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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第二章 同業者仲間ができました。できた途端にヘルプが飛んでまいりました
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7 これからの指針となけなしの矜恃



「おかえり~、みんなお疲れさま!」


 淡く光る〈帰還〉の魔法陣の上に現れたギンとヤシチ、それにちょっとよれっとした様子のセバスに笑顔で声をかける。


 ヤシチモニターで見てたけど、ランクが四つも離れたギンたちの戦闘に混ざるのはけっこう大変だったろう。しかもヤシチはともかく、ギンは同行者がいようがいまいが全力全壊が信条の特攻隊長だし。


 最後には突撃するギンの背中から飛び降りるセバスの動きが洗練されすぎて、ちょっと涙がこぼれそうでした……すまぬ、すまぬ。

 でもギンに自重を覚えさせるのは、私の力の及ぶ範囲を超えているのです。

 ええ、どれだけきつく言い聞かせても戦闘に入るとすぽーんと頭から吹っ飛ぶので。唯一の例外は、私を背中に乗せている時だけですよ……



「ミコトさん、ずるいですよ! わたしが一番にみんなをお迎えしたかったのに!」

 頬を膨らませながら、ダンジョンコアの部屋から走り出てくるハルちゃん。


 疲れたため息を吐いていたセバスが、途端にしゃんとした様子で胸を張ったのがちょっとおかしい。ご主人の前では格好をつけたいんだろうけど、なにしろ見た目が子供サイズのぬいぐるみなので可愛いやら微笑ましいやら。


 おっと、セバスのほうに気を取られてないで、私も今日一日頑張ってくれたギンたちを思いきり誉めてやらないと。

 ちょっと昼休憩を入れた他は、ほとんど休憩も取らずに朝から働いてくれたものね! いっぱい動いてお腹も空いただろうし、今日もご褒美のお肉は特盛りで奮発させてもらう予定ですよ。


 いや、ちょっと一手間かけてローストしてあげるのもいいかもしれない。香草を使った塩分控えめのローストがお気に入りだと最近気づきました。あと素揚げした芋とか野菜とか。

 あんまり人間の食べ物の味を覚えさせるのはよくないかとも思ったけど、冷静に考えたら動物じゃなくてモンスターだし。カロリー過多だけが心配……これだけ運動してるならその心配もなさそうだ。

 というか、モンスターもカロリーの取りすぎで肥満になったり成人病になったりするんでしょうかね?



 なんてことを考えながら、濡らした布でギンやヤシチの身体についた汚れを拭く。

 ヤシチはまだしも、ギンは今日も見事に返り血まみれだ。昨日はちょっと嫌がっていたけど、すごいね~偉いね~と誉めちぎりながらやっているうちに、撫でられる延長上のように感じてか大人しく拭かせてくれるようになりました。

 よし、計画通り。次は同じ要領でシャンプーも……いや、さすがにそれは無理か。


 後方要員のセバスはそこまで汚れていないのでハルちゃんに任せ、ギンたちが綺麗になったところで夕食の準備を始める。石を組んで竈を作って手早く火をおこし、まずは野菜と塩漬け肉のスープを作成。火の通りにくい根菜類は小さなサイコロに切っておくのがミソだ。


 野菜が芯まで柔らかくなったら火から下ろして、代わりに置いたフライパンでスライスしたウサギ肉を香草と塩でさっとローストする。これはギンたち用なので中までしっかり火を通さなくてもいい。むしろ半生の歯ごたえが残っているのが好きみたいだし(ヤシチはほぼ丸飲みだけど)。


 ローストした肉を適当に切り分けて皿に移して、軽く布でフライパンを拭いてから私とハルちゃん用のジャガイモのガレットを作る。細切りにしたジャガイモに香草と塩を混ぜ、フライ返しで押しつけるようにしてこんがり焼き上げる。

 ガレットが焼けたらフライパンを火から下ろし、スープの鍋をもう一度火にかけて温めながらギンたちの肉を切り分けて盛りつけ、切り分けたガレットと付け合わせのリンゴ、くつくつと煮えたスープを皿に盛りつければ夕食の完成だ。


 と、うっかり忘れるところだったセバスの食事。とりあえずリンゴと生野菜でいいかな?

