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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第二章 同業者仲間ができました。できた途端にヘルプが飛んでまいりました
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4 間引き開始!(腹拵えも忘れずに)



 ハルちゃんに手伝ってもらい、ダンジョンを中心とした250キロ四方に生息している魔物の分布状況と、おおまかなランクをウィンドウの地図に入力していく。

 数の少ないところは無視していくことにして、それでもすべての作業が終了するまでには五時間近くかかった。


「ようやく終わった……けど、とりあえず、一息入れよう」


 ぐったりして告げる私に、ハルちゃんも同じような表情でベッドの端に座り込んだままうなずく。

 作業そのものは単純だったんだけど、いかんせん量がね……ダンジョンから離れたところの魔物は影響が薄いだろうということで除外し、100~200キロの範囲内のランクの低い魔物に限定しても、その数は相当のものだった。


 ただ、魔物が集中しているのがこのダンジョンと私のダンジョンで、他の地域にはそこまで影響が出ていないことを確信できたのは大きな収穫だ。

 このダンジョンにはウサギという餌があったためだろうけど、私のダンジョンには……ああ、ダームフライを地上部に放っていたんだっけ。それも、繁殖したいという意思を持った連中を。


 ウサギに比べれば数は(文字通り)桁違いに少ないけど、繁殖速度はおそらくウサギよりも上だ。おまけに繁殖に都合の良さそうな水辺に地下のフラップラントを移植もしてるし、ギンたちがちょこちょこ地上に出るついでに魔物を狩っていたため天敵もそこまで多くない。

 一つがいのダームフライ夫妻から生まれた数が百近いなら……四十体くらいのダームフライから誕生する次世代は二……いや、考えるのはやめとこう。

 逆の意味で桁が違うし、どのみち大半はもう他の魔物の餌になっているはず。



 考えてたらちょっと気持ちが沈んできたので、部屋の隅に置いておいたマジックバッグからリンゴを二つ取り出す。

 そういえば、すっかりお昼を食べるのを忘れてたな。ダンジョンの中なのでお腹が減らない感覚でいたけど、自分のダンジョンじゃないので普通にお腹は減るはずだ。ギンとヤシチもなにやら期待するような目で私を見ている。

 あ、戻ってきたらお肉をご馳走するって言っておいて、まだあげていなかったんだった!


「……ミコトさん?」

 慌ててマジックバッグから色々取り出す私に、ハルちゃんが不思議そうに声をかける。


「ごめん、ギンたちにご飯食べさせていい? すっかり忘れてた……私もギンたちも、自分のダンジョンの中じゃないからご飯を食べる必要があるのよ」

「え? そうなんですか?」

「うん、私もダンジョンから出て初めて気づいたんだけどね。あと、ダンジョンの中でも必要ないだけで普通に飲食はできるわよ?」

「それは知ってましたけど……DPに余裕がないし、食欲も感じなかったので食べようとは思いませんでしたけど」


 少ししょんぼりした様子で告げるハルちゃん。ああ、ここでもDPが……というかウサギに餌をあげるんだったら、自分の食事のことも考えようよ?



 まぁ、過ぎたことを今更言っても始まらない。私はきらきらした目を向けているギンたちに内心謝りながらお肉を一度バッグにしまい、手にしたリンゴのうちの一つをハルちゃんに差し出す。


「じゃあ、一緒に食べようか? ちょっと晩ご飯を作るまでの間、これでも食べてしのいでてくれる?」

「……え?」

 目を瞬かせるハルちゃんの手にリンゴを押しつけ、大空洞の方向を目で指し示す。

「火を使うから、あっちの場所借りるわね。あんまり材料がないから簡単なものになっちゃうけど……せっかくだし、一緒に食べましょう?」




 それから大空洞に移動して、大急ぎでバッグに入れてきた薪とマッチで火を起こして簡単な夕食を作る。東の村に行く時に使った竈代わりの石を入れてきて正解だった。

 鍋で芋を茹でている間にギンたちの肉を切って、ついでにバッグに入れたままだったスピアクロウの肉を軽く炒めてソテーにする。


 肉を皿に移し終わったところで芋が煮えたので、こっちも皿に移して塩を一振り。

 それから肉をまた切り分けて塩とハーブでじっくり焼き上げ、お皿の空きスペースに移す。最後に鍋を軽く洗ってから沸かしたお湯にお茶の葉を入れ、コップにかけた布で漉したら飲み物の準備も完了だ。



