第21話 廃棄区域
突然現れた、見た目秘書っぽい感じのスーツにメガネをかけた女性は男を叱っているが、その間も男はオレ達を逃がさないようにしていた。
叱られてる間とか隙がありそうなものなのだが、男はなんてことない感じでオレ達の逃亡をことごとく阻止してきやがった。
「学園長……。分身とはいえ、少女を押しつぶすのは見ていて忍びないです」
「でもこうしないと逃げちゃうんだよね。廃棄区域で彷徨うのは危ないっていうのに」
「廃棄区域?」
なんだそれ?
「……学園長。まさか何の説明もせずに拘束していたんですか?」
「あはは、うっかりしてたよ。知ってるものとばかり思ってた」
「あんな研究所で育てられた人間が外の情報なんて持ってるわけないじゃないですか。分かりました。私から説明しましょう」
メガネのつるを指先で持ち上げ、地面に膝をついて地面に横たわるオレ達に近づいて来た。
「私は学園長の秘書をしている氷室楓と申します。
早速ですが、この場所の危険性について説明したいと思います」
こんな子供相手にわざわざ丁寧な口調で教えてくれるんだな。
「廃棄区域と呼ばれているこの場所は、見ての通り林が生い茂っている場所です。
そういった場所では野生動物が生息しているのですが、普通の動物じゃない動物も彷徨っていたりします」
「普通じゃない動物? 熊、ってわけじゃないよな?」
「はい。熊であれば素手でもどうとでもなりますから」
ならないが?
熊を相手に素手で挑むとか自殺行為だからな?
まあこの世界だとエーテルギフトがあるから、77番とかなら平気なんだろうが。
「熊なんかではなく、廃棄区域には〝ワービースト〟と呼ばれる異獣が生息しており、人間を見かけたら必ず襲ってくる性質をもった存在がいるのです」
なんか新単語が出てきたぞ。
「〝ワービースト〟?」
「〝ワービースト〟は本来の姿から変化し、異形となってしまった動物のことを指します。
例えば犬だとコボルト――犬の頭に二足歩行をする人型になるイメージしていただければいいかと」
こっちがコボルトの知識が無いかもしれないと判断したのか、丁寧に説明してくれたが、ちょっと待ってほしい。
ここ、本当に日本なのか?
「いくつか聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「この国の名前は?」
「日本ですね」
「今西暦何年?」
「20××年です」
「首都はどこ?」
「東京です」
地名や年は前世とさほど変わらずと。さすがに年はオレが前世で死んだ時から多少ズレてるが、数年程度なので誤差か。
「この林のどこかにコボルトが出るのか?」
「出ます。コボルトだけでなく、他にも色々と」
ここがおかしい。
なんだよコボルトって。いや、意味は分かるよ。
ただ何故そんな生物が存在しているのかってことなんだが、それを言ったらエーテルギフトとかいう超能力がある時点で今更か。
「安心してください108番様。犬が二足歩行して向かって来る程度、どうとでもなります」
「77番は〝ワービースト〟の存在は知っていたのか?」
「いえ、今知りました。ですが施設で戦ったエーテルギフト持ちより強いということはないかと」
知らないのによくそこまでハッキリ言えたな。
まあオレの傍にいるためだけに暴れて戦闘力の高い相手と戦っただけあって、目の前の黒瀬とかいう理不尽な能力でも持つ敵でない限りは、言った通りどうとでもしそうだな。
「それは〝ワービースト〟を甘く見過ぎですね。もしも強力なギフターの1人や2人がいる程度でなんとかなる相手なら、人類は廃棄区域など作らずに済んだでしょう」
「ギフター?」
「失礼。エーテルギフトを持つ者の総称です」
そういや77番はデュアルギフターとか呼ばれてたし、1つしか持ってない者なら単純にギフターか。
さて、それはともかく〝ワービースト〟だ。
秘書の氷室とかいうのが言う通り、学園長や77番の強さを考えると駆逐するなんて難しくないように思えるが、それでも駆逐できていないということは、滅茶苦茶強いか、滅茶苦茶数が多くて駆逐しきれないか、もしくはその両方か。
まあ〝ワービースト〟の話が嘘の可能性もあるが、嘘をつくならもっと現実味のあることを言うだろう。
異能力のある世界で現実味とかいうのもおかしいが、作り話にしてはあまりにも荒唐無稽すぎて、嘘をつくならもっとマシな嘘をつくはずだ。
つまり〝ワービースト〟と呼ばれる存在がいると仮定した際、問題となるのがこの後の行動か。
仮にこの場からなんとか逃げ出せたとしても、〝ワービースト〟が徘徊している場所で先の見えない暮らしを強いられることになる。
77番の分身能力があるから人手という面では心配はいらないが、相当な負担をかけることは目に見えている。
というか、もし77番が風邪を引いたりして寝込んだ場合、〝ワービースト〟に襲われて死ぬよね?
そう考えると廃棄区域とやらにいる訳にはいかないのだが、いかんせん研究所にいた時は外の情報が一切入ってこなかったから、どこが安全なのかもよく分からない。
なら、目の前の保護しようとしてくる人間を頼るのは間違いないのかもしれないが……、ハッキリ言って胡散臭くて信用ならない。
――ワオーン!
さて、どうしようかと考えていたら、どこからともなく犬の遠吠えが聞こえてきた。
「ちょうどいいですね。あれが〝ワービースト〟です」




