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エーテルギフト~異能のデメリットに振り回されるオレ達~  作者: 甘井雨玉
2章

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プロローグ


 ≪とある大富豪SIDE≫


「あなた、娘達の容態が……!」


 妻が縋るように私の腕を掴んできたが、私はベッドで寝込む2人の娘を思い出しながら苦々しい思いで首を横に振った。


「分かっている。だが医者達の話では、現代の医療技術では治療不可能な未知の病だ。

 病状が悪化するのを止める手立てすら見つかっていないそうだ……」

「そんな!? ではこのまま娘達を見捨てるというの!?」

「そんなわけあるか! 医療に期待できないのであれば別の方法だ」

「まさかエーテルギフト? でも、医療系のエーテルギフトでそんな強力なものはないと聞いているけれど……」

「ああそうだな。だがこのまま手をこまねいてるよりはマシだ。少しでも娘達を治すことができる可能性があるならそれに賭ける」


 私は最近聞いたある噂を思い出していた。


「なんでも、とある資産家が医療系のギフターを大勢雇ったそうだ。もしかしたらその中に、娘達を治せるギフターがいるかもしれない」

「それは本当なの?」

「分からない。無駄骨になるかもしれないが、私にできることなどせいぜいそのくらいだ。

 お前は私の代わりに娘達を見ていてくれ」

「分かったわ」


 もちろん併行して、医療系に限らず娘達を治せるギフターがどこかにいないか部下に調べさせているが、今のところこれといった人物は見つかっていない。

 一番それに該当する人物がいそうなのが、そのとある資産家の元にいるかもしれないというだけの話。


 あまりに期待できないが、だからといって何もせずにただ待っているわけにはいかない。

 電話などで連絡を取るよりも直接話した方が話は早いから、私が直接会いに行くことにした。


 それに医療系のギフターを大勢集めたというのなら、ギフターの情報を持っているだろうから、あの資産家がまだ調べていない場所にいるギフターの情報を集めるのが効率がいいだろう。

 私はわずかな期待を胸に、あの資産家の元へと向かった。


 ◆


 その資産家とは何かのパーティーで数度顔を見合わせたことがある程度の関係だったが、特別親しいわけでもないのですぐに会えるかは不安だった。

 しかし思いの外早くアポを取ることができたな。


 すぐにその者が住む邸宅へと向かい、その人物と対面すると私は少し驚いてしまった。


「ようこそお越しくださいました。まさかあなたが我が家へお越しいただけるとは」


 私の記憶が正しければ、この人物はもっとふくよかなお身体だったはずだ。

 それが今ではずいぶんと細身になられて、健康的になられたように見える。


 ただ、健康的になってるはずなのにどこか陰鬱気というか、健康なはずなのに不健康に見えるのは気のせいだろうか?


「いえいえ、こちらこそ急な訪問にもかかわらず歓迎してくださりありがとうございます。

 それにしても驚きました。

 以前お見かけした時よりもお痩せになったようですが、何か始められたので?」

「いえ、特段私が何かをしたというわけではないのですが……」


 なぜか言い淀んでしまったが、今はそんな事はいいか。

 それよりもすぐに本題に入ろう。


「さて、せっかくお時間を頂戴したことですし、そろそろ本題へ移らせていただきましょうか。

 耳にした話ですが、なんでもあなたは医療系のギフターを大勢雇ったそうで」

「ええ、そうですね。最近、健康に気を遣うようになりまして、いざという時のために私を治せる者がそばにいると安心なのですよ」


 そういってチラリと後ろを見ると、白衣を着た人物が何人かおり、その者達と目が合うと軽く会釈を返された。

 やはりこの者達がそうなのか。


「今、私はある病を治せる医療系のギフターを探しています」

「ある病、ですか?」

「獣化病」

「っ!? それは……」


 獣化病は原因不明の病。

 全身に獣のような毛が生え、徐々にその肉体に獣のような耳や尻尾などの特徴が生えてくる病だ。

 エーテルギフトには[獣化・○○]といった感じで、この症状と同じように猫の耳や馬の尻尾が体から生えて、身体能力を爆発的に上げることもできるが、それとは明らかに違う点がある。


