第40話 再び街を徘徊
夏休みから2カ月ほど経ったが、まだ[願望成就]による衝動はそこまででもないので助かっている。
やはりこまめに人の願いを叶える方がいいんだろうな。
とはいえ、日に日に衝動は大きくなっていると感じているので、そろそろ身内以外の人間の願いも叶えていった方がいいだろう。
「今日一日私に身を全て委ねてください」
「え、なにそれ? そんな願いを斗亜ちゃんに叶えてもらってたんだ。それじゃあ今度は私もそれをお願いしようかな?」
というか、いい加減この2人のこの願いを叶えるのは精神的にきつい。
2週間に1回とはいえ、食事、風呂、トイレなどを中学高校生の少女に全て任せるのは、成人男性だった前世の記憶を持つ身としては羞恥心でいっぱいになるんだよ。
毎日やられれば慣れるかもしれんが、慣れてたまるかこんな事。
そんなわけで11月に入った今、再び街を徘徊して人の願いを叶えることにしている。
さすがにこれだけ経ったら、〝吸血姫〟の捜索も諦めているだろう。
優木もひと月前くらいに「やっと甘いものが食べられるし!」と言って、放課後毎日寄り道したらしく、今度は激太りしたと嘆いていたからな。
ぱっと見、少しふっくらしたかなぐらいにしか見えなかったんだが、やはり女子にとって2、3キロも増えれば激太りと言いたくなるのかもしれない。
……寄り道し始めてから1週間くらいでそんな事言ってたから、それで2、3キロも増えれば太ったと言いたくなるわな。
それはさておき、今は衝動解消のための人探しだ。
誰かちょうどいいやついないかな?
そう思いながら時折人に声をかけるも、残念ながらそう都合よく簡単に叶えられるようなお願いをしてくれる人間は見つからなかった。
「私と会う前もこんな感じだったの?」
「そうだな。何日かに1回衝動を解消できれば上等って感じだ」
柚乃みたいに[願望成就]のデメリットの条件をなんのヒントもなしに全て達成する人間はまずいないから、エーテルギフトに頼らずとも叶えられる願いを持つ人間を探さないといけないから大変なんだよな。
「基本的に金曜と土曜の夜だけですが、全員がこのような格好で様々な人に声をかけるせいで、すぐに噂になってしまうんですよね」
「そのせいで異能犯罪対策課の耳にまで噂が入るのが厄介なんだよな」
今のオレ達はナズナの言う通り、全員がフードを被って人相が分かりづらいようにしている怪しい格好なのだ。
11月となると夏休みの時とは違い、夜にもなれば冷え込むようになったのでフード付きのパーカーを着て外を歩くが、全員がフードを被っているとなると怪しい奴らだと思われても仕方ない。
問題は〝吸血姫〟とオレ達の関係を異能犯罪対策課がどう思ってるかだ。
優木達と遭遇した時、〝吸血姫〟と呼ばれている柚乃と初めて出会ったのだが、向こうはそう思わないかもしれない。
というか、何かしら知ってるかもしれないと思うのが普通だろうから、オレ達がまた現れたと噂が出たら間違いなく事情聴取に来るだろう。
「ご安心ください斗亜様。斗亜様の邪魔をするのであれば我々が全身全霊で排除いたしますから」
「うん、任せてよ! 毎日血を飲んで絶好調の私なら、何が来ても怖くないよ」
それはフラグなのか?
できれば何も来ずに、淡々と衝動の解消ができればそれでいいんだがな。
そう思っていたら、人気のない公園のベンチでしょぼくれて座っている若い男を発見した。
ちょうどいい感じに悩みを抱えていそうだし、声でもかけてみるか。
「すみません、ちょっといいですか?」
「あ゛っ?」
なんか柄が悪いな。
暗くてよく見てなかったが、服装もチャラい感じだし、声をかける相手を間違えたかもしれん。
「何か困っていることはありませんか?」
「……なんだよあんたら? 新手の宗教の勧誘か?」
男はそう言いながら手に持っていたスマホを何やら操作し続けていた。
こちらの話をまともに聞く気がなさそうだな。
まあこうやって声をかけると、宗教の勧誘とか新手の詐欺や美人局を疑われるので、この反応も仕方がないことなんだけど。
「別にそういうのではなく、何か悩んでいる様子だったので、私達にできることはないかと思いまして」
「そんな事急に言われてもなぁ……」
しょぼくれてるように見えたから、何か悩みを抱えているかと思ったがこれはハズレか?
まあ割とよくあることだ。
今までも声をかけてはみたものの、初対面の相手だからか困りごとを言わなかったり、特に悩んでいることはないと言われたりしてきたし。
「何もないようであれば良かったです。それでは失礼しますね」
それならとっとと他の人間に話を聞きに行く方がいいな。
「あっ、ちょっと待ってくれ」
そう判断してその場から立ち去ろうとしたら呼び止められた。
一体何なんだよ。
「俺は大した悩みなんて無いが、ダチがちょっと困ってるって言ってたわ。もしよかったらそいつの話を聞いてやってくれねえか?」
なにやら頭を掻きながらそんな事を言ってきた。




