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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第二章 同業者仲間ができました。できた途端にヘルプが飛んでまいりました
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5 お話し合いと朝飯前のうっかりミス



 ギンたちが戻ってきたところで、今日の活動はここまでということにしてハルちゃんのダンジョンで休ませてもらうことにした。

 〈帰還〉を使えば私のダンジョンまで一瞬で戻れるけど、また100キロ以上の道のりを走ってここまでやってくることになる。私がここから去ることにハルちゃんが不安そうな様子を見せたこともあって、一晩お世話になることに。


 私としてはダンジョンコアの間の手前にある大空洞をキャンプ地として借りるつもりだったんだけど、ハルちゃんの強い希望でベッドのある部屋で休むことに。


 もともと調査が長引きそうだったら野宿する予定だったので、床(というか地面)で寝ることになっても私はいっこうにかまわなかったんですが。

 ハルちゃんが「それなら私も一緒に床で寝ます!」と強弁したため、部屋とベッドを借りることになった次第だ。

 だって、まともなテントや寝袋でもあるならともかく、毛布もマントも一人分しかない状況でハルちゃんを床で寝させるわけにはいかんでしょうが……それを言ったら、ハルちゃんDPを使ってキャンプ用品とか作り出しかねなかったし。




 というわけで、戻ってきたギンたちを隣の大広間で濡らした布で拭いている現在。女の子の部屋に返り血まみれの狼と鷹を連れ込むのはさすがに気が引けたし。

 ギン用のシャンプーを持ってきておけばよかったとちょっぴり思ったけど、水で軽く拭いた程度でもそこそこ汚れは落ちたので内心ほっとする。血の汚れだし、半分乾きかけていたので落とすのが大変じゃないかと思っていたのだ。


 そのあたりは魔物という不思議生物の血だからなのか、ダンジョンモンスターのギンたちが汚れにくい仕様なのかは謎だけど、手間が省けたことには素直に感謝しておく。血のシミって乾くと本当に落ちにくいし……



「お待たせ~、というかお邪魔しま~す……」

 そう声をかけてハルちゃんの部屋に入ると、ベッドに腰掛けてウィンドウを開いていたハルちゃんがぱっと顔を上げる。


「あ、ギンさんたち綺麗になりましたね。水拭きだけでそこまで……?」

「うん、なんか魔物の血って乾いたらチョークの粉みたいに簡単に落ちるみたい。そうとわかってたら、わざわざDP使ってギン用のシャンプー作ったりしなかったんだけど」

「……シャンプーですか?」

「前に汚してきた時に、勢い余ってつい。匂いを嫌がるからあれきり使っていないのよね……けっこうDPもかかったし、今考えるともったいないことしちゃったなぁ」


 一緒に寝ていた身としては、返り血の生臭さよりもフローラルな香りのほうがはるかによかったんだけど、ギンはお気に召さなかったらしい。

 下手に『不壊:永続』で作ってしまったものだから、いくら使っても中身は減らないんだよね……いっそ自分で使ってやろうかという考えが頭をよぎる。


 そんなことを話しながらハルちゃんの隣に腰掛け、開いていたウィンドウの画面を何気なくのぞき込む。見ていたのはDPで作成できるモンスターのリストで、7~8くらいのランクのモンスターがいくつか画像つきで表示されていた。


「モンスターを選んでたの? バトルホースにクーシー……あ、懐かしい、デザートウルフ。私もこれ作ろうか迷ったなぁ……」


 表示されているのはモンスターの中でも動物や人に近い外見をしているものが多く、自分がギンたちを作った時のことを思い出して苦笑が洩れる。うん、ゴブリンとかグールとかは遠慮したい気持ちはよくわかる。

 ハルちゃんは少し恥ずかしそうな様子を見せてたけど、私が同じような基準でモンスターを選んでいたことを知って安心したのか、うってかわって真剣な目で問いかけてきた。


「ミコトさん、ギンさんたちを作ることに決めた理由ってなんなんですか? 強さですか? それとも持っているスキル……?」

「あ~、ごめん。言ってなかったんだけど……実はギンたち、普通のウルフやホークから進化して今の種類のモンスターになってるのよ。だからあんまり参考にならないと思う……」