 予備のお皿に何種類かの野菜とリンゴを食べやすい大きさに切って盛り、食べられるかどうか不明なので具だけ抜いたスープを小さめのカップによそう。ガレットもたぶん大丈夫だと思うけど、残りは明日の朝食にする予定なので量に余裕のあるスープを選択。




「ハルちゃん、ご飯できたよ~」


 声をかけると少しだけ申し訳なさそうに、だけど期待に目を輝かせながらハルちゃんがいそいそと寄ってくる。広げたマントの上にハルちゃんと私、その間にちょこんとセバスが座っていただきます、と手を合わせる。


 ガレットを食べながらちらりと横目でセバスをうかがうと、特に好き嫌いはないらしくサクサクと野菜を食べている。リンゴに手を付けないので嫌いなのかな、と思ったら好物は最後に残す派だったようでした。すごく幸せそうにスライスしたリンゴをかじってます。


 ウサギの手なのでカップが持てるかちょっと不安だったけど、しっかり両手で持って飲んでくれたので一安心。

 野菜は食べやすいようにスティック状に切ったのもあって、片手でちゃんと掴めている様子。リンゴだけは大事そうに両手で持って食べていたけど。あまりの可愛さにハルちゃんと目を見交わしながら無言で悶えていたのは内緒だ。



 夕食を終えると後片づけをしてからお茶を入れ、ちょっとしたくつろぎタイム。

 おずおずとハルちゃんが手伝いを申し出てきたので、洗ったお皿を拭く係をお願いしました。木製なので落としても割れる心配ないしね! ……本人の申告により、家事能力はほぼ皆無であることが判明してるので。

 うん、無理のない範囲で覚えていけばいいと思うよ。中学生で魚を捌けたりするのは相当のレアケースだってことくらい、私も理解しております。


「……ところで、外の魔物が片づいたらミコトさん、どうするんですか?」

 お礼を言ってからほんのり柑橘系の香りのするお茶を一口飲み、ほっと息を吐いてからハルちゃんが私に問いかける。


 不安そうな色がほんの少しだけ声の底に漂っているのは、また一人きりになってしまうことを恐れてだろうか。そんな心配しなくても、この状況でハルちゃんを放り出すようなことをするつもりはないけど。


「片づいたら……って、うちのダンジョンの近辺まで含めてよね? そしたら、魔物の動きが変わらないか確かめて、そのあとで人間の村の様子を見に行く……かな。向こうにはそこまで影響出てないとは思うけど、一応念のためにね」


「そう……ですよね」

 ちょっと沈んだ様子になるハルちゃんに、なるべくさりげない口調で提案を投げる。


「なんならハルちゃんも一緒に行く? 私ともう一人くらいだったらギンも余裕で乗せられるみたいだし、道中ちょっと危険だけどいざとなったら〈帰還〉で私のダンジョンまで飛ぶって手もあるし」


「……いいんですか?」

 だんだんハルちゃんの顔に広がってくるのは、驚きを塗り替える喜びと興奮の表情だ。その顔を見返して、私はにっこり笑顔でうなずく。

「いいもなにも、私にも十分メリットがある話だしね。ハルちゃんの〈探知〉があれば道中の警戒もずっとやりやすくなるし、セバスも戦力として期待できるし……あ、でもギンに乗って移動するなら、ハルちゃんには〈騎乗〉を取ってもらわないといけないかも」


「取ります! それくらい十分取る余裕ありますから……!」

 ギンに乗る練習を始めた頃の惨状を思い出してつけ加えると、ハルちゃんが食いつくような勢いで身を乗り出してくる。そのまま〈騎乗〉スキルを取ろうとするハルちゃんを慌てて制止しながら言葉を足す。


