第七話 聖女は第二王子と意気投合する
数日後。あたしは数冊の本を抱えて、レオンの元を訪れた。挨拶もそこそこに、互いに手分けして持参した本を開く。
彼には数冊の勇者の伝説についての本を任せて、あたしは歴史書を担当した。
勇者が登場する箇所にしおりを挟み、他に何があったのかと照らし合わせる。大臣の汚職でも、起きた事件でも、とにかく全てを書き出した。
その作業を続けてしばらく経ってから、キリを付けたあたしたちは、休憩てがらメモを片手に情報を交換し合うことにする。
「勇者が活躍してる年って、大きな自然災害が起きていたり、大規模な火災が発生していたりするみたいなの」
「そうなのか。こっちでは特にそんなことは書いていなかったと思うけど……ああ、でも魔族による犯行だって匂わせる放火事件の話や、水の力や風の力を掌握して人間を困らせた魔族を勇者が討伐したって話、なら……」
最後まで言い切ることなく、レオンは目を見開き、ぱちぱちと数度瞬きをする。あたしも、似たようなものだった。
互いに顔を見合わせ、無言で頷きあう。
言葉を合わさずとも分かる、あたしたちは確かに、同じ推論を持っていた。それを確かなものにすべく、本へ視線と意識を戻し、読み進める。
最後まで読み終えるころには、既に日が傾きかけていたけれど、そんなことはどうでも良かった。
ほぼ同時に各々の資料を読み終わったあたしたちは、少しの間頭を休ませたのち、再度顔を突き合わせて語り始める。
「俺の方は、さっきと同じように色々な魔族が登場して、それを勇者が倒すという流れのものがほとんどだったよ。ああでも、周囲の人の心を自在に操れる魔族に破れた勇者もいたな。その魔族は原因不明の要因で十数年後に死んだらしいが」
口火を切ったのはレオンだった。それに応えるように、あたしも口を開く。
「あたしも同じようなものよ。勇者が現れるときには何かしらの災いがあって、その原因となる魔族を倒した後、徐々に災禍は収まっていく……って描写がちらほらあったわ。ああ、でも暴動が起きた年の勇者は魔王討伐を成すことなく破れた、ともあったわね。暴動の鎮圧には十数年かかったともあったはず。と言っても、ほかの災害だって完全な収束に必要な時間は大差ないみたいだけど」
その後も、二言三言会話を交わし、推論が現実味を帯びている――どころか、限りなく正解に近いものであるということがはっきりした。
それをまとめるように、レオンは呟く。
「国民のヘイトを魔王へ向けさせて、天災――ともすれば人災すら、魔族たちが仕向けたことにしたかったんだろうな。ここまで多岐にわたる災厄に対応した魔族が存在しうるなら、この国はとっくの昔に滅びてる。災禍の根源扱いされる魔族を倒した後と、倒せなかった後とで復興の速度が変わらないのも変だ」
「で、こういう記録は執筆から印刷まで王族が運営してるってね」
乾いた笑いがこみ上げてくる。目の前の彼を見れば、同じような表情をしていた。
わざとらしくため息を吐いてみせる。
「いつだって、王族って身勝手ね」
口に出してから、そういえばレオンも王族なのだということに思い至る。
慌てて弁解しようと口を開きかけたが、彼は首を横に振ってそれを制した。
「違いない」
どこか悪い笑みを浮かべてそう言うレオンに、あたしは安堵しながら次にかける言葉を考え始める。
そうしているうちに、帰りが遅い“聖女様”を心配して探しに来たのだろう、侍従の呼ぶ声が聞こえてきたので、あたしは慌てて立ち上がり、声のする方へと駆けて行った。