 頭を掻きながら私が答えると、ハルちゃんは目を丸くして私とギンたちを見比べる。


「進化して……って、モンスターって進化するんですか? というか、ランク2からランク12って……どんな過酷なトレーニング積んだらそうなるんですか!? だって、ランク12のモンスターって……ブロンズゴーレムとかデュラハンとか強そうなのばっかりですよ!?」


 すみません、そのブロンズゴーレムもうちのダンジョンに一体いるんです……とも言えず、はははと笑ってごまかす。本当になんでそんな多段ワープ進化を果たしたのか、私にも不思議だったりするんですよ。



 あとでよくよく確認してみたら、ホークやウルフの進化先と思しきモンスターが12以下のランクにいくつも存在していたし。

 ウッドゴーレムにしたところでブロンズゴーレムの下にはクレイゴーレムだけではなくサンドゴーレム、ストーンゴーレム、マッドゴーレムなどが確認できた。


 まぁ、それらは特殊条件下での進化先(いわゆる分岐進化)なのかもしれないけど、一気にランクをすっ飛ばした原因はいまだに謎だ。

 しいていうなら愛でしょうか……? ギンたちに注いだ愛情が経験値に変換されたなら、それくらい一気に進化してもまったく不思議じゃない自信があるぞ!



「う~ん、自分でもよくわかっていないんだよね。ただ『成長可能』のモンスターなら、最初から強いモンスターを作るよりも強力なモンスターに育つかもしれないと思って、復活可能なモンスターでレベリングをさせたらこうなった……としか」


 正直、あんまりハルちゃんにお勧めできる養成方法ではない。復活可能とはいえ延々と殺されるだけのモンスターを作るのは、ちょっと精神的にきついものがあるし。


「……そんな利用方法があったんですね。わたし、復活可能なモンスターはウサギさんの餌にするくらいしか思いつきませんでした」

「え、餌?」

「はい。ウサギさんの餌になる植物型のモンスター……さすがに普通に育てていたんじゃ間にあわないと思って、復活可能にしておいたんです。それなら、食べてもすぐに元通りになると思って……ランク1でしたからDPの負担も軽かったですし」


 意外なことに、ハルちゃんも復活可能モンスターをしっかり有効活用していたもよう。

 いや植物型モンスターならそこまで気にならないか……食べても食べても復活するなら、それほど畑の面積も必要ないだろうし。

 しかし、それってちゃんと栄養になるのか? 経験値が普通に入るんだったら、同じように栄養価があってもおかしくないのか……?



 ちょっと混乱しつつも、ハルちゃんのアイディアを「それは思いつかなかったわ」と素直に誉めておく。しかし、いくら食べても減らない餌があるならウサギも際限なく増殖できるわけで。よかったのか悪かったのかはちょっと微妙だ。


「と……とりあえず、ハルちゃんには今すぐ戦力になるモンスターを作ってもらえると助かるかな? この件が片づいてからなら、弱いモンスターを時間をかけて育てるのもありだと思うけど……私が育てた場合と同じ結果が出るのかも興味があるし」

「そうですね。まずは今回の件を片付けてからじゃないと……やっぱり作るなら戦闘力のあるモンスターですよね? ギンさんみたいに乗って移動できるモンスターもいいですけど、それ重視にしてしまうと戦力としてはちょっと微妙なラインになりますし」


 ああ、それで動物型のモンスターに多くチェックが入っていたのか。

 単純に見た目重視かと思っててごめん。でも、明らかに戦力になりそうなオークとかスケルトンが外されているのは見た目のせいだよね……人のことはまったく言えませんが。



「バトルホースなんかはけっこう強そうな感じだけどね。猛獣系でもギンみたいに人を乗せることは可能みたいだし、あんまり戦闘力にこだわる必要はないんじゃないかな? シルフとかノームみたいな精霊系でも、魔法攻撃があるからそれなりに戦闘でも役に立ちそうだし」


