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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第二章 同業者仲間ができました。できた途端にヘルプが飛んでまいりました
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2 蹂躙戦と新たなる疑惑



「あの……ミコトさん?」


 画面を見たまま固まっている私を見て、ハルちゃんがちょっと心配そうな表情で声をかけてくる。


 ああ、うん……これくらい覚悟しておくべきだったよね。言葉で聞くのとビジュアルで見るのとでは大違いとはいえ、ダンジョンからあふれ出すくらいに増殖してしまったというのなら、これくらいの数がいてもなんの不思議もない。



「あ~、大丈夫、ちょっと驚いただけ。閉じ込めている魔物……モンスターってここに映っているだけ?」

「いえ……ビジョンで映し出せない場所に隠れているものもいるので。マップのほうには表示されるので、群れに関しては大半が隔離できたんですけど」


 言ってハルちゃんが見せてくれたダンジョンマップには、ウサギらしい白い点がびっしりと表示されていた。

 それとは別に黄色やオレンジの点が塊になっている部分があり、どうやらそれが外から入り込んできた魔物の群れのようだ。


 ハルちゃんのダンジョンの構造は三つの円形の階層を縦に重ねた形で、一つ一つの階層には入り組んだ廊下や大小様々な部屋が配置されている。なんというか『ザ・ダンジョン』とでも言いたくなるような正統派のダンジョンだ。


 第一層は洞窟風で罠はなく、ところどころにモンスターと戦うための空洞がある。

 扉や罠はなく、複雑な迷路の先にあるボス部屋で仕掛けを動かすと下の階層に行くための階段が現れるようになっている。

 本来ならボスモンスターを倒すことで階段が現れる仕様なのだが、DPの関係上ボスを配置できなかったので仕掛けに変えたそうだ。



 ハルちゃんいわく「だって、『ダンたん』で出てきた第五層のボスって、ミノタウロスなんですよ! 残ったDPじゃとても作成できなくて……」とのこと。

 それなら他のモンスターを配置すれば……と思ったけど、ハルちゃん的には第五層のボスはミノタウロスでなくてはならないという強いこだわりがあったようだ。



 第二層は人口的な通路が続くエリアで、ここには落とし穴やスイッチを踏んだら矢が飛んでくる仕掛けなど、様々な罠が仕掛けられている。

 ただ、仕掛けは現在すべて停止状態になっている。というのも、ウサギが大増殖した結果ダンジョンのあちこちへ勝手に移動してしまい、罠にかかるものも出てきたため急遽停止したらしい。


 その結果、ますますウサギはダンジョンの至るところに入り込むようになって……仕方なく空き部屋に餌となる植物型モンスターを配置したら、そこでまた繁殖を始めてしまったという。現在は餌のある部屋を中心に、一番多くのウサギが群れをなしているエリアだ。


 で、第三層は再び洞窟風のエリアなんだけど、途中に地底湖があったり断崖絶壁があったりと、いかにもアニメかゲームにでも出てきそうな風景が続いている。

 枝分かれした通路の先にあるのはおそらく中ボスが配置されるだろう空洞で、今は大半が外から入り込んできた魔物の巣になっている状態だ。


 空洞の中にいる魔物は閉じ込められている状態だが、マップを見た限りでは外を歩き回っている魔物もそれなりにいる様子。

 ダンジョンにはダンジョンコアに至るメインルートを完全に封鎖することはできないという制約と、侵入者の存在するフロアの構造を変更することはできないという制約がある。魔物のいる部屋を岩などのオブジェクトで塞いでいるのはそれが理由なんだろう。


 ちなみにハルちゃんが最初にウサギの餌場を作ったのは第三層の奥にある大空洞で、最初はウサギもそこを中心に群れを作っていたらしい。

 ただ、数が増えるに従って強い群れが餌場を独占するようになり、最後に外から入り込んできた魔物の群れがそこにいたウサギを刈り尽くしたことで群れはほぼ消滅した、と。



 というか罠や仕掛けの作動を停止していなければ、ここまで外の魔物に入り込まれることもなかったろうし、ウサギも多少は間引きすることができたんだろうけど……そのへんは言わないであげたほうがよさそうだ。