「ミコトさん、これって……」

 リンゴを手に近づいてきたハルちゃんが、驚いたように言う。


 遠慮しているためかリンゴは手つかずのままだ。というか、もしかしてリンゴは皮を剥いて切ってから食べる派の人だったのか……? ハルちゃんの女子力の高さからしてその可能性は非常に高い。お嬢様学校として名高い有名女子校の生徒だし。

 しまった、自分の完膚無きまでの女子力のなさを披露してしまった……こっちの世界に来てから雑さがますます進化しているし。


「あ、ハルちゃん。準備できたわよ~」

 内心の動揺を押し隠しながら、マントを地面に敷いてハルちゃんに座るよう勧める。


 すでにギンたちはすぐ後ろにスタンバイしているので、お肉の皿をそれぞれの前に置いてから自分とハルちゃんの前に手拭いサイズの布を敷いて料理を並べる。

 ええ、地面にそのまま置いて食べようだなんて思ってませんでしたよ?


 ハルちゃんはやや呆然と並んだ料理を見下ろしている様子。質素すぎて驚いたのだろうか。でも手持ちの材料で時間をかけずに作るとなると、これが精一杯なんです。欠食児童みたいにそわそわと食事を待っているギンたちもいることだし。



「ハルちゃん、座ったら……?」

 そう言って促すと、すとんとハルちゃんは敷物代わりのマントの上に腰を下ろす。


「なにか嫌いなものとかなかった? あとアレルギーとか……この世界の食べ物でも出るのかわからないけど、もし駄目そうだったら言ってね。一応、こっちがジャガイモで味付けは塩だけ、こっちは牛肉っぽいお肉でタイムっぽいハーブと塩で味付け……」


「ミコトさん!」

 呆然と料理を見つめていたハルちゃんが、感極まったように声をあげる。


「わたし、こんなちゃんとしたお料理……もう一月以上見てません! こんな、こんな……」


 涙混じりに告げるハルちゃんに、今度は私が呆然とする。え、普通のというか、むしろあり合わせの材料で作っただけの手抜き料理だよね? そこまで感動するような代物とは思えないんだけど……


 いや、よく考えてみたら一月以上ダンジョンの中で、まともにご飯も食べない生活を続けていたのだ。どんな料理でもそれが料理というだけで感動するのかもしれない。

 そういえば私がヨーコさんの料理を食べた時だって、自分以外の誰かが作った料理というだけで数倍美味しく感じられた覚えがある……ヨーコさんの料理が純粋に美味しいということもあったけど。


 だったら、せめてもう少し手間をかけてきちんとした料理を作って上げればよかったかな。一月ぶりの食事がこんな手抜き料理でちょっと申し訳ない。



「……まぁ、とにかく食べよう? ギンたちもお腹空かせて待ってるし」

 そんな内心を曖昧な笑みでごまかし、ハルちゃんにフォークを渡す。サルサーギ村に行った時に予備の食器を買っておいてよかった。まさかこんなことになるとは思ってなかったけど、あの時無駄遣いと切って捨てなかった自分にグッジョブを送りたい。


「はい……いただきます」

 ハルちゃんが言うのに合わせて、私も「いただきます」と言ってフォークを取る。


 ジャガイモと肉だけの料理はいつもとあまり変わらない味だったけど、一緒に食べる人間がいるというだけでなんか新鮮な気分だ。

 あ、でもちょっと塩が薄かったかも……ジャガイモも茹でるばかりじゃなく、そろそろ蒸かしたのが食べたい。今回は急にダンジョンに戻ることになったから買ってきそびれたけど、牛乳やバターを手に入れる目処もついたし。


