僕の名前は
「僕はーー僕は誰なんだ?」
思い出せない……僕はなんでこんな所に立っているんだ?
それにここは……
周りを見渡すと目の前には大きな門があり、その奥には二つの四階建てほどの建造物が聳え立っている。
そして門の横には『志登高校 第3回入学式』と書かれた立て看板が設置されていた。
この情報から読み取るにどうやらここは学校らしい、おまけに入学式ときた。
「……っと」
突然の後ろからの柔らかい衝撃に体が前によろけた。
なんだ、と思い後ろを振り向くと可愛らしい衝撃の正体がアワアワとしていた。
その正体は茶色のミディアムヘアーで、その髪には十字架の髪飾り。身長は155cmほどで、きれいな黒色の瞳をしている。
胸は大きくもなく小さくもない理想的な大きさ。
「すすすすすみません! ききききき緊張していて前を見てませんでした……」
手と一緒に持っているカバンをブンブンと振り回し、目をグルグルとさせ、アワアワという擬音が体現されたかのような慌てっぷり。
「僕は全然大丈夫だから落ち着いて」
「ふぅ……すーはー……すーはー」
深呼吸をした後、とても可愛らしい笑顔で
「はいっ! ありがとうございます! 私は志登高校一年の神楽坂春です。入学式ということで緊張してしまいました」
「神楽坂さんね。よろしくね、僕は……僕は……」
名前を言おうとしたその口が止まる。
あれ……僕の名前ってなんだ?
「んん……ま、まぁよろしくね」
かなり苦しい感じのごまかしになってしまったけど……
神楽坂さんは目をキラキラさせながら
「はい! よろしくお願いします!」
ほっ……大丈夫だったみたいだ。でも疑問すら持たないなんて人がいいのかおバカなのか……
「では一緒にクラス分けの表を見に行きましょう!」
「どうして一緒にクラス分けを見に行くの?」
疑問を投げかけると神楽坂さんはまたしてもアワアワしながら
「すすすすすみません! 初対面なのに慣れ慣れしかったですよね。すみません! 私バカでした……」
「いや、そういうことじゃなくって僕この学校の生徒じゃないんだ」
そう答えると神楽坂さんは顎に手を持っていき、あれ? と首を傾げ
「でもここの制服着てますよね。まさかコスプレ……?」
えっ、と驚きながらも恐る恐る視線を服に向けると、確かにこの学校の制服を身に着けている。
どうしてだ……? 僕はこの学校に通う予定の生徒だったってことか? ここに向かう途中でなんらかの要因によって記憶を失ったのだろうか。
「じょ、冗談だよ。行こうか」
***
「見つけました! 私はA組です! あなたはどうでしたか?」
「うーん、僕の名前は載ってないね。学校側のミスかも。ちょっと職員室に聞きに行ってくるよ」
「分かりました! また学校が終わったら校門で会いましょう」
ブンブンと手を振る彼女に手を振り、僕は職員室を目指す。
ーーコンコン
扉をノックし、室内に入る。
「すみません、今日入学した者なのですがクラス分け表に僕の名前が載ってなかったんです」
そう言うと近くにいた先生が
「はいはい、ちょっと待ちたまえ」
と言ってこちらへと向かってくる。
その先生の容姿は黒色の長い髪で、その目には茶色の瞳が宿っている。
すらっと高い背丈をしており、僕より高い。あと、なぜなのかは分からないがサングラスを服の胸元部分にぶら下げており、その胸元は貧相なもの。
「おや、君は私のクラスの真田十四君じゃないか」
「……真田十四」
「そうだとも」
真田十四…それが僕の名前……
忘れてしまっていた名前……
「あの、何組ですか?」
「あぁ、A組だよ。ちょうどいい、私も今から教室に行くところでね、一緒に行こう」
「分かりました」
***
先生に案内されて教室に着くと、すぐに僕を見つけた神楽坂さんが近づいてきた。
「あれ、同じクラスだったんですね! 仲良くしてください!」
「うん、よろしく。あと僕の名前は真田十四。自己紹介が遅れてごめんね」
「いえいえ、十四君ですね。覚えましたよ!」
