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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第二章 同業者仲間ができました。できた途端にヘルプが飛んでまいりました
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6 全長1メートルの危険物



 朝食と後片づけを終えたら、一度ハルちゃんの部屋に戻ってダンジョンマップと〈看破〉の合わせ技でダンジョン内の魔物の様子を見てもらう。


 そういえばうっかり忘れてたけど、ダンジョンコアの部屋に入るには別の部屋から鍵を取ってこなければいけないんだよね。壁のキーケースに入っているだけなのでヤシチに取ってきてもらいましたが。

 なにかあったらすぐダンジョンコアの部屋に逃げ込めばいいとか思いながら、鍵の存在を忘れていた過去の自分に拳骨食らわしてやりたい気分です。



 昨夜ダンジョンに追い込んだ魔物は餌を求めてか、ダンジョンの隅々(封鎖区域以外)まで入り込んでいる。

 ゴブリンなどの弱い魔物は罠にかかったり、他の魔物に襲われたりして数を減らしているようだ。だけど入口の扉を消したため、勝手に入り込んできた魔物もいるらしく総数としては昨日とそれほど変わっていない。


 ウサギは封鎖区域にいるもの以外は軒並み入り込んできた魔物の餌になったらしく、マップでもビジョンでも姿は確認できなかった。

 微妙に顔を曇らせてそれを報告してきたハルちゃんには悪いけど、間引く手間が省けたと思うことにしよう。封鎖区画に残っているものだけでもまだ百数十体はいるわけだし。



「じゃあ、第三層の魔物から片付けていこうか。第二層は罠があるから後回しにするとして。第一層の魔物をギンの〈号咆〉で第二層に押し込んで、罠にかかった生き残りの止めを刺していく……って感じでどう?」


 大まかな作戦をたててハルちゃんに確認を取り、大空洞への扉を開けてギンとヤシチにGOサインを出す。

 昨日のゴブリンスライムみたいな変異種の例もあるので、ダンジョンマップと〈看破〉の合わせ技に加えて、ヤシチへの〈視野借用〉と〈鑑定〉で近づく魔物のスペックを片っ端から暴いていくことも忘れない。


 ……まぁ、変異種が混ざっているなんてそうそうあることじゃないらしく、結局一体も見かけることはなかったけど。

 ギンとヤシチがばっさばさ魔物を狩っていくのをただ見守るだけのお仕事です。あ、でも昨日からフルで使いまくっていたおかげか、どっちのスキルもレベルが上がって〈鑑定〉は〈看破〉に進化しました!


 第三層の魔物を一掃したら、一度ハルちゃんの部屋まで戻ってもらって裏の通路から第一層へと移動。

 入口から奥に向かってギンに〈号咆〉を使ってもらったら、ハルちゃんが表示していたダンジョンマップの光点がいっせいに動くというすごい光景を目撃しました。うおう……自分で提案しといてなんだけど、そんなにギンの声が恐ろしいのか!?

 まるで豆を入れた平たい箱を傾けたみたいな、雪崩を打つがごとき見事な逃走っぷりです。


 第二層への入口で詰まって大渋滞が発生し、さらに魔物同士での戦闘なんかも起こったためしばらく静観することに。とりあえず、その間の時間を使ってハルちゃんと作成モンスターの候補を話し合っておりました。

 変異種がいなかったので入ってきたDPは今のところ600ポイント程度だけど、残りのモンスターも片付ければ二倍から三倍くらいのポイントにはなるわけだし……ある程度予備DPを残すことも考えたら、やっぱり7~8ランクあたりが適当かな。



 あ、その間ギンたちにはおやつ兼ご褒美のお肉を食べながら小休憩を取ってもらってます。ハルちゃんの強い要望で、お肉はDPを使って作ってもらいました。

 ……本当に律儀だなぁ。というか、『生肉(上級):10p』を作ろうとするのを止めるのが大変でしたけどね。普通のお肉でいいんです、下手に贅沢を覚えられるとあとが大変なんですよ!