 聞けばまだ十五歳(高校にあがったばかり)というし、そんな年齢の女の子にウサギが罠にかかるところを見て平気でいろというのも酷な話だろう。


 自分でもウサギが増えすぎてしまったことや、外から入り込んだ魔物にウサギが惨殺されていることで自分を責めている様子なのに、さらに不手際を責めるようなことを言ったところで意味がない。




「……とりあえず、ウサギの数は三百体以上。外から入り込んできた魔物は百から二百体ってところみたいね。罠や仕掛けの類は今は停止しているから、ダンジョン内を移動したところでそれに引っかかる心配はなし。あ、でも鍵のかかっている扉は通れないんだっけ?」

「鍵の掛かっている扉は、今は入口とダンジョンコアの部屋……あと裏の通路にしかないので大丈夫です。メインルートには罠と仕掛けしかないので……慌てて全停止させてしまったせいで、今大変なことになってるんですけど」


 声のトーンと一緒に肩を落とすハルちゃん。仕掛け(鍵もだが)の類はダンジョンの外方向に対してのみ有効なため、第三層に放していたウサギが勝手に第二層に行ってしまい、それに気づいて慌てて罠を停止させたとのこと。

 ただ、慌てたせいで仕掛けも罠も一緒くたに止めてしまい、ウサギ目当てに外の魔物が入り込んだことで再起動できなくなり、その結果一番奥の大空洞にまで入り込まれる事態に至った、と。



 となると、問題はうろついている魔物とのエンカウントくらいか。

 ランク的にはギンたちの敵になるような相手じゃないけど油断は禁物だ。なにしろ、ダンジョン内での戦闘は初めての体験……でもないが、見通しの悪い廊下で、いつ別の魔物が現れるかわからない状態で戦闘をした経験はギンたちにもない。


 ハルちゃんを一緒に連れて行けばそのあたりは解決するけど、戦闘の現場にか弱い女の子を引っ張り出すなんてことはやりたくない。

 もしどうしても連れて行くというなら、せめて私も一緒に……となると、護衛をする人数が倍になってギンたちの負担が増えるという。うん……大人しく引っ込んでいるのが一番のようだ。


 それにしても、今ダンジョンに残っているウサギって、外に追い出されたり入り込んできた魔物に襲われたりした残りのはずだよね?

 まぁ、一度減ってからまた増えたという可能性もあるけど。外に追い出されたウサギの数ってどれくらいになるんだろう……同数程度だったとしても、三百体? それだけのウサギが外に出て行ったら、他の魔物がわらわら集まってきて当然……



「……ミコトさん?」

 思わず口元を押さえて黙り込んだ私に、ハルちゃんが怪訝そうな目を向ける。


 自分でも顔が引きつっているのがわかったから当然だろう。そう、思い出してしまったのだ。ダンジョンの外に出て行ったウサギがさらに繁殖して増えた場合――それを捕食する魔物が連鎖して増え、その上の捕食者が豊富な餌に引き寄せられてやってくる可能性があることを。


 それが最終的になにを引き起こすか、東の村で聞いてきた私にはわかっている。すなわち、今このダンジョンの外で起こりかけている事態。魔物の大移動だ。



「あのさ……ハルちゃん?」

 ぎこちなく口を動かし、恐る恐るハルちゃんに顔を向けて問いを口にする。

「外に逃げたウサギの数ってどれくらい? あと、外にウサギが逃げ出してからどれくらいの日数が過ぎているかな?」


「……気がついた時にはもうこの状態に近かったので、正確な数はわかりませんけど、たぶん今残っている数の倍は越えていると思います。最初は餌場の数も少なかったですし……日数もちょっとわからいんですけど……でも、二週間以上はたってると思います。わたしが確認した時、もう餌場を巡って争っている状態だったので」


 私の口調の硬さにつられたように、やや緊張した声と表情でハルちゃんは答える。

「あの、なにか問題が……?」


 不安そうなハルちゃんに「いや、ちょっと気になったから」と言って手を振ってごまかし、ダンジョンマップに視線を戻す。

 口ではそう言ったものの、内心は冷や汗でじっとりだ。

 考えれば考えるほど、このダンジョンから溢れたウサギが魔物の移動を引き起こした原因になっているように思えてならない。


 いや、落ち着け自分。たった六百体のウサギがダンジョンから出て行ったくらいで……影響ないわけがない!