「おーいみんな席につけー」
先生のその一言で立ち歩いていたクラスメイト達が席に向かう。
「今日はこの後入学式だ。だがそれまで少し時間があるので私の自己紹介をしようと思う」
チョークを手に持ち、黒板に書き始めた。
綺麗な先生だと思ってたけど、後ろ姿も様になるな。
「えー、私の名前は有栖川咲夜だ。年齢は27歳、彼氏は現在募集中。教師になったきっかけは試験を受けてみたら合格したからだ。私は優しいからきっと楽しい高校生活になるよ」
おいおい、そんなふざけた理由で教師になるなよ…。それに彼氏の募集を生徒相手にするんじゃない。
でもよい先生って感じがするし、初めての担任ガチャはあたりかな。
「では、体育館に移動するとしよう」
***
入学式も無事に終わり、帰りのSTも済ませたA組は解散ということになった。
「十四君、一緒に帰りましょう! 帰る方角は一緒なんでしょうか。まぁ分からないので行けるところまで行きましょう!」
終わるなり彼女が下校の約束を取り付けに来た。
断る理由もないし、むしろ嬉しかった僕は
「うん、一緒にかえーー」
そう続けようとした瞬間に気づいた。
ーー僕の家ってどこだ。
名前も自分の学校も知らなかった僕は当然家の場所なんて知らない。
「あ、今日は家族が車で迎えに来るんだった」
「そうなんですか……それは残念です……」
さっきまであんなにも明るかった彼女の顔が沈む。
「本当にごめん。今日は入学祝に家族で外食することになってて」
「それなら仕方ありません。ではまた明日一緒に帰りましょう!」
「うん。よろしく」
そう言って別れを告げると僕は今後について考え始めた。
どうやって家の場所を知ろう。
さっきみたいな方法は住所では通用しないはずだ。名前の時はなんとか聞き出せたが住所になると話が違う。
自分の家の住所を忘れるなんてそれこそ記憶喪失を疑われてしまう。
もう素直に打ち明けて教えてもらうべきなのか。
そんなことを考えていると
「おや、真田君じゃないか。どうしたんだい? みんなとっくに帰ってしまったよ」
「えっ」
そう言われて周りを見渡してみると人ひとりいない。
考え込んでいる間にみんな帰ってしまったらしい。
「で、なにを考え込んでいたのかな」
「いえ、なんでもありません」
やっぱり記憶喪失だなんて言いにくい。
そう思った僕は口を濁してしまった。
「おい、そうやって嘘をつき続けるのか」
咲夜先生は僕の胸ぐらをぐっと掴み、その綺麗な顔をグイっと近づけてきた。
「今朝から君が嘘をついていることには気づいている。私と君は今日出会ったばかりだが、それでも私は君の力になりたい」
彼女のその綺麗な茶色の瞳は真剣そのもので、もはや言い訳なんてできるわけもなく
「分かりました……。あの、まず離してもらえますか」
「ん、あぁすまない」
どうやら夢中で気がついていなかったみたいだ。
咲夜先生は掴んでいた手を放し、僕の前の席に座った。
「実は僕、記憶がないんです」
「なっ……」
僕の告白に咲夜先生は驚きの声を漏らす。
だが、すぐに顎を手で支えつぶやきはじめた。
「そういうことだったのか…。それなら今朝の君の行動にも納得がいく」
「はい、今朝気がついたら学校の前に立っていました」
それからも僕は今日の出来事について話した。
そしてーー
「なるほど、君が今置かれている状況は分かった。それはつまりかなりピンチってやつだね」
「お恥ずかしながら……」
「そういうことなら職員室に生徒の名簿がある。それを見れば君の住所も分かるだろう」
そういうと咲夜先生は席を立ち、ヒールをカツカツと音を立てながら扉に向かう。
そして扉に手をかけると、こちらに振り向き
「そうだ、何かあっても困る。私が車で家まで送ってあげよう」
彼女はフッと笑った。
少しタイトルを変更しました。それと初ブクマありがとうございます!
更新頻度についてですが週1で更新したいと思っています。あがらなかった場合はお察しくださいませ。




