第37話 出資者と黒瀬学園長
≪とある出資者SIDE≫
――ドンッ!
「あの研究所が潰されただと!?」
秘書からの報告に思わず私は自分の手が痛むのも構わず、机に手を叩きつけていた。
手がジンシンとするが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「はい、そのようです。黒瀬学園長率いる学園部隊によって滅ぼされました」
「くそっ! ではそこにいた願いを叶える能力者はどこにいった?」
「まず間違いなく黒瀬学園長に保護されたかと。あの者はああいった実験児童の保護に力を入れていますから」
「ちっ。だが幸いにも黒瀬のいるこの街であの研究所について知っている出資者は私だけだ。
なら他の出資者どもが手を出せないうちに、願いを叶える能力者の確保を行おう」
あの男を恐れてこの街から撤退した者や、潰された者が大勢おり、今やその手の研究所に関わっているのは私くらいのものだからな。
「ですが黒瀬学園長に研究所との関与がバレる危険もありますよ? そのような危険を冒してまで願いを叶える能力者を確保する意味はあるのでしょうか?
つい先日、代償覚悟で願いを叶えられた者がその代償のせいか狂ったという話を耳にしましたし、あまり利用価値があるとは思えません」
「確かに手元に置いておいたところで何の価値もないかもしれん。だが、他の人間に奪われたら? それが私の敵対派閥だったら?」
「あっ……」
そう。私にとって不都合な願いを万が一叶えられた場合厄介なことになってしまう。
その者が代償を覚悟して願いを叶える可能性すらあるのだ。
なら始末した方が早いのかもしれんが、手元に置いておいたらいつか願いが叶うかもしれないのであれば、確保しておく方がいいに決まっている。
なんなら贈り物としても最適だろう。
願いを叶えられるが、どうすれば叶えてもらえるのか分からない代物ならさほど惜しくもないし、送られた側からの心証は最大限良くなるだろうからな。
「早急に確保に動け。街の半グレ組織、そして我が家の暗部も使え」
「半グレはともかく暗部もですか? 下手にそれまで動かすのは我が家との繋がりが露呈する可能性が高いのでは?」
「半グレでは能力も低く対象から逃げられる可能性が高いだろう。それに半グレが失敗して次は暗部と小出しにしたら黒瀬が介入する隙を与えかねん。
それなら半グレを隠れ蓑に暗部を動かす方が成功率も高く、我が家との繋がりも発覚しにくいだろう」
「なるほど。了解しました」
「頼んだぞ」
リスクはある。
だがそれ以上のリターンと動かなかった時のリスクを考えれば、何もしないのは論外と言う他ない。
必ず108番を私の元に置いておかねばな。
◆
≪黒瀬学園長SIDE≫
「あの光が街中で出た、と?」
「はい。あの研究所の場所を見つける手がかりになった光ですね。おそらく誰かがエーテルギフトを発動させた結果だと思いますがどうしますか?」
氷室君の報告を聞いて少し考える。
「ふむ……。何か実害があるわけではないなら、こちらから動く必要はないと思うよ」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何も、街の管理は警察や異能犯罪対策課の仕事だからね。私達の出る幕ではないよ。
もちろん研究所の時のように依頼があれば別だけど、今はそういうのは来ていないよね?」
「はい。今のところそういった依頼はありません」
「なら放っておいていいよ」
「分かりました。……よろしいのでしょうか?」
「同じことを繰り返す気かい?」
「失礼しました。主語が抜けていましたね。あの少女達のことですよ」
「あの少女達?」
「108番と77番――斗亜さんとナズナさんです」
「彼女達がどうかしたのかい?」
「分かっていて言ってますよね? 2人のエーテルギフトの能力をあの研究所の人間から聞き取りを行いましたが、どちらも規格外の能力です。特に斗亜さんの能力は」
「ああ。斗亜君の能力は凄いね。まさか願いを叶えるなんて類を見ない能力とはね」
正直ここまで強力なギフターはこの街どころか、世界をひっくるめても五指に入るレベルと言える。
「互いに結んだ契約を強制的に遵守させる私の異能、[契約遵守]のエーテルギフトであの研究所にいた人間全員に対し、研究員には人権の尊重、実験体となった子達は保護することを条件に研究所で知った[願望成就]について話せなくなるという契約を結ぶことで斗亜さんの能力が知られる危険はある程度無くなりました。
しかし研究所と協力関係にある者がどう動くか分かりませんよ?」
「そうだね。ただ少なくともそういう輩であれば自ら斗亜君の能力は周りに吹聴することはないだろう。自らが確保したいだろうからね」
私にバレないようにこっそり違法な研究所に資金提供している輩なら、その程度の頭はあるだろう。
「彼女らには何も言わなくてよろしいのですか? 定期的に夜に街を徘徊しているようですが、それを止めさせる必要があるのでは?」
「それは仕方がないんじゃないかな? 話を聞く限り人に頼みごとがないかを聞いて回っているみたいだし、(斗亜君の能力のデメリットによる衝動解消のため)だと思うよ?」
「? 申し訳ありません、最後はなんとおっしゃいましたか?」
「ごめんね。気にしないでくれないかな」
「はあ……?」
他人にデメリットを伝えさせられなくする力まであるのかな?
口はほとんど動かず、声もろくに出なくなるとは驚いたな。
ここまでの強制力ともなると、能力そのものではなくデメリットの方だろう。
ほとんどいないが自身ではなく他人にデメリットがいく能力もなくはないし、斗亜君の能力のことを考えるとおそらくそうだろう。
彼女自身だけではなく、能力の恩恵を受ける対象にもデメリットがあるのは、願いを叶えるという破格の力を考えれば当然か。
「とりあえず夜の徘徊はともかく警告は必要ではないでしょうか?」
「う~んそうだね。彼女達はどうも脇が甘いし、周囲への警戒をするよう伝えようか」
願いを叶える能力について研究所にいた者の大半が知っていたにもかかわらず、口止めもしていなかったのだから。
「まだ子供ですから脇が甘いのは仕方がないのでは?」
「あんな研究所にいたんだし、ろくな教育を受けていないと考えれば確かにそうかもね。そんな子供達のために私達がいるんだし、私達がフォローしてあげればいいでしょ」
斗亜君達を一度呼び出す必要があると決まったし、せっかくだからその時にでも生活は順調かどうか聞こうかな。
「学園長って黒幕っぽいですけど、普通にただの子供好きですよね」
「黒幕っぽいってなに!?」
え、今までそう思われてたの!?
「なんか暗躍してそうな雰囲気といいますか、魔法使いの家の出もあって、裏でこっそり何かしててもおかしくない感じはあります」
「確かに魔法使いは昔からエーテルギフトに関わってきたからか、その誇りから傲慢なのもいるけど、私は違うからね!」
「分かっています。そんな家に嫌気がさして飛び出したくらいですから」
「まったく、分かってて言うだなんて酷いな~」
黒っぽい服ばかり着ているから黒幕だと思われたりするんだろうか?
私はただ、まだ何者でもない子供が好きで、そんな子達を真っ当な道に進ませてあげたいと思っているだけなんだけどね。