 しかし、そのノームの魔法攻撃をものともせずにぺしっと踏み潰した狼がここに一匹。

 しみじみランクの差って恐ろしい。これって、毒なんかも相手のランクが低ければ効かなかったりするんだろうか? 事故が怖いので試してみようとは思わないけど、体力とか生命力が極端に低くなければ案外あっさり抵抗できそうだ。


「ギンさんたちに同行すること前提で、魔法特化型や補助特化型のモンスターを作ってみてもいいかもしれませんね。回復魔法とか使えたら、万が一ギンさんたちが怪我するようなことがあってもちょっとは安心ですし。あるいは阻害魔法とかで、ランクの高い相手が出てきた時に足止めして逃げられるようにするとか……」



 ハルちゃんも色々考えている様子で、モンスターのリストを見ながらぶつぶつ呟いている。

 それはいいけど、今日はもう休んだほうがいいんじゃなかろうか……?


 ちょっと興奮状態で寝付かれないのはわかるけど、あんまり夜更かしするのはお勧めできない。

 いくらダンジョンマスターには睡眠がいらないとはいえ、深夜の変なテンションで考えたことはたいがい冷静になって考えると穴だらけだったり方向性が間違っていたりするものだ。でなければ趣味全開であとから見ると赤面ものだったり。……ぐはっ、古傷が!


 まだまだウィンドウを睨んで寝る様子のないハルちゃんをうながし、服装をパジャマにチェンジしてベッドに入ろうとする。



「……ミコトさん!? なんですか今の!?」

 と思ったら、ハルちゃんに目を剥いて質問されました。え? 服装を変えただけだけど? 普通にハルちゃんにもできるよね……?


「できませんよ! できるんだったら、もっと動きやすい服装に替えてます! 寝る時だって制服のままですよ!」

 不思議に思って尋ねてみたら、ハルちゃんが勢いよく首を横に振って答える。

「他の服を手に入れようと思ったらDPを使うしかないですし……そこまで不便は感じていなかったというか、服装のことまで気にする余裕はなかったからずっと制服のままでしたけど、そんな便利な能力があるならとっくに使ってます!」


「お、おう……」

 ハルちゃんの勢いにややたじたじとなりながらも、服装チェンジができるようになった時のことを説明する。

 とはいえ、気がついたらできたとしか言いようがないんだけど。



 ハルちゃんはうー、とかんー、とか唸りながら服装を替えられないか試していたようだが、結局制服姿から変更されることはなかった。

 どういうわけかわからないけど、衣装チェンジに関してはダンジョンマスター共通じゃなくて私限定の能力のようだ。ユニーク能力? どうせだったら、もうちょっと戦闘面で役に立つものが欲しかった……実用的といえば実用的だけどさぁ。


「ううー、ミコトさん、ずるいです。そんな便利な能力持ってて……おまけにお料理もできるし、頭の回転も速いし、色々物知りだし美人だし! 同じダンジョンマスターなのにどうしてこんなに差があるんですか!」

 なんて、涙目で詰め寄ってくるハルちゃんには間違っても言えそうにない。というか、どさくさに紛れてなに言ってるのハルちゃん!


 恩人フィルターがかかっているせいだろうけど、料理はともかく他のは色眼鏡にもほどがある! 少なくとも見目に関してはAPP16はありそうなハルちゃんに言われるのは納得できません。私はせいぜいAPP10ですよ、10!



 むくれるハルちゃんにバッグから出した室内着用のワンピを進呈してご機嫌を取り、やっと寝る準備ができる。

 ワンピはサルサーギ村で買ってきたものだ。ダンジョンに戻ってから片付けた荷物は食品中心で、衣料品や小物関係はかさばらないのもあって入れたままにしてあったのです。……思わぬところで役に立ったよ。


 簡素の形の白のワンピースはあまり質はよくなかったけど、天○の城のお姫様が某シーンで着ていたものとよく似ており、ハルちゃんもそれを思い出したのか「髪編んでみましょうか」などと言ってはしゃいでいた。

 うん、私のダンジョンに来たらぜひやって欲しい。ロボット兵……というか園丁ロボットによく似た色合いのジンガもいるしね。店で売られていたワンピを見つけた際、あのアニメとジンガのことが頭をよぎったのは事実だ。


 さすがに自分でコスプレしてみようって気にはならなかったけどね!

