第31話 二度目の奇跡
信じられないが、この少女の願い(?)にオレの[願望成就]が反応した!?
「嘘だろ!?」
「どうされましたか?」
「[願望成就]の条件が達成された」
「っ!? では、早急に[願望成就]を発動しなければマズイですね」
「ああそうだ」
〝自身の禁約2〟により、【全てのデメリットの条件を満たす者に願われたら必ず叶えないといけない】せいで、すぐにでもあの少女に[願望成就]を発動しないと、代償を払わされることになってしまう。
こんな〝禁約〟あってないようなもので、すぐに能力使えば問題ないからこれで代償を払う事はないなと思った事があるが、まさか人に追われてる時に条件が達成されるとは思いもよらなかった。
「仕方ありません。[百人一色]を使わない範囲で全力でいきます。斗亜様、ご命令を」
「優木を足止めして近づかせるな」
「かしこまりました」
ナズナがオレをあるビルの屋上に降ろすと、優木の方に反転して襲い掛かった。
分身もそれに続き、金髪の少女をオレのそばに降ろすと、同様に優木に向かって行く。
「うえっ!? ちょっ、まっ!」
優木が慌てて上空に逃げるも、ナズナは分身を踏み台にして追いかけ、式神に攻撃を仕掛けていた。
「くっ、舐めるんじゃないし!」
しかし優木もそう容易く攻撃を受ける事なく躱していた。
もっとも、ナズナの分身も同様に次々と式神にそれぞれがもつ武器で攻撃を仕掛けたりしていて、回避に精一杯のようだが。
よし、あっちは問題なさそうだな。
「ハァハァ、血、血が欲しいの……」
ホラーかよ。
紅い虹彩が怪しく輝いており、乱れた長い金髪が余計に恐ろしさを演出していた。
だが今はそんな事を気にしている場合ではない。
身体の内側に異様な熱が高まりだして、これ以上放置すればマズイのは間違いないのだから。
「やれやれ。まさかこんな唐突に条件を満たす奴が現れると思わなかったぞ。
いいだろう。その願い、不本意だが叶えてやる」
二度目の正当な方法での[願望成就]の発動。
身体の内側で高まっていた熱が[願望成就]の核と思わしき場所へと集まり、いくつもの光の輪が広がっていく。
遮る物全てを貫通しながらその光は高まっていき、その光が一気に集約したと思った次の瞬間、弾けて強烈な光を周囲に撒き散らした。
なるほど。そうきたか。
[願望成就]の副次効果によって、どんな風に願いが叶えられたのか悟ったオレは、金髪の少女へと近づいていく。
「ほら、好きなだけ飲め」
「ハァハァ、い、いいの? 死んじゃうよ?」
「どれだけ飲まれても死なないから安心しろ。お前が叶えた願いのせいだ」
オレがそう言い終えると飛びつくように抱きしめられ、そのままの勢いで首に噛みつかれた。
「うっ……!」
異様に伸びた犬歯がオレの首に突き刺さり、その痛みに思わず顔をしかめてしまう。
しかし少女はそれを気にする余裕などないのか、鼻息荒くオレの首から溢れる血をどんどん飲んでいく。
凄まじい勢いで飲まれるが、オレがこれによって失血死することはない。
何故なら先ほどの願いによって、オレの身体は吸血されている時に限り、無限に血を生成する身体に変えられたのだ。
こんな風に願いを叶えられて、さっきから血をよこせと言われたら、さすがにこの少女が血を飲みたいのだというのはすぐに分かる。吸血鬼かな?
「はぁ!? ちょっ、あれやっぱ〝吸血姫〟じゃん!?」
空から優木さんの驚く声が聞こえてきたな。
「ちょっ、タンマタンマ! あんたらのお仲間吸い殺されちゃうんだけど!?」
「………」
ナズナは声でバレるかもしれないからか、下手に返答はせずにそのまま優木の邪魔をしてくれていた。
ここで戻ってこずに足止めしてくれるのはありがたい。
さすがナズナ。分かってるな。
「んっ……」
しかしこの子、結構飲むな。
感覚的には採血どころか献血すらも超える勢いで血が持ってかれてるんだが、どれだけ飲む気だ?
もし仮に[願望成就]によって願いを叶えられていない状態だったら、とっくに干からびて死んでいるだろう。
……こういう採血や献血とかで動けない時間って暇なせいか、色々考えてしまうな。
そう言えば[願望成就]のデメリットに〝他人の契約2〟で【他者を害する願いであってはならない】ってあったけど、今回はギリセーフなのかね?
血を奪う手段を求めていたのならアウトなんだろうけど、血を提供してもらうのは採血や献血と同じで、直接他人を害するわけじゃないからセーフなんだろうか?
割とグレーゾーンな感じだが、願いが叶ったということはセーフなんだろう。
「くっ、応援はまだなの?!」
「すいません、遅くなりました」
焦った様子の優木に対し、落ち着いた声が聞こえてきたと同時にオレ達の周囲を離れたところから囲むように何者かが何人も現れた。
「来るの遅いし」
「優木さんのバディの方から居場所を聞いてすぐに駆け付けたのですが、さすがに場所がビルの屋上ともなると上るのに時間がかかりました」
やはり居場所を探るタイプのギフターがいたか。
そのせいで優木を振り切る事ができなかったようだ。
「相手は〝吸血姫〟っぽいから油断するんじゃないし」
「分かっています」
こちらを、というかこの状況であるにも関わらず未だに血を飲んでいる少女を警戒してか、ゆっくりと向かって来る。
ヤバいな。このままだとこの少女と一緒にオレも捕まってしまう。
できれば今すぐにでも逃げたいのだが、がっちりと少女に抑えられているせいで動けないし。
ナズナは優木と応援に来た他の人間と対峙しているせいでこっちに向かって来れない。
この状況、どうすれば……。
そう思ったところで、身体の内側にあった願いを叶える際に発生する熱がスッと失われた。
「ありがとうね。あなたのお陰で私は完全に満たされたよ」
オレの首から顔を上げた少女がそう微笑むのを見ながら、〝自身の契約2〟による【能力使用後、体力の9割が消失する】のせいで強烈な眠気が襲い、そのまま意識を失ってしまった。




