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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第二章 同業者仲間ができました。できた途端にヘルプが飛んでまいりました
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8 ちょっと真面目な話とギンたちの本気

サブタイで悩んでたらちょっと遅れました(汗)



 出発前にちょっとしたトラブルもありましたが、無事に解決したところで〈帰還〉を使って私のダンジョンまでひとっ飛びに移動します。

 ……冷静に考えれば、ことが起こるまで全部黙っておくという手もあったんだけど。でも、いざという時になってから揉めるのは避けたかったのだ。本当に余裕のない状況でこんな応酬してたら、1パーセントの勝機だってゼロになってしまいかねない。


 まぁ、一番いいのはなにも起きないことだけどね。ただ、天災にせよ人災にせよ『絶対起きない』ことなんてあり得ないのだから、万が一に備えての対策と心の準備は必要です。



「ただいま~、ジンガ!」

 それはさておき、〈帰還〉の魔法陣の光が消えたらもう私のダンジョンに到着だ。

 私たちの姿に気づいて、小屋の前から歩いてくるジンガに笑顔で声をかける。ズシンズシンと近づいてくる足音のリズムがやや速歩なのは、待ちかねていた証拠だろうか。


 私と手を繋いだまま、ハルちゃんはぽかんと口を開けて地下一層の空を見上げている。

 ハルちゃんの腰のあたりにぴったりと寄り添ったセバスも同じような有様だ。長い耳をぴこぴこと動かしながら、ひっきりなしにあたりを見回して空気の匂いを嗅いでいる。


 私が手を触れる形でダンジョンに帰還したギンは、ジンガに向かって尻尾を振りながら駆け寄っていく。その背中から飛び立ったヤシチは私の肩に。

 クッ、と小さく鳴いた声にはどこか苦笑じみた響きがあり、私もジンガにまとわりつくギンを微妙な笑みを浮かべて見守る。あれって家に帰ってきた子が「こんなことあったよ~」って報告する姿そのままだよね。



「……ミコトさん! ここ、ダンジョンなのに空が……!」

 そんな私たちの横で呆然と空を見ていたハルちゃんが、我に返ったように声をあげる。


 空のある階層を作ったことは話していたけど、聞くのと見るのとじゃ大分違う。まぁ普通、地下に空のある階層があると言われても具体的には想像できないだろうし。せいぜい書き割りの空を思い浮かべるのが精一杯だろう。


「外じゃないんですよね? それに、小屋とか畑とか……ああっ、なんですかあれ? すごく高い塔みたいなものが……!」

 カ○ンの塔がハルちゃんの目に入ったようです。あれをなんと説明すべきか……うっかりと悪ノリの産物? 年長者としてカッコつけた直後だけにちょっと言いづらい。

「……とりあえず、小屋に入って一休みしない? 時間は十分あるし、お茶くらい出すわよ」



 時間稼ぎ(もしくは先送り)目当ての私の提案にハルちゃんはうなずき、私はハルちゃんの手を放して小屋に向かう。まる二日放置したままだから、あんまり人をお通しできる状態じゃないけど……いや、村に向かう前にひととおり掃除はしたんだっけか。

 帰ってきてすぐに出発したから、そんなに散らかってはいないはず。うん、荷物も片付けてから出たし。


 ただ、出る前に(虫が入ると嫌だったので)閉めたはずの窓が開いていたけど……ジンガがやってくれたのだろうか? 覆いの開け閉めはともかく、ストッパーの棒はけっこう細いからつまむの大変だったろうに。意外と器用というか、本当に気が回るなぁ……



「狭いところだけど、どうぞ~」

 扉を開けて小屋に入ると、ハルちゃんが「お邪魔します」と軽く頭を下げてから遠慮がちに入ってくる。


 ギンとヤシチはジンガと一緒に小屋の外だ。セバスはハルちゃんが心配だったのか、一緒に入ってこようとしたけどギンに鼻先でぼいっと背中に放り上げられ、なぜか畑へ連れ去られていった。

