第29話 SNS
「ねえねえ知ってる? なんか夜な夜な人の頼みを聞きにきて解決してくれる集団がいるって噂」
「もちろん知ってるし」
教室で優木が友人と和気あいあいと話しているのが聞こえてくるのはいつもの事だが、その内容がオレらの事だった。
都市伝説になる覚悟で夜な夜な黒いフード付きポンチョを着て、ナズナと共に出くわした人間に正体がバレない様に注意しながら話を聞いて回った。
そして叶えられそうな願いなら解決していったのだが、噂になるの早くないか?
まだ三カ月しか経ってないんだが。
三カ月もあれば十分噂になってもおかしくない、と言われればそれまでなんだが、週に一度徘徊しただけだぞ?
「謎の集団って感じで面白いよね」
「あーしとしては、そういう噂になるようなのが現れるのはマジ勘弁」
「あっ、そっか。りこって――」
あまり聞き耳を立てるのもどうかと思うから意識的に聞かないようにするが、それよりも噂の事だ。
集団で目立ってしまったせいか。
でもそれは仕方がなかった。
なにせ2人で願いを聞いて回ると、正体を探られる際に2人組繋がりでバレやすいから、あらかじめナズナの分身を何体か出して行動してるんだよな。
もし徘徊している時にナズナの[百人一色]を使いたくなった時、分身能力なんてナズナ以外見た事ないから、それで即バレしてしまう。
そうならないためにも、5体ほど分身を常に出していたのだから。
ただ、そのせいで余計に目立って噂になってしまったようだが。
「はぁ、思ったより噂になるのが早かったな」
「分身の身長とか、厚底ブーツを履いたり猫背になったりしてそれぞれ差をつけたので、その集団が分身だとは思われていないのだけは幸いですが」
分身だとバレた瞬間、オレらだと即バレしてしまうからな。
「どうします? 続けますか?」
「続けないわけにもいかないだろ。ただ学園からもっと離れた場所でやることになるだろうが」
ここは街と言われているが、幸いにももはや一つの県並みの広さなので、かなり離れた場所で活動できるから問題はない。
移動の際はナズナに頑張ってもらうことになるが、ナズナなら[忠誠証明]で肉体を強化できるので、そこまで大変ではないだろう。
それにしても、まだ十数回程度で噂が広まるとか暇なんだろうか?
「でもホントにそんな集団いるのかな?」
「その集団に出くわした人達が何人もSNSに投稿してるから、あり得ない話じゃないんじゃね?」
こっちの世界でも存在するネットの存在が憎い!
オレ達が動いているのは週に一度ではあるが、叶えられそうな頼み事をしてくる奴と遭遇するまでそれなりに話しかけているから、SNSに上げるやつが何人かいてもおかしくないわな。
「とりあえず今後はもっと慎重にやっていくぞ」
「かしこまりました」
慎重に動いたところでどうにもならないかもしれないが、今よりもっと警戒して動かないと変な奴に捕まりかねないからな。
◆
あれからさらに3週間ほど経ち、夏休みに入ったことでかなり余裕をもって人の頼み事を聞いて回れるようになった。
「夏休み前までは宿題とかやったりしなきゃいけない都合で、金曜と土曜の夜しか頼み事を聞けなかったが、今なら毎日徘徊しても時間に余裕があるからありがたいな」
「そうですね。金曜と土曜だけだと、どうしても私達ができる範囲の頼み事をしてくれる人に出会えないこともありますから」
その場合だとナズナの願いを叶えることになるのだが、オレが羞恥死することになるので、出来る限り避けたいのだ。
いつまで経っても人に股を拭かれるのは慣れんよ。
あと風呂。全身丸洗いは恥ずい。
ナズナも一緒になって入るから、前世が成人男性でその記憶がある身としてはとてもじゃないが目を開けられない状況になってしまうんだよな。くっ、その日一日身をゆだねることになるせいで、柔らかい身体に抱えられる感触ががががが。
それはともかく、今は叶えられそうなレベルの頼み事をしてくれそうな人を探さないといけない。
一人か二人の頼み事を聞くだけで2週間前後はデメリットの衝動に耐えられるようになるから、サクッとこなしたいところ。
問題はそんな都合のいい人間が中々見つからないので、何日も徘徊しないといけないことだが。
「おや? 斗亜様、あちらを」
「ん、どうした?」
ナズナが指さす方を見ると、そこにはフラフラと身体を揺らしながら路地裏に入っていく金髪少女の姿があった。
「こんな夜中にあんな女の子がどうして?」
「それは我々も人の事を言えませんが、あの少女であれば何か困りごとでも抱えていそうでは?」
「オレ達で出来る範囲を超えそうな深刻な問題だとどうにもならんがな」
家庭の問題で家に帰れないからなんとかして、とか言われてもどうしようもないぞ。
「だが話だけは聞くべきか。都合よく路地裏に入ってるから、誰かに見られる心配もないし。よし、行くぞ」
「かしこまりました」
少女を追いかけてオレ達は路地裏へと入っていく。
するとその少女はすぐに見つかった。
地面に座り込み、うずくまって微動だにしていなかった。
いや、大丈夫かこれ?
「薬や酒でもやってんじゃねえだろうな?」
「オーバードーズ特有の反応、手が震えていたりとかはしていないので、薬はやってないと思いますが……」
普段であればあまり声をかけたいと思わないが、せっかく追いかけたのだし少し話を聞いてみるか。
「おい、少しいいか?」
オレが少女に近づいて話しかけたその瞬間。
少女は勢いよく顔を上げると、両手をこちらに向けて襲ってきた。




