レベル5魔界砂漠
生理痛の試練から数日後。私とリリーメルは、さらに手強い魔物が生息するという『魔界砂漠』へと足を踏み入れていた。
見渡す限りの砂丘。そして頭上には、魔界特有の淀んだ太陽が容赦なく照りつけている。
「ふぅ……しかし、暑いなあ。肌がジリジリ焦げてる気がする……」
私は額に浮かんだ汗を手の甲で雑に拭いながら、たまらずぼやいた。
すると、隣を歩いていたリリーメル(日傘代わりの魔法障壁を展開済み)がピタッと足を止め、信じられないものを見るような目で私の顔を覗き込んできた。
「ちょっとアキニャンニャンちゃん。あなた、まさか日焼け止め塗ってないの?」
「え? ひやけどめ?」
「……いや、よく見たらあなた、そもそも普段からメイクしてないわよね?」
痛いところを突かれ、私はたじろいだ。
「えっ? 冒険にメイク!? いやいや、これから砂まみれになって魔物と殴り合うんだぞ!? どうせ汗と砂でドロドロになるし、意味ないじゃん!」
(そもそも男だった頃は、日焼けなんて『歴戦の勲章』くらいにしか思っていなかった! 洗顔だって水でバシャバシャやって終わりだぞ!)
しかし、リリーメルはビシッと私に指を突きつけて一喝した。
「当たり前でしょ! いろんな過酷な場所に行くからこそ、その環境にあったメイクやスキンケアが必要なの!」
「な、なんだってー!?」
「いい!? 砂漠の紫外線は、放置すれば『永続の防御力ダウン&スリップダメージ』をもたらす凶悪なデバフよ! 将来シミやシワになったら、回復魔法でも治せない呪いになるんだからね! それに、乾燥で唇が割れたら呪文の詠唱だって噛むでしょ!?」
「う、嘘だろ……!?(回復魔法で治せないダメージだと!? 魔王の呪いよりタチが悪いじゃないか!)」
リリーメルは呆れ果てたようにため息をつくと、魔法のポーチから見慣れない小瓶やパレット、スポンジなどを次々と取り出し始めた。
「魔物と戦う前に、まずは環境への対策。これが女の子の冒険者の基本よ。いい? 日焼け止めはこまめに塗り直す! ベースメイクは汗や砂に強いウォータープルーフの耐久バフ一択! 砂漠の乾燥から肌を守る保湿コーティングも必須!」
「ひ、ひええ……!」
「さあ、そこに座りなさい! 今日は魔界砂漠用・絶対崩れない鉄壁メイク講座よ!」
「いや、あの、前方にサンドワームが三匹ほどこっちを見てるんだけど……」
「無視なさい! 今は紫外線の方が厄介よ!」
かつて数々の魔王軍幹部を大剣一本で打ち倒してきた元・最強の勇者は今、ちんまりと砂丘の上に正座させられ、賢者様にペチペチと化粧水を叩き込まれるのだった。
下着、生理、そしてメイク。
魔王を倒して愛しの彼女を救うための道は、どこまでも女の子の未知なる試練に満ちている。