 髪の長さが足りないとかいう以前に、あのキャラは十代でないとできないキャラだと思うんだ!



 白のワンピに着替えたハルちゃんをなんとかベッドに寝かせ、その隣に失礼して横になる。

 部屋の明るさは変えられないのでぼんやり明るいままだ。最初はぽつりぽつりと話をしていたが、やがて静かになったと思うと落ち着いた寝息が聞こえてきた。


 ちらりと横を見ると、安心しきった顔で寝ているハルちゃんが見え、少し笑みを浮かべて私も目を閉じる。明日も忙しくなるだろうし、さっさと寝ることにしよう。


 ……それにしても、本当に激動の一日だったよ。朝東の村を出た時には、こんなことになるなんて予想もしてなかった。

 ダンジョンに魔物は押し寄せるわ、新しいダンジョンとそのダンジョンマスターが見つかるわ、ダンジョンマスターが日本人でその上年下の女の子だったり、飼育崩壊状態のダンジョンが魔物の増殖の原因だったり……



 などと考えているうちに、すうっと意識が眠りに吸い込まれていく。

 最後の最後にジンガに連絡を取り忘れていたことを思い出したが、時すでに遅く目を開けるよりも意識が完全に闇に没するほうが早かった。

 ぬぅ、ごめん、ジンガ……朝一番で、連絡するから……




 翌朝、目を覚まして一番にジンガに〈伝達〉で無事を知らせることができたのは、寝る前の記憶が頭の中心に居座っていたおかげだろう。

 ジンガは少し心配そうな様子だったけど、どうやらギンかヤシチ――たぶん後者――が〈伝心〉で連絡していてくれたらしく、いつもと同じこちらを気遣うようなイメージが届いただけだった。

 まぁ、よけいな心配かけずにすんでよかった……のかな? 使役モンスター同士が〈伝心〉でどんな話(?)をしていたのかちょっと気になるところだけど。



 ともあれ、一番気になっていた用事をすませたので起き上がろう……として、腕にがっちりハルちゃんが抱きついていることに気づく。


 おう、起き上がれませんがな。というか、寝た時は若干距離を空けていたはずだけど……まぁ、人恋しかったんだろうね。

 昔新しい家に移った時に、妹がいつの間にか私のベッドに入り込んでこんな感じで寝ていたことを思い出す。

 元気かなぁ、妹……甘えん坊でちゃっかり者で、新しいもの好きだった妹。私と違って今時の女の子って感じで、私や父親のオタク趣味にはかけらも理解を示さなかったけど……家族みんな仲良くやってくれてるかなぁ。



「ん……」

 なんて考えてるとちょっと泣けてきそうだったので、ハルちゃんが抱きついている腕をゆっくり抜いて身を起こす。なるべく起こさないように気をつけたつもりだけど、眠りが浅かったのかハルちゃんが小さく唸って目を開けた。



「あ、ごめん……起こしちゃった? もう少し寝てていいわよ。その間に朝ご飯の用意をするから……」

「んん~……」

 ハルちゃんはむずかるように唸りながら私を見上げ……直後、半開きだった目が大きく見開かれる。


「え……あ、ミコトさん? ああ、夢じゃなかった! 夢じゃなかったんだ……!」


 言うなり起き上がってハルちゃんは私に抱きつく。ちょ、ちょっとハルちゃん……!? 半分パニクリながらもハルちゃんを抱き留め、落ち着かせるようにぽんぽんと背中を叩く。


「どうしたの、怖い夢でも見たの?」

「夢じゃ……夢かと思いました。偶然、わたしのダンジョンに初めて来た人が日本人で、同じダンジョンマスターで……夢じゃなかったら、そんな都合のいい話……」



 どうやら昨日のことを思い出した途端、あまりにも都合のよすぎる話に夢だったんじゃないかって考えが頭をよぎったらしい。

 ハルちゃんの気持ちは私にもよくわかるものだったので、無理に腕をほどこうとはせずにしばらく抱きつかせたままにしておく。ギンたちを作った時、目が覚めて一人きりだったらどうしようとけっこう真剣に思ったからね。


