レベル4魔界平野
魔界入り口でのスライム乱獲から数日。私とリリーメルは、少しだけレベルの高い敵が出る『魔界平野』へと足を踏み入れていた。
「よし、あそこのゴブリン三匹、いけるわよ!」
「おうっ! はあっ!」
レベルが上がり、少しだけ女性の身体の動かし方に慣れてきた私は、軽快なステップでゴブリンたちを討伐した。息を整え、剣を鞘に収めようとしたその時だった。
ツー……。
ふいに、太ももを温かいものが伝い落ちる感覚があった。
足元を見ると、地面にポタポタと赤い雫が落ちている。
「え……?」
「どうしたの!? どこか怪我したの!?」
私の足元を見たリリーメルが血相を変えて駆け寄ってくる。
「いや、そんなはずは……。攻撃は全部避けたし、痛みもないぞ……? もしかして、見えない魔法攻撃でも食らったのか!?」
(ヤバい、致命傷か!? いつやられた!? 魔界平野、恐るべし……っ!)
元勇者として周囲への警戒をMAXに引き上げた私だったが、足元の血と、私の服の様子を確認したリリーメルの顔からは、スーッと緊張感が抜け落ちていった。
そして、呆れたような、怒ったような顔で腰に手を当てた。
「……ってこれ、生理じゃないの! なんで準備してないのよ!」
「え? せ、生理?」
(せ、生理ぃぃぃ!? いや、知識としては知ってる! 知識としては知ってるけど、まさか自分にそのイベントが発生するなんて微塵も想定してなかった!!)
「な、なんでって……あっ、えっと……初めてだったので!」
「は? え? この歳で初潮……?」
私の苦し紛れの言い訳に、リリーメルは目を丸くした。
「そ、そう! ほら、私ってちょっと特殊な環境で育ったから! 遅咲きっていうか!」
「……まあ、種族とか生活環境で年齢差あるって言うし……。って、感心してる場合じゃないわよ! 本当に何の準備もしてないの!?」
リリーメルが慌ててポーチから布や見慣れないアイテムを取り出し始めたその時。
「うっ……」
ドクン、と下腹部に重たい鉛を乗せられたような鈍痛が走った。
それと同時に、身体中の血が引いていくような嫌な冷えと、強烈な吐き気が込み上げてくる。
「うう……なんか、お腹の下のほうがズーンって重くて……気分、悪くなってきた……」
「あーあ、顔面蒼白じゃない。初潮でいきなりそんなに重いなんて可哀想に……。冷えは絶対ダメよ!」
リリーメルは急いで自分のマントを脱ぎ、へたり込んだ私の腰にぐるりと巻き付けてくれた。
「とりあえず今日はここまで! 街に戻りましょ。ブラジャーの次は生理用品ね。もう、使い方からお腹の温め方まで、私が一から色々教えてあげるわ!」
「すま、ない……リリー……」
(くっ……! 魔王の呪いよりも、未知のダメージすぎる……! 女の人って、毎月こんなデバフと戦ってたのか……っ!)
魔物との戦闘ダメージはゼロなのに、HPとメンタルをゴリゴリに削られたアキニャンニャン。
魔界の平野に、元最強勇者の力無い呻き声が響き渡るのだった。




