16 出会いは別れの始まり(復活モンスター除く)
翌日からは、しばらくギンたちの訓練とスキルの練習に費やされる日々が続いた。それからダームフライの幼虫のお世話と。
次々に孵化する幼虫君が、毎日もしゃもしゃと大量消費してくれるおかげでフラップラントが足りなくなってしまったのだ。
慌ててDPで増やしてもまだ足りず、ジンガに頼んで地上部に生えているフラップラントを探して何十株か掘ってきてもらったりもしました。
今やフラップラント畑は100×100メートルほどに面積を増やし、畑の至るところでダームフライの幼虫が葉っぱをもしゃもしゃと食べています。
相変わらずヤゴそっくりの姿だけど、毎日見ているせいかちょっぴり愛着もわいてきましたよ。可愛いなんて口が裂けても言えないけどな! グロカワを許容できる感性は持ち合わせていないので!
スキルの練習は〈騎乗〉と〈身体強化〉、それと〈鑑定〉が中心。ジンガに地上部に行ってもらった時は〈鑑定〉が大活躍でした。おかげで一度〈鑑定〉した動植物については、マップからでも名前を見ることができるように!
……できれば、もうちょっと早くその機能が欲しかったと思いましたけどね。
森の中をしらみつぶしに歩いてフラップラントを探すのはけっこう大変だったので(主にジンガが)。あ、ついでに〈視野借用〉と〈伝達〉のスキルも鍛えられました。視野を借りたり指示を出したりする相手を、DPの消費なしで自由に変更できるようになったもよう。
スキルのレベル表示がないせいで、今一つ強化されている実感がないんだけどね……なんて思ってたら、スキルのレベル表示もできるようになりましたよ!
単純にスキルに〈鑑定〉を使ってみればよかっただけの話なんですが。
ともあれ、今現在の私のスキルは、
〈伝達〉Lv.12 〈視野借用〉Lv.12 〈鑑定〉Lv.10 〈暗視〉Lv.3 〈身体強化〉Lv.5 〈騎乗〉Lv.5 〈帰還〉Lv.1
といった感じになっている。
なお、スキルのレベルはDPを使っても上げられることがあとから判明した。上げないけどね! なにしろ1レベルのスキルを2に上げるだけで『レベル×取得に必要なポイント』、すなわち100ポイントで取れるスキルでさえ200ポイントもかかるのだ。
しかも必要なポイントは累積するので、1レベルから3レベルまで一気に上げる場合は200プラス300で、合計500ポイントが必要になる。
……ええ、とてもDPを使って上げようなんて気にはなれないでしょう? それなら地道に鍛えて上げるほうを選ぶよ!
まぁ、地上部から入ってくるDPが地味に溜まってて、3000ポイントくらいだったら使えないこともないんだけど。
でも使うとしたら、一番上げておきたいにも関わらず一度も使ってないせいでレベル1のままの〈帰還〉一択だろうな。取得に必要なポイントが300だったので2レベルに上げるだけで600ポイントもかかるけど!
あと、DPを使って上げられるのは作成済みのモンスターのレベルも同じで、ただし上げるのに必要なDPは『ランク×上げたいレベル×作成時に使ったDP』となる。
つまり、レベル12のギン(ランク4)を13に上げるとなると、4×13×100で……5200ポイント。うわお、疑似太陽の作成必要ポイントを超えてるよ!
……うん、ギンたちにも地道にレベル上げを頑張ってもらうしかなさそうだ。
ちなみに作成モンスターの固有のスキルに関しては、DPでは上げられないみたい。レベル表示もできないので、スキルというより固有の能力みたいなものなんだろう。
ついでに言えばDPを使ってもともと持ってないスキルをモンスターに覚えさせることも不可能でした。そこまで便利にはできていないということか……カスタム作成とか、ちょっと心をくすぐるものがあったんだけどな。
そうそう、レベル上げといえばギンたちの指導教官として新しいモンスター(復活可能)もお招きしたんでした。
その名もリビングメイル教授(ランク5)! カマキリ先生がかつての蜘蛛教官のごとくポップする端から倒されるようになってしまったので、ついに招聘を決めた次第です。
さすがに今回はランクをすっ飛ばそうなんて無謀なことは思わなかったよ! 前回あれほど後悔しておいて、また同じことをやったらただの馬鹿だ。
なおリビングメイル教授……長いのでリビメイ教授と略すことにして、教授を作成するのに使ったDPは1040。とうとう四桁の大台を超えました。
ちょっとだけ地上部かダンジョンの外で適正ランクの生き物と戦ってもらえば……と思わなくもなかったけど、ギンたちと教授が一戦交えた瞬間にそんな思いは吹っ飛びました。
カマキリ先生と最初に戦った時とは違って、さすがに戦闘にならないというほどの実力差はなかったけど、リビメイ教授のそれはもう強いこと強いこと。
ジンガよりも一回り以上小さい人型(身長は180センチほど)モンスターなのに、ギンとヤシチの二体がかりで倒すのに二時間以上かかりましたよ!