 なんて思いながら黙々と料理を口に運んでいると、すぐ隣に座るハルちゃんの方向から鼻をすする音が聞こえてくる。

 見ると、ハルちゃんはフォークを握ったままぽろぽろと涙を流しており、噛み締めた唇からこらえきれない嗚咽が洩れる。



「……ハルちゃん?」

 内心慌てまくりながら声を投げる私に、ハルちゃんは無理に作った笑顔を見せる。

「……美味しいです。すごく……でも、なんだか……」


 それ以上は言葉にならず、ただ涙を流すハルちゃんの頭をぽんぽんと撫でることしかできなかった。

 うん、本当に大変だったよね。まだ全部片づいたわけじゃないけど、ある程度は先が見えてくるようになって、お腹にものも入って、我慢に我慢を重ねていた思いがあふれ出してきたんだろう。


 ハルちゃんは先に私が渡した布をポケットから出して、ぐしぐしと顔を拭くと丁寧に畳んで横に置く。結局食べなかったリンゴもそこに置かれたままだ。



「ミコトさん……本当に、なにからなにまで、よくしてくれてありがとうございます。ずっと一人きりで……わたし、どうしていいのかもわからなくて……ウサギさんは勝手に増えちゃうし、モンスターは入り込んでくるし……その上、まわりに迷惑までかけちゃって」

 ようやく泣きやんだハルちゃんが、鼻をぐずぐずいわせながら涙声で語る。

「もし、ミコトさんが来てくれなかったら……わたし、どうなっていたか……DPもないし、やけになって外に出て……死んでいたかもしれません。誰にも会えないし、自分で作ったモンスターとも話できないし……もう、生きているのがいやになったかも……」


「ハルちゃん……」

 なにを言えばいいのかわからず、結局口にできたのはありきたりな言葉だった。


「……大変だったね。ハルちゃんの気持ち、百パーセントとまでは言えないけど私にもわかるよ。死んだと思ったらこんな場所で、一人きりでダンジョンマスターなんてやらされる羽目になって……もしも神様がいるなら、フェイントからのジャンピングアッパーを食らわしてやりたいって本気で思ったよ」


 ジャンピングアッパー……と呟いたハルちゃんの目に、ほんの少しの笑みと光が戻る。

 ちょっとは元気が出たかな。ちなみに、今の発言は別にウケを狙ったわけでなく掛け値なしの本気です。なんならシャイニングウィザード決めて顎髭むしってやるのでも可。髭を生やしてるかどうかは知らんが。


「でも、ハルちゃん。確かにウサギが大増殖してしまったのはハルちゃんのミスかもしれないけど、そのせいで私、このダンジョンに来ることができたんだよ? それがなければ私のダンジョンに魔物が押し寄せてくることもなかったし、原因を調べにここへやってくることもなかった……これもある意味結果オーライって言えるんじゃないかな?」

「でも……」

「大丈夫、今回の失敗はまだ取り返しのつく失敗だよ。反省してまた同じことをくり返さないようにするのは大事だけど、それ以上気に病む必要はない。とりあえず、今回の件がこれ以上大事にならないように全力を尽くして、全部片づいたら『いや~大変だった』って笑おう?」



 ハルちゃんの目を見つめて告げると、涙をにじませた目に笑みを浮かべてハルちゃんがうなずく。


「……はい」


 私も笑みを返して食事に戻ろうとして……背中をつんつんと突く感触を覚える。

 ふり返るとおねだり顔のギンと、その足下の空っぽの皿が目に入った。……足りなかったのか。足りなかったんですね。

 そういえば、立て続けに色々あったせいで昼を食べるのも忘れていたもんね。しかし、相変わらず空気を読まないというかどこまでも欲望まっしぐらというか……


 そう思ってヤシチに視線を移すと、こちらも遠慮がちではあったけど空のお皿をさりげなく押し出してお代わりアピールされました。……うん、今用意するから待ってて。



 ハルちゃんに一言断りを入れて、バッグの中に入れてあったウサギ肉を取り出してナイフで切り分けていく。そこでハルちゃんも思い出したらしく、ギンたちにご褒美をあげたいというので問い返してみた。