 第一層の魔物が残らず第二層に移動したところで、ギンに第二層への入口あたりでもう一回〈号咆〉を使ってもらって魔物を奥に追い込む。

 パニック状態で逃げる魔物が次々と罠にかかって、安全になったところで生き残りにヤシチが〈空刃〉で止めを刺していく形だ。ほとんど虐殺といってもいい光景だけど、私はもちろんハルちゃんも目を逸らさなかった。この世界でやりたいことをやるには力が必要で、今やっているのはDPという名の力を手に入れるための行為だから。


 ……もちろん、やりすぎれば痛いしっぺ返しを食らうことになるんだろうけど。

 手に入れた力に酔ったり溺れたりしてしまわないよう、しっかり自分のやっていることを目に焼き付けておく。手早くDPを手に入れるための方法として魔物を殺すのを選んだのは自分。そうやって手に入れたDPはただの数字じゃなくて、殺した魔物の命そのものだ。


 正直、ハルちゃんに背負わせるのにはちょっと重すぎるんじゃないかという気もしたけど、自衛手段がダンジョンの罠しかない状態で放置しておくわけにもいかなかったし。

 一緒にいる間はギンたちに守ってもらうという手があるとしても、この先ずっと別行動を取らないでいるわけにもいかない。



 なんて考えているうちに、第二層の魔物も綺麗に掃討された。ギンたちに戻ってくるように指示を出しながら、ハルちゃんにDPがどれくらい貯まったのか確認する。


「……ええと、1560ポイントで……昨日までの分もあわせて1677ポイントです。これだと、ぎりぎりランク9のモンスターまでなら作れ……」

「ぎりぎりまでDPを使うのは止めようね、ハルちゃん。何度も言ってるけど」

「……はい」


 思わず満開笑顔で釘を刺す私に、ハルちゃんはしまったという顔で口を手で押さえる。

 上目遣いで見上げる顔が怒られた子供そのもので、浮かべた笑みが自然に苦笑に変わっていくのを自覚する。まったく、我ながら動物と子供には甘いよなぁ……


「他のスキルとかアイテムとかで自衛手段を補うことを考えるんだったら、使役モンスターのランクは7くらいに留めていくのが適当だと思うわよ。それならダンジョンの外に出しても、よほどの強敵にでも遭遇しない限り逃げることくらいはできるだろうし。モンスターに全振りするにしても、ランク8まで。それ以上は二桁しかDPが残らないので許可できません」


「う……ミコトさん、お母さんみたい」

 ハルちゃんが恨めしそうに発した一言が心の急所にクリーンヒット。ぐっ、大丈夫だ、これくらいのパンチで倒れたりは……昔からしょっちゅう友人に言われてることだし! ただ十歳年下の相手に言われるとダメージが倍増というだけで!


「と、とにかく……まずはギンたちが戻ってきたら、階層の間の仕掛けを再稼働させようね。ひとまず第三層だけでも安全な状態にしとかないと……」

「あ、はい……」


 胸を押さえてうずくまった私に、なにやら突いてはならない点を突いてしまったことだけは理解したらしく、あわあわしていたハルちゃんが素直にうなずく。


「あと、残りの問題はウサギをどうするか……よね。封鎖区画から出したら、また勝手に他の層に移動したりダンジョンから出ていきかねないし……餌を与えなければ繁殖は抑えられるにしても、あれだけの数の命令不可能なモンスターがうろついてたらうかうかダンジョンコアの部屋から出られないし」


 いくらランク1のモンスターで攻撃力は皆無とはいえ、命令を聞かない魔物がいる中を歩き回りたいとは思わない。防衛という点ではまったく役に立たないし、いっそのこと完全に排除してちゃんと命令を聞くモンスターを作ったほうが早いんだけど……


「……あの、それなんですけど」

 難しい顔で考えこんでいる私に、ハルちゃんがおずおずと提案してきた。


「ウサギさんたちの件だったら、わたしが〈調教〉スキルを取るか〈統率〉スキル持ちのモンスターを作成すれば解決できると思うんです。ランク8のワーラビットだったら、同じウサギ系のモンスターを使役できるみたいですし……」


