第34話 とりあえず実力行使
「あなた達はこの子の仲間、だよね?」
「ええ、最初から一緒にいました。路地裏で会った時はあなたは理性が飛んでいたようなので、こちらのことをきちんと認識しているか不安でしたが、その心配は不要でしたね」
もしも私とその分身を敵認定していたのであれば、実力行使で斗亜様を奪い返さなければならないところでした。
「離したくない――けど、この子の安全には変えられないか……」
「賢明な判断で何よりです」
もしもここで己の欲求のために斗亜様の危険を顧みず、私に預けるのを拒否するようであれば、やはり実力行使でしたね。
「みんな、今!」
金髪の女性が納得したようなので私が斗亜様を受け取ろうと近づいた時、彼女の威圧感が薄れたせいでしょうか。
優木さんは仲間を鼓舞するように大声でそう言うと、こちらに向かって駆けてきました。
「その方をこちらに」
「ええ、よろしくね」
しかし金髪の女性はそれを意に介した様子を見せず、私の受け渡し要求に即座に応じてくれた。
これで斗亜様の安全は守れますね。
私はすぐさま屋上の上空へ跳び上がる。
そして同じように跳んできた分身と空中で足裏を合わせ、互いに思い切り蹴り合った。
その反動で、私は向かってくる異能犯罪対策課の頭上を越えて近くのビルの屋上へ、分身は反対方向へと弾かれるように飛んで移動した。
さて、これで戦闘に巻き込まれなくて済みますが、彼女はあの人数相手に問題ないのでしょうか?
優木さんと同じように全員がお札を手に持っているので、おそらくエーテルギフトも全員[陰陽術]なのだと思われますが、式神だけでなく魔法のような術を使ってくると考えると結構厄介でしょう。
私が仮に相手をしたとして、[忠誠証明]による肉体強度で十分対応可能ですが、さすがにあの人数相手だと多少時間がかかりそうです。
それほどの相手に彼女は戦えるのでしょうか?
「この程度じゃ包囲しているとは言えないよ」
「「「なっ!?」」」
そんな心配は杞憂でした。
彼女は全身を霧化させ、囲まれていたにもかかわらず、あっさりと包囲を抜けてしまったのです。
「そんな、あり得ないし! 〝吸血姫〟がそんな事できるなんて話聞いたことないんですけど!?」
「あなた達が知ってることしかできないわけじゃないんだよ?」
当たり前ですね。
事前情報が必ずしもあってるとは限りません。相手が能力を隠している可能性は考慮するべきでしょうに。
とはいえ、彼女の力は予想しやすいので、そこまで驚くことではないと思うのですが。
斗亜様の血を飲んだりしていますし、どう見ても吸血鬼なのですから、伝え聞くような吸血鬼ができるようなことは全部できると思っていいのでは?
「いやいや、おかしいじゃん!? 〝吸血姫〟は異常なまでの身体強化しかできないはずじゃなかったの!?」
「血を満足に飲めてなかったからだね。まあこれ以上教えてあげる義理はないし、ささっと終わらせようか」
金髪の女性はにこやかに笑うと、左手で自身の右手首を掻き切りました。
するとそこからあり得ない量の血が放出され、その血が優木さん達を襲います。
「くっ、急急如律令!」
優木さんの仲間の一人がその血に向かって手に持ったお札を突き出すと、そのお札の先端から大きな炎の球が生み出され、襲い来る血に向かって射出されました。
あれでは血に火がかき消されてしまうだけでは?
「爆ぜろ!」
そう思ったのですが、その炎弾は血に衝突する直前で爆発。
血を吹き飛ばしてしまいました。
咄嗟の判断ですぐにそれができるあたり、さすが異能犯罪対策課だけあって戦い慣れてますね。
もっとも――
「「「きゃっ!?」」」
「やっぱり直接殴る方が慣れてるから、こっちの方が確実だね」
圧倒的な力には無力なようですが。
爆発が目くらましになり、金髪の女性が接近してきたのに気づかなかったのでしょう。
いえ、目くらましが無くてもあれだけ高速で動かれたら、反応は難しかったかもしれませんね。
「がはっ……!」
「ぎゃっ!?」
どんどん彼女に殴り倒され、気が付けば優木さんも含め全員が気絶させられていました。
彼女の宣言通り、本当にさっさと終わらせてしまいましたね。
「ごめんなさい、待たせちゃって」
「いえ、それほど時間はかかってませんでしたよ」
彼女は待ち合わせに遅れたかのような軽い感覚で、優木さん達を倒してこちらのビルに跳んできました。
「あの方達は殺してしまったのですか?」
「え? ううん。私を捕まえようとしに来ただけだし、そこまでする必要はないかな。
もし、その子に手を出そうとしてたら殺したけど」
なるほど。
中々いい忠誠心ですね。
自分よりも斗亜様を大事に思っているあたり、忠誠ポイントが高いです。
「それでは行きましょうか。斗亜様を休ませなければいけませんし」
「ついて行っていいの?」
「もしあなたから逃げたら、斗亜様を探すために騒動の一つでも起こしかねないでしょうから。それなら近くで見張っていた方がマシです」
「あはは。それは否定できないかな」
もし私がこの人の立場なら間違いなくそうします。
というか、実際研究所で大暴れしましたからね。
彼女と私は少し似ているところがあると思いながら、金髪の女性と共に学園の寮へと戻りました。




