第48話 逃げられた
≪斗亜SIDE≫
「すまない、黒幕には逃げられてしまった」
「私に任せなさい、的な感じで言っておいて?」
「うぐっ!?」
オレがごく短い時間さらわれて、その襲撃者達をナズナ達がボコボコにした数日後、黒瀬学園長に呼び出されたのだが、開口一番に残念な報告を聞かされることになってしまった。
「そう学園長を責めないでください。黒幕はたった数日で住処はおろか、街からも逃げ出しているとはこちらとしても想定外でした」
秘書の氷室さんが首を横に振って残念そうにしており、黒瀬学園長もそれに同意するように頷いていた。
「おそらく最初からこの街を出ていくつもりだったのだろうね。
だから少なくともこの街で君を狙う人間は1人減ったということだ」
「1人だけ減ってもな。これじゃあまた襲われかねん」
他にもオレを狙ってくる輩がいるとなると、おちおち外も歩けないぞ。
「この街に研究所に出資しているような人間はほぼいませんし、今回のような規模で動ける人間は限られるので、斗亜さんがそんなに心配するようなことは起きないかと」
「そうだね。もしまた何かあればいつでも私に連絡してくれていいし、それに……そこのナズナ君達もいるだろ」
「……こっち見て言ったらどうだ?」
言い淀んだタイミングで目をそらすなよ。
「いや~、そんなべったりとくっつかれて、もう二度と離れないと言わんばかりの行動をとられてると、直視しづらいというか……」
現在ナズナはオレと腕を組んでぴったりとくっついており、柚乃にいたってはオレの服の間にある影に潜んでいる状態だ。誰か助けて。
「斗亜さんにそんなにくっつかなくても、どこかに行ったりはしないと思いますが……」
「それで油断して、斗亜様からわずかに離れている時に連れ去られましたから」
「学園の中ですよ?」
「……せめてどちらか片方だけにしてあげてください」
氷室さん、説得を諦めないでくれません?
トイレの中にまで一緒に付いて来るんですよ?
「ふぅ。仕方ありませんね。私がこうしてくっついていたら斗亜様の行動を阻害してしまいますから、普段は柚乃に任せます」
「うん、分かったよ」
ようやくナズナが腕を組むのを止めてくれたか。
もはや四六時中連行されてる気分だったからな。……柚乃が離れないから変わらないか。
ただそれはともかくとして、黒瀬学園長達は柚乃のことを気づいているようだがいいんだろうか?
〝吸血姫〟だと知らないわけでもないだろうに。
「ところで柚乃が学園の中にいるのはいいのか? ここの生徒じゃないから部外者なんだが」
「そうだね。柚乃君に関しては私もどうしたものかと思っている。幸いにも彼女によって死者は出ていないし、なんとかこの学園の生徒として編入できないか関係各所に掛け合ってみるよ」
「え、本当ですか!?」
黒瀬学園長がそう言うと、嬉しそうな声で柚乃がひょこっとオレの影から半身を出して現れた。
「できるなら斗亜ちゃんと同じクラスにしてほしいです」
「君は確か16歳だったよね?」
「そうですけど、3年前から街から街へ彷徨ってたので、その時点からまともに勉強してませんから、ついていけません」
「そういうことなら、斗亜君と同じ学年で勉強し直す方がいいか」
マジで編入させる気か?
「オレのクラスに柚乃を追っていた異能犯罪対策課の人間がいるんだが?」
「そのための関係各所との擦り合わせさ。
そうだね。〝吸血姫〟を捕らえ保護したから、私の学園で監視の名目で面倒を見るってことにすればすんなり通ると思うよ」
「人を襲っていた人間がそんな軽い処分で済むのか?」
どれだけ被害があるか知らんが、普通だったら少年院のような場所に連れてかれてもおかしくないんじゃないか?
「人を殺めていたらさすがに厳しかっただろうけど、幸いにも柚乃君はその一線だけは守っていたみたいだからね。〝吸血姫〟を相手に異能犯罪対策課が学生を動員してたくらいだから問題ないよ。
殺人を犯しているようなそういう類の相手だったら学生を動員しないし」
中学生の優木が夏休みに働かせられているのを聞いて、異能犯罪対策課って結構ブラックなのかとも思ったが、最低限の倫理はあるんだな。
中学生動員してるからマジで最低限だが。
「あと柚乃君のようにそういうやんちゃした子は結構うちの学園に保護してたりするから、これまでそういう子らを保護して以降被害を出していない実績もあるし、大船に乗ったつもりで結果を待っていなよ」
人を襲うことをやんちゃの一言で済ますなよ。
「どうする柚乃? 十中八九大丈夫だと思うが、もしかしたら離れ離れにされるかもしれないぞ」
「う~んそうだね。大手を振って斗亜ちゃんのそばにいられるなら、そっちの方がいいからお願いしようかな。それに――」
「それに?」
「いざとなったら全力で暴れるだけだから」
「……決してそういう事が起きないように全力を尽くすよ」
黒瀬学園長が困った笑みを浮かべながら、絞り出すような声でそう言った。
こういうやんちゃなのを保護できるんだろ? 頑張れよ。
オレは他人事のように思いながら、ナズナ達と共に学園長室をあとにした。