「ワーラビット? でも、あれってあんまり戦闘力は高くないんじゃない?」

「そのかわり〈補助魔法〉をスキルで持ってますし、なんといっても〈帰還〉を持っているというのが大きいです。ギンさんたちに同行させておけば、万が一の時にここのダンジョンまで一瞬で戻ってこられるじゃないですか」


 真面目な顔で告げるハルちゃんに、ちょっと申し訳ない気分になりながら〈帰還〉の弱点について話す。

「うん、確かにそれは便利なんだけど……ただ、レベルが低いうちは〈帰還〉で戻れる距離も短いのよ? レベル1だと10キロとかそんなもんだから……今回の保険とするにはちょっと心もとないかな」


「そうなんですか……」

 〈帰還〉の有効範囲までは考えていなかったらしく、しゅんとハルちゃんが肩を落とす。



 いや、でも……〈帰還〉スキルも育てれば成長するし悪くない考えかもしれない。

 なにより〈帰還〉を使えば、離れた場所からでもダンジョンに一瞬で戻ってこられる――自分だけじゃなく、接触してさえいれば他の生き物も連れて。


 うん、それなら……レベル上げも兼ねてやってみる価値はあるかもしれない。

 なにしろ万が一のことを考えたら、ハルちゃんのDPはまだまだ足りないし。ある程度以上の強さを知能を持つ生き物がやってきたら、即ダンジョンコアの部屋まで到達されてしまいかねないくらいの防衛力しかないのだ。


「ごめん、ハルちゃん! 私もワーラビットがいいと思う! 〈帰還〉の有効距離はレベルを上げれば広くなるし、ウサギの問題も解決できるんなら願ったり叶ったりだよね!」

「え? ……え、いいんですか?」

「いいもなにも、ハルちゃんが作るモンスターじゃない。私があれこれ口出しするのが筋違いってもんでしょ。もちろん、相談には乗るしアドバイスもするけど……最終的にどうするかを決めるのはハルちゃんだよ?」


 私がそう言うと、ハルちゃんは嬉しいとも不安ともつかない複雑な表情になる。

 あれ、突き放されたように感じてしまったのだろうか。内心ちょっと焦りながら、先程ちらっと頭の中で考えたプランをハルちゃんに明かす。


「あと、〈帰還〉で外の魔物をダンジョンに連れてきて止めを刺したら、DPも稼げるんじゃないかって思ったのよ! 〈帰還〉のスキル上げがてら、近場のモンスターをダンジョン内に連れてきて狩ればDPも稼げるし一石二鳥かなって」

「あ……」



 私の提案に目を丸くするハルちゃん。どこまでも無駄なくDPを搾り取るという考えに引かれるかな、と思ったのも束の間、その顔が花が咲くようにほころんだ。

「そうですよね! 〈帰還〉があれば、そういう手段も使えるんですよね! いいアイディアですよ、ミコトさん!」


 ……うん、自分で提案しといてどうかとも思うが、ハルちゃんがめきめきたくましくなっていっている気がします。

 どうしよう、ハルちゃんが私以上に女子力を天の彼方まで放り捨てた性格になったりしたら……あの可憐で清楚なハルちゃんはもういないのです、なんてことになったら親御さんに申し訳なさすぎる気が。


 いや、この世界でダンジョンマスターとして生きていくには、それくらいのたくましさが不可欠なのかもしれない。

 女子力と命、それならどっちを選ぶかなんて考えるまでもない。命あっての物種、衣食足りて礼節を知るじゃないけど、女子としての体裁を気にするのは命の保証ができるようになってからで十分だ。よし、理論武装終わり。



 私が内心で百面相やってる間に、ハルちゃんはさっさとウィンドウを開いてモンスター作成画面を呼び出している。速っ、相変わらず決断も行動も速いよ! もう少しじっくりゆっくり考えてからでもいいんですよ!?


 しかし声をかける間もなく、ハルちゃんはいくつかの条項をチェックしただけで作成画面の完了ボタンをタップする。

 一応、命令可能モンスターになっていることだけは確認できたけど……それにしたって速すぎませんかね! ためらいがなさすぎて、見ているこっちが心配なんですけど!



