第22話 ワービースト
遠吠えの直後、姿を現したのは、まさにフィクションのコボルトをそのまま現実に持ってきたような存在だった。
「あれが〝ワービースト〟か」
何というか、〝ワービースト〟という名前の割に威圧感はそんなに無いな。
そこまで大きくなくて130センチしかないオレと同じくらいの身長じゃないだろうか?
「大した事なさそうですが」
77番もオレと似たような事を思ったのか、この程度ならどうとでもなると思っているようだ。
「ふむ……。じゃあ試しに戦ってみるかい?」
「何を言っているのですか学園長!?」
秘書が驚いてるが、それもそうだろうな。
普通、仮に相手がただの野良犬であっても、中学生の少女に戦わせようとはしないだろう。
「まあ落ち着きなよ。この子達なら問題はないさ。
だが、もしも私達に保護されるのがどうしても嫌だと言うのなら、自分達がこの先何と相対することになるかは、私達がいる今のうちに理解しておいた方がいいだろ?」
「……私はそれでも反対です。そんな危険な事をさせずとも、無理にでも保護するのが彼女達のためです」
「それは親切ではなくただの押し付けだ。
気持ちは分かるが、それでは彼女達からの信頼は得られないぞ」
「先程力で無理矢理抑えつけた学園長が言いますか」
「ははっ。言われてしまったね。
だが、戦った私だから、と言うべきかな。
彼女達は強く、あの程度の相手なら問題ないと判断したのだよ」
なんか勝手なこと言ってるが、はてさてどうしようか?
「どうしますか108番様?」
「戦えそう?」
「問題ありません」
「なら頼む。外にどんな生き物が生息しているのか知る良い機会だし。
そこの学園長とやらが言う通り、保護されない方を選べるか確認する必要がある」
この学園長から逃げられるかという問題があるが、上手くいけば話し合いで逃げられそうではあるし。
「だから77番、あの〝ワービースト〟を倒せ」
「かしこまりました」
学園長はすでに重力による拘束は解いているので、77番が分身を出してもそれらの行動は阻害されずに〝ワービースト〟へと駆けていった。
5体の分身が〝ワービースト〟へと瞬時に向かい、それぞれが〝ワービースト〟を挟むように近づき、足、胴体、頭へと同時に攻撃を仕掛けた。
「ガウッ!」
「「なっ!?」」
しかし〝ワービースト〟はその小さな体躯を生かし、身を縮めて分身の攻撃を全て躱すと、手足をゴムみたいに伸ばして鞭のようにしならせて分身全てを弾き飛ばしていた。
いや、なんだあの身体。
「今、あの〝ワービースト〟の手足が伸びなかったか?」
「伸びたね。どうやらあれがあの個体の特殊能力のようだ」
学園長は平然と言っているが、〝ワービースト〟がまるでエーテルギフトのような力を使ったことに驚かないんだな。
ということは〝ワービースト〟には特殊能力までがセットでついてくると。
……あの個体の?
「まさかその特殊能力とやらは個体によってそれぞれ違うのか?」
「違うね。君らが同じ能力を持っていないことと同じことだよ」
それを言われてしまうとぐうの音も出ないが、そうなると相対した際にどんな能力を持っているかはその時々で確認しないといけないということになる。
厄介だな。
「どんどん行きます」
77番は次々と分身を〝ワービースト〟に向かわせて取り囲み、数体ずつで殴りにいっていた。
さすがの〝ワービースト〟もいくら手足が伸ばせたり、小柄な身体を活かして攻撃をかわせても、玉砕覚悟で突っ込んでくる相手には無傷ではいられなかった。
結果、77番の何体かの分身が〝ワービースト〟の手足を押さえつけ押し倒すと、そのまま次々と分身が向かって行って殴り倒していた。
「討伐しました。申し訳ございません108番様。思ったより手間取りました」
「まあ素手だしな」
ただ、77番が素手だったとしても、[忠誠証明]で肉体強度が増して力が強くなってるのにその攻撃に耐えるとか、〝ワービースト〟は耐久力も高いのか。
「まだ終わってないよ?」
「「えっ?」」
〝ワービースト〟のいた方に目を向けるが、そこには手足が曲がってはいけない方向に曲がってて、明らかに動けない様子の〝ワービースト〟がいるだけ――
「「「ワオーン!」」」
ではなかった。
最初の〝ワービースト〟の遠吠えは仲間への知らせだったのか、似たようなのが次々と林から現れ出した。
「20体くらいはいないか、あれ?」
「いるねえ。弱い方の〝ワービースト〟だから、数がその分多いんだよね」
学園長は平然と言ってくるが、77番が何体もの分身でリンチにしてようやく1体倒したというのに、それがまだ弱い方だと?
「どうする? 私達の保護を受けず、自分達の力で生きていくなら、あの程度の相手は自分達で処理しないといけないけど」
はぁ。無理に決まってんだろ。
「……あんたらはオレらを無理やり利用したりはしねえだろうな?」
「う~ん、〝ワービースト〟と戦える人材は希少だから、君らが成人したら極力そっちの仕事をしてもらうことにはなるだろうけど、無理強いはしないかな。向き不向きとかあるし。
まあ子供のうちは君らにしてもらうことと言えば、普通に学園に通って勉強してもらうことになるくらいかな」
「分かった。悪いな77番。こいつらに保護してもらうことに決めた」
「構いません。私はただ、108番様の御心に従うのみです」
こうしてオレ達は黒瀬という学園長について行く事に決めた。
あと、現れた〝ワービースト〟達は学園長が片手間に押しつぶしてミンチにしていた。
オレらの時は完全に手を抜いていたのが分かるな。




