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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第一章 ダンジョンマスターになりました。なお現地調査はセルフで行うもようです
20/40

19 ランクアップと出発とホームシック



 ギンたちに対する疑惑が首をもたげたりもしたが、とりあえず当面やるべきことに集中することにして行動を開始する。

 うん、もちろんギンたちを信じてますよ? でもダンジョンマスターが死亡したあと、作成されたモンスターがどうなるのかは不明だ。

 ダンジョンは残るから巻き添えで死亡することはないと思うけど、記憶とか感情とかがそのままなのかはケースバイケースらしく、実際なってみないとわからないんですよ。


 まぁ、当然死ぬつもりはないので実験なんてしませんが、私に万が一のことがあった場合のギンたちの身の振り方も一応考えておいたほうがいいかなぁ。ダンジョンの中にいる限り餌はいらないけど、閉じ込められっぱなしというのも可哀想だしなぁ……



 なんて縁起でもない想像は振りかぶってゴミ箱にダンクすることにして、とにかく村に行くための準備です。

 しばらくダンジョンを留守にすることになるし、食料庫の中に入れておけば傷まないとは言っても生ものはできるだけ処分していかないと……じゃなく! なに長期旅行行くような感覚で計画立てようとしてるんだ、自分。


 ええと、まず村に行くために絶対に必要となるのは移動手段。これはギンがいれば問題なくクリアできる。

 偵察の合間に運動不足の解消も兼ねて〈騎乗〉の訓練はしていたので、今なら時速50キロメートルくらいまでなら長い時間ギンに乗っていても平気だ。

 それ以上になると腕とか足とか背筋とかが筋肉痛で死ぬけどね! 一度ギンに全力疾走してもらった時は、振り落とされこそしなかったものの三日間筋肉痛に悩まされました。


 あと、途中で他の生物なんかに襲われた時のための防衛戦力だけど、これもギンとヤシチがいれば問題ない。

 ダームフライで偵察した際に見かけた生き物のランクはほとんどがギンたちよりも下だったし、ランクの高い生き物が生息しているエリアはできる限り迂回していく予定だ。多少余分に時間がかかったところで命を落とすよりずっとマシだ。



 となると、次に必要となるのが村に着いた時に悪目立ちしてしまわない服装かな?

 今着ているジーンズやジャージなんかはまず一発で目立つだろうから却下。村人や冒険者が着ているような服を手に入れられればが一番だけど、そのためにDPを使うのもなぁ……しかもDPを使って服を作る場合『衣服(並):1p』みたいな表示しかされない。

 品質もデザインもまったく不明。並ってどんなのよ、品質表示やプレビュー機能はないのか!


 それなら私自身の記憶のワードローブから、村で浮かない程度の衣服を見つくろったほうがマシと思って、色々考えて選んだのが大学時代に着ていたチュニックシャツと細身のズボン。どっちも地味な色合いで、ちょっと中世ファンタジーっぽいと思ったのが気に入っていた理由だ。


 ……痛いとは言わないでください。当時ノリノリで護符っぽいペンダントとか付けて歩いてた私に一番もの申したいのは私なんです。


 そうそう、村まで300キロもあるならいくらギンでも一日では着かないだろうし(というか私の体力が保たない)、途中で野営するための準備も必要だ。毛布とか、ランプとか……小屋から持ち出していくことにすればだいたいあるな。

 一応、ダンジョンの外に持ち出しができるのか確認する必要はあるけど(特に毛布。小屋の備品扱いかもしれないし)。


 あ、そもそも持っていく荷物を入れるためのバッグがない! できるだけ軽くて、丈夫で、収容力があって……いっそマジックバッグでも持っていく?

 作成可能アイテムの中に名前があるんだけど、一番必要ポイントの低いものでも1立方メートルの容量があるし、荷物をどれだけ放り込んでも重量が増えないというのは魅力だ。


 ただ、問題があるとすればこの世界でマジックバッグ……というか、魔法のアイテムがどれだけの価値を持っているかわからないってことだろう。


 最低級なら10ポイントとダンジョンではリーズナブルな感じのするマジックバッグでも、他ではものすごい貴重品として扱われていないとも限らない。そんなものを持って歩いていたら変な人間に目を付けられかねないし、下手したら「やっちまえー」されてしまう可能性もある。

 ギンたちがいればそう簡単に「やられたー」になる心配はないとはいえ、余計なトラブルのもとは避けたほうが吉だ。



 とりあえずマジックバッグの件は保留にするとして、あと必要なのは……換金が可能な品物かな?