「……ハルちゃん、今DPどれくらい残ってる?」

「…………3です」


 はい却下。もともと二桁しか残っていない上、スキルの使用でけっこう使っているので残り少ないとは思っていたけど想像以上だ。

 というか、いくら生肉だったら1ポイントで作れると教えたとはいえ、ぎりぎりのDPをさらに使おうとするのは止めようよ。


 しゅんとしたハルちゃんにDPが貯まったらね、と言い置いて切り分けたお肉をギンたちにふるまう。

 今、ダンジョンのウサギからお肉が取れるなら……とかブラックな考えが頭をかすめたが、全力でスルーして見なかったことにする。ダンジョン産のモンスターからお肉などの素材が取れるかどうかも未知数だしね!



 ギンたちは食事を終えると満足したようにそれぞれ床(というか地面)でくつろぎ、それを眺めながら私たちも食後のお茶をゆっくりとすする。

 料理はきれいに平らげて、ついでにハルちゃんが食べられずにいた(丸かじりが嫌だったわけではなく、もったいなくて食べられなかったことが判明)リンゴも皮を剥いてデザートに。一個剥くのも二個剥くのも同じなので私もくし形に切ったリンゴをフォークで口に運ぶ。


 ……別にハルちゃんの前で豪快に丸かじりするのが気が引けたわけじゃないですよ? ついでですよ、ついで。


「……じゃあ、人の住んでいる村ってここから450キロくらい離れた場所にあるんですか? 遠いといえば遠いですけど……乗り物があれば行けない距離じゃないですね」

 魔物の話ばかりしているのもあれなので、食事の途中からダンジョンの周辺調査をしていた時のことや、人間の村に行った時の話などもしております。


 ハルちゃんはこのダンジョンから一歩も外に出たことがなく、調査する余裕もなかったためどんな話でも興味深そうに目を輝かせて聞いていた。特に人間の村のことについては、典型的なファンタジー風世界ということもあってわくわくした様子を隠せないようだった。



「ダンジョンがあって、冒険者がいて……魔法とかスキルとか、本当にアニメとか漫画の世界そのままですよね。最初はそれこそ『ダンたん』の世界にでもトリップしちゃったんじゃないかって思ったけど……そういう二次小説もありましたし」

「……おう。ハルちゃん、二次小説なんかも読むほうなんだ……?」


 思っていたよりもディープなオタクであることを告白されました。いや、私も好きな作品の二次は読むけど……それどころか紙媒体にも手を出してるけど。最近はともかく、学生の頃はよくイベントにも足運んでましたけどさ。


 喜々としてコスプレまでやってた過去の記憶が連動的にほじくりだされて、ちょっと精神的ダメージを受けそうになったので記憶をシャットアウトする。

 ええ、髪切る前の最後の記念に某禁書のねーちんをやろうとして、身長はともかく色々ボリュームが足りてなくて諦めたとか思い出したくもない過去までよみがえってきたもので。


 私の(自爆も兼ねた)突っ込みにハルちゃんは少し恥ずかしそうに顔を赤くして、ごまかすように笑って言う。


「その、友達に勧められて……でも、そういうものを読んでいたおかげで、あんな状況に置かれてもパニックにならないで済んだのかもしれません。ちょっと浮かれすぎて失敗しちゃった部分もありますけど……」


「まぁ、確かに漫画かアニメの世界だと思っても不思議はないよね……じゃなければゲームの世界か。DPなんてまんまゲームの設定みたいだし、現実として受け止められるかどうかは人次第ってところか」

 私の場合は真っ先に危機意識がはたらいてしまったせいもあって、フィクションの世界だと思えなかったけど。


 でもそれこそ、ネット小説なんかのダンジョンものにはまっていたりしたら、それを踏襲するような形でダンジョンを作っていたとしても不思議ではない。

 というか、もし私たち以外にも日本人のダンジョンマスターがいたら、ゲーム感覚でとんでもなく危険なダンジョンを作ってたり、〈魅了〉とか〈強奪〉スキルで俺TUEEEをやろうとしたり、新しい発明で経済チートを目指したり……いや、さすがにそれはネット小説の読みすぎか。



