第八話 聖女は他の魔法も使いたい
今日も今日とて、あたしは離宮を訪れる。雨が降っていたって関係ない。
とはいえ雨風を防ぐ場所のない裏庭に彼がいるとは思えないので、いつもの場所へ行くことはせず、建物の中をあたることにする。
取り付けられていた呼び鈴は壊れていたので、強めにノックをして来訪を伝えた。
程なくして扉を開け、中へ入るよう促したレオンに、大人しくついていく。
こじんまりとした、しかし彼の手できちんと整えられた応接間の椅子に座ったあたしは、挨拶もそこそこに言う。
「光魔法以外の魔法も使えるようになりたいの!」
突拍子もないその言葉に、レオンは首を傾げた。
「簡単な魔法なら今でも使えるんだろ? 高度なやつだって、魔道具さえあれば大体何とかなる。値段が張るっつっても、お前が望めば神殿がいくらでも出してくれるんじゃないか?」
彼の言い分はもっともだ。しかしそんなことは承知の上で言っている。
「それはそうだけど、自分の力で派手な魔法をぶっ放すのはロマンがあるじゃない。それにほら、これ見て」
持参した本の、あらかじめ栞を挟んでおいたページを開く。
それに軽く目を通した彼は軽く瞠目し、つぶやいた。
「光魔法の適性を持つ人間は、他の属性のものにも適性がある場合が多い?……初めて知った」
「でしょ! 図書館の隅で埃をかぶってるような本も捨てたものじゃないわ」
興奮するあたしと対照的に、彼は冷静に
「でも、これだけ古くて、しかも大切にされている様子もなかったってことは、信憑性に欠けるんじゃないか?」
痛いところを突かれて一瞬押し黙ったあたしはしかし、負けじと返答する。
「そうね。でも、試すだけならタダだもの」
「分かった分かった。でもやるなら君の先生に聞いてみたら? 独学でやるよりも効率は良いだろうし、何より暴発したときに安全だ」
確かにそうだと頷きかけたところで、はたと気づく。
「……あたしが暴発させる前提なわけ?」
「前に料理を作るからって小さい火を出して、加減を間違えて離宮を燃やしかけたのは誰だったかな」
魔物の首を取ったかのような顔で言われるのは腹立たしいけれど、事実なので反論のしようがない。
「あの時は悪かったわね……でも、見てなさい! きっと完璧に使えるようになってやるんだから」
そう、啖呵を切ったはいいものの。
「認められないってどういうことよ!」
魔法の先生こと神官は、吠えるあたしに眉一つ動かさずに再度言う。
「そのままの意味です。聖女様が光魔法以外の魔法の扱いを学ぶことは、認められません。貴重な魔力の無駄使いですから」
「魔力なんて、一晩も寝たら回復するじゃない」
そう食い下がってはみたものの、その首が縦に振られる様子はない。それどころか、
「そういえば、聖女様は甘いお菓子が好きでいらっしゃいましたね」
……お菓子を人質に取るのは卑怯だ。
数少ない日々の癒しとロマンを天秤にかけたとき、あたしは迷わず前者を選ぶ人間である。
「光魔法一筋に打ち込んで参ります」
態度を豹変させたあたしに、教師は満足げに笑って、何事もなかったかのように授業を再開した。あたしの負けだ。