 鑑定結果にエーテルギフトだと出ないのだ。


 鑑定系の能力を持っている者に調べさせると、エーテルギフトであれば[獣化・○○]と出るのに、それが出ないらしい。

 ではこの症状はなんなのかと調べさせても、どの鑑定系のギフターもそこまでは分からなかった。


 そしてこの病。

 厄介な事に、症状が進むにつれ理性はなくなっていき、最終的にどこかに消えてしまうのだ。

 娘達はまだ理性がなくなるといった段階まではきていないが、すでに犬のような獣の耳が生えており、一刻の猶予もない状況。


 藁にも縋る思いでこの男に頼ったが、果たしてあの病を治せるギフターはいないだろうか。


「……申し訳ありませんが、私が雇っている医療系のギフターは多少の傷を癒したり、せいぜい風邪を緩和することができる程度です。

 それに獣化病の完治が出来る者が仮にどこかにいた場合、私に雇われずともその獣化病を癒すことでもっと稼げるでしょうから、私どもの所にはそのような者はいないかと」

「そうですか……」


 あまり期待はしていなかったが、それでも一縷の望みを抱いていただけに、落胆を隠すことはできなかった。


「では、せめてあなたが調べた医療系のギフターの情報をいただけませんか?

 できればどこで雇ったのかを知りたいのです」

「もちろんかまいません。ですが私は全国各地の医療系ギフターを調べ、その中で優秀な者を雇いました。

 あとはあまり期待できない者か、偏屈な者くらいで、せいぜいこの屋敷にいる人間と同等程度の者しかいないと思いますが……」


 その話を聞いて、私はさらに落胆する気持ちを抑えられなかった。

 医療系のエーテルギフトならなんとかなるかもしれないと思っただけに、獣化病を治せる手立てなど……。


 私が顔に手を当てて俯いていたその時だった。


「……1人、心当たりがあります」

「えっ?」


 目の前の人物はどこか渋々、といった様子でゆっくり口を開いた。


「ここだけの話にしてください。ここで聞いたことは私が関わっていたというのを忘れてくださるのが、その人物の事を話す条件です。かまいませんか?」

「もちろんです! 誰なんですかその人物とは!?」


 私が即座にうなずくと、男は重い口を開いた。


「私はかつてとある研究所に出資したことがあります」

「それはまさかっ!?」

「はい。エーテルギフトを意図的に発現させるための研究所です」


 なるほど。それは確かに話し渋るだろう。

 そのような研究は周囲に〝ワービースト〟を大量に発生させかねないとして、法律で禁止されている犯罪行為だ。

 ただ資金を提供しただけでも犯罪者として実刑判決を受けるのは間違いない。


「何故それを話したんですか? 私があなたがそれに加担したことを話さないとは限らないというのに」

「……健康でない、というのは辛いことですから」


 はい? まさかそれだけの理由で?

 何か裏があるのではないだろうか……。


「先ほど私の体型に驚かれたと思いますが、あるギフターの力でそれを叶えてもらいました」

「……その人物が獣化病を治せるかもしれない、と?」


 いや、裏があるとかどうでもいい。

 今は娘達のためなら、私は悪魔とだって手を組んでみせる。


「ええ。彼女の力は[願望成就]。願いを叶える力です」

「なっ!?」


 確かにそれなら獣化病どころか、どんな病でも癒すことは可能だろう。


「ですが気をつけた方が良いですよ」

「何をですか?」


 気をつけた方が良いとはどういう意味だろうか?


「私は正規の方法で願いを叶えなかった。その結果私の身体は健康になりましたが、心を病んでしまったのです。

 健康に執着するという病に……」

「っ……」


 ぎらついた目を見せられ、私は思わず息をのんでしまった。

 なるほど。だから先ほどの健康でないのは辛いという言葉は本心から出たからなのか。


「構わないです。獣化病を治せるのであれば私の全てを差し出してもいい。

 教えてくれませんか、その人物の居場所を」

「分かりました。彼女は今、黒瀬学園長の下で保護され学園に通っているそうです」

「黒瀬学園長か」


 手掛かりは得た。

 たとえこの先に身の破滅が待っていようと、私は娘達のために止まるわけにはいかない。


 私は男に礼を言い、ここで聞いた事は口外しないと約束してすぐに黒瀬学園長が経営する学園のある街へと移動した。



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