 だって最弱のウサギだよ。それが六百体って、近隣の魔物にとっては餌が群れなしてやってきたようなもんだろうし、それだけの数がいたら外で繁殖する個体も絶対に出てくる。


 ウサギ――ラビットの繁殖速度がどの程度かはわからないけど、ダンジョンでの増殖っぷりからして子供の数も多そうだし、成熟するのも早そうだ。それが六百体……うん、逃げた数以上に増えている気がしてならない。

 とすると、最悪このダンジョンの周辺には総数千体以上のウサギが放たれたわけで。



 思わず頭を抱えてしまった私に、ハルちゃんが「ミコトさん!?」と慌てた声をあげる。

 ギンたちもぎょっとした様子だったけど、応じる気力は今のところなかった。まだ確証はないけど本当にこのダンジョンが魔物の移動の原因だった場合、ハルちゃんにどうやって伝えたらいいんだろう? 絶対に気に病むよ……


「……いや、うん、大丈夫。ちょっと怖い想像しちゃっただけだから。とりあえず、今はダンジョンの中の魔物をどうにかすることだけ考えよう。外の魔物のことについては、またあとで考えることにして……」


 ひとまず、魔物の増殖の原因については確証が持てるまで棚上げにしておく。ダンジョンが原因でない可能性だってあるんだし、今の段階で推論を話したところでハルちゃんを傷つける以外なんの効果もない。沈黙は金です。

 ただ、ハルちゃんは私の様子を見てなにを感じ取ったのか、おずおずとした口調ながら強い意志を込めて提案してきた。


「ミコトさん……もし、外の状況のほうが急いで対処しないといけないんだったら、そっちを優先してください。わたしのダンジョンは後回しでいいですから……今のところ、外からモンスターが入ってくることは防げていますし、餌が足りなくなったせいかウサギさんも前ほどは増えなくなっています。隔離できなかったモンスターにウサギさんが襲われたり、ウサギさん同士での争いもあるけど……それは、仕方のないことですから」



 どうやら私の表情から、外の状況が思った以上に悪いと判断したようだ。

 放っとけば非常にまずい事態になるのは確かなんだけど……ダンジョンの中以上に、どこから手を付けていいのかわからない状況なんだよね。

 

まずはダンジョンの外の魔物の分布状態を調べて、本当にここが魔物の移動を引き起こしている元凶なのか確かめて……いや、ここが原因であろうとなかろうと魔物の移動の原因を断たないといけないことに変わりはない。

 このダンジョンが原因ならウサギという餌を求めて集まってきた魔物を狩れば多少は落ち着くのかもしれないけど、他に要因があるのならそれを調べ上げるところから始めないとならない。


 いやいや、魔物の移動の原因を調べようと思ったのは自分だし。ちょっと長い道のりになりそうだからって遠い目になってる場合ではない。

 それに、最悪自分の手に負えそうにない時は村に行って待避のお手伝いだけでもする予定なんだから、ここで調査を投げ出すわけにはいかない。


「……うん。ちょっと待って。今考えるから……もしダンジョンの魔物を片付けるのに時間がかかりそうなら、外の調査を優先させてもらうかもしれない。もともとそれが目的で来たわけだし、大規模な移動が起きたら人間の村にも影響が……」