まぁ、私が極力怪我したりしないようにと、安全第一の戦い方を指示したせいでもあったんでしょうが。でもランクの差がどれだけ大きいかいやというほど見せつけられ、下手に外での戦闘を命じたりしなくてよかったと心から思いました。
1ランク差くらいだったらともかく、それ以上の差のある相手にうっかり遭遇なんてしたら……それも私が側についてなくて、怪我しても回復薬で直すこともできない状態だったら、なんて考えるのもぞっとする。
ただ苦戦した甲斐はあって、なかなか上がらなくなっていたギンたちのレベルもその一戦であっさり上昇。ジンガも加われば、リビメイ教授もそこまで時間を倒さずに倒せるとわかったこともあって、三体で仲良く教授の指導を受けてもらってます。
相性の問題もあって、カマキリ先生はジンガ相手だとそこまで強いモンスターじゃないし。ちょっとばかり引退の時期が早くなったものと思ってもらおう。
そして三日が経過した今日。うん、けっこうな日数が過ぎたように思うけど、たった三日のことなんですよ。
別に精神と○の部屋に入っていたり、精神世界で修行してたわけじゃないんですけどね。
でもギンたちの成長ぶりに関しては、ちょっとそれに似たものもあるんじゃないかと感じてます。なにしろみんな頑張ってたからね! 三日あれば男子刮目して見よ、という言葉があるがあれは本当だ。
なにしろ、現在のギンたちのステータスはというと、
グレイウルフ(ランク4:命令可能・復活不可能・成長可能)
個体名:ギン レベル18(28011) M
攻撃力:A+ 敏捷性:A 耐久性:A 生命力:A+ 知力:B 精神力:A
スキル〈俊駆〉〈咆吼〉〈槍牙〉〈鉄躯〉〈察知〉〈幻影〉〈連携〉〈強化〉
スカイホーク(ランク4:命令可能・復活不可能・成長可能)
個体名:ヤシチ レベル18(28257) M
攻撃力:A 敏捷性:A+ 耐久性:B 生命力:A 知力:A+ 精神力:A
スキル〈瞬飛〉〈眺視〉〈金剛〉〈強突〉〈指令〉〈風刃〉〈風壁〉〈加速〉
ウッドゴーレム(ランク4:命令可能・復活不可能・成長可能)
個体名:ジンガ レベル:17(19321) N
攻撃力:A+ 敏捷性:C 耐久性:A+ 生命力:A 知力:B 精神力:B
スキル〈頑強〉〈喊声〉〈回復〉〈鉄拳〉〈反射〉〈防身〉〈挑発〉
なんというか、もう見事な成長ぶりです。本当に暇さえあればリビメイ教授のところに通い詰めて、ひたすら訓練に励んでましたから!
みんなのあまりの成長ぶりにおかーさん、涙が止まりません! リビメイ教授も朝から晩までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
ジンガだけレベルが低いのは、地上部にフラップラントを探しに行ってもらったりで訓練の時間が削られたせいだから仕方がない。
あと、ちょこちょこ力仕事を手伝ってもらったり……いや、人型だと色々と器用にこなしてくれるからね? 別に意図的にこき使っていたわけじゃないんですよ? ジンガも頼み事をされるのは嬉しいみたいで、いつもテンション高く「グオオ~~~~ッ!」と応じてくれるものだから、つい色々頼みすぎちゃっただけで……
……地上部に出たついでに、食用になる果物や野草を土ごと掘ってきてもらったり、それを植える畑を開墾してもらったり、さらに植え付けたり水を撒いたりといった作業まで手伝ってもらったことは内緒です。
ええ、ジンガが背負える大きさの、それこそ私一人がすっぽり中に入ってしまえるような特大の籠(破壊不能:10p)までDPで作ってしまったことも。
い、いや籠はフラップラントを集めてくるためにも必要だったし……もし強い相手に襲われでもした時、両手がふさがっていたらジンガが危ないかもしれないし、ね? ジンガの場合は足の速さ的に逃げに徹することもできないわけですし。
ジンガの安全のためなら籠くらい安いものですって! ただちょっと、空きスペースがある時に気になるものを見つけたらついでに採ってきてもらったというだけで!