 この世界の通貨なんて当然持ち合わせていないけど、村で食事や宿泊をするためにはお金が必要だ。となると、換金可能なものを売ってお金を手に入れるしかないわけで……でもなにを持っていけばいいだろう?

 できるだけ持ち運びしやすくて、それなりに価値が高くて、なおかつ出所を怪しまれないようなもの……


 金銀などの貴金属類はまず却下。価値はあっても出所不明なんて確実に怪しまれるし、変な人間に目を付けられる可能性はマジックバッグとどっこいだ。

 だったら水晶とかの鉱物系……貴金属よりはマシだろうけど、どこで見つけたとか聞かれたら返答に困りそうだ。というか、今確認して気づいたけど金銀をオブジェクトとして作ったらアホみたいに高い!

 水晶だって1立方メートルの正四面体で251ポイントだよ! それならいっそリンゴとか塩でも作っていったほうが……そうだ、塩!


 塩ならまだ大量に残ってるし、これを小分けにして袋にでも入れて持っていったら換金できないかな? あと蜂蜜とか蜜蝋とか……ううん、かさばるから無理か? マジックバッグなら余裕で持っていけるんだけど。



 換金するための物品についても、マジックバッグが使えるかどうかが重要になりそうなので後回しにしておく。

 あとは食料……もマジックバッグ問題が片づいてからか。最悪、最小限のものだけ持っていってあとは途中でウサギでも狩って自給自足で行こう。換金物もそれで手に入れる。もちろん、狩るのはギンとヤシチだけどな!


 あと……そうそう、忘れてはならない大事なものが一つあった。

 なにかって、それはカバーストーリーだ。私がどこから来たどんな人間で、なんのために村にやってきたのか。

 一から十まで全部説明する必要はないかもしれないけど、聞かれた時に最低限答えられるだけの背景は作っておかないとあとで困ることになる。その場のアドリブで答えたはいいけど、矛盾が出てきて結局怪しまれたなんてことになるのはご免だ。


 色々と頭を捻って考えて、とりあえず設定としては「船に乗ってこの大陸にやってこようとしたけど、途中で船が難破して海岸に流れ着き、人里を探して旅を続けてきた冒険者」ということにしておいた。

 細かい部分については、突っ込まれた時に相手の出方を見つつ考える方向で。なにしろこの世界のことについてはほとんど知らないのだから仕方がない。


 そう、この世界の知識というか常識が私にはないのだ。だからこそ、多少常識が怪しくても疑われないように「別の大陸から来た」という設定を付けたわけだ。

 あの海を越えて航海することが可能かどうかは不明だけど、この世界の人間だったらなんたかんた可能にしている気もするし、もしも突っ込まれるようなら「新開発の船の実験を兼ねて」とか「安全に海を渡れる航路があると言われて」とかいう言い訳も用意してある。


 むしろ心配すべきなのはごく普通に海洋交易が行われている場合かな……その時は最終手段「東の果てにある島国出身」を使うことにしよう。

 なんならミツクニとか名乗ってもいい……あ、忘れてた、名前! カバーストーリーの前に名前を考えなきゃ!




 三日ほどかかってあれこれ準備を整え、ついでにダンジョンに置いていくことになるジンガにも色々と頼み事をし、不在の間になにかあった場合に備えてダンジョンの機能もほんの少しだけ強化しておく。

 といっても1000キロ廊下の途中に十箇所の扉を設け、その鍵を100キロ手前の地点の壁に付けたキーケースの中に隠しただけだけど。キーケースは触れない限り見えない仕様になっているので、罠発見とかのスキルでも持っていない限り初見だと鍵を取りに100キロ戻る羽目になる。


 ジンガに頼んでおいたのは、いつの間にかけっこうな面積になっていた畑の世話だ。

 ダームフライが全員羽化した時点でフラップラントは全部処分して(ただ抜くのはもったいないので地上部に植え戻しておいた)、かわりに地上から採ってきた植物を空いた場所に植えたのだ。

 いや、せっかくジンガに耕してもらった畑をそのまま草原に戻してしまうのもどうかと思ったし……で、でもジンガも留守番の間やることがあったほうが退屈しないだろうし! けっこう農作業も好きみたいだから問題なし!