 ……なんだろうね。ジンガがせっせと世話をしている畑を見せたかったのか、単純に遊びたかっただけなのか。


 それはともかく、部屋の中を物珍しそうに見回しているハルちゃんに椅子を勧めて、手早く竈の火をおこして荷物から出した小鍋でお湯を沸かす。


「……はい、お茶」

 茶漉しはないので茶葉を布に包んで淹れたお茶をカップに注いで、ハルちゃんの前に置く。

 あ、椅子が一つしかないだった……とりあえず、食料庫の中に入っている空の木箱を一つ取り出してひっくり返し、その上に腰掛ける。ちょっと低いけど座れるなら問題ない。


「ありがとうごさいます……それにしても、本当に空なんですね。普通に家もあるし、畑まで……ここがダンジョンの中だなんてちょっと信じられないです」

「家というか小屋だけどね。畑は……なんていうか、必要に迫られて作ったらつい暴走したというか……誘惑には勝てなかったというか」


 そっと目をそらして自分の分のお茶をすする。粗食の反動で……なんて飲まず食わずで頑張っていたハルちゃんの前で言えるわけがない。いくらダンジョンの中ではお腹が空かないとはいえ、本当によく耐えられたものだと思うのだ。


「あ、さっきの塔なんだけどね、この層に正規のルートから入ってくるとあそこが入口になるんだ。ちょっと見た目が悪いから外装オブジェクトをつけたら、高さの設定をするのを忘れてあんなふうになっちゃったんだよね」


「そうなんですか? てっきり、なにか重要な施設かと……」

「うん、そう見えるかとも思って修正しないでそのままにしてあるの。あそこになにかあると思わせれば、少しは時間稼ぎになるかなって」

 露骨な話題そらしにもハルちゃんは気づかず、内心ほっとしながら私は笑顔で返す。


「まぁ、この層に入られた時点でほぼ詰んでると言える状況だけどね。なにしろ、うちのダンジョンってひたすら時間稼ぎに特化してるようなものだから。1000キロの廊下とか1000ピースのパネルとか……根気強く攻略されるか、力押しで吹っ飛ばされたらもう打つ手はほとんど残っていないわ。その時はそれこそ、玉砕覚悟の決死アタックをやるしかないわね」

「それって……」



 出発前のやりとりを思い出したのかハルちゃんの表情が曇る。おっと、不用意な発言だったか。また話を蒸し返すことになっては困るので、笑顔をキープしたまま私はさりげなく話題をスライドさせる。


「でもちょっとでも時間稼ぎができれば、相手の戦力を分析することもできるから。そうだ、ハルちゃんが教えてくれたビジョン、あれ設置しとかないとね! ダンジョンマップで相手のランクとかレベルを確認するしかないと思ってたから、本当に助かるわ!」


「ミコトさん……」

 さすがに今度はごまかしきれなかったらしく、ハルちゃんがじとっとした目を向けてくる。

 うーん、こうなったらもう一つの情報を明かすか……できれば先延ばししたかったけど、ハルちゃんに危機感を持ってもらうためにも今言っておこう。


「あのね、ハルちゃん……ここで言うのもどうかとは思うけれど、私たちのダンジョンにあるダンジョンコア、あれって人間にとってはけっこうなお宝なの。あれを壊すとコアクリスタルってものになるらしくて、それがものすごい高額で取引されてるんだって……」


 私の言葉にハルちゃんが目を丸くする。なにか言おうとするように唇が動いたけど、言葉は出てこないままだった。


「ごめんね、こんな大事なこと黙ってて……でも、そういうこともあるから最悪の場合のことなんかも考えておく必要があったんだ。もちろん、何事もないのが一番だけど。ただ万が一のことがあった時、なにも考えてないのと対策を立ててるのとじゃ全然違うから。どうしようもないくらいの力の差があったとしても、気持ちの面だけでも多少は……ね」