 あまりの思いきりのよさに愕然とする私の前で、淡い光が輝きを強めながら集まって透明な生き物の形を取る。ガラスに色がつくように色彩が生じたかと思うと、一瞬ぱっと強く光って現れたのは身長1メートルほどの二本足で立っているウサギだった。



「……ハルちゃん、名前」


 ウサギを見下ろしたまま固まっているハルちゃんの背中を軽く叩いて声をかける。

 気持ちはわかるけどね。薄茶色の毛並みのお腹側だけが白くて耳はぴこっと立っており、つぶらな目は濡れたように黒く……はっきり言って反則級に可愛い。

 あれですよ、1メートルサイズのピー○ーラ○ットのぬいぐるみ。しかも天然毛皮で尻尾とか耳とかがぴこぴこ動くやつ。


 こんな生き物を目の前にして平常心でいられるのはお釈迦様かウサギ恐怖症、でなかったら筋金入りの猟師さんくらいのものだ。

 私? 抱きついてもふりたいのをこらえるのに必死で、かえって冷静になれましたよ?


 それに私には、すでに魅惑のもふもふが二体もついてるし。ちょうど大空洞まで戻ってきたギンから「あ~け~て~」という〈伝心〉メッセージが届いたおかげもあって、年長者の対面はぎりぎり保てました。



「あ、そうですよね……名前、名前……ええと」


 はっと我に返って、名付けで頭を悩ませているハルちゃんをその場に残して大空洞までギンたちを迎えに行く。昨日学習したので、手には返り血を拭くための濡らした布を持って。洗わなくても拭くだけでいいんだから楽だよね!

 送り出すたびに魔物の返り血まみれで帰ってくるという現実からはそっと目を逸らしつつ。いいんです、怪我をして帰ってくることに比べたら千倍も万倍もマシだ。


 ギンとヤシチをねぎらいながらざっと身体を拭いて、二体を引き連れてハルちゃんの部屋に戻ると、ちょうど顔を輝かせて名前を口にしたところだった。


「……セバス。あなたの名前はセバスにします」


 笑顔で告げるハルちゃんに向かって、二足歩行ウサギ改めセバスはもふっとした右手を胸に当てて一礼してみせる。ウサギなのに優雅に見える不思議。そしてハルちゃんがセバスと名付けた理由がなんとなくわかる。

 うん、これはセバスというかセバスチャン的な名前で呼びたくなる。執事服とか片眼鏡とか装備させたくなるよね。私だったら九割の確率でラプラスと名付けていただろうなぁ。竜じゃなくてウサギのほうの。


「あ、ミコトさん! この子、セバスって名前にしました! なんか執事っぽかったので……執事といったら、やっぱりセバスチャンですよね!」

 にっこにこ笑顔のハルちゃん。ちょっと気になるのはその由来が執事のテンプレから来てるのか、あくまで執事のあの人(?)から来てるのかですが。


 そのあたりは深く突っ込まないことにして、ハルちゃんに了解を取ってからセバスに対して〈鑑定〉――じゃなかった〈看破〉を使用してみる。



 ワーラビット(ランク8:命令可能・復活不可能・成長可能)

 個体名:セバス レベル1(0) M

 攻撃力:C 敏捷性:B 耐久性:D 生命力:C 知力:A 精神力:A

 スキル〈補助魔法〉〈気配察知〉〈跳躍〉〈幻影〉〈統率〉〈帰還〉〈伝心〉


 おお、見事なまでの頭脳型モンスター。というか、スキルまでフル開示されることにちょっぴり驚きました。

 これまでの〈鑑定〉だと、せいぜいランクとレベルくらいしか表示されなかったし。


 というか、ランク8ですでに〈伝心〉持ちなんですね。知力も高いし、これなら〈指令〉を取らなくてもあらかじめ指示さえ出しておけば……いや、緊急時の〈帰還〉使用とかは指示を出す必要があるか。

 あと耐久が低めだから、防御力を上げるアイテムか装備が必要かも……と思ってたら、ハルちゃんがさっさと〈指令〉スキルを取っていた現実。いや、別行動するなら必要なスキルだと説明はしていたけど! 相変わらず立ち止まることを知らないガールですねハルちゃん!