「あとね、せっかく近場に同じ日本人のダンジョンマスターがいるのに、別れてそのままさよならなんてことは絶対ないからね? 少なくとも私のほうがハルちゃんよりいくらか年上なんだし、相談に乗ったり面倒見たりするのは当たり前っていうか……色々心配な部分もあるし、むしろ私の精神衛生のためにちょこちょこ顔を出すつもりだからね? ハルちゃんから見ればちょっとうざいって思われるかもしれないけど」



 目を大きく見開いたハルちゃんがぶんぶんと大きく首を横に振る。

 言葉のどの部分に対する反応なのかわからず、ちょっぴり不安になったのと同時に、目に涙をにじませてハルちゃんが声を張りあげた。


「うざいなんて思いません! 思うわけないじゃないですか! これだけ親切にしてもらってそんなこと思ったらバチが当たります! それに……このままお別れするなんて嫌だと思っていたから。また来てくれるって言ってもらえて嬉しいです。面倒見てもらえるとか、そういうのじゃなくて……また一人になるのはやっぱり嫌だから」


 ぽろっとこぼれた涙を拭って、ハルちゃんが「ごめんなさい」と言う。謝る必要なんかないんだと言うかわりに、ぽんぽんと軽くハルちゃんの頭を手で叩いた。


「……これだけは言わせてもらうけど、私にとってハルちゃんはもう身内みたいなもんだからそう簡単に縁を切ったりする気ないよ? 心配で目を離せない部分もあるけど、気楽に話せる相手だし、同じダンジョンマスターだから協力し合えることもあると思うし、なんといってもハルちゃんのこと、私尊敬してるし」



「そ、尊敬ですか……!?」

 ぎょっとした様子のハルちゃんに私は真顔でうなずく。真っ赤な顔でわたわたしてる様子に噴き出しそうになるけど、口にした言葉は本心だ。


「だって、あんな状況でダンジョン作って、そのまま一ヶ月以上たった一人で閉じ込められたような状況になって、どんどん事態が悪化していってもヤケ起こしたり自暴自棄になったりもしないで、ちゃんと礼儀正しく人に接することができる子なんてめったにいないよ? しかも自分が困ってるのに人のことを優先して考えられるわ、呆れるくらい義理堅いわ、どこの聖人って思うわよ? あ、女の子だから聖人じゃなくて聖女か」


 ジャンヌ・ダルクならぬジャンヌ・ハルクとか、頭の中をよぎった考えを慌てて消す。

 それじゃどこぞの超人だ。緑色の肌もしてなければ筋肉ダルマでもないし……あ、緑色の肌で同じアメコミの某守護者のヒロインが脳裏をかすめたけど、あの映画はアライグマがヒロインだと思っているので即刻訂正する。私的にはどんなに美人でも緑色の肌のヒロインはヒロインとは認められないのです。


「え、ええええ!? 聖女って、そんな大袈裟な……! というか、そんな誉めてもらうようなことじゃ……」

 ぷしゅーと顔から湯気出しそうな勢いで必死に手を振るハルちゃん。いつぞやの誉め攻撃のお返しは十分できたみたいだし、私は小さく笑って話題を変える。


「それより、この先のことなんだけど……このあたりの安全が確認できて、ハルちゃんのダンジョンも落ち着いたら、私、他のダンジョンを探してみようかなって思ってるのよね」

「……他のダンジョン、ですか?」

「うん。もちろん、取れる限りの安全策を取った上でだけど……この世界の普通のダンジョンってどんなものか気になるし、もしかしたら……私やハルちゃん以外にもこっちに来てる日本人がいるかもしれないじゃない?」


 目を丸くしたハルちゃんが、私の言葉に表情をあらためてこくりとうなずく。

「あの地震で死んだ人が他にいないに越したことはないけど、もし……もし万が一同じようにダンジョンマスターになってる人がいて、それがきちんと話の通じる人だったら、ハルちゃんみたいに協力体制が取れるんじゃないかって思うのよね」



