レベル3魔界入り口
魔界への入り口。そこはなぜか、歩き始めたばかりの初心者でも安心して戦える「親切設計」なスライムやコウモリばかりが出るエリアだった。
「いっけー! アキニャンニャンちゃん! 私が後方から防護魔法と回復魔法でサポートするから、思う存分暴れてきて!」
「お、おう! 任せとけ!」
俺……いや、私は、ひときわ弱そうな『はぐれプチデビル』に向かって大剣を振り下ろした。
しかし、元・最強の勇者だった頃の感覚で力任せに踏み込んだせいで、女性の身体になった今の筋力と絶妙にバランスが噛み合わない。
「スカッ」
「うおっ!? 身体が軽いというか、踏ん張りが効かねぇ!?」
「隙ありギヤー!」
「ひゃあっ!?」
体勢を崩したところに、プチデビルの鋭い爪が容赦なく迫る。
『キィィィン!』という甲高い音と共に、リリーメルがかけてくれたプロテクトが直撃を防いだものの――爪の衝撃の余波は、私の着ていた旅の服の胸元を一直線に引き裂いてしまった。
「あ、痛っ……くはないけど、服が……」
「大丈夫!? アキニャンニャンちゃん!」
慌てて駆け寄ってくるリリーメル。彼女は私の破れた胸元を見た瞬間、ピタリと動きを止めた。
そして、信じられないものを見るような目で、私の顔と胸を交互に見つめる。
「……アキニャンニャンちゃん。あなた……まさか、ノーブラ……?」
「え? あ、いや、これはその……」
(ヤバい!!! そもそも昨日まで男だったから、ブラジャーなんてつける概念がなかったんだよ!!)
「……えっと、そう! 解放感? ほら、風を感じるプレイスタイルというか……その方が素早さが上がる気がして!」
必死の言い訳だった。しかし、賢者リリーメルの目は誤魔化せなかった。彼女の瞳は、かつて魔王軍の幹部を睨みつけた時と同じくらい、スッと冷たく細められた。
「……ありえません」
「えっ」
「女の子がノーブラで魔界をうろつくなんて、言語道断! 将来胸が垂れちゃいますし、そもそも防御力以前にエチケットの問題です! 今日はもうレベル上げ中止! 街に戻りますよ!」
「えええええ!?」
かくして翌日。
私は冒険者たちが集う街の、フリフリでレースの気配が充満する『女性用下着専門店』に放り込まれていた。
「ほら、バンザイして! まずはサイズ測るから! 店員さん、メジャー貸してくださーい!」
「ちょ、まっ、ここで!? 店員さん見てるって!」
「女の子同士なんだから恥ずかしがらないの! ……んー、アンダーとトップの差が……意外とあるわね。あの脳筋のアキラみたいにガサツかと思ったら、結構いいスタイルしてるじゃない」
「(そのアキラだっつーの!)いや、あの、リリーさん……これ、俺……じゃなくて私、自分でやるから!」
「ダメ! 初めてのブラはちゃんと先輩の私が見立ててあげる! ほら、激しく戦ってもズレないスポーツタイプか、この寄せて上げる勝負下着、どっちがいい?」
「(男のすべてを譲った上に、胸まで寄せ上げられるのかよ……っ!)」
魔王を倒すための果てしない道のりは、まず「正しいブラの付け方」から始まるのだった。