多少どころでない私欲が混じったことからは必死で目を背けつつ、だけどおかげで私の食生活が大幅に向上したことについては素直にジンガに感謝しております。
ランク1とはいえモンスターに分類される類の植物だから、水をあげるだけでどんどん成長してくれるし。何株かは植え付けるのが間に合わなくて光に還ってしまったりもしましたが。
そう、死んだ生物もダンジョンの床(もしくは地面)に直接接していなければ、光になって消滅するまでに多少の間が空くとわかったのも一つの収穫でした。ということは、ウサギなんかを仕留めた場合、そのまま運んできてもらって捌いてお肉にすることも可能なわけだ。
さすがに、まだ生き物の解体にチャレンジする決心がつかないので実行してはいないけど。
でもいつまでもギンやヤシチのご飯をDP頼りにしているのもどうかと思うし、せっかくなら少しでも美味しいお肉を食べさせてあげたいと思うので、いずれは挑戦してみる所存。
うん、慣れるまでは解体するにも時間がかかると思うし、まだ色々とやることがあるうちはそっちが優先だけど(なお自分の食生活は豊かになったもよう)。
あ、レベルの話が出たついでに、私自身のレベルも〈鑑定〉で見ることができるようになりました!
スキルのレベルがわかるようになったあと、自分のステータスが見れないものかと色々試してみて、最終的にダンジョンそのものを〈鑑定〉することが必要だとわかった時には思わず脱力したけどね。
……そういえば、私はダンジョンのオプション部品みたいなものでしたっけ。
『マスター』なんて呼び名はただの飾りですよ、飾り。一方的に命を握られているだけの、しがない雇われマスターです、ケッ。
なお、ダンジョンのオプション部品(強調)として表示された私のステータスは、
ダンジョンマスター(ランク-)
個体名:- レベル:1 F
攻撃力:F 敏捷性:E 耐久性:F 生命力:F 知力:B 精神力:C
〈伝達〉Lv.12〈視野借用〉Lv.12 〈鑑定〉Lv.10〈暗視〉Lv.3〈身体強化〉Lv.5〈騎乗〉Lv.5 〈帰還〉Lv.1
という、非常にコメントに困るものでした。……全体的に見て、畑の作物とそんなに変わりない私の能力値ってどう思う? スキルがなければ本気でただの置物ですよね。ちょっと畑でフラップラントの間に座ってようかと思いましたよ。
レベルもギンたちに置いていかれるどころか、光の速さではるか遠くに消え去って姿も見えない状態。レベル1ですかそうですか。
わかってるさ、現代日本人が生物としてどれだけひ弱かってのは! 虎やライオンはおろか、集団で襲いかかられたら中型犬にだって負ける程度の戦闘力しかないとも!
ちょっぴり落ち込んだ私を、わけもわからないまま側に座って懸命になぐさめてくれたギンたちには感謝の言葉しかありません。うん、多少予測はしていてもまさかここまでひどいとは思わなかったんだ。当分はもう自分のステータスなんて見るまいと心に誓ったよ……
などと色々とありましたが三日が過ぎて、今日は一つのイベントが私たちの前で起きようとしているところです。
……ただ、その前に哀しい出来事も一つありました。朝いつものようにダームフライ夫妻のところに挨拶しにいったら、どこにも夫妻の姿が見当たらなかったのですよ。
フラップラント畑もかなり広くなったし、マップから探したほうが早かろうと思ってマップを開いてみたら……ダンジョンのどこにも夫妻の反応はありませんでした。
慌ててウィンドウの機能で作成済みモンスターのリストを見られるようにし、夫妻の状態を確認したら『死亡』の二文字。
なぜに? と思って色々調べて、ダームフライが繁殖を行うと十日ほどで死亡してしまうことをやっと知りました。
うう、ダームパパ、ダームママ……知らずにお願いしてしまって申し訳ありません。
知っていてもたぶん同じお願いをしたとは思うけど、きちんとした覚悟を持って頼むべきでした。お二人のお子さんは責任持って、私が成虫になるまで育ててみせます!(帰還しない前提の偵察部隊に任命することからは全力で目を背けつつ)
で、イベントというのがそのダームフライ夫妻の残したお子さん、ダームフライベイビーが今日羽化をとげて成虫になるということ! 初日に産卵した卵がだいたい七、八個なのでそれだけの数のダームフライ(成体)が誕生するということです。
やっと、やっと……偵察飛行を再開することができる! 特に西方面の人間の村のあたりは、どうなっているのかずっと気になっていましたから。
ある日の朝目覚めたら、何百人からなる冒険者のレイド部隊に囲まれているんじゃないかとか怖い想像が止まりませんでしたよ!
