第17話 下の世話……くっころ
77番がオレをお姫様抱っこで運びだした。
いきなりのことに慌ててしまったが、そもそも足も骨折してたし、よくよく考えたら[願望成就]のデメリット、〝自身の契約2〟である【能力使用後、体力の9割が消失する】のせいでまだ体力が回復してなくて動くのも億劫だったから丁度いいか。
「着きました」
「あ、ありがとう」
前世の記憶があるせいで、中学生くらいの女の子にお姫様抱っこで運ばれることに抵抗感はあったが、今は素直に助かったと思っておこう。
「………」
「……なんでトイレから出て行かないんだ?」
トイレから出て行かない、というより正確に言えばオレをトイレの便器に座らせた後、扉を開けたままそこに待機しているのだ。
「ズボンは下ろせますか?」
「はい?」
「左腕は無く、右手も骨折して使えない状態ですから、介助は必要だと思われますが」
あ、なるほど。
一旦トイレの外で待機したのは、様子を見てそれを尋ねるためか。
「確かに手は骨折したが、このくらい……」
……脱げない。
指先の骨までバッキバキだったせいか、指までギプスでがっちり固定されてるせいで、指先も出てないから服を脱ぐのが難しすぎる!
足もギプスは着けてるけど、ズボンは足の所がかなりダボダボなデザインで脱げやすいはずなのにだ。腰のとこのゴムで止まってるだけのくせに……!
「くっ、服をこするようにすればなんとか脱げるか?」
「そこまでしなくても私が補助しますよ」
前世を考えると実質自分よりも一回り近くも年下の女の子にトイレのために服を脱がされるとか、羞恥心でどうにかなりそうだが背に腹は代えられない、か……。
「すまん、頼んだ……」
「かしこまりました」
77番が便座に座っているオレの身体を抱えるようにしながら、ズボンをパンツごと下ろしてくれた。
「服が汚れないように脱がしてしまいますね」
「えっ?」
下ろされるどころかひん剝かれた。泣きたい。
「では失礼しました」
パタンと閉じられる扉。
心の中で泣きながら、オレは用を足した。
そして、新たな問題が出てきた。
「……紙で拭けないじゃん」
体力がまだ回復してない上に寝起きのせいで頭が回っていなかったのだろうか。
こんな当たり前の問題に気が付かないなんて……。
――コンコン
「よろしいでしょうか?」
「よろしくないが?」
男だった時には紙でわざわざ拭く必要はなかったのに……。女性って結構不便だ。
まあ男だったとしても手が使えないこの状況だと、ち〇こに触れられない状態でおしっこをするのは固定できないから大変なのだけど。
「ですが後始末ができなくて困っているのでは?」
「その通りではあるけども」
「そのままでいる訳にもいかないでしょう。開けますよ?」
「開けないでくれ!?」
「かしこまりました」
……いや、初めての命令がこれってどうなんだ?!
「では、開けずに後始末のご協力をしますね」
「どうやって入った?」
何故か気がついたら目の前に77番がいた。なお扉は閉じたままである。なんで?
「外からトイレの内側に分身を出しただけですが?」
「それはズルいな」
分身って壁ごしでも出す事できるのかよ。
その後、股を拭かれたあげく、ズボンとパンツは外にいる本体の77番が持っていたため、結局開けてもらって服を着せてもらった。
くっ、ころ……。
◆
色んな意味で終わった後、ベッドでオレはうつ伏せに――なりたかったが足もあばらも骨折しててそんな態勢になれなかったので、仰向けのまま天井を眺めていた。
「シクシク。手さえ使えればこんな恥辱を受けずに済んだのに……」
前世の成人男性だった時の記憶があるから、年下の少女に下の世話をされた気分で余計にメンタルにくるんだよ。
「治るまでは諦めてください」
これが一回限りではなく数カ月は続くのかと思うと、より泣けてきた。
「はぁ。どうにもならないことはこの際もういいか……。
それよりもさっきの命令だが、命令しても77番の解釈である程度は自由に動けるんだな」
「そうですね。命令されたことさえ守れば行動に問題はありませんでした」
そう考えると割と77番のデメリットはどうとでもなりそうだな。
「じゃあオレからの命令で77番が受け入れたくない命令だったら拒否しろ」
「かしこまりました。……この後の命令と今の命令が相反する場合ってどうなるんでしょう?」
「分からないな。試してみたいが、77番がしたくない命令をするのもどうかと思うし……」
「私は肉の脂身が好きではありませんから、それを食べるように命じてください」
「いいのか?」
「私自身もどうなるか知っておきたいので」
77番が構わないと言うのであればいいか。
「じゃあ、食事を持って来てくれ。出来るだけ肉の脂身がついてそうな料理を」
「かしこまりました」
77番は分身を出すと、分身はすぐに部屋を出て行った。
そして30分ほど待っていると、分身がいくつかの料理をお盆に乗せて戻ってきた。
持ってくるまではオッケーと。
「ん? 豚の生姜焼きは分かるが、トーストとベーコンエッグは何だ?」
「丸一日寝てましたからお腹が空いているのではないかと思いまして。
寝起きなので軽めの物を用意させていただきました」
言われて自覚したが、確かにお腹は空いてるな。
「そっか、ありがとう。それじゃあ一緒に食べようか」
「正直に言えば食べたくないですが……」
「そうじゃなきゃ実験にならないし」
こちらとしても嫌な事を命令してやらせるのは心苦しいが仕方ない。
「77番、その豚の生姜焼きを食べろ。ちゃんと脂身の部分もだぞ」
「ぐっ……、かしこまりました」
77番は嫌そうな顔をしながらも、生姜焼きを渋々と食べ始めた。
しかも脂がガッツリついてる部分をだ。
「もう食べなくていいぞ」
「うぷっ、ありがとうございます……」
77番が若干涙目になっていた。
二口程度で止めたのにそんな泣きそうになるなんて。そんなに嫌なのか。
「命令を拒否できなかったのか?」
「無理でした。どうやら相反する命令の場合は新しい命令が優先されるようです」
「そうか。やはりデメリットは一筋縄ではいかないな」
とりあえず、77番に変な命令をしてしまった場合、すぐにそれを止めるよう命令すれば問題ないのが分かっただけマシか。
そう結論付けて用意してもらった食事を食べている時だった。
――ドオンッ!!
突然の轟音が周囲に響いてきた。
え、なに? 何の音?




