第1話 日常
「ふわぁ~あ。あー眠いなぁ」
寮から教室まで移動している最中、昨日は少し夜更かしをしたせいで眠くてあくびが出てきてしまった。
「今から寮に戻ってお休みになられますか?」
「ナズナのその反応はおかしくないか?」
ただねむてーって言ってる人間に対して、じゃあ引き返して休もうとはならないだろ。
もし体調が悪そうなら分かるんだが、出かける前に鏡を見た際の顔色は悪くなかったので休むほどじゃない。
「え、全然おかしくないよ。斗亜ちゃんが眠いって言うなら、学校なんて行ってる場合じゃないよ!」
「柚乃にとって学校に通うのは3年ぶりだっていうのに、学校の優先度低すぎだろ」
ナズナも柚乃も、オレを優先しすぎるせいでダメ人間にされてしまいそうだ。
前世で母親の前でそんな事言ったら、「アホな事言ってないで早く学校に行け」って言われて頭しばかれてたのにこの落差よ。
「ちーっす。3人とも朝から仲良しじゃん」
「あ、優木か。おはよ」
「ういうい、おっは~」
柚乃が転入してきた直後は、〝吸血姫〟である柚乃を優木は一時期追っていただけに、それに関わってるオレ達に凄い形相で、「なんであーしが食戒で苦しんでる時に教えてくれなかったの!?」と詰め寄られたが、今はそれを気にしていないようだ。
まあこちらとしても安易に教えるわけにはいかなかったのは分かり切ってることなので、すぐに納得してもらえたからだろうが。
そんな途中で出くわした優木と共に教室へ向かっている時だった。
「くっ、俺の右腕の封印が……!」
前を歩いていた2人の男子生徒のうちの1人が、黒い包帯を巻いた腕を押さえながら、突然香ばしいセリフを吐き始めた。
「【中二病】のデメリットか。あれもあれで色んな意味できつそうだな」
「比べるものではないのでしょうが、【寿命】と【中二病】ではどちらがきついと思いますか?」
「最悪の2択すぎる」
ナズナのデメリットの1つが【寿命99年の先払い】であるが、さすがにそれと【中二病】だと、渋々【中二病】を選ぶことになりそうだ。
でも生涯【中二病】は辛すぎないか?
今はリアル中学生だが、そこから先は地獄だろ。
「うっ、だ、ダメだ! 抑えきれない!」
【中二病】らしき少年の隣の少年が似たようなこと言い出し始めたな。
まさかの類友とは。
――ダッ!
ん?
優木が元来た道を走り出してしまった。忘れ物か?
「何してるし3人共!? そっちの人は【力が時折溢れて暴走する】デメリットを持ってるから、早く逃げないと危ないじゃん!」
「そんなやつと【中二病】を一緒に歩かせるな!」
紛らわしいわ!?
慌ててオレ達も優木と同じようにその場から離れることで難を逃れた。
オレ達がその場から離れてすぐ、巡回していた警備の人がその少年を抑え込んでくれたおかげでもある。
「ああいう時って、異能犯罪対策課が周囲の被害が出ないように動いたりするもんじゃないのか?」
「時と場合によるし。もちろんそういう現場に出くわしたら極力被害が出ないように動くんだけど、あーしは昨日パフェ食べたから、[陰陽術・式神]がまともに使えないんだわ」
[陰陽術・式神]のデメリットに食戒があるせいで、肉や乳製品などを摂取すると力が落ちる以上仕方ないか。
「あと、暴走する系のデメリット持ちは少なくて、学園にいるほとんどの人はその人達を覚えてるから、ヤバイ兆候があったらさっきみたいに周囲の人に声をかけて退避するのが通例なんだし」
「それに慣れてるのも問題だな」
「一応学園内なら警備の人が巡回してて、さっきみたいにすぐに抑え込んでくれるから被害らしい被害は今のところ出てないから問題視されてないんだわ」
学園に来て数カ月経ったが、今までたまたまそういう事態に遭遇しなかったから知らなかったな。
人のエーテルギフトやそのデメリットは本人が言わない限り詮索しないのがマナーということもあり、どんな能力やデメリットがあるのか未知数なのが怖いところだ。
「あの程度であれば避難するのも制圧するのも問題なさそうですけどね」
「うん。力が溢れるっていっても木を蹴り倒すくらいなら大したことないかな」
ナズナと柚乃であれば余裕なんだろうが、木を蹴り倒すことができるレベルの人間をそう簡単に制圧できないからな?
「まあ暴走するって言っても、周囲に大きな被害を出すほどのギフターはもっと限られてくるから、「あ、こいつヤバそうだな」って思ったら軽く距離を取るだけで大抵問題ないし」
「対応が不審者に対するものと変わらんな」
エーテルギフトのデメリットのせいで不審者扱いされるやつは不憫だな。
オレも含めて色々なやつがデメリットに振り回されているが、これもギフターになったやつの宿命なのか。
望んでギフターになったわけじゃないがな!
こんな能力捨てられるなら捨てたいところだわ。
オレはデメリットの代償のせいで失った左腕をチラリと見てため息をついた後、ナズナ達と共に自分の教室へと向かった。




