第二話 言葉の発達段階なう。
長男、6歳。
現在の言葉の発達段階は、絶賛「音の模倣」中である。
いわゆる、オウム返し。
専門的には「反響言語」や「エコラリア」と呼ばれるものだ。
一般的な子どもの発達では、1歳半から2歳頃にかけて見られ、2歳半から3歳頃になると、少しずつ減っていくことが多い。
ところが我が家の長男、6歳。
つまり現在、彼は言葉を覚えている真っ最中なのである。
……と、ここまで書くと、
「6歳なのに、1歳半くらいの言葉しか話せないの?」
と思われるかもしれない。
まあ、ざっくり言えばそうなんです。
ただし、「IQ33」という数字だけでは長男のことはちょっと説明しきれない。
なぜなら長男の発達は、かなりの凸凹道だからだ。
去年3月。
療育手帳Aを取得した時点で受けた遠城寺式乳幼児分析的発達検査では、
運動は3歳児相当。
社会性は0歳6ヶ月相当。
そして、言語・理解は1歳3ヶ月相当。
これらを総合した結果が、IQ33だった。
つまり、「長男は全部が1歳半くらい」というわけではない。
走る。動く。遊ぶ。
身体はそれなりに成長している。でも、言葉はまだまだこれから。そんな、凸凹だらけの6歳児である。
では、そんな長男の言葉は、いったいどんなふうに育っているのか。
今回は、そこからのお話。
一般的な言葉の発達には、ざっくりとした段階がある。
まずは、喃語。
「あー」
「うー」
まだ意味のある言葉ではないけれど、口からいろいろな音が出てくる。
そこから、音の模倣。
周囲の人が発した音を真似するようになる。
そして、指さしやジェスチャー。
「これが欲しい」
「あれは何?」
言葉が出なくても、身振りで伝えようとするようになる。
そこから、単語。
「ママ」
「まんま」
「ワンワン」
やがて、「ちょうだい」などの要求が出てきて、二語文、三語文へ。
「ママ、きて」
「これ、ちょうだい」
さらに言葉が増えていくと、質問をしたり、複数の文を組み合わせたり、人との会話を楽しんだり。
そして最終的には、自分が体験したことを言葉で説明したり、出来事を順番に話したり。
いわゆる「ストーリー」を語れるところまで進んでいく。
こうして並べてみると、言葉の発達って、階段みたいなものなのだと思う。
一段目があって。
二段目があって。
その先に、三段目、四段目と続いていく。
もちろん、全員が同じ順番で、同じ年齢に、同じ速度で登っていくわけではない。途中で立ち止まることもあるし、何段か飛ばして進む子もいる。
そして我が家の長男はというと。
現在、絶賛二段目。
音の模倣。
誰かが言った言葉を、そのまま真似する。
つまり。
母「おいで」
長男「おいで」
母「ごはん食べる?」
長男「ごはん食べる?」
……といった具合である。
会話として成立しているような、していないような。
でも、これが長男にとっては大切な一歩なのだ。
誰かの音を聞く。自分の口で真似してみる。
そして、また聞く。また真似する。
そうやって少しずつ、長男の中に言葉が積み重なっていく。
長男は、まだ言葉の階段を登っている途中なのである。
そして最近。
そんな長男の言葉に、少しずつ変化が出てきた。
ある日のこと。
「ご飯いくよー!」
いつものように声をかける。
すると長男。
「ご飯!」
……うん。いつものオウム返しだね。
そう思った、次の瞬間。
「カレーライス!」
「ポトフ!」
「にくにくじゃがじゃが!」
…………。
「⋯!?」
待って。
今、なんか増えたぞ?
私が「カレーライス」と言ったわけでもない。
「ポトフ」と言ったわけでもない。
「肉じゃが」と言ったわけでもない。
なのに長男は、「ご飯」という言葉を聞いた途端、知っている食べ物の名前を次々と口にした。
しかも最後の、
「にくにくじゃがじゃが!」
何それ。
可愛すぎるんだが。
……いや、そうじゃない。
今までの長男は、誰かが言った言葉を、そのまま真似することが多かった。
ところが今は、聞いた言葉から、自分の中にある別の言葉が出てくることがある。
まだ会話ができるわけではない。 質問に答えているわけでもない。
でも。
「ご飯」という言葉を聞いて、「ご飯」と返す。
そしてそこから、「カレーライス」「ポトフ」「にくにくじゃがじゃが」と、知っている食べ物の名前が次々に出てくる。
これって。
もしかして。
言葉が、少しずつ「つながり」始めているんじゃないだろうか。
ひとつの音を真似する。
言葉を覚える。
覚えた言葉を、別の言葉と結びつける。
そうやって長男の中に、少しずつ言葉の世界ができていく。
同い年の子どもたちが、とっくに駆け上がっている階段を、長男は一段ずつ、ゆっくり登っている。
でも。
「まだここ」じゃない。
「ここまで来た」のだ。
昨日できなかったことが、今日はできる。
去年できなかったことが、今年はできる。
そんな小さな変化を見つけるたびに、母ちゃんは思う。ちゃんと進んでるなあ、と。
さて。
次は、どんな言葉を覚えるのかな。
母ちゃん、楽しみにしてるぞ。
そして、これは今日の朝の出来事。
パパが会社へ行く時間。パパは玄関から出ていこうとしている。
「ほら、パパに行ってらっしゃいして」
そう声をかけると、
「パパ、いってラッシャイ!」
と、長男。
「おお、言えたな」
パパの表情が、ふっと緩む。
うん。ちゃんと言えた。
「パパ」と「いってらっしゃい」が、ちゃんと口から出てきた。
……のだが。
長男が見ているのは、なぜか窓。
パパは玄関。
長男の視線は窓。
「…………」
うん。
言葉は完璧に模倣できている。
でも、「行ってらっしゃい」という言葉と、今まさに玄関から出ていこうとしているパパの姿は、まだ別々らしい。
そしてそのまま、パパについて行こうとする長男。
いや、そこは「行ってらっしゃい」したら見送るところなんだよ。一緒に行くんじゃないんだよ。
……まあ、いいか。
「パパ、いってラッシャイ!」
今日もひとつ、言葉が増えた。
なんだこの可愛い生き物は。




