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第338話 【オーガルの部下】




 昨日は慌ただしく移動と謁見を済ませましたが、本日の咲楽たちの予定はありません。


 帝都フリムは女神の使者の行動を阻害する権利がないことを肝に銘じています。必要最低限の接触を試みた後は、咲楽たちの好きなように行動させることが最善でしょう。


(少し予定は狂ったが想定の範囲内)


 朝食を済ませるとオーガルは屋敷を後にします。


 ハクアが抱えている業務は把握しているので、想定した通りに根回しをすれば十分です。初代皇帝オーガルは常に先を見据えて準備をしてきた男です。


(あのアオイが考えている国おこし、興味深い)


 さらにオーガルはただ屋敷で談笑していたわけではありません。ナキとルルメメから旅の話を聞きつつ、葵たちの企画会議にも聞き耳を立てていました。


(実行には人手が必要…奴らを招集させておくか)





 中央砦で一通りの雑務を終えたオーガルは、砦の地下深くにある部屋へ向かいます。そこは限られた人間しか立ち入れない秘密の集会場です。


「この顔ぶれで集まるのも久しいな」


 オーガルは集まった面々を見回します。


「ええ、懐かしい気分になります」

「再び招集される日が訪れようとは…」


 まずは咲楽とも既に面識があるオルドとテオール。


「今回は私も呼ばれたわ~」

「…そこが個人的に不穏なのですが」


 さらにフリムの将官のベドミルとフーリアン。

 この五人が中心卓に座って円を作っています。


 他にも数名の人間が集まっていますが、口を開かず距離を取って五人の話し合いを見守っています。この場に集まる面々はクーデターを起こす際にオーガルが作った小さな組織。


 巨悪な帝王の目を盗んで結成された同盟。

 英雄とは別でオーガルが最も信頼できる部下たちです。


「今回お前らを集めたのは緊急ではない」


 張り詰めた空気の中、オーガルはまずみんなを安心させます。


「帝都に新たな脅威が芽生えた訳ではないことを前置きしておく」


 その言葉に一同が安堵します。

 元々帝都の脅威を排除するために結成された組織なので、議題はいつだって不穏なものばかりでした。問題が定かではない内は変に邪推するのも無理はありません。


「だからベドもいるのですね…納得」


 フーリアンがそう呟くとベドミルは頬を膨らませます。


「ひどい!ずっとこの集まりに呼ばれなかったこと、根に持ってるんだからねっ」


「終戦を望まず戦闘を欲する、その闘争的な性を恨むんですね」


 そんな口論を交わす二人にテオールはため息を溢しました。


「この二人もそうですが、終戦してから軍全体の気の緩みが気になりますね」


「こいつらは普段通りだがな」


 オーガルと三人の女将官のやりとりからは、身内か親族のような親しみを感じます。それだけ長い期間を共にしてきたのでしょう。


「それでそれで、なんで私たち呼ばれたのぉ?」


 無駄口を叩いていたベドミルが急に本題を切り出します。


「女神の使者は何かを企てている。現段階ではどれほどの規模になるか予測がつかないが、人手は多いに越したことはない」


 オーガルは大まかな説明から始めます。


「緊迫した事態にはならないが、我はこの企画を成功へ導く責任がある。だからこそ最も信頼できるお前らの力を借りたい」


 そう言って真剣な眼差しを集まった面々に向けました。


「勿体なきお言葉です」


 テオールの言葉に周囲も頷きます。

 淡泊な反応に見えますが、内心では全員が感激していました。


(あのオーガル様が我々を頼りにしてくださるなんて…)


 クーデターを企てていた過去のオーガルは尊敬に値する人物ではありますが、とても冷徹な人柄です。叛逆の意思を集めて結成されたメンバーにも隙を見せず、何を考えて帝都を乗っ取るつもりなのか不審に思うこともありました。


 ですがその不信感は息子のハクアと再会を果たすことで明らかになります。


 得体の知れない組織のリーダーが血の通った父親であることを知ると、同胞たちは親しみを込めて付き従う覚悟を決めました。仲間として頼りにされることだけで光栄の至りなのです。


「呼ばれたのは嬉しいけど私に活躍の場があるのかしら~」


 ベドミルは退屈そうに頬杖をついています。


「かつて“帝都の血染め”と恐れられたベドミル少将にとって、平和な世界はさぞ退屈だっただろう」


 オーガルは手持ちから書類を取り出します。


「その名を馳せた歴戦の戦士だからこそ、活躍してもらいたいことがある」


「…ふぇ?」


 予想外の展開にベドミルは面食らいます。


「改めてサクラたちが企てている“国おこし企画”の概要を説明する」


 こうして国おこし作戦は咲楽の知らない所でも、静かに準備が進められるのでした。

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