 そこまで言って、慌てて口をつぐむ。このダンジョンが原因になっている可能性が残ってる状況で、人間の村に影響が及ぶかもしれないなんて話はすべきじゃない。

 だけどすでに遅く、ハルちゃんは目を大きく見開いて私の顔を見返していた。



「それ……大事じゃないですか! わたしのダンジョンのことなんて後回しでいいです! 今すぐ調査に行ってください! じゃないと、大変なことに……」

「い、いや、今すぐどうこうってわけじゃないから! それに私とギンたちでしらみつぶしに調べるしかないから、どっちみち時間はかかるし!」


「時間がかかるんだったら、なおさらです! こんなところで時間取ってて、もし取り返しのつかないことになったらどうするんです! わたしも……そうだ、わたしになにか協力できることはないですか!? なにか手伝えることがあったら言ってください!」

 身を乗り出してきて勢い込んで告げるハルちゃん。ちょっと、気持ちはわかるけど近いよ、近い、近すぎるって!


 思わずのけぞる格好になった私を見て我に返ったのか、ハルちゃんは少し顔を赤くしてもとの体勢に戻る。



「あ、ごめんなさい……でも、できることがあったらなんでも協力します。この世界の人には会ったことないけど、ミコトさんがわざわざ調査に来るってことはいい人たちなんですよね、きっと。そんな人たちが危険な目に遭うなんて私だって嫌です!」

「うん……気持ちは嬉しいけど、ハルちゃん、今モンスターも作れないくらいDPが不足しているでしょ? それとも、なにか偵察に向いたスキルとか取ってたりする?」


 耳かき一杯分ほどの期待を込めて尋ねると、ハルちゃんはみるみるしおれた様子になって深くうなだれる。ああ、答えなくてもわかります。ないんですね……


「ま、まぁ! 気持ちだけは本当にありがたく受け取っておくわ! もともと自分たちだけで調べるつもりだったんだし! 自分のダンジョンは後回しでいいっていうハルちゃんの気持ちだけで、十分勇気づけられたから!」


「そうですね……せめて、あと何日かDPを貯めてからだったら、〈探知〉のスキルを取ってお手伝いするって手も使えましたけど。そんな余裕ないですよね……」

 がっくりと肩を落としたままハルちゃんが口にした言葉に、手を振り上げた姿勢のまま私はぴたりと動きを止める。


 ちょっと間抜けなポーズだったかもしれないが、それを気にしている余裕はなかった。……今、なんと言いましたか?



「……ハルちゃん、〈探知〉って?」


「え? あ……指定した生き物や物品を探すスキルです。ダンジョンマップのスキル版みたいな……ただ、ダンジョン以外でも使えるという点では違いますけど。ああ、でもレベルが低いうちは効果範囲も狭いし、それほどお手伝いの役にはたてないかも……」

 自分で結論を出してため息を吐くハルちゃんの肩に、振り下ろした手を勢いよく置く。


 ぎりぎり寸前で力を弱めたおかげで痛い思いはさせないで済んだようだが、かわりに驚かせてしまったらしくハルちゃんが「きゃっ」と小さく悲鳴をあげた。


「でかした! ハルちゃん、それでいこう!」

 だけど私の口から出たのは謝罪の言葉ではなく、喜びを隠しきれない声だった。


「え? ええっ!? だって、時間がないんじゃないですか!? まさかDPが溜まるまで何日も待つんですか!?」

「待たなくてもDPは手に入れられるわよ! 今ダンジョンに入り込んでる魔物をギンたちに狩ってもらえば、死亡によるDPが入ってくるもの! 滞在で得られるDPなんかよりずっとたくさんのDPが!」


 他のダンジョンのモンスターが狩ったとしても、たぶん同士討ちや事故死と同じ扱いになるはずだ。まさか、遠隔で私のダンジョンにDPが入ったりはしないよね……?

