」


「そんなの当たり前でしょ? 私一人でも、ハルちゃん一人でも、こんな順調には片付けられなかったわよ。二人で力を合わせて頑張ったからできたことよ? ああ、もちろんギンたちの力もあってことだけど……」

 いつの間にか後ろに回り込んで、のしっと座ったギンに笑いながら顔を向ける。

 軽く首筋を撫でてやると、お腹がいっぱいになっているのもあってか満足そうに目を閉じる。これこれ、そこで寝るのはいいけど片付けの時にはちゃんと起きてよ?


「だけど、ハルちゃんも本当にお疲れさまでした。……正直、最初はどうなることかと思ったけどね。外では魔物が大発生してるのに、ダンジョンでは飼育崩壊してるし、DPはほとんど残ってないとかいうし……」

「うう、その節はたいへんお手間をおかけしました……」


 身の置きどころがない表情になるハルちゃんに向かって、手を振ってみせる。

「あ、悪い悪い。責めてるわけじゃなくってね……というか、一歩間違ったら自分の身に起きてもおかしくない事態だったし」

 具体的にはダームフライ大増殖とかね! ……いや、本当にうっかり地下で繁殖させなくてよかったと心から思いました。


「ハルちゃんと会えたのは幸運だったと思うし、お互い協力できたらと思うから困っていたら助けるのはむしろ当たり前っていうか。なにしろほら、同じ日本の同じ市からやってきたダンジョンマスター仲間なんて色々な意味で貴重だし?」

「……もしかしたら、他にもいるかもしれませんよ?」

 ちらりと目を上げたハルちゃんの言葉は、やや言いにくそうではあっても暗い響きではなかった。


「まあね。でも、今目の前にいるのはハルちゃんだけだし。それに同じ女性で、オタク仲間という縁もあるでしょ? そうでなくても、十も年下の女の子が困ってるのに見て見ぬふりするなんて、男女関係なく人間の風上に置けないし」

「……ミコトさん。知り合いの人からよく『男前』とかって言われません?」

 控えめにハルちゃんが投げた一言が、心の急所を見事なコントロールで直撃する。

 ぐはっ、なんて正確無比なパンチ……ええ、よくわかっていらっしゃる! 友人知人の評価は男女関係なくそれだよ!


「あ、あの……悪い意味じゃなくて、ですよ! 困ってる人を見過ごせないとか、思いきりのいいところとか、そういうのがいかにも男前だなぁって……」

「……うん、フォローありがと。でも私としては、ハルちゃんみたいないかにも女の子らしい女の子に憧れる部分もあるんだよ。まぁ、根っこがロボットアニメで育ってる筋金入りの少年漫画系オタクだから、取りつくろったところで数秒でボロが出るけどさ……」



 遠い目になる私にハルちゃんがおろおろしながらかける言葉を探すのを横目に、大分冷めたお茶をすする。

 ああ、お茶が美味しい……料理も裁縫もできるんだし、これって世間的に女子力高いうちに入るんじゃね、と思ったのは大学時代の懐かしい思い出だ。口を滑らせて友人に言ったら、それは女子力じゃなくて生活オカン力だと一言のもとに切り捨てられました。

 あと、私にあるのはむしろ「女死力」だと……あの野郎、破いたズボンを人前で引っぱがして縫ったことをいつまでも根に持ちくさりよって。



「あの……ミコトさん?」

 遠い目から死んだ目になっている私に、ハルちゃんが心配そうに声をかける。おお、いかんいかん……過去の暗い記憶にとらわれている場合ではなかった。


 目で続きをうながすと、やや微妙な表情ながらもハルちゃんはずれてしまった話題をもとに戻す。

「……ミコトさん、外の魔物の件が落ち着いたら……人の住んでいる村に影響が出てないかの確認も終わったら、他のダンジョンに行ってみるつもりだって言ってましたよね?」

「あ、うん……でも、ハルちゃんも一緒でしょ? それとも、やっぱり気が変わって行きたくなくなった?」


 私の問いに、ハルちゃんはぶんぶんと音がしそうな勢いで首を横に振る。

 よかった、色々と予定が狂ってしまうところだった……ハルちゃんのスキルを当てにしている以上に、別行動を取るならハルちゃんのダンジョンの防衛能力向上とか、いざという時の連絡手段や移動手段の確立とか前倒しでやらなきゃいけないことが多すぎる。