ああ、ダームフライベイビーたちが命令可能であることは、それこそ幼虫の段階でちゃんと確認してあります。
でなかったら、フラップラントの畑の拡張とか植え付けとかスムーズにはできなかったし。最終的には五十匹を超える数になったからね、ベイビーたち……というか、まだ孵化してない卵が同じくらいの数あるんだけど。
ともあれ、昨日あたりから動きの鈍くなってきたベイビーたち(年長組)に、羽化しやすいように長めの棒を立ててあげたところ、いそいそと上って完全に動かなくなったので羽化を見届けようと今日は早起きした次第。
のっけからショッキングな事件もあったけど、夫妻の分もベイビーたちの一世一代の晴れ舞台を見届けなければ、とむしろ気合いが入りました。
なお、長さ2メートル近い棒(竹に似た植物が自生していた)を地上から採ってきたのも、それを立てたのもジンガです。
うん、本当に便利に使ってごめん……今回竹を切ってくるのに作成した、ジンガ専用武器の大鉈(破壊不能:10p)くらいじゃ埋め合わせにもならないよね。
いずれ必ず、ジンガがレベル上げに専念できる時間を確保するから! ジンガがもし飲食可能になるようだったら、木でも岩でも金属でも料理できるようになってみせるから!
ダンジョン地下一層の空はまだ夜明け前の青さに澄んでいて、棒の先端に止まったベイビーたちにも変化はない。
ひんやりと冷えた空気に軽く肩を震わせたら、ギンがぴったりと身体を寄せてくれました。もふもふの毛皮付き防寒具、というか暖房器具? でもギンに触れている部分以外が寒いことには変わりないので、軽く羽織れるものをイメージして上着を一枚服装に加えます。
……なぜか出てきたのは、大学時代から愛用してる綿入り半纏だったけどな!
せめてもう少しお洒落なカーディガンとかなかったのか。はい、家で一番愛用してたのはこの半纏でしたね! ゴミを捨てに行くくらいだったら普通に外でも着て歩いてましたね! 同じアパートの住人にばったり会って、そっと目を逸らされたのは忘れられない思い出だ!
でも温かいことにかけては保証付きなので、半纏は着たままでベイビーたちが羽化する時を待つ。
空の端が茜色に染まり、地平線にわずかな輝きが見え始めた頃ようやく変化が。
まるでオブジェのように動きを止めていたベイビーの身体がかすかに揺れ、背中のあたりにほとんど見えるか見えないかくらいのヒビが入る。
ヒビが広がるのは見ていてじりじりするくらいの遅さ。糸より細かったヒビがはっきり見て取れるようになったところで、大きく身体を震わせて広がった隙間から、成体となったダームフライが姿をのぞかせる。
ダームフライが完全に隙間から出てくるのにかかった時間は、ヒビが広がるまでにかかった時間よりなお長かった。
完全に隙間、というか幼虫の姿をした殻から出てきたダームフライはゆっくりと羽を伸ばし、透明に近かった羽と薄緑色の身体に次第に色が付いていく。
知らずに息を詰めて見つめていた私の前で、やがて完全に見覚えのあるダームフライの姿と化したベイビーは、つっ、と棒の先から離れてすっかり明けた空へと飛び立つ。
気がついたら他のベイビーたちの羽化も終わっていて、空には何体ものダームフライが。皆、初めての飛行だなんて思わせないほどすいすいと軽快に空を飛んでいる。
一つまばたきをした途端にぽろりと落ちた涙は、きっと長い時間羽化の様子を見つめ続けて目が疲れていたせいだろう。
ええ、感動なんてしてないんですよ。できる身分じゃないんですから。これから私はこの子たちを、帰還の見込みのない危険な偵察任務につかせようと考えているんですから。
胸のうちに溢れてきた複雑な思いを処理するのには、地平線の向こうから現れた太陽がそこそこ高く上るまでくらいの時間が必要でした。
くそう、何度覚悟を決めてもまだ軟弱な本音が顔を出す自分の心の弱さに腹が立つ。鉄の心になれとまでは思わないけど、ぐらぐら揺れっぱなしなのは疲れるんですよ、自分でも。なんだ、私の心はバランスタワーゲームか、それともジェ○ガか。
バラバラ崩れてもこれっぽっちも楽しくないぞ。猫を積んでいくゲームには別の意味で悲鳴があがったけど!
