第32話 [吸血鬼化]
≪金髪の少女SIDE≫
路地裏でうずくまっていた時、私はもう限界だった。
私のエーテルギフトは[吸血鬼化]。
その名前通り、私は3年前の13歳の時に吸血鬼になった。
最初はなんともなかったの。
強いて言うなら吸血鬼になったことで力が強くなったくらいで、そこまで気になるものではなかった。
だけど、日が経つにつれ徐々に喉が渇くようになっていったわ。
水分補給はちゃんとしているのに、異様なまでに喉の渇きを感じて仕方がなかったの。
でもそれも当然だった。
[吸血鬼化]のデメリットは〝禁約〟で、【定期的に血を飲まないといけない(血を飲まない期間が長いほど代償として自身に悪影響を及ぼす)】というもの。
最初は意味が分からなかったわ。
悪影響って一体何なのかしら? って思ったくらいで、そこまで深刻に考えていなかったの。
一応両親にデメリットについて話したら、代償の記述まであるのは珍しいけど何が起こるかは様子を見るしかないと言われたのもあって、初めのうちは特に気にしてなかったわ。
でも1週間も経つころにはそれを嫌というほど思い知らされたの。
太陽、ニンニク、十字架、流水などなど。
吸血鬼の弱点はたくさんあるけど、まず最初に太陽によってダメージを受けたわ。
太陽の光を直接浴びると、その箇所が火傷をしたかのように一気にただれてしまったの。
その日から日が昇っている時間は家から出る事ができなくなったけど、残念ながらそれだけでは済まなかった。
ニンニク、十字架、流水とどんどん生活に影響が出始め、それと同時に喉の渇きも増していくばかりだったわ。
両親はなんとかしようとお皿にほんの少し血を出して私にくれたけど、全然足りなかった。
[吸血鬼化]のエーテルギフトということで輸血パックを特別に購入させてもらえたけど、輸血パックに入った血は物凄くマズく、例えるなら腐った生卵に青汁とコーヒーを混ぜたような味で飲めたものではなかったの。
しかも無理して1パック飲んでも気持ちマシになったかもしれないという程度で、両親から舐める程度の量をもらう方がデメリットがマシになるのだから、辛くてたまらなかったわ。
「うぅっ、どうして私がこんな目に……」
カーテンで陽の光を完全に遮断した部屋で、私は泣きながら自分のエーテルギフトを恨んだわ。
どうにかしたくてもどうにもならなくて、血を飲みたい気持ちをただひたすら我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して――
「な、なんだこいつ……!」
「ひぃ!? だ、誰か助けて!」
えっ?
気が付けば私はいつの間にか外にいて人を襲っていた。
正気に戻った私はようやく周囲の惨状に気が付いたの。
たくさんの人が地面に横たわり、ギリギリ死なずに干からびていた。
正気を失っていてもかろうじて人を殺さない理性だけは働いたのか、失血死寸前で飲み干した輸血パックを捨てるかのように地面に放っていたみたい。
「早く警察、いや、異能犯罪対策課に連絡するんだ!」
私はその声が聞こえ、慌ててその場から逃げ出したわ。
裸足だったから足は痛くて仕方がなかったの。
しかもパジャマのままだから目立つ格好だったけど、幸い夜だから人目は少なかったからなんとか逃げられたわ。
でも半ばパニックになっていたから、その時はあまりそれを気にしていられず、慌てて家に帰ったわ。
そして家に帰って最初に見たのは――
「「あっ、ああ……」」
怯えた目で私を見ている、明らかに血を吸われて重度の貧血になって動くのもやっとな両親の姿だった。
「ご、ごめんなさ――」
私が反射的に謝り手を伸ばしかけた時、両親はビクリと震え弱々しい声でこう言った。
「ば、化け物……」
「こ、来ないで……」
明確な拒絶。
あまりのショックに私はそのまま家を飛び出したわ。
行く当てもなく、帰る場所を失った私は街の影に溶けるように生きるしかなかった。
忌々しいエーテルギフト、[吸血鬼化]を使えば人を幻惑することができたから、家主を操ることで住む場所の確保はできたし、普通の食事は不要だったから雨風さえしのげれば問題はなかったわ。
だけど[吸血鬼化]の力は血を定期的に飲まなければその力は弱くなり、正気に戻った家主に追い出されることはよくあった。
そんな事を繰り返し3年。
正直もう疲れたわ。
こうしてまだ生きているのは死ぬのが怖いという理由だけ。
「なんで私は普通に生きられないの……!」
普通の女の子でいたかった。
こんな力なんていらない。
強い力も人を操る力も、他にもいろんな力があるけど全部いらない!
「せめて、誰かと笑い合える生活がしたいよ……」
それだけが私の望み。
「……うっ」
また喉の渇きが強くなってきた。
また限界が近づいて来ているわ。
理性が完全に飛ぶ前に、少しでもいいから血を誰かからもらわないと……。
いつになったらこの生活に終止符が打たれることになるのだろう?
自分で終わらせられないなら、いっそのこと誰かに終わらせてもらうのもありなのかもしれない。
いえ、こんな人に害をなす生活をしているのだから、いずれ強制的に終わらせられるかな。