 あと、ダームフライに関してなんですが。実は地上の偵察が一区切りついた段階で、繁殖を望むものだけ地上部に出てもらいました。

 偵察で大分数を減らしたとはいえまだ五十体以上はいるし、地下で繁殖されてしまったらダンジョンの空がダームフライで埋め尽くされることになってしまう。秋のトンボどころの騒ぎじゃありませんよ、なにしろ全長70センチもあるのだ。むしろ腐海の見張り番に近い。


 そういうわけで、ダンジョンの地下一層に残ったダームフライは全部で十体ほど。

 のんびり空を飛んだりしながら、たまに地上から作物と一緒に持ち込んでしまった虫を退治したりしてくれている。うん、地上から色々採ってくるとそういう問題もあるとあとになって気づいたよ……ダームフライたちはおやつ感覚なんだろうけど非常に助かってます。


 それから蜘蛛教官、カマキリ先生、リビメイ教授のお三方については配置換えをして、ギンたちのレベル上げ用のモンスターから迎撃用モンスターに転職していただきました。


 ちょっと迷ったんだけどね……ギンたちがとてもお世話になったし、ダンジョンの地下一層でのんびり余生を過ごしていただいたほうがいいかなぁ、と。

 でも敵の来ない地下一層でただぼんやりと過ごすよりは、敵が来る可能性がかなり低くてもダンジョンモンスターとしての本来の役割をまっとうしていただいたほうが、お世話になったお三方に対して失礼ではないだろうと考えた次第。


 というわけで蜘蛛教官は1000キロ廊下の100~200キロ区間、カマキリ先生は500~600キロ区間、リビメイ教授は900~1000キロ区間の警備を担当していただいてる。

 狭い部屋の中よりは、100キロの廊下のほうが運動不足にならないで済むだろうという配慮だ。別に鍵のついた廊下だったら、うっかり遭遇しないで済むとかそんなことは考えてませんよ? 部屋を移動させるのにもDPがかかるとか、余った部屋を別途利用しようだなんてそんなことはまったく。ホントウダヨ?



 で、お三方の配置換えをした理由ですが……ついにギンたちがランクアップしました! 想像はついたと思うけど!

 でもようやくですよ、ようやく! レベルが20越えてもなかなかランクアップしないから、レベルを上げるだけじゃなく他にランクアップの条件があるんじゃないかと気を揉みましたよ!



 そんなわけで、ランクアップしたギンたちのデータが次の通り。


 アッシュウルフ(ランク12:命令可能・復活不可能・成長可能)

 個体名:ギン レベル2(62) M 

 攻撃力:A 敏捷性:B 耐久性:C 生命力:B 知力:B 精神力:B

 スキル〈瞬速〉〈号咆〉〈探知〉〈剛躯〉〈炎身〉〈炎爪〉〈伝心〉


 ゲイルホーク(ランク12:命令可能・復活不可能・成長可能)

 個体名:ヤシチ レベル2(75) M

 攻撃力:B 敏捷性:A 耐久性:C 生命力:C 知力:A 精神力:A

 スキル〈瞬身〉〈千里眼〉〈強化〉〈尖槍〉〈空刃〉〈旋風〉〈伝心〉


 ブロンズゴーレム(ランク12:命令可能・復活不可能・成長可能)

 個体名:ジンガ レベル:2(68) N

 攻撃力:B 敏捷性:C 耐久性:A 生命力:A 知力:B 精神力:C

 スキル〈剛身〉〈吶喊〉〈倍返し〉〈鉄壁〉〈畏怖〉〈土壁〉〈伝心〉


 いやもう、いきなり12までランクアップするとは思ってなかったからびっくりです。

 最初作ろうかと思ってたデザートウルフよりも上ですよ。ジンガなんて本来のランクアップをすっ飛ばしてのワープ進化ですよ! そんなことが可能なのか! 可能なんだろうな実際できたんだから!