玩具の猫を積み上げていくゲームを思い出してちょっと和み、ついでにバランス崩して猫がバラバラと落ちていく光景まで思い出して内心悲鳴をあげたあと。
ちょっと気分が落ち着いたところで、DPを使って簡素な形の石のオブジェを作る。大きさは100×50センチほど。長方形だとあからさますぎるので、ひし形に近い不定形。文字は刻んでないけどデフォルメしたトンボを何体か浮き彫りにしておいた。
うん、自己満足でしかないことは百も承知だけど。跡形もなく消え去ったダームフライ夫妻も、はるか遠い場所で散ったトンボ君たちもここでは眠っていないけど。
自己満足に過ぎなくても、ほんの少しでも気持ちを軽くすることができるなら、慰霊碑の一つや二つくらい建ててやろうじゃないかと思ったわけですよ。
べ、別にこれから先もガンガン殺していく予定のダームフライの祟りが怖くなったわけじゃないから! ほんのちょっとでも供養したつもりになって罪悪感を薄れさせたいだけで、全部自分のためなんだからね!
……自分でやっておいてなんだけど、つくづく嫌なツンデレだなこれ。全部真実なのがなおのこと……真実って人を傷つけるのね。はぁ……
ちょっぴり浮上した気分がノーロープバンジーのごとき勢いで垂直落下したため、午前中は休息にあてることにして草原でだらだら過ごす。
好きにしてていいと言ったにもかかわらず、側にくっついていてくれるギンたちの優しさが心に染み入ります。ああもう、なにが嫌かってこうやってぐだぐだ悩んでも、最後にはダームフライを使い捨てにすることを選ぶ自分の残酷さだよ。
結局自分が可愛いだけなんですよ。ダームフライたちは使い捨てにする一方で、ギンたちはなにがあっても失いたくないとか思っちゃってるんですよ。
こういうネタに走る気力も起きないくらい落ち込んだ時は、もう無理に気分を浮上させようなんて思わず素直に落ち込んでおくに限ります。
どうせ形状記憶合金のごとく頑丈な精神が、いつまでも落ち込んだままではいさせてくれないんです。やらなきゃいけないこととか、作りたいものとか料理とかが頭に浮かんできたら否応なしに浮上するのは決まってるんです。
そして太陽が真上に来る頃には、予言通り見事に回復している私のタフな神経に乾杯。
ええ、たった三年でも社会人やっていれば、どんなに落ち込もうがへたれようが日本酒を樽で持ち込んだ馬鹿のおかげで人生初の二日酔いに苦しんでいようが、平気な顔して出社しないといけない時もあると熟知せざるを得ないのだ。
樽の乗った台車をガラガラ押して現れた時にはなにが起きたかと思ったけどな! それを十人足らずで飲み干した私たちも壮絶にアホだったけど! 酔っぱらいのノリって本当に怖いね!
……私の人生ワースト5に入る黒歴史はさておいて、浮上した気分が黒歴史に捕まって闇に沈む前にさっさと立ち上がる。
ダームフライの卵はまだまだ孵るし、そうしたらまたフラップラントが足りなくなるかもしれない。あ、いや……成虫になったらもう食事はいらないから、羽化した子たちの分の消費量は減るのか。となると、今の畑の規模を維持していれば餌が足りなくなる心配はない、と。
むしろ、そろそろベイビーたちがいなくなった時に備えて畑の規模を縮小するか、あるいはいっそ完全に更地にすることを考えたほうがいいかもしれない。
中途半端に残しておいたら、他の畑はおろか草地までじわじわ侵食されていきそうだし……階層の設定が『草原』である以上、意図的に掘り返して畑を作ったりしない限り他の植物が勝手に生えることはないとわかっていても、フラップラントの繁殖力を見てしまうとなんとなく怖いんです。
となると、とりあえず優先するべきはギンたちのレベル上げか。午前中は私に付き合わせてだらだらタイムに突入してしまったし。
ジンガもそろそろレベル上げに専念させてあげないと……あ、でもちょっと外で採ってきて欲しい植物が。前回は籠がいっぱいで諦めたハーブとか染料とか綿の材料になりそうな植物とか。
いやいや駄目でしょ。他に必要なものを取りに行くついでとかじゃなくて、単なる私利私欲のためにジンガの成長の機会を奪ったりするなんて。
そんなのは今フラップラントを植えている場所が空いてからでも十分……って、植えるのは決定なんかい! と、自分自身に突っ込みを入れたところで、フラップラント畑の脇に立てた石碑に目をやる。
今度は心が揺らぐことなく石碑に向かって手を合わせることができた。
ダームパパ、ダームママ、私はあなたたちの子供を使い捨ての偵察要員として外に送り出します。恨んでくれてもけっこうです。でも、できれば偵察部隊のトンボ君たち含めて、化けて出てくるのは勘弁してください。
夕暮れに編隊を組んで飛ぶくらいならともかく、夜中にいきなり目の前に出現されでもしたらショックで心臓が止まります。
気がついたらギンとヤシチも私の両隣で神妙に頭を垂れていた。ジンガに至っては私と同じように両手を合わせていて、あまりにも萌え心を刺激するその姿に思わずじたばたと足踏みしそうになる。ジンガ、君はどこまで萌えゴーレム道を追及すれば気が済むんだ!?
