第35話 水原柚乃
≪斗亜SIDE≫
「んっ……」
ふと目を覚ましたが、身体が重い。
[願望成就]のデメリットである、〝自身の契約2〟による【能力使用後、体力の9割が消失する】というのはやはり慣れないな。
かなり長い時間寝てたはずなのに、まるで体力が戻った気がしないのだから本当にキツイ。
寝すぎてだるいだけなのでは? と言われたら、それもある、としか言えないが。
「お目覚めですか?」
「良かった。目を覚ましたんだね」
……何故いる?
ここ、寮の中だよな?
ナズナがいるのは同じ部屋なのだから当たり前なんだが、その横に昨夜(……昨夜だよな? 寝すぎて時間の間隔が分からんが、いつも通りなら丸一日寝ているのでそれでいいはず)に出会って願いを叶えてやった女性がいた。
ただし金髪ではなく黒髪だった。何故?
色々と疑問が湧いてくるが、とりあえず一つずつ疑問を潰していくとしよう。
「あんた、何故いるんだ?」
「私が連れてきました。彼女の様子から、連れて来なければ間違いなく斗亜様を探すために騒動を起こすだろうと思いましたので、それで目立つ事になるのは避けるためです。
事後承諾になりまして申し訳ありません」
「いや、それならいい」
……いいのか?
だが暴れられてそれがオレと関わりがあるとバレて目立つ方が問題だから、ナズナの判断に間違いはないか。
「じゃあ次に……そう言えばあんたの名前は?」
昨夜は聞く暇もなかったんだよな。聞く前に[願望成就]を使ったせいで気を失ったし。
「私は水原柚乃。ちなみに16歳のお姉ちゃんだよ」
「誰がお姉ちゃんだ」
こちとら肉体は14歳だが、精神はとっくの昔に成人越えてるんだが?
「ところで、水原は昨日見た時は金髪だったはずだが、何故黒髪なんだ?」
「柚乃って名前で呼んでほしいな」
「はいはい。それで柚乃、どうしてなんだ?」
「私のエーテルギフトのせいだね。[吸血鬼化]っていうんだけど、デメリットに【定期的に血を飲まないといけない】ってのがあって、それを怠ると吸血衝動が悪化して金髪になってしまうの。
[吸血鬼化]の力を本気で使う時にも金髪になるから、吸血鬼としての側面が強く出た時に見た目が変わっちゃうんだろうね」
エーテルギフトの能力は完全に昨日見たままの能力だったな。
思いっきり血を吸われたし。
「こっちからも聞きたいんだけど、なんで斗亜ちゃんはいくら血を吸われても死ななかったのかな?」
「ん? ああ、そう言えば願いを叶えてやった時にどんな風に願いが叶ったか気付いてなかったな。そんな余裕も無さそうだったから当然か」
吸血衝動に必死に耐えていたくらいだからな。
「オレのエーテルギフトは[願望成就]で、他人の願いを叶えることができる。
その力であんたの〔血をちょうだい〕という願いを叶え、その結果オレの身体はあんたに血を吸われている時に限り、無限に血を生成することができるようになった」
完全に血液タンクだな。
「なるほど。それが理由だったんだ。
ちなみに今も血を吸っても無限に生成できるってことでいいのかな?」
「ああそうだ。なんなら吸うか?」
「……心惹かれる誘いだけど今は止めとくね。斗亜ちゃんの体調が万全じゃないし」
「別にそんな事気にしなくても、無限に血が湧き出るから体力無くても関係ないんだがな」
昨夜思いっきり血を飲んだばかりだから、吸血衝動はそれほどでもないのもあるんだろうが。
「まあそれはいい。それよりも最後に確認したいんだが、あんたはこれからどうするつもりだ?」
「どうするって?」
「ここは学園の寮だから、関係ない人間が忍び込むのは問題があるだろ。バレたら色々マズイし」
優木と遭遇しようものなら、いくら髪色が違うとはいえバレる危険が高い。
今は夏休みで帰る場所がないやつが寮にいるだけで、優木はいないから夏休みの期間は問題なさそうだが、知らない人間が入り込んでいたら噂になりかねない以上、柚乃がここに入り浸るわけにもいくまい。
「ん~、私はもう今更家に帰れないし、斗亜ちゃんから定期的に血をもらわないといけないから、出来ればそばにいたいのだけど……」
「家に帰れない?」
「あ、うん。私が[吸血鬼化]を得てしばらく経った時のことなんだけど――」
そう言って柚乃は過去に自身が親や周囲の人間を襲ってしまい、化け物だと言われて拒絶されたこと。そしてその後は人を操って住処を転々としていたことを語った。
なんとも重い話である。
こんなの聞かされて、どこか適当なところに住んでろとか言い辛いぞ。
「そうか……。だが、周囲の人間にバレるわけにはいかないし、どうしたものか」
「う~ん、それじゃあこれならどう?」
――ポンッ
軽い音とともに煙が出た。
そしてその煙はすぐに晴れていき、そこには1匹のコウモリがいた。
「驚いたな。そんな事もできるのか」
「吸血鬼ができることは全部できると思ってもらってもいいよ。ところで、これなら私がここにいても、そう簡単に見つからないんじゃないかな?」
確かにそうだな。
他の人間に見られても、コウモリが1匹入り込んでいると思うくらいか。
……それはそれで騒動になりそうだが、寮にいないはずの人間が見つかるよりはマシか。
「まあそれならいいだろう。だが、あまり他の人間に見つからないようにしろよ?」
「うん、分かったよ」
こうして1人、同居人が増えることになった。
まあオレと同じでエーテルギフトの衝動に振り回されていたのだし、境遇に同情もしてしまうから、しばらく様子を見て問題を起こさないならこのまま同居人としてそばにいさせてもいいだろう。