 無言のままハルちゃんは私を見返している。大きな目に映るのは不安とも困惑ともつかない光。そこに不信が混ざっていないことだけがちょっとした救いだ。

「ただ、そんなわけだから私やハルちゃんがダンジョンマスターであるということ、それからここにダンジョンがあるということは絶対隠し通さないといけないと思うんだ。気づかれなければ、わざわざこんな人里離れたところまでやってくる物好きもいないと思うからね。なにせ一番近くの村までだって、300キロ以上離れているわけだし」


 とはいえ正直、距離という防壁をそこまで当てにはできないと思っているけど。

 一日あればギンだって私を乗せて越えられる距離だし、魔物使いという言葉が一般的に使われている程度には魔物を使役する人間だっている。


「でなかったら、ひたすらDPを貯めてどんな侵入者が来ても撃退できるだけの防衛力を獲得するか。でも、まぁ……今の時点では隠れる以外の選択肢はないけどね。なにしろDPが圧倒的に足りてないし」


 苦笑を浮かべて告げてもハルちゃんの表情は硬いままだった。両手で温めるようにカップを持っているハルちゃんの顔を見て、やっぱり時期尚早だったかなと内心で思う。

 あと少し頑張って間引きを終わらせれば、問題が一つ解決するというタイミングだったのも……でも、ハルちゃんにとっても重大な情報だからこそ、早めに知らせておきたかったわけで。



「……ミコトさん」

 言葉を探している私をまっすぐ見返して、ハルちゃんが意を決したように口を開く。


「どうして、今その話を……?」

「……もっと早く教えられればよかったんだけどね。できることならダンジョンを出る前に。だけど、ハルちゃんがどこまで受け入れられるかわからなかったし……様子見しているうちにずるずると、ね。でも、さすがにダンジョンを離れることになった以上、明かさないわけにもいかないし」


 ダンジョンになにかあったら戻ることにしてあるとはいえ、身に迫って危険を感じられるかどうかでとっさの対応は変わってくる。パニックになられるのも困るけど、悠長に構えられて手遅れになるほうがよっぽど怖いのだ。

 それから、ダンジョンを出る前に情報開示しなかったもう一つの理由は……


「ただ、今からダンジョンに戻るという意見は却下します。間引きの戦力が足りなくなるとかじゃなくて、セバスがいなかったらハルちゃんのダンジョンになにかあっても、私たちが即刻駆けつけられないから。戻る時は私たちと一緒、いいわね?」


 ええ、異論は認めません。ハルちゃんを信用しないわけじゃないが、それこそ最悪の場合を考えたら他に方法はない。緊急時に100キロの道のりをちんたら走ってなんていられません。第一、今の時点ではハルちゃんの身になにか起こってもそれを知る手段すらないし。


 過保護? 違います、非常時における大人としての当然の行為です。未成年の女の子をいい年した大人が保護するのは、至極当たり前のことだと思うのです。



 ハルちゃんはなにやら複雑な表情をしていたが、やがて諦めたようにため息をついて口元にあるかなしかの笑みを浮かべる。

「……ミコトさん、勝手ですよ。わたしの意見くらい聞いてくれたっていいじゃないですか」

「うん、時間がある時にゆっくり聞くからね! でも今回は間引きを優先したかったし、ダンジョンのことについてもそれがベストだと思ったから、ハルちゃんの意見はあえて無視させていただきました!」


 あえて悪びれずに笑って言う。ハルちゃんはもう、と頬を膨らませたけど本気ではなかったようで、私と目が合うとやれやれと言いたげに笑った。


「もう恩が返すどころじゃないくらい積み上がってますし、この先もまだまだ押し売りされる気がするのでもう気にしないことにします! いずれ利子付けて返すつもりですからそれだけ覚悟しておいてください!」

「え~、恩より縁で返してくれたほうが嬉しいんだけどな、私。せっかく知り合ったんだし、ハルちゃんとは貸し借りとか気にしないで末永くお付き合いさせていただきたいんだけど? そりゃ歳はちょっと離れてるけど、友達みたいに遠慮なく接して欲しいな~」