 とはいえ、そんな都合よく話が進むとは私だってかけらも思っていない。仮に同じ日本人のダンジョンマスターがいたとして、ハルちゃんみたいな善良な性格をしているとは限らない。

 というか、ハルちゃんレベルの聖人もしくは聖女がゴロゴロいるほうがおかしい。むしろ異世界に来て、タガが外れてヒャッハーしてる人間のほうが多いくらいに考えておいたほうが無難だろう。


「……そう、ですよね。もし、他にダンジョンマスターになってる人がいたら……私みたいに困ったことになってる人もいるかもしれませんし」

 ね? ほら、ここでブラック方面にいかず、困っている人がいるかもしれないと考えられるのがハルちゃんなんですよ?

 これを聖女と呼ばずしてなんというか。聖女でなかったら天使としか。ハルエル? なんかどこぞの高位天使と一文字違いっぽいけど、ハルエルと呼ぶべきでしょうか?


 でも、そこまで極端な方向に突っ走ってる人間もそう多くはないかもしれない。

 冷静に考えれば、知らない世界でいきなりリスクの高い行動に出るより、身の安全を考えて大人しくしている人間のほうが多いだろうし。それこそネット小説にはまりまくって、異世界行きのシミュレーションをしてるような人間でもなければ……あれ、意外と多いような気もしてきたぞ?


 いやいや、統計的に考えてそんな人間は全体のごく一部だし、地震で亡くなる人間にそんなタイプが含まれる確率なんてごくわずかだ。それこそ何十、何百って数の死者が出てるんならまた話は別だけど……その可能性はあんまり考えたくない。



「まぁ、外の魔物の件が解決して、ハルちゃんのダンジョンも落ち着いてからの話だけどね。少なくとも、今の状態でハルちゃんのダンジョンから離れるのは不安なんてもんじゃないし。せめてもう少し防衛レベルを上げてからじゃないと……」

「う……そんなに不安ですか?」

 ちょっとだけ心外そうに眉を下げるハルちゃんに、私はどう答えたものか考えながら慎重に言葉を選んで言う。


「だって、現状侵入者を止める手段って第二層の罠だけでしょ? それだってちょっとランク高めの魔物だと即死させられないくらいの威力しかないし、仕掛けの類も簡単に解けるようなものばっかりだし……人間の冒険者だったら、たぶん駆け出しでもダンジョンコアの部屋まで一日もかけずに到達できると思うわよ?」


「いえ、それは道中のモンスターをあとから追加するつもりで……! そのつもりでちゃんとモンスター部屋も作って……」

「……念のため聞くけど、どんなモンスターを配置するつもりだった?」

「え、ええと……ミノタウロスとか、コカトリスとか……第三層のボスはブラックヒュドラのつもりで……」


 視線をさまよわせながら答えるハルちゃん。予想はしてたけど……どれだけのDPを使えばそのモンスターを配置できるのか考えてるのかな!? ブラックヒュドラって……ウィンドウで確認してみたらランク22なんですが? 命令可能モンスターで作ったら10000ポイント近く吹っ飛ぶよ!


 ちょっと頭が痛くなってきたのでこめかみを揉みながら、努めて柔らかい口調を作りながらハルちゃんに言い聞かせる。



「……ハルちゃん。理想を追求するなとは言わないけど、それはそれとしてきちんと身の丈に合ったプランも考えよう? 今手元にあるDPがいくらか、ハルちゃんにもわかってるよね? できないプランにこだわって命を落としたら元も子もないんだから、その範囲でできる限り防衛力を上げられる方法を考えよう?」


「は、はい……」

 申し訳なさそうにハルちゃんがうなずく。心なしか怯えているようにも見えたけど、きっと気のせいだよね?