「……ミコトさん。わたしたちの他にも、日本人のダンジョンマスターってこの世界にいると思いますか?」


 ネット小説に毒された発想はともかく、似たようなことを考えたのかハルちゃんが確かめるような言葉を口に出す。


「あの地震……規模からいって、私たち以外に亡くなった人がいてもおかしくないですよね。もしわたしとミコトさんの他にもあの地震で亡くなった人がいたら、わたしたちと同じようにこの世界でダンジョンマスターとして生まれ変わっているかも……」

「……うん。私もちょっとそれは考えた。ただ、私やハルちゃんはフィクションでダンジョンってものがなにか知ってたからいいけど、そういうものに触れたことのない人がいきなりダンジョンマスターにさせられたら、悲劇なんてもんじゃないよね? それこそ、小さい子供とかお年寄りとか……」


 私の言葉にハルちゃんもその可能性に思い当たったらしく、あっという表情になって口元に手を当てる。

「それは……ちょっと、嫌ですね。だったら、わたしたちが生まれ変わったのはたまたまで、他に日本人のダンジョンマスターはいないって考えたほうがまだ……いや、ずっといいです。そんな小さい子供がたいへんな目に遭うくらいなら……というか、あの地震の犠牲者がわたしたちだけで済んでいるなら、それに越したことはないですし」


「だよね。本当に、それなら一番……でも、だとしたらすごい偶然かも。私もハルちゃんも、アニメとか漫画とかが好きでダンジョンってものに関する知識もあって……しかも、100キロくらいしか離れていないダンジョンのダンジョンマスターに生まれ変わったんだから」

 ご近所さんというには100キロは少し遠すぎるが、この世界全体でどれだけのダンジョンがあるかもわからないことを考えると、十分近所と呼べるような気がする。


 それを言うと、ハルちゃんも「100キロがご近所さんですか……」と苦笑を浮かべる。

 でも一番近い人間の村まで450キロ以上あるという現状のためか、私の言葉を否定しようとはしなかった。



「……もしかしたらですけど、ダンジョンというものに関する知識があることが、この世界でダンジョンマスターに生まれ変わる条件なのかもしれませんね。私やミコトさんがそうなったのもたまたまじゃなくて、アニメとか漫画でそういう知識があったから……」

「ああ、それはあり得るわね。まぁ、私とハルちゃんの二例しかないから、まだ断言するには早すぎるけど」


 私は笑ってハルちゃんの言葉に同意する。ただ、そうだとしたら私たち以外にもこの世界でダンジョンマスターになった人間がいる可能性が高くなるということは、あえて口にはしなかった。


 ハルちゃんも言った通り、あの地震で亡くなったのが私たちだけならそのほうがいい。

 あれだけの地震で、犠牲者が二人だけというのは考えにくいことだけど……そうであって欲しいと思わずにはいられなかった。目を伏せて口を閉じた表情を見る限り、きっとハルちゃんも同じことを考えているのだろう。



 なんとなく重くなった場の雰囲気を切り替えるために、私は「さて!」と少しばかり大きく声をあげる。


「食事も済んだし、一休みしたらとりあえずダンジョン近辺の魔物を追い込んで片づけていきましょうか! さすがに残存DPが3っていうのは心もとないどころじゃないし!」

「……え? でも、もう外は暗くなっているんじゃ……?」


 私がここへやってきた時、すでにお昼を過ぎていたことは話してある。それからもう六時間くらいは過ぎているから、確かに外はもう夜だろうけど……

「ギンもヤシチも、別に夜でも普通に行動できるから大丈夫よ。私も〈暗視〉スキルを持っているし……まぁ、私がついていったらかえって邪魔だから、ダンジョンに残って指示だけ送る予定だけど」