 能力値だってランクアップしたてとは思えないほどの高さだし、スキルも数は減ってるけど大幅に強化されているのが見ただけでわかる。

 なんですかヤシチの〈千里眼〉って。ジンガも〈倍返し〉とか怖い名前のついたスキルがあるし。いやたぶん〈反射〉の強化版だと思うけど「倍返しだ!」とか叫ぶんじゃないかと心配になったよ!

 あと〈鉄壁〉と〈土壁〉が被ってるんじゃ? と思ったけど〈鉄壁〉は味方を庇うカバー系のスキル、〈土壁〉のほうは読んで字のごとしの土の壁を作るスキルみたいです。



 ちょっと地味に嬉しかったのは、三体全員に〈伝心〉のスキルが付いたこと。

 三体とも喋ることはできないので人語ではなく吠え声(もしくは鳴き声)か、考えていることがなんとなく伝わるくらいなんだけど、離れた場所にいても連絡が取れる、声が聞けるというのはとても心強い。

 特にジンガはしばらく会えなくなるわけだし。なんか毎晩のように声を聞くためだけに連絡を入れてしまいそうだ。



 ちなみに、ランクアップによって変化した三体の容姿は、ギンがついに全長1,8メートルを超え、毛並みが若干白っぽくなって毛足もちょっぴり長くなった。

 毛の量も増えたみたいで、もふもふ度がさらにパワーアップだ。ベッドのサイズと耐久性の問題でもう一緒に寝られないことが残念でならない。


 ヤシチは羽の色が青みを帯びた黒に変化し、体長は60センチほどに。ギンに比べれば些少とはいえ、けっこう大きくなった感じだ。胸から足にかけての羽毛は光の加減によって青にも紫にも見えるメタリックな銀色。

 遠目にも目立ちそうな色だけど、空を飛んでいると空の色に溶け込んでまったく見えなくなる。ステルス搭載か!


 二体とも特殊進化らしく、アッシュウルフは炎の属性、ゲイルホークは風の属性を強く持つモンスターだ。そういえばスキルにもそれっぽいものがあったし。

 ギンの〈炎身〉は炎をまとってステータスアップする強化系のスキルで、〈炎爪〉は同じく炎をまとわせた爪で攻撃する攻撃力アップ系のスキル。ヤシチの〈空刃〉は見えない刃を放つ〈風刃〉の上位系スキルで、〈旋風〉は強烈な風を起こして攻撃をそらしたり、敵の動きを阻害する補助系スキルだ。


 ジンガは通常進化(ただしワープ)のブロンズゴーレムだけど、〈土壁〉は土いじりをする機会が多かったせいで生えてきたっぽい。普通のブロンズゴーレムにはないスキルだし。

 見た目に関しては2,5メートルを楽々と突破し、しかもほんのり緑がかった褐色のゴーレムということで……すごく、某天空の城の園丁ロボットを彷彿とさせます。


 い、いや、均整はジンガのほうがずっと取れてますよ! あんなに腕長くないし、シュッときてズンッと下りるスーパーロボット体型だし、腕から翼を出したり目からビームを放ったりなんてしないし! ……しないよね?


 ま、まぁ、あくまでも印象がそれっぽいってだけだし。毎日せっせと畑に水撒いたり雑草を抜いたり、トンボ君を肩や頭に留まらせているのがそう見えるってだけで。

 でも、もしも私がダンジョンに戻ってこれないようなことがあったら、あの園丁ロボットみたいにずっと帰りを待ち続けるのかなぁ……あ、想像しただけで涙が出てきそう。絶対、なにがあっても、たとえ死んでも戻らないと! ええ、ジンガにあんな寂しい思いは決してさせません!