 セバスが必死にハルちゃんの前に立ちはだかっているように見えるのも。健気な姿にほっこりするけど、それ以前の問題として凶悪なモンスターにでも遭遇したような反応されるのは心外なんですが。



 深く追及したらさらに傷口を広げそうだったので、その話題はここで切り上げることにしてお茶を飲み干す。そろそろいい時間だし、ギンたちもゆっくり休ませたいから今日はもう寝ることにしよう。


 明日は私のダンジョン周辺の間引きをする予定だし、一度〈帰還〉でダンジョンに帰ろうかとも思っていたけど……よくよく考えてみれば、またここまで100キロ走ってやってこないといけなくなるし。

 自分たちだけで間引きをするならそれでもいいけど、たぶんそれをやったらハルちゃんが怒る、というか絶対に気に病むだろう。


 となると、私のダンジョンまで〈帰還〉で戻るのは明日の朝にして、もう一晩ここに泊めてもらうしかないか。さすがに今から私のダンジョンに移動するには遅すぎる。

 いや、時間的にじゃなく……戻って色々用意したり説明したりしてたら、寝る時間が大幅に遅くなるのはほぼ確実だ。


 そうハルちゃんに提案すると、むしろ私が自分のダンジョンに戻ること自体考えてなかった様子で慌てて引き留められた。あ、そういえばずっと一人きりだったわけだし……人恋しいと思うのは当然だよね。ちょっと考えが足りませんでした。


 そんなわけで、再びハルちゃんの部屋に移動してベッドをお借りすることに。あんまりこのベッドに慣れすぎたら、小屋のベッドで寝られなくなりそうでちょっと怖いけど。

 とりあえずダンジョンに戻ったらやることとして、ベッドのバージョンアップを真剣に検討中です。現代レベルのマットレスはともかく、せめて干し草ベッドくらいには進化したい。



「……ミコトさん」

 寝支度をしてベッドに横になったあと、すぐ隣に横たわっているハルちゃんがぽつりと声を発する。


 さすがにセバスまで一緒に寝るにはベッドが狭すぎたので、セバスは床の上でギンを枕というかクッション代わりにして寝ている。私もあっちでいいんだけどな……という呟きはハルちゃんに黙殺されました、無念。


 そんなあれこれはおいといて、ちらりと横目にハルちゃんを見ると薄ぼんやりとした光の中思い詰めたような表情が見て取れる。


「どうしたの?」

「あの……色々落ち着いたら、他のダンジョンを探しに行くって話。もし迷惑じゃなかったらわたしも……一緒に行っていいですか?」

 不安そうに、だけど隠しきれない期待も込めてハルちゃんが言葉を口にする。


「これまで散々ミコトさんに面倒ばかりかけて、これからもお世話になる身で勝手なことばっかり言って申し訳ないですけど……でも、できることなら……ミコトさんと一緒にいたいですし、ダンジョンの外の……この世界を自分の目で見たいなって」


「……危険だと思うよ?」

「わかってます。外にどれだけの魔物がいるのか、今日一日で十分思い知りましたし……でも危ないのはミコトさんだって同じですよね? いくらギンさんたちがついていたって、絶対に安全なんてことないでしょう?」


 真剣な目で告げるハルちゃんを見て、私の口元にごく自然に笑みが浮かぶ。

「うん、まぁ……だったら一緒にいこうか? せっかくの異世界なんだし、ハルちゃんだってダンジョンに閉じこもってないで冒険したいよね」

「……いいんですか?」

「自分が好き勝手してるのに、ハルちゃんにやるななんて言えないもの。あ、でも自分とダンジョンを守る手段を考えられる限り考えてからだよ? 連れ出す責任上、私もできるだけハルちゃんの安全を考えるつもりだけど……身を守る手段はいくらあってもいいし。でもDPには限りがあるから、どっちかといえばダンジョンの守りが中心かな」



 アイテムなら貸し出しも譲渡もできるし、ハルちゃんにはダンジョンの強化にDPを使ってもらって、ハルちゃん個人の安全対策は私がやるという方法もある。というか、むしろそれがベストだ。

