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エーテルギフト~異能のデメリットに振り回されるオレ達~  作者: 甘井雨玉


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第7話 必死の交渉


 おっさんの願いを叶えて数日経った今、オレは――


「ふざけんな! もう誰の願いも叶えねえからな!!」


 バチクソにブチ切れていた。


「それは108番が決めることではない」


 対面にいるのはいつもスピーカーから指示を出している初老の男。

 不健康そうな見た目をしているが目だけはぎらついており、第一印象からは出来れば関わりたくないと思うような人物である。


 というか、こいつはこの研究所では上の立場の人らしいので、普段オレ達のような実験体と直接関わったりはしない。だが、オレがおっさんの願いを叶えたせいで失った体力が回復した後、交渉するために呼んでもらったのだ。


「だけど、このままだとまた無理やり能力を使わせる気だろ?」

「否定はしない」

「しろよ。否定してくれよ。ほら、見てくれよこの左腕」

「無いものは見えないな」

「無くなってることをハッキリと認識してるなら、無理やり能力を使わせようとするなよ」


 何故こんな状態になった人間を前にして、モルモットでも見るかのような目で見られるのか。


「はぁ。要件がそんな意味のない要求だけならもう行くぞ。私は忙しいんだ」


 ここの奴らに情で訴えても無意味であることは分かり切っていたことだとは言え、ここまで同情の視線すらないのはどうよ?

 まあそうなると分かっているからこそ、こっちも情で訴えるために呼んでもらったわけではないのだが。


「次はないかもしれない」

「なに?」


 椅子から腰を上げかけた男は改めて椅子に腰を戻すと、真剣な目でこちらを睨んで来た。


「どういう意味だ?」


 情でダメなら、理詰めでいくまでだ。


「代償がどんどん重くなってきてる。前は小指一本だけだったのに、今回は左腕が丸ごといったんだ。

 次は命に関わる代償でもおかしくない」

「それは願いによるとこちらでは考えている。

 最初の299番の時は意識を正常にするというもので治したのは頭だけだ。しかもそれは本人の意志ではなく言わされたもの。

 それに対し、2番目のスポンサーは身体全体であり、本人たっての願い。

 それが代償の重さに違いが出たはずだ」


 つまり、次も左腕がごっそり無くなるレベルの代償だから大丈夫ってか?

 全然大丈夫じゃないが!?


「そうとは言い切れないだろ。普通に考えたら回を重ねるごとに代償が重くなってると思わないか?

 もしそうなら3度目は死んでもおかしくないはずだ。さすがに死ぬのは嫌だぞ」

「確かにその意見も出たな」

「そちらとしても残り1回しか叶えられなくなるより、オレのデメリットを各々探って正当な方法で願いを叶えるよう動く方が、多く願いが叶えられると思うが?」


 オレがそう言うと、男は顎に手を当てて考え出した。


 オレが何も知らないガキなら、〝自身の制約2〟の【他人の願いを叶えたくなる衝動に駆られるようになる】の影響もあって、こいつらの言われるがままに能力を使用し続けただろうが、生憎とオレは人の願いなんて叶えたくないので全力で抗うぞ。

 たとえこの行動がただの遅延でしかなかったとしても、こんなポンポン願いを叶えさせられたら、代償のせいで1年以内には間違いなく死んでる。


 そうならないようにするために、オレに安易に能力を使用させるよりも、デメリットを探って何度でも願いを叶える方が得策だと思わせたい。〝自身の契約1〟の【[願望成就]によって1度だけしか願いを叶えてもらえない】のせいでどの道1回だけだが、何回も叶えてもらえるかもと思わせられればいい。


「……ダメだな。それではスポンサー達が納得しない。

 すでに1人望みを叶えているというのに、自分達の願いは叶えないのかと抗議されるのが目に見えている」


 ちっ、やっぱそうなるよな。

 スポンサーが先日のおっさんだけなら問題はなかったのに。


 こんな何百人も子供を集めて育てる様な場所が、たった1人の出資で済むような規模の小さいもののはずがなく。当然複数人スポンサーがいるわな。


 だが想定内だ。


「あんな危険な願いの叶え方でもいいから叶えろって?」

「当然だ。108番が死にかける程度のことでは止める理由にならない」

「何を言ってるんだ? 危険なのは願いを叶えられた側だろ」


 お前らにとって大事なスポンサーなら、この言葉は無視できまい。


「は?」


 おっ、今まですまし顔で人を人と思わないような言動をしてた奴が、ようやくその表情を変えたな。


「どういう事だ」

「どういう事って言われてもな。オレが願いを叶えたあのおっさん、今どうしてる?」

「……健康そのものだ。特に異常はなく、今は自宅に帰ったはずだ」


 そう。異常が無い、ね。

 それが一番異常だというのに、何故それを無視できる?


「デメリットの内容を全て把握しているオレが断言する。オレがデメリットの代償を払った以上、あのおっさんも間違いなく、[願望成就]のデメリットで代償を払うことになるぞ」

「……それはこちらでも疑問に思っていた。

 だがそれは299番の時と違って願いを心から受け入れているから、願いを叶えてもらった側への代償はなかったんじゃないかと判断したんだが……」


 〝他人の禁約2〟の【叶えてもらった願いを生涯否定してはならない】を上手くぼかして言ったな。

 そういう伝え方なら〝他人の制約1〟の【他人に[願望成就]のデメリットを伝えられなくなる】には引っかからないのか。


「それは願いを叶えるという奇跡を甘く見過ぎだな」


 あのおっさんに、〝他人の禁約1〟の【願いを叶えてもらった相手への恩義を生涯抱き続けなければならない】は絶対に無理だ。

 人を人と思わないようなやつが、道具のように見ていたオレに対して恩義を生(・)涯(・)抱き続けられるはずがない。


 そもそも〔健康な肉体にしてくれ〕という願いなら、他人のデメリットの中で反するのは〝他人の禁約1〟しかない。

 これに反していたからオレは左腕を失うという代償を払わされたわけだ。

 おそらく未来において〝他人の禁約1〟が必ず破られるから、先に代償を払わされたのだと思う。

 なぜならオレには〝自身の禁約3〟である【他人へのデメリットを満たさない相手の願いを叶えてはいけない】があり、あのおっさんはそれを満たせないから、オレは代償を払わされたのだ。


このデメリットによって恩義を生涯抱き続けられる相手か判別できるのだが、それじゃあおっさんは?

今はまだ恩義を抱いてるようだが、その心を忘れた瞬間、〝禁約〟を破ることになる。


「あのおっさんは間違いなく代償を払う事になる。しばらくはあのおっさんの様子を見る方が、オレにとってもそっちにとっても悪い事じゃないと思うがね」


 この交渉の結果、オレはしばらくの猶予を得る事に成功した。


 さすがのスポンサー達も、後からどんな代償を払わされるか分からない状態で無理に願いを叶えようとは思わなかったようだ。



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