第14話 後は……お前次第だ
≪108番SIDE≫
――ビギッ!
77番が寝てるベッドに近づいて床に膝をつき、彼女の耳元に口を近づけた途端、いつも以上に体に警告の合図が来た。
止めろと。
それはやってはいけないのだと。
そう強く警告されていた。
だけどオレは構わず口を開く。
どうせ他で代償を払わされることになるくらいなら、まだ77番にくれてやった方がマシだ。もってけ。
「オレが能力を発動する上でお前が守らなければいけない禁約は、【願いを叶えてもらった相手への恩義を生涯抱き続けなければならない】だ」
――ボキンッ!!
「ぐああああああっ!!?」
――ドサッ
右手と足、それに胸の辺りに強烈な痛みが走った。
自身のデメリットである【禁約1:自身の禁約と契約以外の[願望成就]のデメリットの内容を人に伝えてはならない】を破った代償に、どうやら骨が折れたようだ。
予想はしていたからベッドを支えに出来るようにしていたが、まさかこんな何か所も骨折することになるとは思わず、身体が支えきれなくてベッドに顔を押し付けることになってしまった。
幸いなのは、両脚のふくらはぎと右手の指全てが折れ、そして肋骨にヒビが入った程度で済んだことか。最悪右手を失う覚悟すらしてたんだがな。
左腕がゴッソリ持ってかれるほどの代償を負わずに済んだのは、近くにいた護衛の男には聞かせないように小声で、77番だけに伝えるようにしたからだろう。
たぶん伝える人数が多いと、代償もその分重くなっていたのは間違いない。
「おい、何があった!?」
護衛の男が慌てて近づいてくるが、痛みで声を出すのがしんどくて答える気力が湧かなかった。
「これは……!? ちっ、すぐに医療班を呼ばないと」
もっとも見てすぐに分かる状態だったのか、オレに下手に触れたりせずに医療班を呼び寄せる選択を的確にしてくれたが。
「………な……なん、で……?」
「言った、だろ……。ただ借りを、ハァハァ……返しただけだ。後は……お前次第だ」
痛みに息が荒くなるオレを信じられないとでもいうかのように見る77番。
本人的には気まぐれにご飯を分けていただけで、大した事をしたつもりがなかったのかもしれない。
それでも私は、それを恩に感じたんだ。
だから返した。それだけの事だ。
オレが出来ることはしたがどうなる事やら。
◆
≪77番SIDE≫
意識が朦朧とする私の元に108番が来て、願いを聞かれた時は意味が分かりませんでした。
こんな状態の私にそんな事を聞いて、何の意味があるのか理解できなかったからです。
たとえ頭が明瞭であっても理解はできなかったでしょう。
「オレのエーテルギフトは[願望成就]。願いを叶えられる能力だ」
しかしこの言葉が私に否応なく理解させられました。
願いを叶えてもらえるのだと。
その後108番は今の私ではよく分からないことを長々と語り、こちらの返事を待つように見下ろしてきたので、私は自身の願いを口にしたのです。
「……生き……たい。人並みに……生き……た、い……」
それは私がここ数日、目を覚ました時に思っていたこと。
苦しくて起き上がることも出来ず、目を覚ましてはすぐに眠る日々。
もう余命いくばくもないと、思い知らされるこの瞬間。
生きたい。
そう常々思っていました。
だからそれを口にしたのです。ですが――
「残念ながら、その願いは叶えられない。77番は条件を1つ満たせていない」
「…………えっ?」
願いを叶えてくれるのではなかったの……?
希望を与えられたと思ったらすぐに裏切られ、その絶望感が一気に押し寄せてきて気が狂いそうでした。
いや、いやなの……。まだ、死にたくない……!
何でもする。だから私の願いを――
「オレが能力を発動する上でお前が守らなければいけない禁約は、【願いを叶えてもらった相手への恩義を生涯抱き続けなければならない】だ」
心の底からそう思った時、108番が突然私の耳元でそう囁きました。
――ボキンッ!!
「ぐああああああっ!!?」
そして聞こえてきた鈍い音と悲鳴。
それが骨が折れた音で、目の前の108番に起きた事なのはすぐに分かりました。
分からなかったのはその理由。
108番の様子からそれが明らかに〝禁約〟を破った代償だということ。
この研究所で何度かエーテルギフトのデメリットを破った際の代償を見せられたことがあり、代償がどういうものなのかを教えられた際に唐突に起こるそれと類似していたので間違いなくそうです。
だから意味が分かりませんでした。
何故〝禁約〟を破ってまでそれを伝えたのか。
私は残った体力を振り絞って尋ねていました。
「………な……なん、で……?」
「言った、だろ……。ただ借りを、ハァハァ……返しただけだ。後は……お前次第だ」
返事を聞いても意味が分かりませんでした。
だって借りなんて言っても、せいぜいご飯を分けただけでそれ以外思いつかない。
しかもそれは私があまり好まなかった料理だったから分けただけで、いつも分け与えていたわけではないというのに。
それだけの事で?
やっぱり意味が分かりません。
分かりませんが、それでも108番は――この子は自らが傷ついても私に足りない条件を教えてくれた。
なら、今度は私の番。
恩義を生涯抱かなければいけないのが条件というのなら、私は誓おう。
「私は……あなたに、忠誠を……捧げ、ます。だから――」
それを口にした途端、私の持つエーテルギフトの力で少しだけ体力が戻り、意識も明瞭になってきた。
だから、次の言葉がハッキリと言える。
「私の願いを叶えてください。私は、〔生きたい〕!」