 いくらDPが入ったとはいえ、ハルちゃんのダンジョンの現状を考えると5000やそこらのDPじゃどの程度強化できるか……


 ただ問題は、昨今の女子校生としては規格外レベルのハルちゃんの義理堅さだけど。

 貸すと言っても大人しく受け取ってくれるかどうか。私に作らせるなら自分で作るとか言いそう……黙って作って強引に押しつける、これしかないな。なんとかして言いくるめよう。私の話術が唸りを上げる! ……あんまり自信がないから最終手段は泣き落としかな。


「……なんか悪いこと考えてません?」

 ジト目のハルちゃんにそんなことないとふるふる首を振る。悪いことなんてちっとも考えてませんよ? 年下の女の子の身の安全考えるのは、年長者として当然のことですよね?


 ピースマークのような顔で無害アピールする私を怪しむように見つめたあと、ハルちゃんは仕方なさそうに表情を緩めて言う。

「ミコトさん、わたしに甘すぎると思います……あんまり甘やかされて、それが当たり前だと考えるようになっちゃったらどうするんですか?」


「ないない、他の人ならともかくハルちゃんだし。むしろもうちょっと素直に年長者に甘えて欲しいと思うくらいだよ? というか、ハルちゃんの場合は常に自分よりも他人優先だから、少しくらい過剰に甘やかすくらいでバランス取れると思うんだ」

「……そんなことないです。わたしだって、他人より自分のほうが大事ですよ」


 少し照れくさそうな顔で言って、ハルちゃんはもう寝ます、とごろりと私に背中を向ける。どう見てもごまかしてるとしか思えない反応に、自然と口元に笑みが浮かぶ。


「うん、おやすみ、ハルちゃん」

「……おやすみなさい」


 くすぐったそうな声を聞きながら目を閉じる。今日も色々あったけど、明日中には間引きを終わらせて自分のダンジョンでゆっくり休みたいな……




 翌朝、目を覚まして一番にしたことはジンガに連絡を入れることでした。

 二日連続で忘れるとは……うん、無理に毎晩連絡する必要はないとわかってはいるけど、異常事態が発生してる中ダンジョンを出ている私たちをジンガが心配してるんじゃないかと思うとね。連絡を入れるだけでも安心させられるんじゃないかと思うんだ。


 むしろ、ジンガよりも私が心配性なのかもしれない……ダームフライがいるとはいえ、一体だけダンジョンに置いてきてるとついあれこれ考えてしまうんです。不安がってないかとか、なにか事件が起きてないかとか、帰った時に「どちら様?」みたいな顔をされるんじゃないかとか。うう、最後のはちょっと本気でハートにぐさっと来そう。



 幸いというか当然というか、ダンジョンにもジンガにも異常はなく、とりあえず朝食を食べたら一度戻るということだけ伝えて〈伝達〉を切る。

 と、今更だけど〈伝達〉でどの程度話の内容が伝わってるんだろう? 指示はちゃんと伝わっているようだけど、それ以外の話はきちんと伝わっているのか……深く考えるのはよそう。うん、話の内容が伝わっていなくても私が無事だってことだけはわかるし!



 身支度を整えたら、昨晩の残りを温めて手早く朝食を摂る。そこで発覚した新事実というか問題があったりもしたけど……ダンジョンの中に普通の石で作った竈放置しておくと、一晩で消えるみたいですね!


 もう大空洞まで外の魔物が入ってくることはないだろうし、ウサギも封鎖区画の中だしとか思って昨晩そのままにしてたんですが。

 ダンジョンの情報で確認したら、DPで作成した物品以外は床もしくは地面に直接置いておくと分解されて消えてしまうとのことでした……怖っ。うっかり武器とか装備落としたらアウトってことですか?

