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エーテルギフト~異能のデメリットに振り回されるオレ達~  作者: 甘井雨玉


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第4話 代償


 同人誌みたいになるのが嫌で仕方なく[願望成就]を使う事にしたわけだが、問題がある。


「………」


 目の前の299番と呼ばれた中学生くらいの男子が虚ろな目でこちらを見ているだけで、微動だにしないのだ。


『おい、何をしている。早くするんだ』


 部屋のスピーカーから催促されるが、この男子がだんまりなせいで、エーテルギフトを使いたくても使えないんだが?


「【契約1:能力使用前に願いを相手から聞かないといけない】のせいで無理だが?」

『それを299番に伝えるんだ。我々にはそれができないのだから』


 オレ以外は【制約1:他人に[願望成就]のデメリットを伝えられなくなる】で縛られるからな。

 そのせいで会う人間に毎回〝自身の契約1〟の内容を言わないといけなくて地味に面倒なんだよ。


「はいはい。……【禁約1:自身の禁約と契約以外の[願望成就]のデメリットの内容を人に伝えてはならない】が自身の〝禁約〟と〝契約〟も含めた全てのデメリットだったら、能力を行使する前の説明をさせられるたびに代償を負うことになってたな」


 そう考えると多少はこの[願望成就]のデメリットも最悪ではないのかね。


「それで、299番。お前はどんな願いを望む?」


 言っててぞわぞわしてきたが仕方ない。

 大人のおもちゃ(文字通り)になるよりはマシだと諦めよう。


「のぞ……み?」

「これは願いを叶える以前の問題だな」


 299番に何をしたのかは知らないが、おそらく実験のせいでまともな意志を持ってないじゃないか。


「なんでこんな状態の奴の願いを叶えさせようとしたんだ?」

『下手な者では願い次第で我々に危害が及ぶ可能性があるから、極力意志の薄い者が選定されたのだ』

「限度を知れ」


 ここに倫理がないのは諦めるしかないが、せめてこっちができる範囲の命令をしてくれねえかな。

 願いを言わない奴の願いを叶えろとか不可能なんよ。


『問題ない。299番。108番に〔意識をハッキリさせ、きちんとした自我を持たせてくれ〕と願え』

「ん……」


 目の前の男の子はコクリと頷くと、ゆっくりと口を開き出した。


「……〔意識をハッキリさせ、きちんとした自我を持たせてくれ〕」

「……はぁ。いいだろう。その願い、反吐が出るほど嫌だが叶えてやる」


 身体がミシリと音を立てたような感覚がした。

 この願いを叶えるのは間違いなく、【禁約3:他人へのデメリットを満たさない相手の願いを叶えてはいけない】のデメリットに反していることが嫌でも分かる。


 それでもオレはエーテルギフトの力――[願望成就]を使わなければならないことに舌打ちしながら、体の内側にある力を本能的に発動させた。


 人が無意識に呼吸をするように、力をどう発動させればいいかが意識しなくても分かる。

 身体の内側から熱くなり、その熱が[願望成就]の核と思わしき部位へと集ま――


 ――ビチャッ


 濡れた粘土が地面に落ちたような音が聞こえた。

 そしてそれと同時に左手の小指の付け根が、先ほど感じた熱とは違う熱を帯びたような不思議な感覚。


 自然とそこに目を向けると、有るはずのモノ(小指)がどこにもなく、そこから零れ落ちる血の先には、ぐしゃぐしゃになって元が何か分からなくなった小さな肉と骨の塊が地面に転がっていた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!?」


 痛い痛い痛い!!


 コレ(・・)を意識した途端、忘れていた痛みが頭に直接叩きつけられたみたいだった。


『救護班、急げ! 108番、傷口を押さえて心臓よりも上に左手を上げるんだ!』


 あまりの痛さに少しでも気を紛らわそうと、声の指示にすぐに従った。

 傷口に触れた瞬間さらに痛みが襲ってきたが、血が溢れ出たままにするよりはマシだと判断して我慢して押さえて腕を上げる。


 そのせいで血が顔や体にかかったなと思うが、そんなどうでもいい事を考えていないと痛みに意識がいって余計に痛く感じてしまう。


「108番、大丈夫か!?」


 何人かがオレの元に駆け寄り、すぐに左手になんらかの処置をし始めてくれた。

 オレはそれに対し、少しホッとして目を逸らす。


 何をしているのか見てると余計に痛そうだし、何より明らかにぐしゃぐしゃになった小指はくっつけられないのは分かり切ってるので、現実逃避だとは分かっているが出来れば小指を失った現実を見たくなかったのだ。


 だからだろう。


「あっ、ああ……」


 オレが299番の様子がどこかおかしいのにすぐに気が付いたのは。


「ぼ、僕は……僕はっ!」


 頭を押さえながら、まるで何かを振り払うように首を振り出した。


「母さんと父さんに売られてこんな場所に……!

 毎日毎日苦しい実験をさせられて、薬まで使われて廃人にされてた!?

 嘘だ……。嘘だっ!」


 オレは孤児院ルートだったが、こいつは親が毒親だったようで、野菜でも売るかのようにここに売られて来たわけか。

 小さなころから育てられてる者達は、大切にされているというより育てられる過程でどうなるかを見るために薬物なんかはあまり使われないが、買ってこられた子供は消耗品のように割と雑な実験に使われたのか。


「それじゃあ僕はまたあんな苦しい目に……! 嫌だ、嫌だ!

 そんな思いをまたするくらいだったら――前のままでいた方が良かった!!」


 ――ボキンッ


「ぎゃあああああ!?」

『今度は299番か!?』


 299番の足が突然折れて、床に転がり喚き出した。


 え、あれが他人が[願望成就]のデメリットに反した時の代償?

 足の骨が折れただけ?

 ……ずるくね? オレ、小指失ってんだけど……。


 願いを叶える方が代償重いのは納得いかねえよ……。


 オレは力を使う際に自分の内側で感じていた熱が完全に消えた時、そのまま意識が保てなくなり意識を手放した。



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