どうにか平静を保ったままお祈りを終えると、ギンたちに向き直って話しかける。ジンガのおかげもあって、笑顔を見せるのにはそんなに苦労しなかった。
「ごめんね、なんか心配させちゃって。でも皆が一緒にいてくれたおかげで、もう元気が出たから大丈夫だよ! 私は昼からは小屋にいるから、皆はリビメイ教授のところへ行ってレベル上げをしててちょうだい? 明日からはまた偵察部隊を外に送る予定だから」
くぅん、とちょっと心配そうに首をかしげたのはギンで、ヤシチはちょっと目を細めてからばさりと空中に舞い上がる。
ジンガはヤシチと私を見比べたあと、軽く頭を下げてゴ、と短く言ってからヤシチを追って歩き出す。今のは「行ってきます」だろうか? それとも「困ったことがあったらいつでも呼んで」だろうか。ちょっと飛躍しすぎかな?
最後まで側に残ったのはギンで、何度も私の顔を見上げてはスピスピ鼻を鳴らして「大丈夫なの? 本当に大丈夫?」と聞いているみたいだ。
うん、大丈夫。私はこれでも君たちの二十五倍は長く生きてるんだから……ぐふっ、この表現は思った以上に自分自身に精神ダメージが入るぞ。たとえ百パーセント事実でも。
「……大丈夫だよ。私にはギンたちがついてるから、なにも怖いものなんてない」
なにも怖くない、というのはフラグですがね! それも致死級の。ついでにギンたちが私を守るから、というネタを口に出しかけたけど自重。
二人目、三人目なんていないのに不吉この上ない。たとえ同じモンスターを作成できたとしても、それはギンたちの代わりになんてならないんです。
手を伸ばしてギンの頭をぽふぽふと撫でると、ギンは嬉しそうに目を細めたあとでリビメイ教授の部屋へ駆け出していく。
私を心配していたことなんてもう頭から綺麗に転がり落ちてるんだろうなぁ。どこまでもお馬可愛い……いや、鳥頭……それはヤシチに失礼だ、ええと……一瞬一瞬に全力投球で生きているわんこ、じゃなかった狼です。
さて、頑張ってレベル上げをしている皆に負けないように、私も明日からの偵察飛行の計画案をしっかり練りましょうか。だいたいのプランは頭の中にあるとはいえ、少しでも成功率を上げられるように考えておくべきことはたくさんある。
前回の偵察飛行で学んだ経験を生かすこと。私がダームフライたちにしてあげられるのは、死んだダームフライに対しても生きているダームフライに対してもそれだけだ。
同じ使い潰す前提ではあっても、ただ命を無駄に捨てるような使い方はしたくない。
今の世の中エコは大事なんです。私のエゴで使い捨てるだけに……くそう、一字違いでもちっとも上手いこと言った気になれない。むしろ精神的ダメージが追い打ちで来たよ。
それでもまだ、馬鹿なことを考えていられる余裕があるうちは大丈夫。私の超合金ロープの神経はまだまだ健在です。
だけど、できることなら……金属疲労とか劣化とか過剰負荷とかでぶちっと行く前に、なんでもいいから先行きが明るく感じられるような材料が欲しい。
どんな些細なことでもいいから、ギンたちに出会えたこと以外にもこの世界に来て素直によかったと思えるなにかが見つからないだろうか。そう思うのはただの贅沢でしょうか?