 あ、魔物の素材を使ったものなら平気なのか。それに同じ場所に何時間も置いておけばの話なので、身につけているものが分解されたり落としたものが即消えるということもないらしい。


 朝からちょっとした事件に遭遇しつつも、荷物に入れておいた大きめの薪を台代わりにしてスープとガレットはちゃんと温めました。そして今度こそしっかり後片づけをしてから、ハルちゃんに近隣の魔物の分布状況を〈探知〉で確認してもらう。


「……大丈夫みたいですね。昨日と比べて、そんなに群れの位置も変わってませんし」

 ハルちゃんのほっとしたような声に私もうなずく。このまま落ち着いてくれれば、証拠隠滅完了……じゃなかった、ちょっとした手違いから生じた混乱が平和な村を脅かすような事態は避けられる。うん、手違いですから……手違いですから(大事なことなのでry



「じゃあ、次はミコトさんのダンジョンの周囲を……」


「あ、ちょっと待った」

 今にも出発しようという様子のハルちゃんを止める。不思議そうな顔をハルちゃんは向けるが、このまま出発するわけにはいかないでしょうが。


「なにかありました? ええと……忘れ物とか?」

「……うん、忘れてるね。ハルちゃん、自分のダンジョンがどれだけ無防備な状態になってるか、完全に忘れ果ててたでしょ?」

「え……あっ」

 はたと気づいた顔になるハルちゃん。口元に両手を当てる姿はいかにもお嬢様っぽいけど、あいにく今要求されているのは上品さでも可愛さでもないのだ。むしろ必要なのは異世界でもしたたかに生き抜くためのサバイバル力、もしくは生存術ですよ?



 まぁ、私も朝になってから気づいたからあんまり人のことは言えないけど。今の防衛能力でこのダンジョンを留守にするのはね……かといって誰か留守番に置いていくのもそれはそれで怖い。

 というか、間引きの戦力であるセバスを除外したら、留守番できるのはハルちゃん一人だし。防衛力に不安のあるダンジョンにハルちゃん一人置いていく? ……それならなおさらガッチガチに防衛固めていかないと、心配でおちおち間引きもしていられませんよ!


 というわけで、応急処置としてハルちゃんに第二層の入口に鍵つきの扉を設置してもらい、その鍵を第一層の小部屋の一つに作成した大岩オブジェクトの下に隠す。

 本当ならもっときちんとした場所に隠したかったけど、すでに第一層には外の魔物が入り込んできていたため大幅な構造改変ができなかったのだ。


 まぁ、質量は最強の武器といいますし……とりあえず、うちのダンジョンに設置してるのと同じ16トンサイズの大岩だし、普通の人間には簡単に移動させたり壊したりできないだろう。

 魔物ならできるかもしれないけれど、鍵を使うだけの知能を持つ魔物となれば相当のランクであることは間違いない。そんなランクの魔物がふらっとやってくるようなら、他のどんな策を講じても焼け石に水と言わざるを得ない。


 もし万が一、そんな事態が発生した場合は……ありったけのDPで高ランクのモンスターを作って、セバスの〈帰還〉で殴り込みをかけるしかないかな。


 なのでハルちゃんには第二層の扉にアラームを設置してもらい、対応する警告灯を持ち運び可能なサイズにしてもらう。ダンジョンの情報で確認してみたところ、ダンジョン外に持ち出しても使用可能らしいので大丈夫だろう。



「……ええと、ミコトさん? なにも、そこまでしてもらわなくても……」

 小さなドロップ型のペンダントにした警告灯を首にかけながら言うハルちゃんに、私はきっぱりと言い返す。


「最悪の事態に備えるのは年長者の務めです。こればっかりはハルちゃんがいくら断ろうと、譲る気はありません」

「でも……」

「私の中でハルちゃんはもう身内認定されてるし、身内を助けられなくて後悔するくらいなら一か八かの勝負に出ます。あれよ、身内は一蓮托生。勝てない勝負はしない主義だけど、可能性が1パーセントでもあるなら手持ちのリソース全部ぶちこんで40パーセントくらいに勝率上げて、残りは天運に任せるわ!」