 とりあえずダンジョンに何体か魔物を追い込んで倒してもらって、ハルちゃんのDPを回復するのが先決だ。

 今のままじゃスキルを使うのにも不安がある。〈探知〉が使えるようになれば、いきなり高ランクの魔物に遭遇する危険は減らせるし。


「というわけで、ギン、ヤシチ。食休みが終わったらもう一仕事頼むわね。さっき調べた限りじゃ、このダンジョンの近隣にはそこまでランクの高い魔物はいなかったから、ちょっとした腹ごなし程度かもしれないけど……でもなにが起こるかはわからないから油断は厳禁!」

 だら~と寝そべっていたギンが跳ね起きるのを見て、慌てて釘を刺す。


 どうしてこうも血の気が多いのか……飼い主に似てるなんてことはないよね? 私は平和と平穏をこよなく愛する安心安全第一主義の現代人ですよ?


 ヤシチも控えめながらやる気を見せているので、まずはダンジョンの近場だけだと注意した上で二体を裏口からダンジョンの入口まで連れていく。

 ハルちゃんはまだ不安げな様子だったが、ダンジョン内に入り込んでいた魔物を一掃したギンたちの実力を信じることにしたらしくなにも言わずに案内してくれた。



 非常口の扉を開けてギンとヤシチを送り出すと、即座に〈視野借用〉でヤシチの視野をウィンドウに映し出す。

 〈暗視〉に〈鑑定〉も発動させれば、視野内に存在する魔物の強さを表示する簡易索敵装置の完成だ。肝心のCPUが私の頭というのが限りなく不安だけどないよりはマシなはず!


 まぁ、幸いハルちゃんの〈探知〉でチェックした時と変わらず、近場にはランクの低い魔物しかいなかったので、適当に何体かダンジョンに追い込んでもらって入口で仕留める。

 今回はランク4のジャイアントトードが五体。ギンが弱めの〈号咆〉で驚かせてヤシチの〈旋風〉で逃げる方向を制限して、ダンジョンの入口に飛び込んだところをギンがぺしっとパンチ一撃で仕留めた格好だ。


 楽勝過ぎてちょっと気が抜けるけど、これでもカマキリ先生と同じランクなんだよね。

 あれからギンたちがどれだけ強くなったのかを実感させられる。いや、本当にカマキリ先生はトラウマを残してくださったから……



「ハルちゃん、DPは?」

 非常口のすぐ近くで待機しながら、ハルちゃんに問いかける。


「……ええと、100ポイント入ってます! これなら、すぐにでも使役モンスターを……!」

「ストップストップ! 弱いモンスターを作ったって、即死亡されたんじゃDPの無駄になるだけだって言ったでしょ! それにスキルを使う分のポイントだって必要だし!」


 ぱっと顔を輝かせてウィンドウを操作しようとするハルちゃんを慌てて止める。思ったけど

ハルちゃん、見かけとは裏腹になんでもスパッと即断派な上うっかりな部分まで持っていて、見ていてかなり危なっかしい。


 あっという顔になったあとで肩を落とすハルちゃんに、ギンたちに疲れが残っていないかと聞いてから〈探知〉を使うように頼む。


「ギンたちも体力には余裕があるみたいだから、このままダンジョン近辺の魔物を追い込みにかかるわ。あ、でもその前にダンジョンの入口を封鎖していた扉を消去してもらっていい? DPはもったいないけど……扉って開けておいても時間経過で勝手に閉まっちゃうから、わざわざ何度も開けに行くより消しちゃったほうが早いでしょ?」


 私の言葉にハルちゃんはうなずいて、入口の下の通路に設置した扉を消去する。

 さらに停止状態にあった罠も再起動させた旨を私に伝える。これで、ダンジョンに魔物を追い込む準備はできたけど……最後にもう一度、ハルちゃんの顔を真正面から見返して私は問いかける。