「大丈夫、ちゃんと私はここにいるから。夢なんかじゃないよ。ついでに今日はダンジョンに追い込んだ魔物を一掃して、ハルちゃんの新しい仲間を作る予定だよ」

「う……そうでした」


 がっちりと私に抱きついていた腕を放して、ハルちゃんが泣きべそ顔で少し照れくさそうに笑う。

 ごしごしと手で顔を拭こうとするのを止め、ベッドから下りるとバッグの中から手拭い代わりの布と桶、それに水袋を取り出してハルちゃんに顔を洗うよう勧めた。



 桶をシンク代わりにして水袋から注いだ水でハルちゃんが顔を洗うと、今度はハルちゃんに水を出してもらって私が顔を洗う。

 水袋はマジックバッグと同系の見た目以上に量が入るものなので、ちょっとくらい使いすぎてもなくなる心配はない。なにしろ余裕の容量100lだし! 村に行く前に容量いっぱいにしてあったし、一度ダンジョンに戻った時にも補充はしてあるから当面水の心配はいらないはずだ。


 パジャマからジーンズとシャツの普段着に服装を替え、ダンジョンコアの部屋を通って大空洞に水を捨てに行く。

 ギンとヤシチもすでに起きており、私と一緒に大空洞へ。ハルちゃんが着替えやすいように気を遣った……わけじゃないよね? ヤシチはともかく、ギンにそこまで気を回す能力があるとはあんまり思えないし。



 大空洞に続くドアを開けようとしたところで、尻尾をばっさばっさ振って目を輝かせているギンと警戒態勢のヤシチを見て、二体が私についてきた理由に思い当たる。


 危なっ、うっかり無警戒にドアを開けるところだったけど、そういえばここの大空洞にも魔物が入り込んでいる可能性があるんだった! というか、ギンたちの様子からして入り込んでいる可能性のほうが高そうだ。


 二層の罠は再起動しているけど、弱い魔物ならともかく強い魔物を即死させるほどの威力はないみたいだし、他の魔物が罠にかかっている間に他の魔物が通り抜けてくることも十分考えられる。

 ついでに二層の罠を有効活用するため仕掛けの類はまだ全停止してある状態で、物理的な鍵の掛かっている扉以外はすべて開け放たれている(ちなみに大空洞とダンジョンコアの部屋の間の扉には普通の鍵は掛かっていて、鍵は大広間のキーボックスの中に入っている)。


 一度ハルちゃんの部屋に戻って、ダンジョンマップで大空洞の状態を確かめてもらおうかと思ったけど、そこまでする必要もないかと思い直す。

 昨日ダンジョンに追い込んだ魔物はせいぜいいってランク5~6くらいだったし、大半はゴブリンなどのランク3の魔物だ。もちろん昨日みたいな変異種がいたり、あとから高ランクの魔物が勝手に入り込んできている可能性もあるけど……



「……とりあえず、一度ドアを開けて〈鑑定〉を使うから、その間は飛び出さないでいてもらえる?」


 ギンとヤシチに言い含めて、ゆっくりとドアに手を伸ばす。

 もちろん安全策は大事だけど、〈探知〉やダンジョンマップが使えない場合だってある。もし万が一、高ランクの魔物が入り込んでいた場合は即刻ドアを閉めることにして、ちょっと試させてもらうとしよう。

 とはいえランクの高い魔物が入り込んでいる可能性が、限りなく低いからできることだけど。


 ドアノブを掴んで一気に引き開けると、大空洞に入り込んできてる魔物に対して〈鑑定〉を発動。

 予想通り、ほとんどがランク3のゴブリンだ。唯一ランク5のホブゴブリンが混ざっているが、それ以上のランクの魔物は見当たらない。


「ギン、ヤシチ、GO!」

 そこまで見て取ったところで大空洞に出てドアを閉め、ギンたちに攻撃命令を出す。


 魔物の数は二十体ほど。私の姿を見て猿みたいな俊敏な動きで襲いかかってきた数体のゴブリンを、ヤシチが複数の〈空刃〉で一気に仕留める。その間にギンは集団の後方に立っていたホブゴブリンに襲いかかり、一瞬で喉を噛み裂いて倒す。