「もちろん一緒にいくつもりです! でも……本当にいいんですか? わたしなんかが一緒についていって……ミコトさんには助けられてばっかりで、全然役に立ってないのに……」

「いや、ハルちゃんは十分すぎるくらい役に立って……」


「それって〈探知〉スキルが役に立ってるというだけで、わたしが役に立ってるわけじゃないですか。ミコトさんが〈探知〉を取るか、〈探知〉スキルを持ってるモンスターを作れば解決する程度の問題ですよね? それだけで、わたしみたいな足手まといを一緒に連れていく必要ないんじゃないかって……」


 言いつのるハルちゃんの頬を、カップをシートに置いて両手でぎゅっと挟み込むようにして押さえる。

「……むみむも(ミコトさん)?」


「あのね、ハルちゃんが足手まといだっていうなら、私だってギンたちにとっては立派な足手まといなの。そのへんのことを考えたら、ダンジョンマスターだってギンたちだけ外に出して探してもらったほうが、よほど危険も少ないし手っ取り早いわよ。私が同行するメリットって人里に問題なく出入りできることと、いざという時に〈帰還〉が使えることくらいだもの」

 まったく威張れた話ではないけど、ギンたちに比べたら私の戦闘力なんてゴミみたいなものだから仕方がない。


「だけど、ギンたちだけで外に出して、万が一のことがあったら後悔するなんてものじゃないし。それに……どうせなら、自分の目でこの世界を見て回りたいじゃない?」

 掛け値なしの本音を口にすると、ひょっとこ顔になったハルちゃんが目を丸くする。


「どうしてこんな世界で、ダンジョンマスターなんてやる羽目になったのかわからないけど、知らない世界だからこそ色々見て歩きたいし、色々な人に会って、美味しいものを食べたりもしたい……そう思うのって当たり前よね?」



 もちろん、安全を求めるならダンジョンの中で大人しくしているのが一番だ。

 必要な情報は使い捨てのモンスターで手に入れればいい。村の中だって、〈人化〉か〈変身〉スキルを持つモンスターなら探ることができる。DPが足りなければ、外の魔物をダンジョンに追い込んで殺せば簡単に手に入れられる。


 そう、今ならいくらでも方法は考えられる……でも、それを選ぼうという気にはなれない。じわじわ心を削って、いずれ決定的な破滅を迎えるのがわかりきっているからだ。



「ハルちゃんも同じだと思ったから、一緒に行かないかって声をかけたの。最初は調査が目的だったけど、せっかくこんな世界に生まれ変わったのにダンジョンに閉じこもりっきりなんてつまらないし、精神的にもあんまりよくなさそうでしょ?」

 ダンジョンの外の状態がまったくわからない中、最悪の想定ばっかりしながら懸命に情報を集めようとしていた時のことを思い出す。


 できる限りテンションを下げないように馬鹿なことばかり考えながら、精神的にはキリキリ追い詰められていた日々。はっきりいってもう二度と体験したくないと思わせるのには十分だった。

「だから、まぁ……ハルちゃんが行きたくないというのならともかく、足手まといだとか邪魔だとか、そういう変な遠慮で一緒に行かないという意見は却下します。実際足手まといなんかじゃない……というか、足手まといだとしても私と同条件だし、一緒に来てくれるメリットのほうが大きいんだから」