「ええと、これでセバスをダンジョンの外で活動させる準備はできたから……あと他に取っておいたほうがいいスキルとかありますか?」

「……いや、残り300ポイント足らずでしょ? それは残しておこうよ」


 防御力の不安とか言い出したら残りギリギリまでDPを使いそうだったので、そこはあえて黙っておく。

 あ、私が今付けている防御力向上の腕輪を貸し出せばいいんだ。どうせ私とハルちゃんはダンジョンに残る予定だし。


 腕輪を貸し出すと言ったらハルちゃんが「それは悪いです」と渋る場面もあったけど、なんとか説得してセバスの腕に革のブレスレットを装着。

 自動サイズ調整機能がついてるらしく、腕に通した途端シュッと縮まってぴったりサイズになった。紐かなにかで固定しておかないといけないかと思っていたのでちょっとびっくりだ。


 セバスは腕輪をしげしげと眺めていたが、やがて納得したように顔を上げると私に向かってぺこんと頭を下げる。


 ぐはっ、可愛すぎる。ベストとか執事服とかフロックコートとか作って着せたいです!

 持ってないけど懐中時計とか片眼鏡とか! いかん、DPが今使えたら色々作りたくなるのを我慢できなかった気がする!



 最大級の危険物からそっと目を逸らし、後方で控えているギンたちに視線を向ける。

 ああ、魅了の状態異常解除には同じもふもふが最良のようです。ヤシチがなんとなくじっとりとした目で見ている気もするけど、そこは勘弁してください。

 子供サイズの生きて動くウサギのぬいぐるみとかね、もう、まっとうな神経を持った女子には抵抗不可能なんです。


「あの……ミコトさん。本当になにからなにまですみません、アイテムまで貸し出してもらっちゃって……」

 申し訳なさそうにハルちゃんが何度目になるかわからない台詞を言う。


 腕輪を貸し出す理由として、現在のハルちゃんのDPでは同じランクの腕輪を作れないことを伝えたのも一因なんだろうけど、あんまり気にしすぎないで欲しい。

「だから言ったでしょ、ダンジョンに残る私よりも外に出るセバスの防御を固めたほうがいいって。それに貸し出すだけであげるわけじゃないわよ?」


「でも、本当に色々してもらうばっかりで……」

「その分は働きで返してもらえばOKです。ダンジョン外での活動に関しては、ハルちゃんの〈探知〉が頼りなんだから。あと、いざという時にはセバスの〈帰還〉も当てにしてるしね」



 なんだか納得してない様子のハルちゃんに笑いかけ、準備万端で待ちくたびれている様子のギンたちを目で指し示す。

「それより、準備もできたことだしさっさと作戦実行といきましょう? こっちの魔物の間引きが終わったら、次は私のダンジョン周辺のほうをやらないといけないんだし」


「……はい」

 ちょっと不承不承といった表情を残しながらもハルちゃんはうなずく。


 よし、あとは勢いで押し流してうやむやにしてしまおう! 貸しとか借りとか、正直めんどくさいとしか思わない性分なんです。もちろん借金は(小銭程度でも)返せる時にさっさと返すけど。ハルちゃんの律儀さは人として好ましい部類だとは思うけど、友人同士であまり貸し借りとか細かいことは考えたくない。


 ……って、勝手に友人のつもりでいたけど、ハルちゃんからしたら私って友人にはカウントされてない!? そういえばまだ会って一晩しかたってないし、年齢も離れてるし……




 内心ちょっと落ち込みながらも、非常口からギンたちをダンジョンの外に送り出して〈視野借用〉と〈看破〉を使う。

 うう、とりあえず目の前のことに集中しないと。ハルちゃんの〈探知〉と〈看破〉のスクリーンと一緒に空中に画像を投影して、魔物が固まっている場所へギンたちを向かわせる。


 セバスは自力でも走れるけど、ギンたちの速度についていくのは難しそうなのでギンの背に乗っている。〈騎乗〉スキルはなくても持ち前の平衡感覚と運動神経で、通常の移動の間なら危なげなく乗りこなせている様子だ。