「……ダンジョンに外の魔物を追い込んだら、ウサギに被害が出ちゃうかもしれないけど……本当にいいのね?」

「はい。一応、群れで隔離してあるウサギさんはそのままになってますし……隔離できなくてダンジョン内をうろついているウサギさんに関しては、仕方ないと思うことにします。魔物が入ってこなくても、罠に引っかかって死んでしまう可能性だってありますし……」


 ちょっと悲しそうな顔を見せながらも、覚悟をにじませた声でハルちゃんは告げる。

 よし、だったら作戦実行だ。まだ高校生になったばかりの女の子にこんな顔をさせてしまう自分に、大人として内心忸怩たるものはあるけど、どうにもできないものは仕方ない。割り切って次を考えよう……じゃないと私が精神的に潰れる!


「わかった。じゃあ……やるよ?」

「はい!」


 ハルちゃんが〈探知〉と〈看破〉を発動させて近隣の魔物の位置とランクを表示させるのを待って、ギンたちに指示を送る。

 とはいえ、ギンたちも(というか主にヤシチが)私の作戦の狙いをおおむね理解している様子で、群れている魔物に向かってギンを誘導している。


 私の役目はハルちゃんが表示してる魔物の光点の密集している部分をギンたちに教えることと、ランクの高い魔物が接近していないか目を光らせることくらいだ。

 サポート要員としてのヤシチの頼もしさが半端ないです。あと、突撃隊員としてのギンの戦力っぷりが……ごめん、ギンに関してはそれ以外に誉めようがない。


 一応、その場で狩らずにダンジョンに追い込んでいるのは偉いが、ヤシチの誘導がなかったら明後日の方向に逃げられていそうだ。あと、うっかり手加減を忘れてぷちっと即死させる場面も何度か……何度も何度もあったり。


 まぁ、ギンなりに頑張ってくれてるのは確かだし、安全圏で指示だけ出している私には偉そうなことを言う資格なんてないけどね!

 とにかく無事に、何事もなく戻ってきてくれることだけを願っています!



 そんなこんなで、ダンジョンの入口から半径2キロくらいの範囲の魔物の群れをギンたちに追い込んでもらって、〈探知〉のスクリーンに映る魔物の点が当初の三分の一くらいの密度になったところで。


 経過した時間はだいたい二時間。だけど、別に表示してもらったダンジョンマップを見るともうかなりの過密状態だ。

 ダンジョンの領域半径は1キロで、それが三層だとしても廊下とか部屋とかを複雑に配置してあるのでフルにそれだけの面積があるわけじゃない。おまけに裏口とかウサギを隔離してあるスペースでさらに削られるわけで……


 このあたりが限界だろうと考えて、一度ギンたちに戻ってきてもらうことにする。

 さすがにいい時間だし、ギンたちには今日はもう散々働いてもらったし。まだまだ先は長いのだから、無理せず休める時には休んでおきましょう!



「……とりあえず、今日のところはここまでにしとこうか。ダンジョンに追い込んでおきさえすれば、滞在によるDPは入ってくるし……どうせなら、滞在ポイントを稼いでから仕留めたほうがいいでしょ。ギンたちもさすがに疲れてきてると思うし……」


 〈伝心〉で届くギンの感情が、「次はどこ? どこ?」みたいな元気いっぱいなものであることは内緒だ。

 いや、ヤシチはそろそろ体力的に厳しいだろうし……サポートに徹して体力は温存してるから大丈夫、みたいなイメージが伝わってきたけど、いい加減そろそろ休もうよ! それにギンは自分の限界を考えないタイプだから、いきなりスイッチが切れそうで怖いんだよ!

 味方パーティーの残り体力を示すHPバーでもあればならともかく、数値で把握できていないから真面目に怖い!


 滞在ポイントまで余すところなく稼いだ上で殺そうという私の極悪非道な発想はともかく、ギンたちの体力はハルちゃんも心配していたようで素直に同意が返される。

 よし、ここのダンジョンマスターはハルちゃんだからその意向は汲まないと。というわけで撤収、撤収ですよ! 物足りないとか言ってないで、さっさと戻ってきなさいこの鉄砲玉狼!




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