レベル2魔界旅立ち
静かに瞬きをして、ゆっくりと目を覚ますリリーメル。
それを見守っていたアキラは、安堵から思わず身を乗り出した。
「リリー、大丈夫か?」
「んー……あなたは?」
「俺はアキ……」
「アキラ?」
その時、ふっとアキラの脳裏に『命の女神』との会話がフラッシュバックした。
――数時間前。命の女神の聖域にて。
『勇者殿の《男のすべて》を移植した力で、彼女は目を覚ますでしょう。しかし、それは一時的に呪いを封じ込めているだけなんです。本当に呪いを解くには、魔王の本体を倒さなければなりません』
『なんだって? 魔王なら既に倒したぞ』
『魔王はやられる寸前、リリーメルさんに呪いをかけるとともに、本体を魔界に逃がしたのです。完全復活には数年はかかるでしょう。魔王が完全復活する前に、今度こそ倒すのです』
『しかし、リリーメルがこの状態では……』
女神はニコニコとした笑顔のまま、とんでもないことを言い放った。
『それこそが魔王の狙いです。勇者殿のような“脳筋”であれば、鍛えれば代わりはいくらでも用意できるでしょう。しかし、リリーメルさんのような優秀な賢者は、数年鍛えたところで魔王退治には到底役に立ちません』
『おい、今しれっと俺のことディスらなかったか?』
『ですので、そのリリーメルさんが蘇生したとなれば魔王にとっては計算外。魔王は一年ほどで復活すると思われますが、そこから力を蓄える前に倒すのです。勇者殿は女性になり、力や素早さが著しく落ちるでしょうが……まあ、脳筋は一年もあれば少しは役に立つようになるでしょう』
『ちょいちょいディスってくるな、この女神!!』
ギリッと歯ぎしりをするアキラに、女神は真剣な(しかしどこか楽しそうな)顔で念を押した。
『それと、リリーメルさんには、あなたが勇者であることはくれぐれもバレないようになさい』
『何故だ?』
『リリーメルさんの状態は極めて不安定です。もしそんな時に「勇者殿が女の子になった」なんて情報を与えれば、ショックでリリーメルさんの体と勇者殿の《男の要素》が恐ろしい副作用を起こす可能性があります』
『お、恐ろしい副作用とは……?』
『一つは、リリーメルさんの口から勇者殿の《光り輝くマッチョな魂》が物理的に飛び出し、猛ダッシュで逃げ去ってしまいます。そうなれば彼女は再び昏睡状態です』
『いや、光景がもはや地獄じゃないか! どういう原理だよ!』
『しかも、一度逃げた魂は捕まえるのが困難なので、再び呪いを抑えるためにはその辺のオークやゴブリンの“別のオスの魂”を引っ捕らえて詰め込む必要が出てきます』
『そ、そんなこと絶対に許せん!!』
想像しただけで身の毛がよだつアキラに、女神はさらに追い打ちをかけた。
『もう一つの可能性は、勇者殿の《男の要素》がリリーメルさんの体内で暴走し、リリーメルさんが屈強なボディビルダー体型になってしまいます』
『いや、だからどんな物理法則だよ! 愛しの彼女がマッチョになるなんてあり得るのか!?』
『本当はそうなったら命を落としかねないのですが、そこは命の女神たる私がチョチョイと調整しますので』
『もはや命の冒涜とも言える発言!!』
『ですので、リリーメルさんには絶対にバレないように行動を共にし、魔王を倒した暁にはまたここへ戻ってきてください。魔王の呪いがなくなった後のリリーメルさんから勇者殿の《男の要素》を取り出して、勇者殿に戻しますので』
――回想終わり。
(そうだ、俺がここでアキラだと知られると、リリーの口から俺のマッチョな魂が逃げ出すか、リリーが屈強な男になっちまう!!)
強烈なペナルティを思い出したアキラは、顔を青ざめさせながら必死で誤魔化した。
「えっと、俺……じゃなくて! 私は、えっと……アキニャンニャン!」
(って、咄嗟に変な名前を口走ってしまったーーッ!?)
「アキニャンニャン……? あなたが、私を助けてくれたの?」
不思議そうに首を傾げるリリーメルは、ハッとして周囲を見回した。
「そうだ、アキラは!? アキラはどこ!?」
「え、えっと! アキラは、仕留め損なった魔王を追って、一人で魔界に向かったんだ! 私たちも魔界を目指して旅立とう!」
かくして、勇者(中身)と賢者の、絶対に正体がバレてはいけない魔界への魔王討伐の旅が幕を開けたのだった。




