第10話 安置所
収容区画の最後の1つ。
そこに入ると、中にいたのは割とまともな様子の子供達がいた。
「今日は理科の勉強をするわよ」
「え~、勉強嫌い~」
「私は新しいことを覚えるのは結構好きだけどなー」
さっきの2つと違い、穏やかに笑って楽しく過ごしているのである。
会話だけ聞くと、まるで学校での出来事のよう。
「俺としてはもっと身体を動かしたいぜ」
「バスケットとか?」
「あれ、結構車いす同士がぶつかるから痛くて嫌なんだけど」
ただし、彼ら彼女らは車いすに座っていたり松葉杖をついており、どこかの福祉施設かのようだった。
ただ、どうしてそうなったのかはともかく、ここでの様子とさっきまでの様子を比較すると――
「びっくりするくらい普通だな」
雲泥の差である。
さっきの2つがかなりマッドサイエンティスト達の研究所みたいな有り様だっただけに、一見五体満足に見える子もいるこの場所はもはや日常レベルに感じられる。
「ここはエーテルギフトのデメリットによって移動が難しくなったり、デメリットを回避するために集められた子供達がいる場所だからな」
「デメリットを回避?」
「〝禁約〟だ」
「ああ、なるほど」
身体の一部が無い場合は、〝契約〟によってエーテルギフトを手に入れたのと同時に失ったか、オレのようにデメリットの代償で失ったかのどちらかだろう。
問題は〝禁約〟であり、例えば【人の傍から離れてはいけない】だったら、こういった場所でないと、うっかり孤立しようものなら〝禁約〟を破ったことによる代償を払わされることになる。
そうならないための場所がここという訳か。
こういう場所は〝禁約〟を抜きにしてもありがたいな。
身体の一部が無くても自分でできることは自分でやりたいが、多少サポートがあると助かるのは間違いないし。
オレも左腕が無くなってからの生活の時にそう思ったので、ここにいる子らもそうなんだろう。
そしてサポートする子達にとっても〝禁約〟を破らなくて済むので、お互いwin-winな関係と言える。
「ここならもしかしたら、1人くらいは願いを叶えられる奴がいるかもしれないな」
いや、願いは叶えたくねえよ。
毎度毎度それを思うたびに口にしてたら、何度もしつこいとか言われそうなくらい自然と頭に浮かぶが、もはやこれは性だから仕方ない。
願いは叶えたくないが、1人くらいサンプルがいないと使い潰されることになるんだから、頼むから1人だけでもいいから願いを叶えられる奴がいてほしい。
「誰もいなかった……」
だが、虚しいことにこの場にもオレが願いを叶えられる奴はいなかった。
いや、なんでだ。確かに〝他人の契約1〟である【願いを叶えてもらった相手への恩義を生涯抱き続けなければならない】の条件はかなり厳しいが、手足を元に戻してもらう程度じゃ生涯恩義を感じないものなのか?
やはり生涯というのがネックか。
それにここにいる奴ら、思いの外共生できて今は充実した生活を送れてるようで、そこまで恩義を感じるほどじゃなかったっぽい。
「ラストのここでダメとなると、この研究所の外にいる人間しかないか?」
「それはダメに決まってるだろ」
ですよね。詰んだ……。
「ふむ、あとはあそこくらいか……」
「えっ、まだあるのか?」
でもオレの部屋に来れなかったのはこの収容区画にいる者達しかいないと聞いてたし、この研究所にいる人間とは全員顔合わせをしたはずでは?
「あそこは望み薄だから行くだけ無駄だろうが、一応行くだけ行くか」
「どこなんだよそこは?」
「安置所」
それ、死体置き場を意味する言葉じゃないか?
「ゾンビと会話しろってか?」
追い詰められた身としては、たとえ相手が自分よりも遥かに体格のいい成人男性であってもぶん殴るレベルで冗談はきかねえんだぞ?
「安置所って一部で言われてるだけだが、ハッキリ言ってそれと変わらん。
いつ死んでもおかしくない者がそこに押し込められる部屋だからな」
「無慈悲か」
もうちょっとこう人の情というものは……うん、無いのは知ってる。
さっきの収容区画よりもさらに酷い場所だろうと思うと行きたくは無くなるが、これが本当の本当にラストチャンスだ。
行かないという選択肢はない。
「連れてってくれ」
「分かった」
淡々と返事をされ、連れて行かれた先はどこか薄暗い場所だった。
なんかもう雰囲気からして安置所っぽくて嫌だな。
「ここには今1人だけ収容されている」
「1人だけなのか?」
倫理なんて犬の餌にしてしまえと言わんばかりのこの場所なら、もっと大勢いてもいいと思ったのだが。
「基本ここに来たら数日もしない内に亡くなるからな。今いる奴も1週間前くらいに行われた実験の結果、得たエーテルギフトのデメリットで寿命が99年失われてるらしい」
「さらっとえっぐいこと言われた」
数日で亡くなるとか、クッソ重いデメリットを負わされた者がいるとか、無感情で言っていいセリフじゃないんよ。
「では行くぞ」
オレは男の後ろを歩きながら、改めてこの研究所がろくでもない場所だと強く再認識させられた。