 そんなこんなで準備を整え、ついでに自分のスキルの強化も行ったりと色々やった三日後。朝いつものように目を覚まし、朝食を摂って身支度を調える。

 服装はもちろん旅人風のチュニックとズボン。靴は飴色の艶がお気に入りだった本革の編み上げブーツ。あえて封印していた黒歴史を解き放ち、護符風のペンダントまで再現したよ! 地味にダメージが来たけど、今は本物のファンタジー世界にいるんだから問題ない!


 冒険者のふりをするなら鎧でも付けたほうがいいかと迷ったけど、逃げたり避けたりする際動きが鈍くなりそうだったのでやめておいた。

 私が付けて動ける程度の鎧じゃ防御力もたかが知れてるし、ギンとヤシチを全面的に信頼することにする。というか、二体がいて私のところまで攻撃が届くようなことってそうそうないだろうし(慢心)!



 荷物は結局マジックバッグに入れて持っていくことに決めた。中に入れるのは必要最小限の荷物と換金物だけにして、毛布とかかさばるものは別にして運ぶ予定だ。

 ちょっと荷物の量は増えてしまうけどギンに運んでもらえば問題ないし、出す荷物の量を加減しておけばマジックバックだと気づかれないんじゃないかと考えたのだ。村で調べて、もしマジックバックがそれほど珍しくないものだとわかったらその時は大っぴらに使えばいい。


 というわけで、持っていく荷物の量はごっそり増えました。食器に調理道具、ランプにマッチに布ロープに油に食料に……あ、蜂蜜や蜜蝋も持っていくことに決めましたよ。もちろん塩も。

 途中で狩れる獲物がいたら狩っていくつもりだけど、ちょうどいい獲物に必ず会えるとは限らない。念には念を入れていく方向で。


 なお、マジックバッグはある程度形が自由に選べるようだったので、いかにも物がたくさん入りそうなリュックサック型にしました。ウェストポーチ型なんてのもあったけど、それじゃ疑ってくださいって言ってるみたいなものだからね……



 用意しておいた荷物に抜けはないかチェックし、ついでに食料庫(床下収納庫も忘れず)に残っている食料がないか確かめてから部屋を出る。おっと、忘れるところだった……椅子の背もたれから取り上げたのは、生成り色をしたフード付きのマントだ。


 現代から見ればファンタジー風の服装でも、ファンタジー世界の住人から見ればやはり違和感は拭えないだろう。そう思って作ったのがこのマント。

 羽織ってしまえば下に着ているものなんてほとんど見えなくなるし、マントの形なんてどこの世界でもたいした違いはない。一応冒険者が付けているものに近い形にもしておいたつもりだ。


 え? どうやって作ったかって? 材料の布は十分すぎるくらいあったし、裁縫道具は作りましたよ?

 だって目立たないためにはマントが必要だったし……ふふ、でも裁縫道具です。やっと手に入った裁縫道具です。ずっと欲しかったけど他のものを優先して作るのを我慢していた裁縫道具です!


 嬉しすぎてマントを作り終わったあと、ベッドのシーツと床に敷いていたラグと外用の敷布まで縫い上げてしまったのは内緒だ。

 ええ、時間に余裕があったら布巾とかカーテンとかランチョンマットまで縫っていたかもしれません。実用一辺倒? それは言わないのが優しさってもんです。

 どんなに可愛い小物だろうと、使わないとわかってるものを作る気にはなれないんです。女子力なんて実用性の前では木っ端微塵に砕け散るものなのさ……



 それはさておき、マントを羽織って(なお肩口で紐を結ぶタイプ)外に出たら荷物に入れておいた騎獣具をギンに装着する。

 ランクアップのあとで慌てて確かめて、大きくなっても装着できることにほっとしました。フリーサイズってありがたい。

 騎獣具には荷物を固定するためのフックも付いているので、毛布などのかさばる荷物を短く切ったロープで結びつける。ちょっと邪魔だけど我慢してね、ギン。


 準備が終わったら、最後にもう一度小屋のほうを見てやるべきことを全部片付け終わったか頭の中で確認。

 ダンジョンの戸締まりよし、小屋の片付けよし、食料は入るだけ荷物に入れたし、残りは食料庫に入れてあるから劣化の心配はない。あとは……



 三回くらい頭の中で確認して、忘れていることはないと確信したところで少し離れた場所に立っているジンガに目を向ける。頭の上にはダームフライ。妙に似合っているけど、ちょっと噴き出しそうになるので不意打ちはやめてほしい。