 一応、一体か二体試しに倒してもらってから、ハルちゃんにDPを確認してもらおう。


 ダンジョン内での戦闘のネックである見通しの悪さだけど、よくよく考えればハルちゃんを現場まで連れて行かなくても、私がハルちゃんにダンジョンマップを見させてもらって安全圏から指示を出せば済むことだ。


 それで不意打ちによるリスクは大幅に下がるし、魔物の居場所についてもナビゲートできるからダンジョン内を無駄に歩き回る必要もなくなる。

 私とハルちゃんの安全も確保できるし、ギンたちも足手まといを抱えて戦闘しないで済む。どうして、こんな簡単なことに思い当たらなかったのか……!



 ただ、ここで一つだけハルちゃんに覚悟してもらう必要がある。ギンたちを魔物と戦わせるということは、残酷な映像を目にすることを意味しているわけで……


「それなら大丈夫です! ……もう十分、ウサギさんが狩られる映像とか食べられる映像とか見てきましたし。モンスター同士で争いになるところも何度か見ました。オークがゴブリンを殴って、捕まえて、手足を引き千切ったりするところとか……」


 力強く言い切ったハルちゃんだが、言葉が進むにつれて目のハイライトが消えていく。

 グロ画像体験済みでしたか……嫌なものを思い出させてしまったみたいですまぬ。というか、その映像は私でもかなり精神にきそうです。



「でも……本当にいいの? せっかく入ったDPをスキルに使っちゃって……他になにか使いたいこととかあるんじゃないの? もしそうなら、DPが入ってもスキルは取らなくていいから……」


「なにを言ってるんですか、ミコトさん!」

 憤然とハルちゃんが私の言葉を遮って言う。本気で怒っているのがわかって、正直ちょっと怖かった。


「ミコトさんにモンスターを殺してもらって、DPだけもらって、あとはなにもしないなんて恥知らずな真似できるわけないじゃないですか! 見損なわないでください! ミコトさんのモンスターだって、確かにランクは高いかもしれないけど戦闘なんて危険なことをさせるのに変わりはないんですよ!」


「あ、ご……ごめん。ハルちゃんを馬鹿にする気はなかったけど、そう受け取られても仕方がないよね。本当にごめん」

「……いえ、私こそ大声出してすみません。でも、今言ったことは本気ですから」

 少し声のトーンを落とすハルちゃんだが、その目はしっかりと私を見つめていた。


「ミコトさんのおかげで手に入れることのできたDPだったら、ミコトさんのために使うのが当たり前です。それにわたし、言ったじゃないですか。ミコトさんが助けたいと思うような人たちなら、わたしも助けたいって。お手伝い、させてください」



「……うん」


 一瞬も揺るぎなく私を見据えて告げるハルちゃんに、視線を合わせたままほんの少し口元をゆるませる。

 今とても、こうして会うことができたのがハルちゃんでよかったと思っている。自分の無事よりお母さんが生きているだろうことを喜び、自分が困っていることよりも相手が気にしていることを優先し、自分が会ったこともない人たちを助けたいと素直に思える。


 たった十五歳で、死んだと思ったら見知らぬ世界に放り込まれてたった十日でダンジョンを作るはめになって、やっと作ったと思ったら次々トラブルに見舞われて。それでも人のことを考えられるこの子を本当にすごいと思う。


 ……好きなアニメの話になるとちょっとネジが外れてしまうみたいだけど、オタクだったらその程度は可愛いもんだよね!




「……よし。じゃあお言葉に甘えて、ハルちゃんに〈探知〉を取ってもらうことにする。私が取れれば一番だけど、ダンジョンの外じゃスキルは使えても新しく取ることはできないからね……ダンジョンを出る前に〈探知〉のことに気づけばよかったんだけど」


 うっかり見落としていたのが本当に悔やまれます。少なくともハルちゃんに比べたらDPに余裕もあるんだし、本来ならここは私がスキルを取るべきだと思うんだ。


「仕方ないですよ。わたしだって暇にあかせてダンジョンの説明を読んでなかったら気づいていなかったと思いますし……それでもまだ全部に目を通した感じが全然しないあたり、本当にどれだけの情報があるのかと」