 そっと本音を混ぜ込んだ私の言葉に、ハルちゃんはむしろ怒ったような口調で言った。

「なに言ってるんですか! ミコトさんが嫌だって言っても、わたしミコトさんとの縁を切るつもりなんかないですから! 末永くお付き合いしたいからこそ、きちんと返せる恩は返しておきたいんです! 借りっ放し、助けられっ放しじゃそんなの友達だなんて言えないじゃないですか!」


 お、おう……そういう理由でしたか。友達と言われて頬が緩みそうになる私がいる一方で、ハルちゃんの頑固さに苦笑しか出ない私もいます。

 でもまぁ……そういうところの折り合いをつけていくのも、ごく当たり前の人付き合いってやつだよね。


 とりあえず、今のところは折れてくれたハルちゃんに感謝しつつ、間引きをさっさと終わらせてしまうことにしましょうか。




 お茶を飲んだあとカップを片付けて小屋を出ると、外ではギンがセバスを乗せたままダームフライを追い回すという謎の光景が発生していた。なにやってるの、君たち?


 セバスはハルちゃんを見るとギンから飛び降りて、びしっと直立不動のポーズになる。

 ずいぶんギンに乗るのに慣れたらしく、乗っている間も飛び降りる時も危なげな様子はまるで感じられなかった。モンスターの運動神経恐るべし……というかそろそろ〈騎乗〉スキルが生えてきてるような気もする。


「ギン、ヤシチ……それにジンガ! 君たちの出番が来ましたよ~!」

 そう声をかけるとギンが弾丸のような勢いで飛んできて、それに遅れてヤシチ、一番最後にジンガがドッスドッスと(本人的には最大限の速度で)近づいてくる。

 ……やる気の順番じゃないですよ? ギンがやる気満々なのは確かだけど、ジンガが遅いのは単純に行動速度の問題なのです。


 セバスはあれ、自分は? みたいな顔で私とハルちゃんを見比べているが、今回はお留守番してもらう予定だ。私のダンジョンの近辺の間引きならギンとヤシチに加えてジンガがいれば戦力は十分だし、セバスには非常の際に〈帰還〉でハルちゃんのダンジョンまで飛んでもらう役目がある。


 ……まぁ、よほどの緊急事態でもない限り、ギンたちに戻ってきてもらって一緒に行く予定だから、同行しても問題ないといえば問題ないんだけど。でも念のため、セバスには常にハルちゃんの側にいてもらうことにする。



 そうそう、その非常時の際の命綱となるDPですが、ダンジョンを開けている間に貯まっていた分が加わって現在7533ポイント。

 命令可能モンスターに限定するなら、ランク19までのモンスターがぎりぎり作成可能な状態だ。オークウォリアーとかゴブリンジェネラルとか物々しい名前のモンスターが並んでいて、頼もしいのと同時にそれに頼る事態が発生しないことを切実に願いたくなる。


 いや、見かけで差別する気はないけどね……できることなら人型っぽいか獣っぽいかのどちらかを選択したい。でなかったらゴーレムとかの無機物系か。

 戦力優先だから、いざとなればどんなモンスターでも作る気ではいるけど。でも、その時になってから慌てないように候補を選んでおいたほうがよさそうだ。



 非常事態への備えはいいとして、今日のメイン作業である間引きにうちのダンジョンのフルメンバーを使うことにしたのには一応理由がある。


 一つは単純に効率の問題。二体より三体で出たほうが作業がはかどるのは確実だし、強さ的にもこのあたりの魔物はせいぜい高くてランク9。

 少し離れたあたりにはもっとランクの高い魔物もいるようだけど、それさえ避ければ危険はほとんどないに等しい。もちろん決して油断などいたしませんが。


 けど、それならずっとダンジョン内での作業ばかりだったジンガを、外に出してやりたいと思ったのがもう一つの理由。

 ゴーレムが運動不足になることはないだろうけど……行動速度の問題で、どうしてもジンガにはお留守番を頼みがちになるのだから、こういう時くらいは運動させてあげたい。


 そこで問題になるのがやはりジンガの足の遅さなんだけど……逆に考えることにしました。ギンたちの速度についていけないのなら、ギンたちがジンガのところまで獲物を連れてくればいいじゃないか、と!

