第13話 77番
≪77番SIDE≫
実験動物。
私達は的確に表現するならその言葉が一番でしょう。
「ぐぇっ、もう……むり……」
「うわあああああっ!?」
「お願い、止めて!!」
ひたすら体を鍛えさせられたり、殴られたり蹴られたりするのはまだマシな方。
一番最悪なのが変な薬物を注射されることで、それによって頭がおかしくなる人達はいっぱいいました。
異能の実験体として相応しくない人間から、順に実験体として消耗させられる。
それが分かっていたから、少しでもまともな生活ができるように他の子達を蹴落とし合って生活していました。
そんな地獄の様な環境下で私は誰よりも優れていたのは幸いでした。
そのお陰で私はその地獄のような環境下でも、比較的まともな生活を送れていたのですから。
そしてそんな私とは対照的に、108番は誰よりも劣っていました。
「あ、また私が最下位だ……」
幸か不幸か彼女は物心つく頃からここにいるので、薬物を使われることはありませんでしたが、それだけです。
周囲よりも劣っていて内向的な彼女は、この鬱屈した環境にいる周囲の子達の憂さ晴らしの対象になるのは自然な事でした。
研究所の人達は108番を軽視しているのか、彼女がいじめられても無視していました。
彼女がそれを訴えても自分で何とかしろと突っぱねられたくらいですから。
そのせいで彼女はよく食事を取られており、同年代どころか年下の子と比べても小柄のまま。
でも同情はするけど率先して助ける気はありません。
自分のことだけを考えないと、蹴落とされたり足を引っ張られて待遇が悪くなるだけなので、手を貸している余裕はないのですから。
ですが――
「あげます」
「えっ……」
私、肉がそこまで好きじゃないんですよね。
唐揚げなんかは平気ですが、特に脂身の部分があるようなもの。
豚の生姜焼きは脂がガッツリ付いて出てくるので特に苦手なんです。
だから、どうせそんなに食べたくないなら、108番に分けてあげてもいいかと思ったのです。
本当にただそれだけ。
身体を作るために我慢してでも食べますが、多少分け与えた程度ではさほど影響はないと判断して彼女にあげました。
「あっ、ありが、とう……」
お礼を言われても、私は特になんとも思いませんでした。
私は私のために行動しただけです。
ただ食事を分け与えただけで、いじめを止めたりはしないのですから。
そう思い、私は彼女を放置しました。
彼女だけではありません。
自分以外の全てを見捨て、己だけが無事であればいいという浅ましい考えで、私はこの地獄を乗り越えようとしたのです。
「ついに準備が整ったな。最高の被験者に最高のエーテルを植え付けるぞ」
乗り越えられるはずなどないというのに。
私も所詮は実験体。
どれだけ良い成績、良い記録を出したところで、最終的な結末は変わるはずありませんでした。
だというのに、私はその事実に全力で目を背け、そして今日この日がやってきてしまったのです。
「んー! んーっ!!」
猿轡を噛まされて手術台の上で拘束された私は、身動き一つとれず呻くことしか出来ない状態にされていました。
どうしようもないと分かってはいましたが、そんなの受け入れられるはずもなかった私は、無駄だと分かっていても唸り続けることで止めて欲しいと言外に訴え続けてしまいます。
「やれやれ、静かにしたまえ。君は今から人知を超えた存在になれるかもしれないのだぞ?」
そんな私の必死の訴えなど、こんなマッドサイエンティスト達が聞くはずもなく、淡々と準備が進められていってしまいます。
「では手術開始だ。なに、すぐに終わる」
「んーっ!」
止めてくださいと叫んでも唸り声にしかならず、なんらかの手術が始まってしまいます。
まず最初に、ズブリと身体の中に異物が入ってくる不思議な感覚が襲ってきました。
言い知れない気持ち悪さが感じられましたが、不思議と痛くはありません。
ですが少しずつ少しずつ体に入ってくる感覚がもの凄く気持ち悪くて、まるで巨大な蛇を生きたまま体の中に無理やり入れられているかのようでした。
いつ終わるのか。
そう思った直後、体に強烈な痛みが走り私は意識を手放していました。
◆
気が付けばベッドに寝ていました。
身体に力は入らず、周囲の大人達が私を取り囲んで見下ろしています。
「108番と違い、デメリットの確認はできたがこれは酷いな」
「ああ。〝契約〟の【寿命99年の先払い】と〝制約〟の【忠誠を誓った相手の命令は絶対になる】デメリットか」
「後者はともかく前者はダメだな。これでは数年、いや、数日も持たずに死ぬぞ」
「だがこのまま死なすには惜しいな」
「とりあえず延命措置は行っておこう」
無理やり手術したくせに、口々に勝手な事を言っていました。
ははっ。生き残るために頑張ったのに、結局この有り様だなんて酷い話です……。
自分以外は切り捨ててきたのにこのざまなんて。
もう……考えることも億劫になってきました。
そしてほとんど寝てばかりの日々となって数日ぐらい経ったある日のこと。
「おい、大丈夫か?」
誰かが私の近くに来ていました。