「ジンガ、ダンジョンと畑のことをよろしくね? あとダームフライたちとも仲良く……ってそれは心配ないね。とにかく、私が戻ってくるまで無理しないで、万が一、本当に万が一侵入者があったとしても、敵わなさそうな相手だったら立ち向かおうなんて考えないで自分の命を優先にして逃げて。まず絶対にここまで入ってくる侵入者はいないと思うけど」


 ジンガは神妙な顔(とはいっても目しかわからない鉄仮面状態だけど)で聞いたあと、私に向かってこくりとうなずいてみせる。小さいけど力強いうなずきだ。

 その動きにジンガの気持ちがこもっているように思えて、私は自然と笑顔になる。



「うん! じゃあ、あとは任せたから行ってくるね! ダームフライたちも気が向いたら害虫退治よろしく!」

 手を振って向かうのは納屋に擬装した非常口の扉。草に溜まった朝露を吸ってブーツの色が濃くなる。

 横について歩いているのはギン、その背中にはヤシチ。後ろについてきているのはジンガで、姿は見えないけれどズシン、ズシンと重い足音が聞こえる。


 非常口の扉に手を掛けると、一度だけジンガのほうをふり返る。頭の上に留まっているのに加えて、何体ものダームフライがその頭上を乱れ飛んでいるのが見えた。揃ってお見送りとはなかなかやってくれる、こやつら。


「それじゃ、行ってきます!」

 挨拶は済ませたのでそれだけ告げて非常口の扉を開ける。踏み出した先にあるのは草地ではなく石の床。

 ブーツの底が硬い床を踏みしめて、二歩目、三歩目を踏み出すのと同時に背後の扉が閉まる。ふり返った先にあるのは扉ではなく岩がむき出しになった洞窟の壁だ。



「……行こうか」

 ちょっと足を止めたあと、ギンたちに笑いかけて再び歩き出す。


 まだダンジョンの入口から出てさえいないのにホームシックになるのはまだ早い。ギンはわふっ、と答えるように吠え、ヤシチは黙ったままその背中でばさりと羽を広げる。

 入口はすぐ目の前で、そこまで付く前に飛び立ったヤシチが木々の間をくるりと回って鳴き声をあげる。


 ギンとヤシチがついているならダンジョンマップも必要なさそうだけど、万が一ってこともあるので立ち上げておく。

 私だって、まさか寝ている間に住んでるアパートが地震で倒壊して死ぬなんてまったく思ってなかったし。万が一というのは、万に一つでも起こる時には起こるものなのだ。



 ダンジョンマップで周囲の安全を確認してから入口を出て、ギンの背中にまたがる。

 地上の風景に感動……はあんまりしない、実のところ。なにしろ〈帰還〉スキルのレベル上げのため何度となく地上に出てきているのだ。ええ、ここは初めて外に出て感動すべき場面なんだろうけど、そんなお約束よりも安全対策のほうが大事です。


 ギンにまともに乗れるようになったらすぐに地上部に出て、ダンジョンの領域の外ぎりぎりまで走ってもらって〈帰還〉で帰るというのを何度くり返したか!

 おかげで今は〈帰還〉もレベル6だ! 360キロメートルまでなら帰還可能になったから、余裕で村からダンジョンに帰り着けるよ!


 ……とはいえ、最後の1レベルがなかなか上がらなかったので結局DPを使ってドーピングしたけれど。6×300ポイントの出費はなかなか痛かった……でも仕方がない。DPより命のほうが大事なんです。

 とはいえ、今回はけっこう盛大に使ったからなぁ……現在DPの残りは5105ポイント。ちまちまと貯めてきた分が一気に吹っ飛びました。


 なお、現在の私のステータスはこんな感じになっている。


 ダンジョンマスター(ランク-)