 わかった? と言ってハルちゃんの頬から手を離すと、やや納得のいかない表情のままハルちゃんが渋々うなずきを返す。

「……あと、わたし『なんか』とかって言うのは禁止ね。そういう言い方する子は私の中では『どうせ』とか『だって』とかいう単語連発して、努力しない言い訳にする面倒くさい構ってちゃんに分類されるから。自分を卑下してる暇があるなら、自分なりにやれることを見つけて頑張れというのが私のスタンスです」


「うっ……」

 なにやらハルちゃんがダメージくらったような声を出したがあえて無視。

 安心して、真性の構ってちゃんはそういう自分を客観視できないから。もしくは自覚してもまわりに原因を押しつけて『こんな可哀想なアタシ』を責める相手を悪人に仕立てるか。


 ええ、本当に面倒くさい生き物なんです。一緒にするのはハルちゃんに対して申し訳ないくらいだ。



「それはそうとして、今晩はこっちに泊まっていく? 自分のベッドで休みたいんだったら、ハルちゃんのダンジョンまで戻ってもいいけど……」

 私としてはそろそろ自分のダンジョンで休みたい気もするけど、ハルちゃんが不安だったら向こうのダンジョンでもう一泊してもいい。……別にベッドが目的じゃないですよ? というか、DPも入ったからいよいよ干し草ベッドを導入しようと思っていたし。


「こっちに泊めてもらいたい……って言ったら駄目ですか?」

 やや上目づかいになって言うハルちゃんに、笑って手を横に振ってみせる。


「全然OKよ。じゃあ、ちょっと客間を用意するから……」

 最後に残してあった空き部屋(もとリビメイ教授の部屋)をリフォームして、ベッドを入れればいいだけの話だ。

 最後の一部屋はお風呂場にでもしようかと思っていたけど、この先ハルちゃんが頻繁に泊まるなら客間の確保は優先課題だし。


「え? いいですよ、わざわざ作らなくても……! ちょっとベッドが狭くなるかもしれないけど、ミコトさんと一緒に寝ますから!」

「いや、だけど……」

「ミコトさん、わたしにはDPを使うなって言うくせに、自分ばっかりDPを使うのっておかしくないですか? それも客間なんて、あってもなくてもいいようなものに」

「いや、部屋そのものはあるのよ? ただ、ベッドがないから用意しようってだけで」

「ベッドなんて小屋ので十分です! ミコトさんはわたしに対して甘すぎますよ! それともわたしと一緒に寝るのがそんなに嫌なんですか?」

「そんなことはないけど……」



 頬を膨らませるハルちゃんをなんとかなだめて、とりあえず小屋のベッドを干し草ベッドに入れ替えることだけは同意してもらいました。

 新しく作るのに比べてDPの消費も少なかったしね……にしても、客間の話がどう転がってこんなことになってるのやら。


 ともあれ、夕食の片づけをしたあとで干し草ベッド(永続・不壊:16p)でハルちゃんと並んで横になる。ちょっとスペースに余裕があったので、ハルちゃんを挟んでセバスも一緒にだ。

 ヤシチは枕元、ギンはベッドの前に陣取ったところで「おやすみなさい」と誰にともなく声をかけて目を閉じる。



 ……うん、色々あったけど今日も無事に過ごせたことに心から感謝しよう。いるかいないか不明な神様にではなくて、頑張ってくれたギンやヤシチ、ジンガ、それに手伝ってくれたハルちゃんやセバス……まぁ一応、この世界の幸運とか司っている存在がいるのならそっちにも。


 ああ、でもそうやって気を抜いた途端、とんでもない事態に見舞われそうで怖い。この世界に生まれ変わった時点で、神様とかそういう存在に対するイメージはマイナスのさらに底を突き破っているのだ。

 むしろ神様なんて存在していないほうが嬉しいけど、実際のところどうなんだろう? そう言えば村に行った時、神様というか宗教のことも確認し忘れてたな……次に行った時は忘れずに聞いておこう。




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