 残りのゴブリンは敵わないと見てか逃げだしかけるが、ギンが生み出した〈炎身〉の分身にあっさり噛み殺される。


 ものの十秒もかからずに掃討は終わり、床に倒れたゴブリンたちは光の粒子と化して消えていく。そこで私はほっと肩の力を抜き、尻尾を振りながら戻ってきたギンの頭を撫でてやる。


 ヤシチはやや非難めいた目を私に向けて「クーッ」と低い声をあげていたけど、安全な場所に隠れていなかったことを責められているんだろうか。……責められているんだろうな。

 なんとなく頭の中に「わざわざ危険に身をさらすようなことを!」と説教されているイメージが浮かんでます。


 うん、安全なところにいて欲しいって気持ちはよくわかるんですよ……だけど、ダンジョンマップも使えない状態でギンたちを見えない場所で戦わせるより、同じ場所にいたほうが安心できるんです。

 相手のランクも低かったんだし、私をガードしながら戦う練習だと思って勘弁しておくれ。



「……ミコトさん!」

 なんてことを考えてたら、ドアが勢いよく開いてハルちゃんが飛び出してきた。


 おいおい、外の魔物が入ってきてるかもしれない場所にいきなり出てくるなんて……って人のことは言えないけど。

 でも、万が一にでもハルちゃんのところへ魔物を通すことがないようドアを閉めておいたのに、本人が飛び出してきたんじゃ意味がない。


「ハルちゃん、ちゃんとドアの向こう確認してから出て……」

「なにやってるんですか! ギンさんたちはともかく、ミコトさんまでこっちに出てきてどうするんですか!? どんな魔物が入り込んできているかもわからないのに!」


 注意しようと思ったら、こっちが注意されたでござる。ええと……ドアを開けっ放しにするよりはマシだと思ったんだけど?


 昨日の今日でダンジョン内に高ランクの魔物が入ってきている可能性は低いし、ダンジョンマップや〈探知〉に頼らないで魔物に対処する練習をするのにはちょうどいいかなぁ~、と。


 ハルちゃんの勢いにたじたじとなりながら、そんなことを説明すると特大のため息が返ってくる。

「……ミコトさん、わたしには危ないことはするなって言うくせに、自分は平気で危ない真似するのってどうかと思います。確かにダンジョンマップとか〈探知〉が使えない状況を考えるのも大事かもしれませんけど、なにも今やらなくったっていいじゃないですか! もっと色々安全対策を考えて、万が一のことが起こらないようにした上でやりましょう!?」


「う……ごめん」

 十も年下の女の子に説教されるのは情けないことこの上ないけど、ちょっと勇み足がすぎたのも事実だ。


 安全対策は大事だよね……ヤシチがギンの背中でうんうんとうなずいているのが目に入り、さらにがっくりと肩が下がる。私よりもモンスターのヤシチのほうが頭がいいかもしれません。くっ、これが知力AとBの埋めがたい差か……



「えーと、その……本当にごめん。最悪のパターンを考えたら、よそのダンジョンでやることじゃなかったよね。もし桁違いのランクの魔物が入り込んできていたら、ハルちゃんまで巻き込むことになってたわけだし……」

 うん、冷静に考えたらつくづく怖い真似してたわ、私。〈鑑定〉して相手が強かったらすぐドアを閉めるにしたって、そうする間もないくらいの速度で攻撃されたり、催眠とか魅了とか状態異常系の攻撃を受けたらそれもできなかった可能性がある。


 無茶とか無謀とかうっかりのツケで自滅するのはともかく、他人を巻き込んじゃいかんよね。


 というか、同じ日本人(それも話の通じるオタク系の女の子)のダンジョンマスターに出会って、少なからず浮かれてた部分があったみたいです。

 ……本当に申し訳ない。年長者として自分がしっかりしなきゃ、なんて意気込みすぎて逆に巻き添え自爆しかねない行動に出ていたとか、もうね……もうね。



「なに言ってるんですか! わたしが言ってるのは巻き添えがどうとかじゃなくて……ミコトさんになにかあったらどうするんですかって話です! 〈探知〉でもダンジョンマップでも、今は使えるんだからどんどん使ってください! ミコトさんのおかげで〈探知〉が使えるくらいのDPは十分貯まってるんですから!」