 さすがに戦闘に入ったら下りないと危ないだろうけど、その時はヤシチがセバスのガードにつくことになっている。


 ギンはあっという間に指示した魔物の群れに接近し、猛スピードで突撃開始したギンの背中からセバスがぴょんと飛び降りる。同時にギンの身体がふわりとオレンジがかった光を帯びたのは、セバスが使った《攻撃力上昇》の魔法のせいだろう。



 セバスの〈補助魔法〉スキルは《攻撃力上昇》《耐久性上昇》《敏捷度上昇》《知力上昇》の四つの魔法が使えるようになるものらしく、低レベルの今は効果も微妙らしいがスキル上げも兼ねて積極的に使わせるようにハルちゃんに言ってある。


 ただ、正直……相手がランク5のウッドワームなのでオーバーキルもいいところとしか言いようがないです。

 スパンと胴体を真っ二つにして「あれ?」という顔になるギンと、呆れ顔で逃げ出そうとする群れに威力抑えめの〈空刃〉を放つヤシチ。半死半生で蠢いているワームにしれっとした顔で持たせておいたロープをかけて〈帰還〉を使うセバス。


 〈帰還〉の登録地点になっているのは第三層の大空洞で、ロープに絡まったウッドワームと一緒に現れたギンが〈炎爪〉でワームを一瞬でバラバラにして狩りは終了だ。

 〈帰還〉を使うタイミングがやや早くて、ヤシチがロープの端を掴むのがあと一瞬遅かったら置いていかれるところだったけど、まぁギリギリ間にあったので問題ない……と思う。



「ハルちゃん、DPは?」

「入ってます!」

 とりあえず、DPを稼ぐのにも問題がないみたいなので……うん、この調子で続けてやっていこうか。


 セバスの〈帰還〉の有効範囲内で、次々と魔物の群れを捕まえてはダンジョンに連れ込んで止めを刺すこと十数回。〈帰還〉のレベルが上がったところで掃討の範囲を少し広げて、また同じことをくり返す。


 なにが大変だったかって、ダンジョンに戻ってきたギンたちを非常口から外に出すのが一番大変だったけどね! なにしろ三層あるだけあって裏ルートはそれなりに距離があるし。

 送り出す時はセバスと一緒にギンの背中に乗って移動という手が使えても、ハルちゃんの部屋まで戻るのは自分の足だけが頼りで……いや、本当にあってよかった〈身体強化〉!


 というか、私が初めてこのダンジョンに来た時、よくハルちゃんはこの通路を一気に走って入口まで来られたものだと感心しました。……若さか、やっぱり若さのなせる業なのか?



 そんな感じでセバスの〈帰還〉のレベル上げをしながら、ハルちゃんのダンジョンの近隣の魔物の群れを間引いていく。夕暮れが近づく頃にはセバスの〈帰還〉レベルは3まで上がり、目につく魔物の群れもいなくなったのでギンたちに帰還するよう指示を出す。

 ……それに、私もハルちゃんも気の張り通しでちょっと疲れたしね。自分が魔物と対面していなくても、ランクの高い魔物が近づいてきてないか常に目を光らせていないといけないのはなかなか精神に来るものがある。


 幸い、極端にランクの高い魔物が近づいてくるようなこともなく、ギンたちよりややランク高めの魔物も無事に迂回して遭遇は免れた。効果エリアの広いハルちゃんの〈探知〉には感謝してもし足りません。

 入ったDPを全ブッパした時にはなにをやってんだこのお嬢さんとか思ったけど、結果的には大正解でしたよ。


 いや、だって移動速度の速い魔物だったら、100キロくらい離れてても三十分足らずで距離詰めて来たりするからね? 本気でこの世界の生き物(というか魔物)怖ぇ、と思いました。私のダンジョンの1000キロ通路も、この世界じゃ実のところたいした障害じゃないってつくづく思い知らされましたよ……1000ピースパネル用意しといて本当によかった。