 ジンガにはダンジョンの近くに残ってもらって、ギンたちが魔物を追い込む係をやればDPも入って一石二鳥だ。



 というわけで現在、納屋(非常口)の前に布を敷いて座り込み、空中に投影した何種類ものスクリーンをハルちゃんと監視しております。

 ハルちゃんの横ではセバスが収穫したてのニンジンもどき(色は毒っぽい紫)をカリカリかじってて、ほのぼのしてるのかSFチックなのかわからない珍妙な光景を作り出している。


「……予想はしてたけど、やっぱりギンさんたちの圧勝ですね」

 三者の視野を映し出した映像を見上げ、ハルちゃんが思わずといった様子で呟く。やや引き気味なのは弾丸特急なギンのせいばかりではなく、久しぶりの外を満喫するように喜々として拳を振るっているジンガのせいでもあるんだろうな。



 せっかく人型なのだし、ジンガになにか武器を持たせようかとも思ったけど、今手元にあるのは不壊のスコップと大鉈のみだ。ジンガが持てばどっちも十分武器(というか凶器)として通用しそうだけど、今回は本人の希望で手ぶらとなりました。


 でも、DPに余裕が出たらジンガの武器も真剣に検討したいところ。ジンガなら斬馬刀とか斧剣とか似合いそうな気がするんだ!

 いや、ハルバードとかポールウェポン系も捨てがたい……いっそ丸太でも。丸太は吸血鬼にも通用する最強武器だからね! みんな、丸太は持ったかー!



 まぁ、ネタ発言はこれくらいにして真面目に間引きの状況を中継するのであれば、ジンガがダンジョンの入口付近で待ちかまえているところに、ギンとヤシチが二手に別れて魔物をどんどん追い込んでいる現在。


 最初は追い込んできた群れを一緒になって殲滅していたギンたちも、ジンガだけでも余裕で全滅させられることが判明してからは追い込みに専念するようになった。

 うっかり加減を間違えて大群になってしまったり、ランクの高い魔物が混ざってしまった時だけお手伝いしている格好だ。


 ギンにしてみれば戦っても面白みのない弱い魔物の相手をするより、どれだけ多くの魔物をダンジョンに誘導するかのほうが面白い遊びなのだろう。

 ヤシチのほうはダンジョンにこもりがちなジンガに少しでも戦闘を経験させて鍛えてやろうと思っているのか、ジンガのいる場所まで適確に魔物の群れを引っ張ってきている。ダンジョンの領域に魔物が入ったら、すぐ次の群れを探して駆け出していくギンとは大違いです、ええ。



 なんてやってるうちに、ハルちゃんの〈探知〉でスクリーンに映し出されている魔物の数はどんどん減っていき、昼が近くなったところでいったん休憩することに。


 今日のお昼は、以前作りすぎて食料庫に入れたままになっていたピザの残りだ。……いや、忘れていたわけじゃないんですよ? 晩ご飯に食べようとか思っていたら、結局ダンジョンに戻ってこれなくてそのままになっていたというだけで。


 布に包んで入れておいたピザは、焼きたてで突っ込んでおいたおかげかまだほんのりと温かかったので、そのまま皿に載せてナイフで八等分に切っておく。ピザだけだと物足りなさそうなので、葉野菜のサラダも追加。セバスのお昼はこっちがメインだ。

 ギンとヤシチの分の肉も切り分けて食事の準備が終わったところで、外に出ていたメンバーがダンジョンの入口まで戻ってくる。


「ハルちゃん、お願い~! 非常口のドア開けて!」

 頭の中にギンの「あ~け~て~」という思念が届いたのはいいけど、料理を外まで運ぶのに忙しくて手が離せない。


 小屋の前にシートを敷いていたハルちゃんに頼むと、「はい!」と気持ちよい返事とともに納屋まで走っていくのが見えた。ああ、こういう時お手伝いしてくれる人がいるのって本当に助かるなぁ……