 困ったような笑みを浮かべて告げるハルちゃんの目がやや遠くを見つめるものになる。


 ハルちゃんも読み切れなかったのか……何日読んでたのかは知らないけど、本当にどれだけの量があるんだろう。あるいは、ダンジョンマスターの思考を読み取って無限に増え続けるものだったりするのかも……



 ちょっと怖い想像になってしまったが、それはともかくハルちゃんのダンジョンに巣くっている魔物を始末することが決定したからには、迅速に行動に移る必要がある。ギンとヤシチに視線を合わせ、今回の指令を伝える。


「ギン、ヤシチ。ちょっと大変かもしれないけど、ここのダンジョンに居座ってる邪魔なお客さんを片付けてもらってもいい? ウサギ――ラビットもいるけどそれは除外で、他の魔物を全部始末して欲しいの。場所は私のほうで指示するから……二体だけで行ってきてもらえる?」


 ギンは床に寝そべって、ヤシチはヘッドボードからしきりに周囲を見回して話を聞いている様子はなかったから、少しだけ遠慮がちな問いかけになる。

 よそのダンジョンの話だし、ギンたちに頼むのも筋違いという気がしなくもない。


 ……しかし杞憂でした。私の言葉を聞いた途端ギンは目を爛々と輝かせて立ち上がり、ヤシチはそれをちらっと見てから小さく「クッ」と声をあげる。

 なんとなく苦笑してるようなニュアンスが感じられるのは、ギンの張り切りぶりを見てフォローが大変そうだと思ったか、それとも私に対して水くさいとでも言いたかったのか。


 どちらにせよ、ギンたちにも異存がないというのははっきりとわかった。私は立ち上がるとギンの騎獣具を荷物ごと取り外し、思いきりわしわしと首筋を撫でてやる。


「それじゃあ、お願いするね――ただし、ギンは例のごとく突っ込みすぎないように。いくら相手が自分より下のランクだからって、なにも考えずに突撃ばっかりしてたら痛い目を見ないとも限らないんだからね? もしかしたらこのあと、もっと強い魔物と戦うことになるのかもしれないんだから絶対に怪我なんてしないように!」


 わふ、と返ってくる声はいつもながら自信に満ちているんだけど、こと戦闘となるとタガが外れるというかタガの存在自体を忘れるのがギンという生き物だ。

 ……うん、いつものようにヤシチという外付け思考回路に期待することにいたします。ヤシチも自信満々で鋭く光る爪を見せつけてるし……それはいざとなれば実力行使という意味ですか?



「わたしからもお願いします。ギンさん……に、ヤシチさん? いきなり頼るようでお恥ずかしいですけど、きっとミコトさんにもあなたがたにも恩返しできるようになります。だから、その……どうかお気をつけて」


 私が声をかけているのを見て、ハルちゃんもベッドから立ち上がって腰を屈めてギンたちに目を合わせ、真剣な顔つきで言う。なんというか、本当に律儀な子だなぁ。自然に顔に笑みが浮かぶのを感じながら、ギンたちにさらに告げる。


「怪我なしで帰ってきたらご褒美くれるって! もちろん、私からも特盛り肉を進呈だよ! 頑張って働いて、美味しいご飯をみんなで食べようね!」

「え? ミコトさん……!?」


 ハルちゃんが慌てた声をあげるけど、ギンたちのテンションはそれ以上に跳ね上がったようだった。

 大丈夫、ギンたちのご褒美は普通にお肉でOKだから。なんなら私のマジックバッグからこっそり横流ししてもいいし。



 張り切って飛び出していこうとするギンたちを慌ててなだめ、ハルちゃんに魔物の巣に近い位置にある出口を教えてもらう。

 裏の通路を通って……とか思っていたら、なんとダンジョンコアの部屋のすぐ隣が第三層の大空洞とのこと。別の部屋で鍵を手に入れる必要があるため、知能の低い魔物に開けられる心配はないようだけど、私だったらとても落ち着いていられない状況だ。


