レベル11魔王対決
長く過酷な(主に女の子としての作法の)試練を乗り越え、私とリリーメルはとうとう魔界城の最深部、玉座の間へと辿り着いた。
そこには、玉座にどっかりと座る魔王の姿があった。
リリーメルの復活から約1年。魔王の身体は完全に修復されていたが、その肌には生気がなく、かつての圧倒的な魔力は感じられない。女神の言った通り、力はまだ戻りきっていないようだ。これなら、女性の身体になった私でも存分に戦える。
私が大剣を構えようとしたその時、横にいたリリーメルが一歩前に出た。
「アキラ、アキラはどこ!?」
「む? アキラ?」
玉座の魔王が、怪訝そうに眉をひそめる。
「先に魔王を倒すために、魔界に向かっていたはずよ!」
「ふん……1年前に我を追い詰めたあの勇者か。残念ながら、ここへは来ていない」
「そんなはずないわ! アキラをどこへやったの!?」
必死に食ってかかるリリーメルに対し、魔王は顎に手を当てて少しバツが悪そうに答えた。
「うーむ、言いにくいが……あの脳筋は、お前という優秀な賢者がナビゲートしなければ、魔界を1人で抜けてこの魔王城まで辿り着くのは難しいと思うが」
「いいえ! アキラは確かに脳筋だけど、とても強いんだから!」
「(リリー……!)」
魔王相手に一歩も引かず、私の強さを信じて擁護してくれる愛しの彼女の姿に、私の胸は熱くなった。やっぱりリリーは俺を信じて……。
「だ、だから、きっと……いや多分、ここに、来たと思うはずなのだけど……」
「(おーい、リリーメルさーん?)」
アキラがここに来ていないという魔王の極めて真っ当な(そして図星の)指摘に、リリーメルの声はみるみるうちに小さくなり、あからさまに自信をなくしていった。
私の中で感動の波がスッと引き、なんとも言えないモヤモヤした感情が渦巻く。
(くっ……否定しきれない! 実際、リリーのサポートがなかったら、日焼けと冷え性と装備の罠で、魔界平野あたりで野垂れ死んでた自信がある!)
もはやこれ以上「勇者アキラ(不在)」の株が下がるのを聞いていられなくなった私は、パンッと両手を叩いて空気を変えた。
「リリー! とにかく魔王を倒して、アキラを探そう!」
「そ、そうね。あの脳筋がそう簡単にくたばったりしないわ」
「…………」
(この1年で『脳筋』って呼ばれるの、すっかり定着しちゃったな……)
釈然としない思いを大剣の柄に込め、私は魔王を力強く睨みつけた。
「ふん、まあよい。目覚めたばかりとはいえ、女子供2人にやられるわけにはいかん。かかってこい!」
魔王が玉座から立ち上がると同時に、広間にどす黒い瘴気が吹き荒れた。
「行くわよアキニャンニャンちゃん! 『ホーリー・エンチャント』!」
「おうっ!」
リリーメルの聖なるバフ魔法が、私の大剣と身体を光のオーラで包み込む。
魔王が放つ漆黒の炎の弾幕。かつての私なら、大剣の腹で強引に弾き飛ばして真正面から突っ込んでいただろう。しかし、今の私は違う。
「はぁっ!」
しなやかな筋肉と、リリーメルに教わった女性特有の低い重心のステップ。そして、激しい戦闘でも邪魔な胸の揺れを完璧に抑え込む『スポーツブラ(防御力高)』の恩恵により、私は炎の隙間を踊るようにすり抜けた。
「小賢しい娘め! ならばこれでどうだ!」
魔王が床を殴りつけ、無数の氷の棘を下から突き上げてくる。
「アキニャンニャンちゃん、跳んで!」
「了解!」
私は迷わず高く跳躍した。空中に逃げた私を狙って魔王が極太のレーザーを放とうとするが、それより早くリリーメルの詠唱が完了する。
「させないわ! 『サンダー・ストーム』!!」
強烈な雷撃が魔王の視界を奪い、魔法の軌道を大きく逸らした。
(完璧なタイミング……! さすがは俺の自慢の賢者だ!)
落下しながら、私は大剣を上段に構えた。
冷え性対策の腹巻きで身体の芯はポカポカに温まり、肌は完璧なスキンケアで乾燥知らず。今の私に、一切のデバフ(状態異常)はない!
「これで……終わりだぁぁぁっ!!」
光を纏った大剣が、魔王の巨体を袈裟懸けに深々と切り裂いた。
「ぐああああああッ!! こ、この我が、よもや完全に復活する前に、見知らぬ小娘と賢者に敗れるとはーーーーッ!!」
断末魔の叫びと共に、魔王の身体は眩い光の粒子となって崩れ去った。
後に残ったのは、静寂を取り戻した玉座の間と、肩で息をする私とリリーメルの2人だけだった。