 非常口から入ってきたギンたちは例によって返り血その他で汚れているので、池まで行って身体を洗ってくるよう命令する。

 外から帰ってきたらまず手洗い、じゃなくて身体洗いというのがなんとも。でも見た目的にも臭い的にも、色々な色の返り血を付けたままのモンスターと一緒に食事をするのは遠慮したいのです。


 しばらくしてすっきり綺麗になったギンたちが戻ってくると、用意していた布で全身をわしわし拭いてやってからシートに座って昼食を摂る。

 ジンガが自分の身体は自分で拭いてくれて助かりました。なにしろ2,5メートルオーバーだし……座ってもらっても頭のてっぺんまで手が届くかどうか。



「うわ、これ……もしかしてピザですか!?」

 ハルちゃんはシートの中央に置いたピザの皿を見るなり目を輝かせる。

 ふふ、ちょっとこのリアクションが見たくて、食べる直前までお昼のメニューがハルちゃんの目に触れないようにしておいたのだ。


「色々材料が足りないから、なんちゃってピザだけどね。残り物で悪いんだけど、劣化防止の機能付きの食料庫に入れてあったものだから安心して食べて」

「わー、うわー、こっちに来てピザなんて食べられるとは思ってませんでした!」

 忙しく手をぱたぱたさせたあと、いただきますと両手を合わせてハルちゃんはピザを一切れ口に運ぶ。


「……すごい! お店のピザみたいですよ! 美味しい!」

「誉めすぎだよ~、生地だって発酵させてないし、トマトソースだってただトマトを煮詰めただけだし……」


 と言いつつも誉め言葉が嬉しくて、にまにましながら私もピザにかじりつく。

 やっぱり出来たてに比べると多少味は落ちちゃってるな。竈の火をおこすのをおっくうがらないで、フライパンで温めるなりすればよかったかもしれない。



 ハルちゃんは私の言葉にちょっと不服そうな様子を見せたけど、ピザを食べるのに忙しくて言葉を返すことはしなかった。小さめのピザなので八等分カットだとほんの数口だ。

 大きいと食べづらいかと思って八等分にしたけど、これなら四等分でも平気だったかも。


 葉物のサラダは塩と削ったチーズが調味料だ。油があるからドレッシングは作れるけど酢と卵がないのでマヨネーズは不可能という現状。

 ドレッシングにしたところで、味付けは塩とかハーブのみになるので実はまだ手を出していない。そのうちまとめて作り置きしておこう……って、蓋のできるビンを買ってくるのを忘れてた!


 チーズはハルちゃんのダンジョンでサラダを作った時にも使ってるので、ハルちゃんの口に合うことは確認済みだ。葉野菜はセバスに頼んで畑で採ってきたばかりの新鮮取れたて。香り付けに散らしたハーブがチーズの独特のクセを緩和している。



「ハルちゃん、ピザもっと食べる? まだあるから食べるなら取ってくるけど」

 小さめのピザなので二人で食べたらあっという間だ。私の問いかけにハルちゃんはこくこくうなずき、私は立ち上がって小屋の中にピザを取りに行く。

 ピザの残りはまだまだあるので遠慮せずに食べてくれると嬉しい。ついでにデザートがわりのリンゴと、ナイフも持って戻ってくる。


 ピザを(今度は四枚に)切り分けると、さっそくハルちゃんが手を伸ばす。

 セバスがそれを興味深そうに見ているのに気づいて、小さく切り分けたピザを一切れ渡したらぺこんとお辞儀してからはむはむとかじり始めた。……ウサギってピザ食べるんだっけ? いや、モンスターだから普通のウサギと食べるものが同じとは限らないけど。