 ともあれ、すぐ近くに魔物の群れがいるならあれこれ考える必要はない。

 ハルちゃんにダンジョンマップを表示したままにしておいてもらって、ギンとヤシチを連れて隣の部屋に移動。向かって右側の壁に設置されたドアを確認すると、ちらりとハルちゃんを見やってうなずきが返ってくるのと同時にノブを掴んでドアを開ける。


 開いたドアの隙間から飛び出していったのは、今回はヤシチが先だった。

 ほんの一瞬遅れたギンが、不平でも唱えるように一声吠えてヤシチのあとを追っていく。二体の姿がドアの向こうに吸い込まれるのと同時に、私は勢いよくドアを閉める。


 ハルちゃんが「え!?」と目を丸くしてるけど、ギンたちはともかくダンジョンマスターの私たちはランク2の魔物にでも余裕で負けるくらいの戦闘力しかないんですよ? それともハルちゃん、実は攻撃力Aの戦闘型ダンジョンマスターだったりするんでしょうか?



 ハルちゃんが表示したままにしてあるダンジョンマップを見ると、第三層の奥にある空洞の中の光点がものすごい勢いで消えていくのがわかる。

 ついでに、ビジョンで映し出されている空洞の光景が……おおう、スプラッタ映像というかもう完全にギンとヤシチの無双状態。ゴブリンの血が青黒い色をしていることもあって、ゲームの雑魚蹂躙戦を見ているような感覚しかない。


「うわ……」

 同じ映像を見ているハルちゃんがちょっと引いているような気配を感じるが、なにしろ十もランクが離れていればこんな状態になるのは当たり前だ。


 相性もあるのだろうけど、ランクが二つ違うだけで二対一でも大苦戦するのがこの世界のモンスターの現実。ええ、カマキリ先生とか先生とか。

 なのにランク下の相手を警戒しすぎじゃないかって? 雑魚相手に無双やっているところに格上乱入とか、ランクは下でも厄介な状態異常を引き起こす相手が出てくるとかないとは言えないじゃないですか!

 ゴブリンだったら私のダンジョンの近所で何度も戦っているからどの程度の相手かよくわかっているけど、初見の相手はすべて警戒してかかるのが私のやり方だ。



 なんて思ってるうちに、大空洞のゴブリンを表す光点はすべて消え去っていた。

 ゴブリンの死体が全部光の粒子になって消え去ったあとで、大空洞周辺の光点の動きを確認してからそろそろとドアを開ける。


「よくやってくれたね! ギン、ヤシチ、お見事!」


 大空洞に出てまず最初にやったのはギンとヤシチの働きを誉めることだ。

 点々とゴブリンの返り血が付いているけど、そこは気にせずわしゃわしゃと身体中を撫でてやる。手だの服だの汚れたって、そんなのあとで洗えばいいことですよ! 服に至っちゃ衣装チェンジすれば洗う手間すら必要ない。


 にしても、死体は消え去るのに返り血は消えないってどういう仕組みなんだろうね。どうせなら全部消えて欲しいと思ってしまうのは、ただのわがままなんだろうか?



 ギンとヤシチは撫でられるがままになっているが、ぎらぎらと輝く目が次の獲物はどこ、と言っているように感じられます。……物足りなかったのね。うん、ゴブリンの十体や二十体で満足できるとは最初から思っていなかったけどさ。


「ハルちゃん、次はどこから片付けたほうがいい? それとも、近くにいる群れからどんどん始末してっちゃっていい?」

「え? ああ、はい! ちょっと待ってください……」

 あわあわしながらハルちゃんはウィンドウを操作して、魔物の群れを閉じ込めている部屋を封鎖している岩を消去デリートしていく。ほほう、ダンジョンの力で作成したものを消去する時はこんな感じなのか……


「これで準備OKです! 他の部屋も、順次封鎖を解いていきます!」

「了解!」


 私の声と同時に、ギンたちが床を蹴って指示を出した方向に走り出していく。さぁ、全部の魔物を片付け終わるまでにいったい何時間かかるだろうか?




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