 ともあれ、予定していた間引きがだいたい終わったので、戻ってくるギンたちの安全確保に努めながらハルちゃんに声をかける。


「ハルちゃん、DPのほうはどう?」


 後半はダンジョンからけっこう距離が離れてしまったため、戻るのはいいけど再出撃が大変だったので戻らずに現地で処理してもらってたのだ。

 ギンたちのレベル上げにもなるからそれでもよかったんだけど、ハルちゃんのダンジョンに入ってくるDPはその分少なくなる。


「それが……また5000ポイント近く貯まってるんですけど。どうしましょう? 新しくモンスター作ったほうがいいですか? 今度こそ戦力になりそうな……そうですよね、次はミコトさんのダンジョンのほうの魔物の間引きをしないといけないし!」

 ウィンドウに表示されるDPを確認したハルちゃんが、焦るのを通りこしてお目々ぐるぐる状態で答える。


 お、落ち着けハルちゃん! そこでまたDPを使い切ろうとするような発想をするから、私も心配でDPをよけいに突っ込んでおきたくなるんだよ!



「ハルちゃん、ハルちゃん! 5000ポイントって言ったって、ちょっとダンジョンの改装をしたりスキルのレベルを上げたら一瞬で飛んでくんだよ! そこは即座に使うんじゃなく残す方向でいこうよ!? 貯金大事、これマジ本当!」

「は、はい……」


 ウィンドウから目を離さずに声だけ投げる。できることなら肩を掴んでがくがく揺さぶってあげたいところだけど、今はギンたちの安全確保が優先なので我慢だ。ただ声ににじんだ切実さが伝わったのか、ハルちゃんははっとしたような顔でうなずいてくれた。

 よかった……また即断実行でなにかやらかすんじゃないかと真剣に焦りました。


「……まぁ、ハルちゃんのダンジョンには防衛戦力が足りてないから、そういう意味で戦力になるモンスターを作るのには反対しないけど。でも急ぐ必要はないからね? 間引きのほうはギンたちで十分……というか、やや過剰戦力気味っぽいし」

「それは……確かに」



 間引きの対象はギンたちと同ランクまでと決めたけど、そこまで強い魔物は極端に居場所を変えたり数を増やしてはいなかったのだ。

 増加しているのは2~5ランクくらいまでの魔物が中心で、それに影響を受けて移動しているのが6~9ランクの魔物といった感じ。10ランク以上の魔物は本来の生息地からはほとんど離れていないらしく、ごく稀に他の地域からやってきたと思しき個体を見かけたのみだ(なお、10~12ランクの個体についてはギンたちが美味しく狩らせていただきました)。


「うちのダンジョンのほうも同じ……というか、むしろ弱い魔物のほうが多い感じだし。わざわざ戦力を増やす必要はあんまりなさそうよ。というか、そのまま近場に居着いてくれるなら滞在ポイントが入ってくる分狩らないほうが美味しいくらいなのよね」

 地上をダンジョンの第一層にしてあることはハルちゃんにも説明してあるので、私の言葉にハルちゃんは納得顔になる。


「まぁ、放置しておいて他の魔物を引き寄せたり、さらに増えた魔物が村のほうに向かったりするのは避けたいから間引きはするけど。ああ、でもハルちゃんのところでやったみたいに、ダンジョンの領域まで追い込んで始末すればDPは十分稼げるかな」


 私が言うと、ハルちゃんはウィンドウに向けていた目を上げてくすっと小さく笑う。

「……ミコトさん、本当にDPを稼ぐのが好きですよね」

「好きもなにも、私たちの生命線だし。あと、使うのが好きなハルちゃんに言われる筋合いはありません」


「べ、別に使うのが好きなわけじゃないですよ! 色々必要なものを考えてたらいつの間にかなくなってるだけで……!」

「それ、好きで使うよりよっぽどヤバいからね? 使う前にちょっと深呼吸して考える習慣をつけよう?」

「……はい」



 なんて言い合っている間に、スクリーンに映っているギンたちの反応はセバスの〈帰還〉の使用可能範囲まで来ている。

 ハルちゃんに〈帰還〉使用の指示を出すように頼みながら、私は戻ってきたギンたちを一番に迎えるために大空洞へと急ぎ足で向かった。



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