 すでに食事を終えたギンたちが草の上でのんびり食休みしてるのを見やりながら、リンゴの皮を剥いて皿の上で切り分ける。リンゴの皮にもセバスが興味を示していたけど、食べるならこっちにしなさいと切ったリンゴを押しつけておく。

 皮は乾しておいてお茶の葉に混ぜてアップルティーにする予定だ。サルサーギ村で色々手に入れられるようになったとはいえ、使えるものは極力使っていく方針に変更はありません。ダンジョンの中なら加工場所にも保管場所にも困ることはないだろうし。



「……ミコトさんは食べないんですか?」

 追加のピザの半分ほどがハルちゃんのお腹に消えたところで、はたと我に返ったようにハルちゃんが問いを投げてくる。

「ああ、多かった? 余るようなら食べるけど、遠慮しないでハルちゃん食べていいわよ? 自分のダンジョンの中じゃダンジョンマスターって飲食不要だし……これだけ食事に力入れておいて、なに言ってんだって話だけど」


 たはは、と笑ってごまかす私にハルちゃんはむっとするとも、情けないともつかない複雑な表情になる。

「そんなの、ミコトさんが料理上手だからできたことですよ! わたしなんて自分で作れないから、完成した料理をDPで作るしか選択肢がなくて……そんなのもったいないから食べずにいただけで、ちゃんとお料理が作れるなら絶対作って食べてました!」


「いや、お料理って……最初なんて本当にただ焼いただけの肉だったんだよ?」

「……ミコトさん、ただお肉を焼くだけのこともできない人間も世の中にはいるんです」



 ハルちゃんの声と表情があまりに重すぎて、出しかけた言葉と一緒に笑いも引っ込む。肉も焼けないって……設備の問題だよね? 普通に火が使える状態だったら肉を焼くくらい誰でもできるよね?

 焚き火とかで焼くのはさすがに難易度が高いだろうけど……調理器具が普通に使える設備があるなら誰にでも焼けると思うんだけど?


「ま、まぁ……そういうわけだから、お腹いっぱいじゃなければハルちゃんが食べて? ハルちゃんは私と違って普通にお腹が空く状態なんだし……あ、でもデザートのリンゴが入る程度にはスペースを残しておいてくれるといいかな」

 ハルちゃんの顔を見てるとそれを口に出すのははばかられたので、やや強引に話を変える。いや、うん……ただ経験が足りないだけで、ハルちゃんも覚えれば料理くらいはできるようになると思うよ。

 世の中には信じられないくらいのレベルの料理下手もいるけど、そういうのはごく一握りの例外なわけで。



 素直にハルちゃんが食事に戻ってくれたのにほっとしつつ、私もサラダとかリンゴを適当につまんで、綺麗に料理がなくなったところで昼食を終える。

 結局ピザは一切れだけ残してハルちゃんが平らげ(その一切れもハルちゃんの遠慮の結果だったよう)、ハルちゃんに手伝ってもらって後片づけをしたら午後の作業に突入だ。


 緊張感ゼロの格好で草の上に寝転がっていたギンも、そのへんを歩いてウォーミングアップ開始していたヤシチも、シートをたたんで片づけの手伝いをしてくれていたジンガも私が声をかけるといっせいに集まってくる。

 ってギン、駆け寄ってきたその足で納屋に向かおうとするのは、さすがにフライングが過ぎると思うんだけど!


 まぁ、その調子で頑張ってくれれば今日中に間引き作業は完了するだろう。

 張り切りすぎて変なところに行ってしまったり、ランクの高い魔物を引っかけたり、とんでもない高ランクの魔物や人外レベルの冒険者が押しかけてくるようなことがなければ……やめよう、これ以上はフラグを踏んでしまいそうだ。


 とにかく午後も安全第一、事故回避、危ないものや怪しいものには絶対に近寄らない方針でいく予定です! なのでギン、ちゃんと言うこと聞くように! 狼型ICBMの再登場なんて絶対に許しませんからね!




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