 個体名:- レベル:1  F

 攻撃力:F 敏捷性:E 耐久性:F 生命力:F 知力:B 精神力:C

 〈伝達〉Lv.16〈視野借用〉Lv.14 〈鑑定〉Lv.15〈暗視〉Lv.4〈身体強化〉Lv.8

 〈騎乗〉Lv.11〈帰還〉Lv.6〈翻訳〉Lv.5〈解体〉Lv.5〈偽装〉Lv.5


 うん、〈翻訳〉と〈解体〉と〈偽装〉は全部DPを使ってレベルを上げました。これが一番ポイントを食ったんだ……


 〈翻訳〉は異世界ファンタジーの定番、言語チートがあると信じて取らずに行こうかとも思ったけど、なかった時は非常に困ることになるので念のため。

 なにしろ、ダンジョンの外ではスキルは使えても新規のスキルを取ることはできなかったのだ。ついでにDPを使って物品を作り出すことも不可能。


 いざとなったらDPを使って……なんて思っていたら思わぬ落とし穴があったという。でも事前に気づけてよかった。本当にいざという時に使おうとして、初めて使えないことに気づきでもしたら……なんて想像するだに怖すぎる。



〈解体〉は道中、狩った獲物を捌こうという段になって困らないように。

 結局あれこれ忙しくて、生き物を捌く練習している暇もなかったし。そして〈偽装〉は、もしも〈鑑定〉スキルを持っている人間がいた時私のステータスをそのまま見られてしまうことを避けるため。


 なにしろはっきり『ダンジョンマスター』って出ちゃってるからね。もちろん誰が〈鑑定〉スキル持ちかなんてわからないから、人前では常にステータスを偽装し続ける予定。見破られるまではDPの消費なしで維持できるスキルで本当によかったです……




 そんな私を乗せてギンは軽快に森の中を走り抜けていく。けっこう下草や藪が深いのだけど全部あっさりスルーして速度はまったく落とさない。

 あのですね、ほとんど地面に足が付いていないってどういうことでしょうかね? 走っているというよりもはや飛んでいる状態に近い気がするんですが。一蹴り30メートルは軽いってお前はどこのグ○コだ!


 十分とかからずにダンジョンの領域を抜け、その先も続く森の中を走り続けるギン。一時間ほど走ったところでギンに一度止まってもらって休憩ついでにマントを脱ぐ。

 ちょっと嫌な予感はしてたのでがっちり身体に巻き付けるようにして乗ってたんだけど、それでも油断すると風圧で身体が持っていかれそうになるんですよ。あれだね、自転車レースの選手がどうしてあんなに身体にぴったりしたスーツを着るのか身をもって理解したね!



 脱いだマントをマジックバッグに入れて、ついでに出した水を一口二口飲んだら再びギンにまたがる。さぁ、楽しい楽しい絶叫マシーン体験の再開ですよー(白目)。なにしろ、ギンの走行エリアは下草の上と木の枝のあいだのわずかな隙間だ。

 頭の上とか顔の横とかをヒュンと枝が通り過ぎていくんですよ。世界一スリルのある天然のジェットコースターだよ!


 まぁ、実際にジェットコースターに乗ったことは一度もないけどね……ぶっちゃけ、乗り物全般が苦手なもので。

 バスに五分乗っただけでも酔う体質だ。酒に酔い耐性を全振りしすぎたせいだと友人にはよく言われました。だから正直、ギンに乗る時も恐々ではあったんだけど、なぜかギンだとどんなに激しく振り回されても酔わない不思議。

 愛か、やっぱり愛なのか? 愛だったら誰にも絶対に負けない自信があるからな!



 なんて現実逃避気味に考えつつ、ギンの背中に必死にしがみついて地上約3メートルのワイルドランニングを続ける。

 ヤシチが先行偵察してくれているおかげで、今のところ危険な生き物にはまだ遭遇してない。偵察というか、もしかして発見し次第見敵必殺とばかりに殺っちゃってるんでしょうか? いや、それなら殺られた生き物の死骸が転がってるだろうし、普通に安全なルートに誘導してくれているんだろう……たぶん。


 時々視界の端を生き物の姿がかすめることがあるが、猛スピードでこっちが動いているため姿を確認することはできない。あ、と思った次の瞬間にはもう後ろに消え去ってるからね!

