第5話 VIP待遇という意味
能力を無理やり使用させられてから3日が経った、らしい。
オレが意識を失った後、丸一日眠っていた上に、ご飯を食べては眠るを繰り返したせいであまり3日も経った気がしない。
【契約2:能力使用後、体力の9割が消失する】
〝自身の契約2〟による体力の消耗がきつかったが、数日食っちゃ寝を繰り返せば回復はするので、代償よりはマシだった。
「小指、無くなっちまったな……」
そう。代償よりは。
肉体を欠損するというのは精神的に辛かった。
前世ではそんな目に遭うことはなかったのでこれが初めてだったが、思いの外心に来る。
「エーテルギフトなんて不思議な力があるのに、指は生やせないのか?」
そうオレが尋ねたら、「そういった回復系のエーテルギフトは存在するけど、残念ながら108番には効かなかったの。正確に言えば小指の付け根から先が元から無かったかのように、エーテルギフトの力でも生やせなかったわ」と、残念な答えが返ってきたのだ。
これは他人のデメリットである【制約2:エーテルギフトで[願望成就]への干渉ができない】せいで、[願望成就]の代償が干渉に当たるのか、それとも単純に回復不能までセットの代償だったせいか。
どちらにせよ、[願望成就]の代償で失ったモノは戻らないということだ。最悪すぎる。
骨が折れるだけで済んだ男の子が羨ましすぎるだろ。
もちろんそちらも代償のせいか回復系のエーテルギフトで骨を元に戻す事はできなかったようだが、自然回復はしているらしい。そこは折れたままであってくれ。
「全く、散々な能力だな」
そんな持ってる本人には全く得にもならない[願望成就]で、今後は無理に使いたくはない。
そう思ってはいるが、オレのこの願いは叶いそうにない。なんでだ。オレのエーテルギフトは願いを叶える力だろ。
「なんで自分の願いは叶えられないんだ……」
[願望成就]はどうも、他人の願いは叶えられるが、能力者本人の願いは叶えてくれない。願望器そのものが願いを叶えられるわけないだろって言われたらそれまでかもしれないが、納得できない。
「自分の願いを叶えられるなら、代償を払わされる前にここから逃げ出す力を得て逃げてたんだがな」
世の中、そう都合よくはいかないようだ。
しかし困った。
何が困ったかって、この研究所全体のオレへの態度が明らかに丁寧なものに変わっているのだ。
[願望成就]を手に入れた直後も、以前より良い生活になったが、今はまるでVIP待遇だ。QOLが爆上がりである。
そんな羨ましい生活の何が困ったことになるか、と言われれば単純な話だ。
「これだけ丁重に扱われるってことは、次もあるってことだよな……」
願いを叶える異能の効果を目の当たりにしたからだろう。
いくら嘘が分かるエーテルギフトとかがこの研究所にいるから、オレが[願望成就]という願いを叶える力を持っていることは疑ってなかったとはいえ、それが実際に使えるとなれば話は違う。
それはもう豪華なベッドに寝かせられたりするくらいには大切に扱われるだろうな。
「次の願いを叶えさせられるまでの間までが、穏やかに暮らせる猶予か」
ベッドで寝そべりながら、オレは非常にウンザリとした気持ちになった。
だってそうだろう。
ただでさえ他人の願いなんか叶えたくないというのに、無理やり他人の願いを叶えれば最後、自分の身体が削られてしまうのだから。
しかも回復不可。いい加減にしろ。
「はぁ。長生きできそうにないな」
個室に1人でいるせいか、独り言が増えてしまった。
不安を紛らわすために、ついつい口に出してしまう。
「……ゲームでもするか」
左の小指が無くなっただけなら、まだゲームをするのにさほど支障はない。
狩りゲーを遊ぶこともできるが、左手が丸ごと失ったらそれも難しくなるだろう。
「出来る限り拒否するが、いつまでそれが出来ることやら」
【制約2:他人の願いを叶えたくなる衝動に駆られるようになる】とかいうふざけたデメリット以前に、どうせ無理やり能力を使わされることになる。
幸いなのが親しい人間はいないので人質を取られて脅される心配はないが、代わりに自分への苦痛を与えられることになるだろう。
「我慢できる程度の痛み、では済まないだろうな」
少なくとも身体を削られるような苦痛を与えられることは……、いや、回復系のエーテルギフトがあるんだった。ずるくね?
代償による欠損じゃなければ回復させられることを考えると、ろくな未来が見えないな。
リョナ系R18まっしぐらである。今生の年齢まだ13なんだけど!?
オレが成人してるかどうかなんて関係ないのは分かり切ってることだがな。
オレの都合ではなく、オレを利用しようとしている者の都合が優先されるのは目に見えている。
「逃げ出したいけど、絶対無理なんだよなぁー」
やる前から諦めるもんじゃないって言うが、オレの部屋の前には常に警備員が2人必ずおり、出入り口はそこしかないので逃げ出そうとすればすぐに見つかってしまうのだ。
ちなみに今いるこの豪華な個室に窓なんてものはない。
というか、建物自体が地下に埋まっており、外に出る為の出口がどこにあるのかすらオレらのような実験体には秘密にされてるんだよ。厳重すぎだろ。
しかも個室から一歩でも出れば警備員が付きまとい、絶対に逃がさないという強い意思を感じる。
大切に扱われているが、それは人に対してではなく貴重な物に対しての扱いだ。
うん、絶対に逃げられんね。
今生の人生は思った以上に短そうだ。勘弁して。