 ええ~、と困惑ともつかない声をあげるハルちゃん。ちょっとカッコつけすぎかとも思ったけど、掛け値なしの本気なのでそのへんは大目に見て欲しい。

 ……いや、真面目に年下の女の子見捨てて自分だけ生き延びても、それで受ける精神的ダメージ考えたら一か八かの大勝負に出るほうがはるかにマシだし。


「……まぁ、本当に最悪の場合の話だからね。私のダンジョンが同じような事態に陥る可能性だってあるし。そういう場合はこうしようって話を、ハルちゃんのダンジョンにも適用してるだけのことだから」

「だけって……じゃあ、ミコトさんのダンジョンになにかあったら、わたしも……」


 言いかけるハルちゃんの言葉を、にっこり笑いながら手を出してストップさせる。

「その場合、手助けはノーセンキューです。年下の子を巻き添えにするなんて、年長者として外聞が悪いなんてもんじゃないし」


「なんですかそれ! わたしだって、ミコトさんがいなくなったら悲しいんですよ! それに自分はよくてわたしは駄目なんておかしいじゃないですか!」

「あーあー、聞こえない。年のせいで耳が遠くなってるのかしら? というか、DP欠乏症の人に助けに来られても、もろともに壊滅する未来しか見えないし。助ける力がない人が救助に駆けつけるのは二次遭難のもとなので止めましょう」


 明後日の方向を見ながら棒読みで言うと、食ってかかったハルちゃんが目に涙をにじませて口を閉じる。そのまま泣き出したり、逆ギレすることがないのはさすがだ。……本当にいい子なんだよね。だからこそ、私としては巻き添えにしたくないと思うわけで。


「……でも、ハルちゃんが私を楽勝で助けられるくらいDPに余裕があって、戦力も足りてる状態だったら助けを求めるかもしれないな~。年下に助けられるのは恥ずかしいけど、そんなこと言ってられる状況じゃないかもしれないし~」



 チラッチラッとハルちゃんを横目に見ながら言ってみる。我ながらうざい態度だけど、ハルちゃんはそうは思わなかったらしく、目に浮かんだ涙を指で拭って怒ったような怒りきれないような、複雑な表情でくすっと小さく笑った。


「……やっぱりずるいです、ミコトさん。そんな風に言われたら、答えなんて一つに決まってるじゃないですか」

 なんのことかな、とそらっとぼける私に、ハルちゃんはため息混じりの声で言う。

「わかりました。年下は素直に年上のお姉さんの厚意にあずかっておきます。それで十分力を付けて逆にお姉さんを守れるようになったら、その時こそ下克上させていただきますので文句言わずに守られてくださいね!」


「ハルちゃん……それ、下克上の意味がなんか違う」

「いいんです! ミコトさんの口車に比べたら可愛いもんです! とにかく、今は黙って守られてますけど、いつか絶対ミコトさんを守れるくらいになってみせますから!」



 憤然と宣言するハルちゃんの態度がちょっとおかしくて、我慢しきれずに口元が緩む。噴き出すのはぎりぎりでこらえたけど。

 ハルちゃんはむっとしたように唇を尖らせたが、出てきたのは文句ではなく脱力したような苦笑混じりの笑みだった。年上なのに、年下の子の物わかりのよさに救われてる気がするのはきっと気のせいだ。


 だけど、譲れないものは譲れないのだから仕方がない。……もし本当にハルちゃんが余裕で私を助けられるようなら、遠慮なく助けてもらうつもりだし! 年上の面子? そんなものは実力の差の前じゃポイです、ポイ。


 ……なので、今はまだ年齢という経験値の分、余裕のある私に助けられててください。私の助けが必要じゃなくなるくらい、ハルちゃんが強くなる時までは。




GOGは私の2015年最高ヒット作。上映終了前に2を観に行きたい・・・

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