第6話 勘違い
「さあ、願いを叶えてもらおうか」
ついにこの日がやってきてしまったか。
二度目の強制願い叶えタイム。ふざけんな。
「普通に嫌だが?」
オレは小指の無くなった左手を見せつけるようにして、シッシと手を振ってやった。
こうなると分かっててなお、願いを叶えろと?
「キミに拒否権はないのだよ。
私がこの組織にどれだけ資金援助をしていると思っているのだね?」
高価そうな指輪や腕時計をはめた成金っぽい中年の太ったおっさんがそんな事を言ってくるが、てめえの金でオレが受けてる恩恵なんぞ微々たるものだろうが。
実験設備とかに主に金が使われてて、オレらみたいな子供の生活費にはそれなりにしか使われてねえだろうし。
そもそも今まで育てられたのもここの人間による実験目的だったことを考えると、このおっさんが資金援助したんだと聞かされたところで、恩義などまるで感じんわ。
「いや、知らねえし。オレからしたら、見ず知らずの他人が急に現れて、オレの損傷とか無視して願いを叶えろと言ってきてるのと変わらねえから」
「その通りだが?」
何を当たり前のことを言ってるんだという表情。
ここにいる大人は人の心が無いやつが多すぎる。
13歳の美少女がどれだけ傷つこうとも構わないとか正気か?
「キミ達実験体に人権はないのだよ。自由意志などないのだから、上からの命令を粛々と受けたまえ」
あ、これはダメだ。
何を言ったところで、こちらに能力を強制的に使わせる気しかない。
なら、向こうの方から諦めさせられないだろうか。
「……[願望成就]のデメリットを踏み倒した場合のそっちの代償を知ってて、それでも願いを叶えるよう言うのかよ」
「むろん知っている。骨折程度なら問題はない。数カ月の間、多少不便なだけだ」
くそっ、やっぱり承知の上かよ。
「さあ早くしたまえ。あまり駄々をこねるようなら、薬の投与も辞さないぞ? なに、能力を使ってくれるのなら相応の見返りは用意するとも」
「ちっ」
貰えるもんはもらいたいと思うのだが、【制約1:見返りを求められない】せいで、舌打ちの後に「じゃあこれを寄こせ」と交渉したくても言葉が出ねえ。
マジでこの能力、オレに恩恵を寄こさねえな。
それはともかく、能力を使用した場合とそうでない場合で冷静に考えてみよう。
能力を使用した場合:代償によって身体の一部を失う。また数日寝込む。
能力の使用を断固拒否した場合:拒否し続けたら薬物を使われ、結局能力を使う状況になる。
「最終的に能力を使わされる結果しか見えねえ……」
願いを叶えたくなる気持ちにさせられる〝自身の制約2〟と、身体の欠損+願いを叶えることへの嫌悪感では願いを叶えたくない方に天秤が傾くが、薬物で頭パーにされて能力を使用させられるくらいなら、まだ能力を使った方がマシではある。
いや、マジで究極に頭のおかしい二択止めてくれねえかな?
身体の一部を失うか、薬物で廃人になってようやく能力を使わずに済むかの二択は、もう二択として成り立ってないのよ。
「はぁ……。〝自身の契約1〟より、能力使用前に相手から願いを聞かないといけないんだ。あんたは一体何を望む」
「最初から素直にそう言えばいいのだ。私の望みは〔健康な肉体にしてくれ〕だ。
若い頃からの不摂生のせいか、医者に食事制限をしろとうるさく言われてしまってね」
ふざけんな。
そんな日頃の節制でどうにかなるレベルの不健康なら、自力でどうにかしろよ!
こんな願いのために能力を使うとか嫌すぎる……!
「それ、他の異能でどうにかならないのかよ」
「医療系のエーテルギフトにも限度があるのだよ」
願いを叶えるエーテルギフトがあるんだから、生活習慣病に効くエーテルギフトぐらいあってもいいだろ!?
『何をしている108番。その方は我々のスポンサーなのだから、速やかに願いを叶えたまえ』
逃げ出したくても、ここの職員が扉の近くでオレが損傷した時のためにスタンバイしてるせいで、逃げられねえ。
「ちっ。いいだろう。その願い、吐き気を催すほど嫌だが叶えてやる」
身体がミシリと音を立てたような感覚がするも、それを無視して[願望成就]を行使する。
――ドチャッ
初めて力を行使した時のように、左側で何かが床に落ちる音がした。
それは腕だった。
「ぐああああっ!!?」
『医療班急げ!!』
前は小指で済んだのに、なんで腕ごといった!?
「おおっ……! 身体の余分な脂肪が無くなっていくぞ!」
クソが!!
人が苦しんでるってのに、願いを叶えてもらった方はそんな事どうでもいいってか?
怒りが痛みを若干マシにしてくれるが、それでも痛いものは痛い。
「長年患っていた膝の痛みも消えているし、なんて素晴らしいんだ!」
長年の蓄積した想いが願いに影響したとでもいうのか?
また指とかが失うレベルの代償を想像していたがそれは勘違いで、願いによって代償が重くなるっていうのかよ……!
「圧迫するぞ」
医療班の声がして、残った腕に圧がかかると同時に痛みが走った。
すぐに適切な処置が行われているのか、カチャカチャと医療器具の音らしきものが左側から聞こえてくる。
「ん? どういうことだ? 骨が折れるという話だったはずだが、別にそんな事はないぞ?」
おかしいだろ!?
前に願いを叶えてやった299番ですら骨を折ったのに、今度のは無傷で健康な肉体を手に入れたとか許せねえよ!!
代償がいつまでも来ない事に不思議そうにしているおっさんに心の中で悪態をつきながら、オレはまた能力の反動で意識を失った。