 もちろん〈鑑定〉なんてできるわけがないけど、お荷物を乗せたギンに襲いかかってもこないあたりから見て、大分ランクが下の生物なんだろう。


 とりあえず、戦闘に入ったらギンの背中から下りて安全圏に待避することになっているので、これ以上のスリルを味わうことにはならないはずだ。

 ……ならないよね? うっかり私を乗せたまま戦闘に突入しちゃったりしないよね、ギン?



 この日は結局、何度か休憩を挟みつつ一日中ギンに乗っているだけで終わった。

 幸い、戦闘らしい戦闘は体験していない。……なんか前に飛び出してきたと思ったら、ギンにはたかれて視界から消えていったというあれは戦闘には含まれないと思う。ギンの「邪魔!」という心の声が聞こえてきた気がしましたよ。


 ヤシチに偵察してもらって安全確認できた場所でギンから下りると、ちょっと早めに野営の準備を始める。


 といっても、薪もマッチも持ち出せるものは全部持ち出してきたからほとんど食事の支度のみだ。小屋の備品が持ち出せる仕様になっていて助かりました。でなかったら、枯れ枝を集めて枝をこすって火を付けるところからスタートするところだった。

 あ、火に関してはギンの〈炎爪〉で付けてもらうという手があるのか。……付けばの話だけど。


 薪に火を付けたら、フライパンに油を引いて簡単に肉とジャガイモを炒める。

 さすがに野営時にまで凝った料理を作ろうだなんて思わない。串があったら肉の串焼きくらいは作ったかもしれないけど、そこまで準備してる余裕はなかったよ! いっそそのへんの枝を削って作ってやろうかとも思ったが、時間がもったいないので止めました。

 うっかり毒性のある木で串とか作ってしまっても大変だし……夾竹桃とか夾竹桃とか夾竹桃とか。


 ギンとヤシチのご飯も用意して、食べ終わる頃には日が沈んで頭上に星が瞬き始めている。あ、そういえばこの世界の星を見るのは初めてだ。うっすら寒くなってきたので荷物に入れておいたマントを羽織り、次第に数を増していく星を見上げる。


 東の空にはぽっかりと白い月も浮かんでいる。異世界だから大きさが違うとか色が違うとか二つも三つもあったりするかと思いきや、意外に普通の月だ。ただ、表面のクレーターは影も形もなくただのっぺりと白い。

 あれ、月に見えるだけで実はまったく違うナニカだったりするんじゃなかろうか。実は宇宙船だったりとか。



 空を見上げながらぼんやりと考えていると、ギンが側にそっと横たわって身体をすり寄せてくる。ちらりとこちらを見上げてくる目は、いつもと変わりないように見えてほんの少しだけ寂しそうだ。

 ギンもダンジョンの外で夜を過ごすのは初めてだし、ちょっとホームシックでも感じているのだろうか。それとも、私がこの世界のものではない月や星のことを考えているとわかったのか……まさかね。


「寝てていいよ、ギン。昼間いっぱい走って疲れたでしょ? 見張りだったら私がするから」

 声をかけると不服そうにぐるぐる喉の奥で唸っていたけど、そのうち顎を地面に付けたまま寝てしまう。

 うん、寝る子は育つ。これ以上育ってどうするんだという気がしなくもないけどゆっくりお休み、ギン。



 私は周囲の見張りもしながら、まったく見慣れた星座の見当たらないこの星空を眺めているつもりです。あんまり見張りとしては役に立っていない気もするけど、ヤシチもついてるから大丈夫でしょう。

 というか、ヤシチって夜は目が見えなくなるんじゃ……? あ、〈千里眼〉には夜の暗さもまったく無関係なんですか。失礼いたしました。


 ヤシチがちらちらと心配そうな目をこちらに向けているのには気づかないふりをして、頭上いっぱいに広がる星空を見上げる。

 胸に広がるこの気持ちは、ダンジョンを遠く離れたことで感じるホームシックなんだと思いたい。


 似ているけど絶対的に違う星空を見て、もとの世界のことを思い出したからなんかじゃないと。もう二度とそこへ帰ることはできないという現実を突きつけられたせいなんかじゃないと……そう、信じたい。信じたいんです。




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