 あまりの恥ずかしさに顔を合わせられない私の前に、ずいと身を乗り出してきて語気も荒くハルちゃんが言い切る。


「迷惑だとか申し訳ないとか、そんな変な遠慮はぶん投げちゃって目一杯わたしをこき使ってください! それだけの恩がミコトさんにはあるんです! むしろ、こき使ってくれるくらいじゃないと恩が溜まっていく一方で返せなくなっちゃうじゃないですか!」


「あ、ハイ……」

 それ以外言葉の返しようがなくて、カタコト気味に答える。

 恩とかそんなの気にしなくてもいい……なんて言おうものなら、火に油を注ぐのはハルちゃんの表情を見れば明白だ。ええ、それくらいの空気は読めますよ。だけど、ハルちゃん義理堅すぎじゃない?


「と、とりあえず大空洞ここの掃除は終わったから朝ご飯にしない? ギンたちもお腹空いてると思うし……」

 我ながらわざとらしいと思いながら話を変えてみる。ギンたちを引き合いに出すあたり姑息だと自分でも思うけど。ハルちゃんはまだ物言いたげな表情をしていたが、小さく息を吐いて私の見え見えの話題そらしに乗ってくれた。


「そうですね、朝からさっそく働いてもらったみたいですし……あ、桶のお水わたしが捨ててきます」

 私が答えるより早く、持っていた桶を取り上げるとハルちゃんはウサギの餌と思しき植物が生えているエリアに水を捨ててくる。


 空になった手を意味もなくさまよわせてから、私は桶と一緒に持ってきたマジックバッグの中から薪と食材を取り出して朝食の支度を始める。

 薪を組んで火を付ける手順をハルちゃんがすごく興味深そうに見守っていて、ちょっとやりずらかったりもしたけど……手伝いも申し出られたけど、手伝ってもらうほどの作業量でもないのですよ。



 いつものように用意した肉をギンたちの前に置いて、私とハルちゃんは昨日の残りの塩茹で芋に炙ったチーズをかけたもの、トマトもどきと葉野菜のサラダ、スピアクロウの肉とサイケレンコンの塩スープという朝食を摂る。


 肉とか野菜とかさくさく切っていく私の手元をハルちゃんがなぜか愕然とした顔で見ていたり、スープを口にして衝撃を受けていたり、「もっと家のお手伝いをしとけばよかった」とか呻いていたような気もするがそのあたりは割愛で。

 ええと、ハルちゃん? 料理ができるイコール女子力があるというわけじゃないからね? むしろスカートで膝を揃えて行儀よく座れる君のほうが、気を抜くとあぐらをかいてる私より女子力が高いと言われる人種だ。



 朝食が終わったら調理器具や食器を水で洗って布でざっと拭き、バッグの中にしまい込む。

 今日の予定は……まず、ダンジョンに追い込んだ魔物の一斉処分だな。そうしてハルちゃんにDPが入ったら使役モンスターを作ってもらって、ギンたちと一緒に魔物の間引きに出向いてもらう、と。


 作成直後からいきなりハードだけど、それなりにランクの高いモンスターを作れれば危険は少ない……はず。

 うん、ギンたちだって作ってすぐに同ランクの蜘蛛教官と普通に(というか、むしろ蹂躙に近い形で)戦えたし、〈探知〉や〈看破〉のサーチも駆使すればいきなり強敵に遭遇するような事故もそうそう起こらない。経験不足だってギンたちが同行すれば多少はフォローできるだろう。


 というわけで、本日は私とハルちゃんのダンジョンを中心とした魔物の掃討作戦だ。万が一にも人間の村に迷惑がかからないように、やらかしたことのツケはしっかり払っておかないとね! ……ええ、断じて証拠隠滅じゃありませんよ? 責任です、責任(目そらし)




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